試用期間とは?具体的な設定方法や導入するときの注意点を解説
試用期間は本採用の前に労働者の適性を見極めるために設定する期間です。しかし、誤解やトラブルの多い制度でもあり、運用には十分な理解が必要です。この記事では試用期間を設定するときの手続きや解雇する際の留意事項、トラブルの回避方法について社労士が解説します。
試用期間は本採用の前に労働者の適性を見極めるために設定する期間です。しかし、誤解やトラブルの多い制度でもあり、運用には十分な理解が必要です。この記事では試用期間を設定するときの手続きや解雇する際の留意事項、トラブルの回避方法について社労士が解説します。
目次
試用期間とは、本採用に先立って、企業が労働者の適性・能力・技術などを見極めるために設定する期間のことです。試用期間は法律上明確に設けられた制度ではなく、各企業が独自に設定ができます。試用期間を設定している多くの企業では、労働者の採用後、試用期間を経て本採用に至ります。
試用期間は、労働者の勤務態度・適性・能力・技術などを考慮し、本採用時の配属先を決定するために設けられることが一般的です。また、試用期間中と本採用時では異なる条件で労働する場合もあります。ここでは、試用期間の細かい内容をよく似た言葉との違いも踏まえて解説しましょう。
試用期間とよく混同される制度として「試みの使用期間」があります。この制度は、解雇予告の規定の例外として労働基準法第21条に定められています。
法令上は、「試みの使用期間中の者が就労を始めてから14日以内であれば解雇する場合に30日前の解雇予告をする必要がない」としています。ただし、この記載にある「試みの使用期間中の者」は「試用期間中の者」を指すわけではありません。
したがって、試用期間中であっても雇用後14日を過ぎて解雇する場合は、通常の解雇手続きと同様に30日前の解雇予告が必要です。なお、解雇手続きについては後述の「試用期間中は解雇も可能」をご参考ください。
試用期間と類似する概念として、研修期間があります。研修期間とは、労働者を採用後、研修に当てる期間のことです。企業のなかには、試用期間と同じ期間で設定するところもあります。
一方で、試用期間を経ず本採用に至り、研修期間に入る企業もあります。試用期間が実際の業務に従事する期間を含むのに対し、研修期間は(実際の業務をおこなうというよりは)OJTやOff-JTなどの研修に当てられる意味合いを強く含みます。それぞれの期間の違いを表でまとめたので、導入する際の参考にしてください。
目的・内容 | |
---|---|
試みの使用期間 | 労働基準法に規定される、解雇予告が必要ないとされる雇入れから14日以内の期間 |
試用期間 | 労働者の適性や勤務態度、能力・技術などを見定める期間 |
研修期間 | 労働者に業務に必要な知識・技能を学ばせることを目的とした期間 |
試用期間の長さに関する法的な定めはありません。ただし、あまりにも試用期間が長期化すると労働者の立場が不安定になります。そのため、公序良俗に反しない程度で期間を定めましょう。
一般的には、1カ月から6カ月程度で設定されることが多いでしょう。なお、就業規則に根拠があり、本人の同意が得られれば試用期間の更新も認められています。
試用期間は正社員だけではなく、パートやアルバイトにも設けられます。期間は正社員と同様に企業が任意に設定可能です。必要な場合は、パートやアルバイトに対しても試用期間を設けるとよいでしょう。
試用期間の設定で得られる最も大きな効果は、本採用時の労働条件の正式決定の時期を遅らせられることです。採用までの情報で得ていたイメージと、実際の印象は多かれ少なかれ齟齬(そご)があるものです。
試用期間を設定すれば、企業の指揮命令下における労働者の働きぶりや適性を見てから正式に配属先や待遇、業務内容を決定できます。この点が試用期間の大きなメリットといえるでしょう。
一方で、労働者側にとっても「自分が入社するに値する会社であるか」を見極められます。試用期間を満了したのち労働者側から本採用を拒否されるケースもあり得るため、労使双方にとって「試し、試される期間である」と認識してください。
試用期間を設定する場合は、就業規則に規定を設ける必要があります。あわせて労働条件通知書でも試用期間があることを明示しなければなりません。
