Slackのフリープラン、90日に制限変更 メッセージ保存ツールの注意点
Slackは2022年9月1日から、無料のフリープランで、メッセージの閲覧履歴をさかのぼれる期間が90日に制限されます。そこで、Slackメッセージ保存・退避ツールを個人開発したエンジニアのヤマタケさんにツールの使い方の注意点を聞きつつ、今後のSlackなどのチャットツールの活用方法についても一緒に考えました。
Slackは2022年9月1日から、無料のフリープランで、メッセージの閲覧履歴をさかのぼれる期間が90日に制限されます。そこで、Slackメッセージ保存・退避ツールを個人開発したエンジニアのヤマタケさんにツールの使い方の注意点を聞きつつ、今後のSlackなどのチャットツールの活用方法についても一緒に考えました。
目次
Slack Technologies, Inc.によると、Slackは、チームの調整や共有作業をサポートするためのビジネスコラボレーションツールです。複数のプロジェクトを同時進行しているときの情報整理・共有に役立ちます。Googleドライブ、Dropbox、Zoomなどさまざまな外部アプリとの連携ができるところも人気があります。
2017年11月17日からは日本版が利用できるようになり、サービス提供開始から5年を迎える2019年には、日間アクティブユーザー数 (DAU) が全世界で1000万人を超えました。
そんなSlackが、2022年9月1日からサービス開始以来初の値上げをすることを発表しました。対象となるのは、これまで中小企業が利用することの多かった「プロプラン」で、月額料金は1ユーザーあたり960円から1050円になります。
一方、無料のフリープランは、メッセージ数1万件、ストレージ容量5GBという制限がなくなる一方で、メッセージの閲覧履歴をさかのぼれるのが90日までとなりました。
フリープランを使っていた中小企業も多く、9月1日以降の使い方についてはまだ決めていない企業も多くいます。
そこで、Slackのメッセージ保存ツールを個人で開発したヤマタケさんに、今回の変更の影響と、メッセージ保存ツールを使う上での注意点について聞きました。メッセージ保存ツールは、ヤマタケさんのブログで公開されており、教育・研究目的なら無料で利用できます。
↓ここから続き
―Slackはフリープランを90日制限に変更しました。どんな影響が考えられますか?
Slack無料プランのメッセージ上限が1万通から過去90日に変更されたことは、多くの利用ユーザーに影響が生じるでしょう。Slackは10数人程度の小規模な組織・グループでよく使われています。これぐらいの規模だと、1万メッセージの上限を超えるのに、半年から1年程度かかり、その間、メッセージを見返すことができました。
しかし、今回の変更によってメッセージの表示期間が短くなり、確認したい時には非表示になる恐れがあります。
さらに、プロジェクト単位でSlackワークスペースを作成するパターンもありました。これまでは1万メッセージ上限だったので、プロジェクトが完了するまでメッセージが見返せたのが、90日ではプロジェクト途中で初期の投稿が見られなくなります。
こうした点からSlackに情報を集約している場合、重要なメッセージが確認できなくなるす可能性があります。
―Slackには、フリープランでもメッセージのエクスポート(外部への書き出し)機能が備わっています。どんな点に注意が必要ですか?
Slack公式のエクスポート機能の注意点は、4つあります。1つ目は管理者しか実行できない点です。管理者権限を持たないユーザーではエクスポート機能は利用できません。
2つ目はエクスポートすると、JSONと呼ばれるファイル形式で保存されます。このJSON形式のファイルは、主にプログラミングで使われるファイル形式のため、閲覧に適していません。メッセージを見やすくするためにはデータ加工・整形が必要です。
3つ目がチャンネルに投稿されたメッセージが個別保存される点です。そのため、エクスポートしたファイルでメッセージのやり取りを追うために、いくつものファイルを開いて確認する必要があります。
最後にWindowsパソコンでエクスポートすると、チャンネル名に日本語を含んでいるとファイル名が文字化けしてどれか分からなくなります。
―ヤマタケさんはSlackメッセージ保存ツールを開発し、ブログで公開していますが、どんなものですか?
Slackメッセージ保存・退避ツールは2022年9月を迎えたら5月以前のメッセージが見られなくなるのが困るのがきっかけでした。
1年以上情報が蓄積されていて、過去のやり取りを見返すことも多いので、エクスポートしてみました。しかし、エクスポートは前述した通り、かなりやり取りが見づらかったので、開発に至りました。
当初の試作品はシンプルに指定したチャンネルから過去メッセージを取得するだけのツールでした。投稿者やメンションもユーザー名ではなくユーザーIDが表示され、最低限見返せるレベルでした。
試作品を使ってもらった方から色々とフィードバックを受け、パブリックチャンネル一覧を出したり、ユーザーID→ユーザー名に変換したりする機能を実装しました。さらに、せっかくならと、エクスポートするだけでなく、定期的に情報を収集できるようにして、9月以降もメッセージが蓄積できるような機能も用意しました。
―メッセージ保存ツールはどんな形で情報が保存できますか?
