ネットショップ、4つの成功ポイント ハンドメイド起業家は赤字脱却
ハンドメイドアクセサリーを実店舗で販売し赤字経営に陥ったものの、ネットショップ中心の販売に転向して半年で月商100万円を売り上げるようになったという「ラシエスタ」。ラシエスタの代表で「ハンドメイド起業コンサルタント」としても活動する代表の山口実加さんに、ニーズのある商品ジャンル選びとハンドメイド作品の価格設定のコツについて聞きました。
ハンドメイドアクセサリーを実店舗で販売し赤字経営に陥ったものの、ネットショップ中心の販売に転向して半年で月商100万円を売り上げるようになったという「ラシエスタ」。ラシエスタの代表で「ハンドメイド起業コンサルタント」としても活動する代表の山口実加さんに、ニーズのある商品ジャンル選びとハンドメイド作品の価格設定のコツについて聞きました。
目次
山口さんは東京藝術大学・大学院を卒業した後、会社員としてWEBデザイナーの仕事をしながらも、自身のアート作品を世の中に出したいという強い思いを持っていました。
そこで2013年、当時ブームだったハンドメイドの作品を作って、週末に展示場などで開催されるハンドメイドイベントで販売する副業を始めました。
初めて出店したイベントでは、革小物やポーチなど自分の作りたい物を作って出品しましたが、結果は惨敗。思いを込めて作った作品は、一つも売れませんでした。悔しい思いを胸に巻き返しを狙い、商品のラインナップを見直した山口さん。
イベント会場でアクセサリー店が繁盛していた事に目をつけ、オリジナルのアクセサリーをデザインしました。すると、翌年2014年の同じイベントでは商品が完売。マーケットのニーズを捉えた商品開発の重要性を学んだと言います。
その後も週末のイベント出店を続け、山口さんの店はたちまち人気店へと成長しました。手芸関連のムック本の監修依頼が舞い込むほどの評判となり、手応えを感じて起業を決意。会社を退職し、2017年4月にラシエスタを設立しました。
起業後に出展した展示会では、ウェブデザイナー時代のスキルを活かしてデザインした華やかなブースや持ち前の営業力が功を奏し、多くのバイヤーと商談の機会を持つことができました。その結果、大手百貨店や有名なセレクトショップに期間限定で開設されるポップアップストアへの出店依頼が殺到。事業は一見、順調に見えました。
しかしながら、小売業における常識を知らないまま商談を進めてしまった結果、実はいくら売っても儲からない赤字経営の体制が出来上がってしまったのだと言います。
山口さんは辛かった当時を次のように振り返ります。
取引先ごとに契約時期を少しずつずらしていれば、同じ在庫を使い回す事もできたのですが、当時は経験が浅く、複数の取引先と同じ期間に、先方が希望するままの在庫数で契約を結んでしまいました。
また、商品の製造については、現在はフリーランスの職人に依頼する事でコストが抑えられていますが、当時はOEM(製造メーカー)に依頼しており、ロット数の少ない自社では生産コストが割高に。
それに加え、ショップへの約40%の販売手数料と販売員の給料を支払うと、商品がいくら売れても儲からない仕組みが出来上がってしまいました。
事務所の電気代の支払いもままならないような状況が1年半も続き、多忙な毎日と金銭的プレッシャーで、心身ともに病んでしまうほど追い詰められました。
倒産寸前の状況に、会社経営の方針を見直した山口さん。2018年夏ごろからは、実店舗での出店依頼が入っても断り、ネット販売へと大きく舵を切りました。
「販売手数料は実店舗の約40%に比べて、ネット販売では大手ショッピングサイトでも約15%に抑えられます。販売員を雇う必要もありません。また、ネットショップへの転向を機に受注生産へと切り替えたため、在庫を抱えることが無くなり、大きな経費削減につながりました」
その後、インスタグラムの活用講座や写真教室に通ってマーケティングの知識を習得しながら、試行錯誤を重ねた山口さん。ECショッピングモール「楽天市場」での平均月商が、出店から半年間で約100万円へと急成長しました。
そんな山口さんが、中小企業が参考にできる、ネット販売で売上を向上させるコツを解説します。
山口さんによると、中小企業がネットショップで売上を上げるための鍵となるのは、マーケット分析に基づく商品開発と、競合に優る価格設定だと言います。
「大量生産されている類の商品は、ロット数の多い大手企業との価格競争で負けてしまいますので、避けましょう。自社の技術や経験を活かして製造できるオリジナリティのある商品で、世の中で一定の需要がある様な、ニッチ商品を開発します」
