堀田カーペットの求人に応募急増 アンマッチ回避へ「事前面接」に注力
日本で4社しか作れない“ウィルトンカーペット”を製造している堀田カーペット(大阪府和泉市)の3代目社長堀田将矢さん(44)は、自分で立ち上げた2つのブランドのブランディングと自社のリブランディングに取り組みました。その効果は採用にも表れ、求人には過去最高の60件の応募が寄せられました。堀田さんはそこで、求職者との「アンマッチ」を避けるため、事前面談から時間をかけることを決めました。
日本で4社しか作れない“ウィルトンカーペット”を製造している堀田カーペット(大阪府和泉市)の3代目社長堀田将矢さん(44)は、自分で立ち上げた2つのブランドのブランディングと自社のリブランディングに取り組みました。その効果は採用にも表れ、求人には過去最高の60件の応募が寄せられました。堀田さんはそこで、求職者との「アンマッチ」を避けるため、事前面談から時間をかけることを決めました。
目次
家業である「堀田カーペット」に戻った堀田さんは、縮小していく“ウィルトンカーペット”の市場や需要の減少に危機感を覚え、ブランディングを行いました。その結果、新たな顧客獲得や販路拡大だけではなく、採用にも好影響を及ぼしています。
以前の堀田カーペットでは、人手が足りなくなればハローワークや地元の情報誌で募集をかけていました。
はじめて自分たちの未来を見据え「投資として採用する」ための活動を始めたのは、2022年のこと。そのときの採用活動で中途5人、新卒1人の6人が入社しました。
投資としての採用に取り組んだきっかけは、経営が安定してきたことと、ビジョンである「カーペットを日本の文化にする!」に真剣に向き合うようになったことです。
「カーペットを文化にしていくためには、関わる人口が増えていくことが必要です。さらに、『ウィルトンを作り続ける限り生産キャパシティが増えない』という父の代からの課題にも向き合っていかないといけませんでした。僕がやろうと思っていることを実現するには規模を大きくしていく必要があったため、新しい人材が欲しかったんです」
“外から見えている姿”と“現実”との乖離を、本当の意味で無くしていこうとする堀田さんは、新たなメンバーに一気に入ってきてもらうことで、自分たちのミッションのひとつである「インテリア業界で一番働きたい会社を作る」を実現していきたいとも考えていました。
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地元の情報誌、求人サイト、堀田さんのTwitterの3つのツールを使い、募集を始めました。特に堀田さんのツイートの影響力は大きく、62リツイートされ、約9万ビュー見られたといいます。
それまでは募集を出しても1~2件しか応募がなかったのに、このときの応募総数は60件にまで急増。応募理由は「職人に憧れていたから」「もともとインテリアに興味があったから」「Webサイトや堀田社長の記事を見て『いい会社だな』と思ったから」など、さまざまでした。
新卒や中途については意識していませんでしたが、新卒者からの応募もありました。
この時、堀田さんが意識したことは、アンマッチを生まないことでした。そのため、面接前に「本当に面接を受けるかどうか」を考えてもらうための事前面談を設けました。
「会社説明会に近いイメージなんですが、どちらかというと“いいこと”や“会社概要”ではなく、“僕たちはこんなに悪い会社です”ということをしっかり説明しています(笑)」
マンツーマンで、時間は1人あたり約1時間半。仕事内容や人間関係、休みや将来のビジョンについてなど、あらゆることを隠さず本音で話します。
「話を聞いて、それでも本当に魅力的だと思ってくれるのであれば来てね、というスタンスです。僕は単純にアンマッチで辞められるのがいやなので、事前面談をすることは苦になりません。むしろ、事前面談をしてとても良かったと思っています」
近年、堀田さんがメディアに出る機会が増えたことで、会社や自分にいいイメージを抱き、いいところしか見えていない人もいるだろうからこそ、応募前に実際の姿を知って欲しいという思いもありました。
「カーペットを買おうとするお客様も、応募してくれる人も、僕にとってはある意味“お客様”です。ブランディングはブランディングでしかないし、自社がどうなっていきたいかということでしかないと思っているので、『自分たちはこうありたいんだ』ということを一生懸命発信し続けています」