ツールではまず、Slackワークスペースのユーザー一覧とパブリックチャンネル一覧を取得します。
その上で取得したいパブリックチャンネルで過去に投稿されたメッセージが現時点で遡れるだけ取得できます。
エクスポート機能だと、投稿者やメンションにはユーザーIDが表示されます。しかし、本ツールは最初にユーザー一覧を取得しているので、ユーザーIDをユーザー名に自動変換し表示できます。
やり取りの経緯を終えるようにスレッド返信も取得し、スレッド返信の場合は通常投稿と異なることが分かるよう、異なる列に出力します。
ただ、目的としては「過去のやり取りを確認できる」を目的にしていることもあり、添付ファイルの保存機能はありません。
上限的な点で言えば、本ツールは1回の実行が6分を超えるとエラーします。これはツールが利用しているGoogle Apps Scriptの仕様によるものです。
過去メッセージ取得であれば、問題はありませんが、新しく投稿されたメッセージを取得する場合、ユーザー数やチャンネル数は数が増えるほど、実行時間がかかります。特にチャンネル数に応じて時間がかかるので、チャンネル数が増えるとエラーする可能性はあります。
ただ、必要なチャンネルのみ選択する考え方であれば、問題ない想定です。
―ツールを会社組織で導入する場合の注意点について教えてください。
Slackに関するツール開発を行うためには「SlackAPIのトークン」と呼ばれる認証のためのキーとなる文字列を発行します。
このトークンがあれば、第三者がSlackから情報取得や投稿ができてしまいます。
もし、Slackで機密情報を扱っている場合は、トークンの漏洩で情報流出の事故が起き得ます。そのため、トークンは外部にもれないよう厳重に管理する必要があります。
また、Slackメッセージ保存・退避ツールはスプレッドシートのツールなので、他のユーザーへの共有が簡単です。ただしリンクを知っていれば誰でもアクセスできるリンク共有はリンクが漏れると誰でもアクセスできます。
スプレッドシートにアクセスできると、Slackからバックアップしたメッセージが取得できてしまいますし、トークンも流出しますので注意が必要です。
―そのほか、数十人規模の中小企業が導入するうえで伝えておかなければいけないことがあれば教えてください。
ツールの注意点としては1つのワークスペースにたくさんのチャンネルが作成されているケースです。定期実行機能では、新しく投稿したメッセージも取得できるようになっています。
しかし、たくさんのチャンネルで定期実行すると、時間がかかりすぎてエラーする恐れがあります。
その場合は、あとで見返す可能性が高いチャンネルのみに選別し、保存が不要なチャンネルは定期実行対象から除外してもらう必要があります。
あと定期実行機能では、新規投稿メッセージの返信リプライは取得できますが、すでに記録済みのメッセージの返信リプライは取得できません。
返信リプライを多用しているケースではメッセージがとりきれないのが注意点です。
ヤマタケさんにインタビューしてきましたが、ここで改めてそもそものチャットツールの使い方を見直してみましょう。
ビジネスチャットツールには2種類あります。会話感覚でコミュニケーションができ、アイデアの発散に役立つ一方、情報の有効期限の短い「フロー型」と、課題とその対応策を記録(ログ)として残し、後から第三者が見ても後追いしやすい「ストック型」です。
フロー型にはSlackやChatworkなどが挙げられ、ストック型にはBacklogなどが挙げられます。ただ、Slackは検索機能に優れているため、ストック型のような使われ方もしたため、90日制限の影響を受けるユーザーが多くなったと考えられます。
雑談やその日で完結する情報などはフロー型のツールに投稿し、議事録など保存蓄積が必要な情報などは別のストック型のツールや関係者のみが閲覧できるストレージサービスに保存する運用にすれば、Slackのフリープランのままで90日制限の影響を受けにくい使い方ができるでしょう。
前段で紹介したメッセージ保存ツールは、教育・研究目的なら無料で利用できますが、Slackそのものと比べると、見やすさ・検索しやすさで劣ります。効率性を重視するのであれば、有料プランに移行するのも一つの手段です。
また、無料で使えるほかのビジネスチャットツールに移行する方法もありますが、メンバーが新しいツールに慣れるのに時間がかかること、どのツールでも制限変更のリスクはあることを踏まえて検討してみてください。
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。