では、世の中のニーズはどのように確認すると良いのでしょう。
「商品開発のアイディアが浮かんだ際に、例えばGoogleトレンドなどの無料ツールを活用し、インターネット上でどのくらいの人がその商品に関心があるのかを確認すると良いでしょう。また、大手ショッピングサイト内の同ジャンルで売上ランキングが上位の店を研究し、売れている店の商品からさらに差別化を図った商品を作るのもおすすめです。人気のある実店舗で販売されているアイテムの中で、需要はあるのに取扱いが少ないものをインターネットで販売するという方法も有効です」
山口さんの場合、競合は多くないが一定の需要のあるアクセサリーのアンクレットを専門とし、他ブランドとの差別化を図るため、カップルで着用できる“ペア”アンクレットを主力商品としたブランドを作りました。
価格は、大手ショッピングサイト内で販売されている同じジャンルの商品比べて、お得感のある設定にします。
山口さんは、自社の商品の知名度がまだそれほど高くない場合、まず楽天市場やアマゾンなどの大手ショッピングサイトに出店し、その中で知名度を上げる集客方法を提案しています。
「実店舗でも、駅から遠い場所にポツンと路面店を構えるより、大きなショッピングモールの中に出店する方が集客は楽になります。ネット上でも同様で、販売手数料を支払ってでも、大手ショッピングサイトに出店し、その中で人気が出るような工夫をするのが効率的と言えます」
ネット販売で、商品の魅力を伝えるために一番重要なのが写真です。プロのカメラマンを雇う予算が無い場合には、一眼レフのカメラを用意すると写真のクオリティを上げる事ができます。それが難しい場合、iPhoneのカメラ機能を活用しましょう。
ポイントは、実際にその商品を使うシーンを想像できる写真を撮影する事。例えば、商品がコーヒー用のマグカップの場合、実際にマグカップにコーヒーを入れて、朝食の置かれたテーブルの上で撮影をするなど、ストーリー性のある写真を撮影しましょう。
同じマグカップでも、割れにくいのが特徴の商品であれば、マグカップを床に落とした瞬間の写真を撮影するなど、商品の魅力や特徴が一目で伝わる写真の構図を考えます。
「近年、インスタグラム経由でショッピングをするユーザーが増えています。写真で商品の魅力を伝えやすいジャンルのアイテムはインスタグラムとの相性が良いため、積極的に活用される事をおすすめします」
山口さんは、自社と親和性の高いフォロワーを獲得することが、ネットショップへの誘導へつながると言います。
まだフォロワーが少ない場合には、「いいね周り」がおすすめです。自社ブランドと親和性のあるアカウントをベンチマークし、そのフォロワーの投稿にいいね!をする事で、自社のアカウントの存在に気づいてもらう方法です。ただし、やり過ぎると不正なアカウントと見なされてBAN(使用停止)となる可能性があるので、1日に50フォロワー程度に留めましょう。
最近では動画投稿機能「リール(Reels)」の活用も重要になりました。インスタグラムの運営側から、ユーザーにとって興味深い動画であると判断されれば「リール専用タブ」や「発見タブ」に掲載され、自社アカウントのフォロワー以外からも投稿を見つけてもらう事ができます。
ネット販売は実店舗に比べ、コスト面で大きなメリットがありますが、デメリットもあります。
「実店舗ではお客様が実際に商品を手に取って使用感を確認できる上、疑問点があればその場で販売員に確認する事ができます。実店舗があるというだけで、信頼感へも繋がります。一方、ネットショップでのみ商品を販売する際には、画像や説明文が分かりにくいという理由でお客さまを逃してしまう可能性があります。
実店舗がない事のデメリットを理解し、使用感をイメージしやすい商品画像の掲載などで、スムーズなネットショッピングの体験を提供しましょう。また、親切なカスタマーサービスで、お客さまの信頼を獲得するよう心がけると良いでしょう」
自社商品をネット販売する際、中小企業はどのような視点を持って取り組むと良いのでしょう。
山口さんは「商品開発や商品の見せ方、販売方法に至るまで、一貫したビジネスマインドを持つことが重要です。独りよがりにならず、市場のニーズを捉えた商品開発と、ブランドの認知度に合わせた効率的なマーケティング手法を心がけましょう」と助言します。
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