残業代の計算は簡単!手順とポイントを社労士がわかりやすく解説
法で定められた労働時間を超えた場合、残業代として割増手当を支払う必要があります。本記事では、残業代の計算方法と各項目について、労働法の専門家である社会保険労務士が詳しく解説します。月給者の時給の出し方がわからない人や、残業代の計算に不安がある人はぜひご一読ください。
法で定められた労働時間を超えた場合、残業代として割増手当を支払う必要があります。本記事では、残業代の計算方法と各項目について、労働法の専門家である社会保険労務士が詳しく解説します。月給者の時給の出し方がわからない人や、残業代の計算に不安がある人はぜひご一読ください。
目次
残業代とは、従業員が法で定められた労働時間を超えて労働した場合に、当該従業員に支払う必要がある割増手当のことです。
労働基準法(以下、労基法)第32条では、労働時間について1日8時間・1週40時間を超えてはならないとされています。この法で定められた労働時間を「法定労働時間」といいます。
企業は所定の手続きを踏むことにより、法定労働時間を超えて従業員に労働をさせられます。このとき、法定労働時間を超えた労働時間分について、時給換算した賃金を割増して支払う必要があります。これが「残業代」と呼ばれるものです。
残業代の他にも、割増手当が必要な労働時間として「深夜労働」や「休日労働」があります。
労働時間は1分単位で把握し、賃金を計算しなければなりません。ただし、例外として割増手当の対象となる時間については以下の端数処理が認められています。
1か月における時間外労働、休日労働および深夜業のおのおのの時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること
Q10 残業手当の端数処理は、どのようにしたらよいですか。|厚生労働省鹿児島労働局
通常の労働時間は1カ月の合計でも上記の端数処理は認められておらず、1分単位で把握することが求められます。
ここから、残業代の計算方法を解説します。残業代の計算式は次のとおりです。
残業代=①時給×(1+②割増率)×③時間外労働時間 |
つまり、残業代は以下の3つがわかれば計算できます。
①〜③それぞれの計算方法を解説していきます。
まずは①時給(1時間あたりの賃金額)についてです。月給者の場合は、賃金を時給に換算する必要があります。このとき、月給ではなく「割増賃金の算定基礎額」というものを用いて時給を算出します。
「割増賃金の算定基礎額」とは、月給から家族手当や通勤手当など、除外してよい賃金を引いた金額です。除外できる賃金については、後述の「時給計算時に除外してよい賃金」をご覧ください。
割増賃金の算定基礎額=月給-(家族手当・通勤手当など除外してよい賃金の合計) |
月給者の時給は次の式のとおりです。
時給=割増賃金の算定基礎額÷(1日の所定労働時間×1カ月の所定労働日数) |
なお、月給者以外の勤務形態の場合、①時給は次のように計算します。
月給者の時給計算方法を細かく見ていきましょう。月給者の時給の計算式を再掲します。
時給=割増賃金の算定基礎額÷(1日の所定労働時間×1カ月の所定労働日数) |
割増賃金の算定基礎額には、基本的に全ての手当を合計します。以下、手当の一例です。
割増賃金の算定基礎額に含まれる手当例 | |
---|---|
基本給 | 等級や年功などにより決定される手当 |
役付手当 | 役職に応じて支給される手当 |
職務手当 | 職務や業務内容に応じて支給される手当 |
技能手当 | 業務上必要な技能や資格に対して支給される手当 |
割増賃金の算定基礎額から除外できる手当は下表のとおりです。以下を除外すると割増手当の額が低くなることから、労働者不利とならないように限定されています。
割増賃金の算定基礎額から除外できる手当例 | |
---|---|
家族手当 | 従業員の扶養人数に応じて支給される手当 |
通勤手当 | 通勤距離や通勤費などに応じて支給される手当 |
別居手当 | 会社の指示により同一世帯の扶養家族と別居を余儀なくされた従業員に対し支給される手当 |
子女教育手当 | 【民間企業の場合】子どもの教育支援を目的として支給される手当 |
住宅手当 | 従業員の住宅に要する費用に応じて支給される手当 |
臨時に支払われる賃金 | 大入手当、慶弔見舞金など |
1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金 | 賞与、1カ月を超える期間の勤務状況によって支給される奨励金など |
家族手当・通勤手当・住宅手当について、名称が同じでも内容が「一律の金額で支給するもの」である場合は、算定基礎額に加える必要があります(参照:割増賃金の基礎となる賃金とは?|厚生労働省)。
また、年俸制の場合、年俸額に賞与を含んでいたとしても1年間の賃金として金額が確定していた場合は、割増賃金の算定基礎額から賞与分を除くことができません。
続いて、時給の計算方法にでてくる「1日の所定労働時間」について説明します。1日の所定労働時間とは、就業規則や労働条件通知書で定められた1日の標準の労働時間のことです。
例えば、就業規則に労働時間について、始業時刻が9:00、終業時刻が18:00、休憩が1時間と定めてあれば所定労働時間は8時間となります。
上述の「そもそも残業代とは?」では「法定労働時間」という言葉が出てきましたが、法定労働時間との違いは次のとおりです。
1日の所定労働時間が8時間未満(例えば7時間)だったとして、8時間働いたとき、所定労働時間を超えた時間分(例えば所定労働時間が7時間なら1時間分)の残業代は必要ありません。
次に、「1カ月の所定労働日数」について説明します。1カ月の所定労働日数とは、年間の所定労働日数を12カ月で除算したものになります。年間の所定労働日数は365日から会社が定めた休日を引いて算出します。
土日祝日休みの場合は次のように計算されます。
ここからは、残業代計算式の②割増率について説明していきます。残業代の計算式を再掲します。
残業代=①時給×(1+②割増率)×③時間外労働時間 |
残業代の計算には、割増手当が必要な労働時間があります。割増率は労基法第37条で定められており、これを下回ることはできません。