試用期間を設定するためには、原則として就業規則にその旨を記載することが必要です。一例として、下記のような記載が考えられます。
第●条 (試用期間) 1.新たに採用した者については採用の日から3カ月間の試用期間を設ける。 2.前項の規定に関わらず、特別の技能または経験を有する者には試用期間を設けない、または短縮することがある。 3.会社は、試用期間満了までに試用期間中の従業員の適性等を考慮した上で、労使協議のもと通算6カ月間まで試用期間を延長することができる。 4.試用期間は勤続年数に通算する。 |
採用した労働者に対し、企業は雇用契約の内容について書面(労働条件通知書)で通知する必要があります。試用期間を設ける場合は、この書類に「採用日から◯月◯日までが試用期間である」と明記しなければなりません。また、労働条件が本採用時と異なる場合は、その旨も合わせて記載します。
なお、試用期間と本採用後で期間を分けて労働条件通知書を作成しても構いません。しかし、労働契約としては一連のものとなるため、試用期間であることはしっかりと明示しましょう。
採用した労働者に対し、企業は雇用契約にあたって試用期間を設ける旨を直接説明します。この説明は口頭でも構いませんが、雇用契約書を取り交わしたほうが望ましいでしょう。労働者自身が合意していることを客観的に証明できるためです。
なお、労働条件通知書と雇用契約書の記載内容に漏れがなければ、これらを1枚の書類にまとめても問題ありません。
試用期間中であっても、通常の労働契約における労働者と同様に解雇が可能です。ただし、基本的には通常の解雇と同様に、解雇できる要件が限定されています。その内容と解雇の具体的な手続きをまとめましょう。
試用期間中の解雇が認められるのは、通常の解雇事由に加えて下記のような「特別な事情」がある場合に限定されます。
本人の能力不足や勤務態度を理由に解雇する場合は、企業がしっかりと改めるように注意・指導しているかも考慮されます。始末書を保管するなど、指導の履歴をあらかじめ書面で残すようにしましょう。
試用期間は「解約権留保付きの労働契約」がすでに成立していると解されます。そのため、試用期間中の解雇については客観的に合理的であり、社会通念上も相当と認められるような理由が必要です。
採用後14日以内は前述した「試みの使用期間」と解されるため、解雇予告をする必要はありません。この場合は解雇通知を作成し、解雇する旨の意思表示をおこなうことで足ります。ただし、遅刻を何度も繰り返したり、内定時に「パソコン作業が得意」として採用されたのに基本的な作業がほとんどできないなど、社会通念上相当と認められる原因が求められます。
採用後14日を超えた場合は、通常の解雇の手続きと同様の手続きが必要です。なお、試用期間の満了における労働契約の解消においても同様のルールが適用されます。
解雇手続きをおこなうにあたっては、就業規則に解雇事由を記載しましょう。そのうえで、解雇日から少なくとも30日前には解雇の予告をする必要があります。予告の日数が30日に満たない場合には、その不足日数分の平均賃金を解雇予告手当として支給します。
なお、予告をおこなわずに即日で解雇する場合には、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払わなければなりません。この解雇の意思表示は口頭でも認められますが、トラブルの防止のためにも書面にその旨を記載し交付するとよいでしょう。
また、労働者が請求した場合、企業は解雇の理由についての証明書を交付する義務があります(参照:労働基準法第20条、第22条|e-Gov法令検索)。
試用期間を設けた場合に、誤解や生じやすいポイントがあります。ここでは導入時に気を付けておきたい内容を解説します。
試用期間中も、雇入れの日から雇用保険・社会保険の加入が必要です。それぞれの保険の加入要件は下記の通りです。
原則的な資格取得要件 | |
---|---|
雇用保険 | 週の所定労働時間が20時間以上、かつ31日以上の雇用見込みがあること |
社会保険 |
・正社員であること(週の所定労働時間が週40時間以上) 1.週所定労働時間が20時間以上 |
雇用保険や社会保険の加入要件に該当する場合は、資格取得の手続きをします。労災保険も当然に適用されるものの、加入する際に企業側の特別な手続きは不要です。
ただし、雇用保険について、週20時間以上の労働契約で働く場合でも下記の条件に該当する人は雇用保険の被保険者になりません。