もちろん最初からうまくいっていたわけではありません。採用した人が辞めるといった失敗をたくさん繰り返してきました。その中で、欲しい人物像が明確になってきました。
「僕は堀田カーペットのことを全部好きになって欲しいんです。会社にはいいところも悪いところもあるので、今現状がいい・悪いで判断せず、自分でどう未来を創るのかを一緒に考えられる人に来てほしいです」
60人の応募者のうち、事前面談まで進んだのは約30人。その後、面接を希望したのは15人でした。
面接希望者にはWebページや堀田さんの出ている記事を読み込んでいた人が多く、中には「ウィルトン織機は絶対に未来に残さなきゃいけません!」と訴えた人もいました。新しく入社したメンバーの中には、栃木県や京都府などから引っ越してきた人もいます。
これだけ多くの応募があった背景には、ブランディングの力が間違いなく大きかったと堀田さんは話します。特に「COURT」や「WOOLTILE」というブランドよりも、認知の枠が大きい「堀田カーペット」自身のリブランディングが効いたと考えています。
「誰でもWebサイトを見て『ダサい』と思う会社にはいきたくないと思うので、単純にビジュアルとして昔よりも圧倒的にかっこよくなっていることは、それなりに影響していると思います」
新しいメンバーが入社して以来、社内の雰囲気は大きく変わりました。コロナ前の忙しさが戻り大変だった時期に人数が増えたことで、社員の気持ちに余裕ができました。現場は明るい雰囲気になり、堀田さんもこれまではしなかった社員との立ち話をするようになったといいます。
大成功に終わった2022年の採用活動を終えてから、堀田さんは求人募集をしていません。しかし、「何とか働かせてもらえませんか?」と突然電話がかかってくることが増えました。今後は施工職人やデザイナー、マシンエンジニア、インテリアデザイナー、建築士といった専門スキルを持つ専門家も採用していく予定です。
新たなメンバーも加わったことから、堀田さんは「カーペットを日本の文化に!」というビジョンの実現に向け、4つの構想を練っています。
1つ目は、2024年にオープン予定の「カーペットルームベース」です。カーペットの魅力を伝える一番の手段は、踏み心地を体験すること。2階で宿泊もできる「カーペットルームベース」はただのショールームではなく、カーペットの踏み心地や暮らし方を体感できる場になる予定です。
2つ目は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科と共同で行っている“遠隔で踏み心地を感じられる技術”の開発です。
もしこの技術が実現すれば、カーペットの踏み心地を簡単に体験できる場所が増えていく可能性があるといいます。
3つ目は、全国で施工できる体制を作ることです。「現在は関西、関東、中部の施工をぎりぎりカバーしている状態です。今後は自分たちで材料の販売から施工までできる仕組みを作っていきたい」と意気込みます。
4つ目は、生産キャパシティの確保です。現在のウィルトン織機だけでは、これ以上生産キャパシティを増やせません。すでに半年先まで工程が埋まっている現状に対して、堀田さんは「欲しい人に届けられていない」と危機感を抱いています。
そこで、もうどこも製造できないウィルトン織機を自社で製造開発することや、ウィルトン織機を使わないカーペットの開発などを含め、次の時代を見越した生産キャパシティを確保する方法を模索しています。
ブランディングを採用につなげたいと考える中小企業は多くあります。「中小企業は大企業に比べて思いを伝えやすい環境にある」と話す堀田さんは、ブランディングはやればやるほどチャンスがあり、成果も上がると考えています。
「ブランディングも採用も、自分たちがどうありたいかに尽きると思っています。僕も自分でそれができているとは思っていないんですけれども、一生懸命考え続けるしかないと思っています」
「結局、小さな成功体験を積み重ねるしかないんですよね。一歩踏み出したことが失敗すると、どんどん自信を失って。もう一歩を踏み出す勇気がなくなっていくので。あとは、とにかくやること…これって経営そのものですよね。僕もまだまだですががんばるので、みんなで一緒にがんばりましょう!そして、いい社会を作っていこうよって思います」
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