割増手当が必要な労働と、その割増率についてまとめると下表のようになります。
割増が必要な労働 | 内容 | 割増率 |
---|---|---|
時間外労働 | 法定労働時間を超えた労働(60時間以下) | +25% |
時間外労働(60時間超) | 法定労働時間を超えた労働(60時間超) | +50% |
深夜労働 | 深夜(22:00~翌5:00)の労働 | +25% |
休日労働 | 法定休日の労働 | +35% |
深夜時間外労働(時間外労働が60時間以下) | 深夜の法定労働時間を超えた労働(60時間以下) | +50% |
深夜時間外労働(時間外労働が60時間超) | 深夜の法定労働時間を超えた労働(60時間超) | +75% |
休日深夜労働 | 法定休日のうち0:00~5:00/22:00~24:00の労働 | +60% |
法定労働時間を超えた労働については、60時間以下と超えた場合とで割増率が異なります。例えば、月の残業時間が65時間であった場合には、60時間分については25%の割増を、60時間を超えた5時間分については50%の割増をして残業代を支払う必要があります。
また、休日労働の割増手当を支払わなければならないのは法定休日に労働したときであり、法定休日は次のいずれかにあてはまるものです。
最後に、③時間外労働時間の計算方法について説明します。
残業代=①時給×(1+②割増率)×③時間外労働時間 |
時間外労働時間は、法定労働時間を超えた時間数をカウントします。法定労働時間は1日8時間・1週40時間なので、1日8時間を超えた時間数と1週40時間を超えた時間数を合計します。
時間の数え方について、3つの例を見てみましょう。
例1.始業時刻9:00、終業時刻17:00、休憩1時間の会社で9:00から20:00まで働いた
所定労働時間ではなく、法定労働時間の8時間を超えた部分が時間外労働時間となることがポイントです。
例2.始業時刻9:00、終業時刻17:00、休憩1時間の会社で月曜日から土曜日まで9:00から17:00の時間帯働いた
この場合、1日の法定労働時間を超える日はありませんでしたが、1週間で見ると法定労働時間である40時間を超えているため、超過時間分が時間外労働となります。
例3.始業時刻9:00、終業時刻17:00、休憩1時間の会社で月曜日から木曜日まで9:00から17:00の時間帯で働き、金曜日と土曜日に9:00から21:00まで働いた
ここまでが1日の法定労働時間を超えた時間外労働(残業)時間のカウントです。例3は1週の法定労働時間も超えているので、1週でみたときの時間外労働時間は次のように数えます。
週の時間外労働を計算するときは、すでに1日単位での時間外労働時間としてカウントした分を、重複しないように除外するのがポイントです。
上記は一般的な労働形態の場合を紹介しました。フレックスタイム制や裁量労働制など他の労働形態の場合、時間外労働の考え方は下表のとおりです。
名称 | 制度内容 | 時間外労働の考え方 |
---|---|---|
フレックスタイム | 日々の始業・終業時刻・労働時間を従業員が決められる制度 | 清算期間(所定労働時間を定める期間。1カ月~3カ月)における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間 |
1カ月単位の変形労働時間制 | 対象期間の労働時間を法定労働時間内の枠で変形させる制度 | 対象期間(1カ月以内)における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間 |
1年単位の変形労働時間制 | 対象期間の労働時間を法定労働時間内の枠で変形させる制度 | 対象期間(1カ月超~1年以内)における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間 |
専門業務型裁量労働制 | 特定の職種について労使協定で定めた時間労働したとみなす制度 | 一般的な労働形態と同様 |
企画業務型裁量労働制 | 対象業務について労使委員会で定めた時間労働したとみなす制度 | みなし労働時間が法定労働時間を超えた場合はその時間 |
企画業務型裁量労働制は残業代が不要と思われていることも多いですが、上記のとおり、みなし労働時間が10時間であれば2時間分の残業代が必要です。また、休日労働・深夜労働に対する割増手当は一般的な労働形態と同様なので留意しましょう。
ここからは、残業代の計算例を見てみましょう。
条件は次のとおりです。
所定労働時間 | 8時間(始業9:00、終業18:00、うち休憩1時間) |
1カ月の所定労働日数 | 20.42日 |
月給 | 25万円(基本給22万円、資格手当1万円、通勤手当2万円) |
労働時間 | 9:00~23:00(うち休憩12:00~13:00) |
残業代計算に必要な情報を整理すると次のようになります。
これらを次にあてはめて計算します。
残業代=①時給×(1+②割増率)×③時間外労働時間 |
少なく支払っていた場合は、対象の従業員に説明し、翌月の給与にて支給します。
多く支払っていた場合は、対象の従業員に説明し、翌月の給与から差額を控除します。この場合、雇用保険加入者だと多く支払ったときに雇用保険料が多く徴収されているはずなので、支給項目にマイナス金額を入れて処理するとよいでしょう。
固定残業代が何時間分の残業代にあたるかを明確にしておくこと、および基本給と固定残業代を明確に分けておくようにしましょう。
管理監督者は時間外労働と休日労働の割増手当が除外されます。ですが深夜労働の割増手当は必要です(参照:労働基準法第41条)。
残業代の計算は大切です。間違えると大きなトラブルに発展することもあります。正しく計算するには、時給や時間外労働時間数を正確に把握する必要があります。手順は多いかもしれませんが、1つ1つの計算は簡単です。不安に思った人は再度、この記事で紹介した残業代の計算方法を見直してもらえたら幸いです。
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