なお、日雇い労働者や2カ月以内の有期雇用契約で使用される者については、試用期間の有無にかかわらず社会保険の適用除外となります。ただし、1カ月を超えて使用されている、もしくは2カ月以内の有期雇用契約が更新された場合は、その時点から社会保険の加入が可能です。
年次有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して付与される、取得しても賃金が減額されない休暇のことです。年次有給休暇が付与される要件は二つあります。
これらを満たした場合に、所定出勤日数に応じて付与されます。試用期間中も、上記二つの要件に含まれます。したがって、正社員の試用期間を6カ月として設定した場合、本採用契約になった日から付与される年次有給休暇は10日分が付与されます(参照:労働基準法第39条|e-Gov法令検索)。
労働者とあらかじめ合意が取れていれば、試用期間と本採用時で給与や所属部署など労働条件が異なることは問題ありません。その場合は、それぞれの期間ごとに労働条件通知書を交付し、労働者が自分の処遇について確認できるようにしておきましょう。
また、都道府県労働局長の許可を受けることにより、試用期間に限り最低賃金を下回る賃金額の設定も可能です(参照:最低賃金の減額の特例許可申請について|厚生労働省)。
試用期間中でも時間外労働や休日労働を要請できます。ただし、適法に36協定を結んでおり、かつ就業規則に時間外労働・休日労働をさせることがある旨の規定があることが条件です。
仮に法定の労働時間を超える場合は、通常の労働契約と同様に法定割増賃金率で計算された割増賃金を支払わなければなりません。
なお、割増賃金率は下記のとおりです。
割増賃金率 | |
---|---|
法定時間外労働 | 25%(60時間を超えた分については50%) |
法定休日労働 | 35% |
詳しい割増賃金率の考え方や、具体的な残業代の計算方法については以下の記事をご参考ください。
試用期間は誤解も多く、採用した労働者とのトラブルも発生しやすくなります。ここではトラブルを防ぐために対策しておくべきポイントを紹介します。
「試用期間中なら解雇してもよい」「試用期間が満了したら契約を終了させてもよい」といった誤解は、大きなトラブルを引き起こしかねません。試用期間の法的性格を理解し、基本的には通常の雇用契約期間と同様に取り扱うことが重要です。
また、最近では試用期間満了による労働者側からの退職の申し入れも増えています。せっかく採用した人材を失わないように、試用期間から丁寧に接することが企業に求められています。
試用期間中は、次のようなミスマッチが生じるケースもあるでしょう。
ただし、上記を理由とした解雇は基本的には認められません。
採用した責任は企業にあります。そのため、労働者の能力・個性・特性を生かし、社内で活躍できるように配属先を設定しなければなりません。また、採用時に提示していた労働条件を変更する場合は、その点も含めて丁寧に合意形成をおこなうことが必要です。
一般的に試用期間は、無期雇用契約の最初の数カ月間で設定することも少なくありません。労使合意のうえ、この期間を有期雇用契約として結べます。これにより試用期間自体を一つの労働契約にできるため、期間・賃金等の認識の齟齬(そご)が労使ともに起きにくくなります。
ただし、なかには有期雇用契約の状態を快く思わない人もいるでしょう。この方法は、はじめから無期雇用契約を結ぼうとしている人材を獲得しにくい点がデメリットです。
また、有期雇用契約であっても事実上は無期雇用契約の試用期間と同義であるとみなされます。そのため、契約期間満了時には無期雇用契約への移行を原則とすることに留意しましょう。
試用期間は企業側・労働者側の双方にとって「試し、試される」期間であるものの、一度採用した人材の解雇は簡単にできません。労働者側から本採用を辞退するケースもあるため、採用時点から自社にとって必要な人材像をしっかりと伝えることが求められます。
また、人材像に一致した従業員の採用が必要です。そのうえで、労働者にも選ばれる会社であるように、企業側も試用期間に対する理解を深めて真摯に対応しましょう。
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