インボイスに備える経営者の「ディフェンス力」 10月からの対応を解説
中小企業経営の「ディフェンス力」を高めるには、経営に直結する法改正への備えが不可欠です。連載3回目は、2023年10月1日から始まったインボイス(適格請求書)制度と、24年1月に請求書類の電子保存が義務化される電子帳簿保存法(電帳法)について、信用金庫で中小企業の融資相談に携わった経験を持つ専門家が、商材・サービスの売り手、買い手それそれの立場から、経営者が取るべき対応を解説します。
中小企業経営の「ディフェンス力」を高めるには、経営に直結する法改正への備えが不可欠です。連載3回目は、2023年10月1日から始まったインボイス(適格請求書)制度と、24年1月に請求書類の電子保存が義務化される電子帳簿保存法(電帳法)について、信用金庫で中小企業の融資相談に携わった経験を持つ専門家が、商材・サービスの売り手、買い手それそれの立場から、経営者が取るべき対応を解説します。
インボイス制度と電帳法は複雑なため、制度の中身に関する理解が追いつかない経営者も多いのではないでしょうか。これらは法律に基づき、企業として対応しなければならないものですが、企業規模が小さいほど、制度変更に対応できていないのも現実かと思います。今回は経営者がディフェンス力を高めるために、準備すべきことをお伝えいたします。
インボイス制度は、2019年10月に実施された消費税の軽減税率を受けた制度となります。税率が品目によって10%、8%の2種類となったことで、正確な適用税率や消費税額などを明らかにするために導入されました。本来、国庫に入るべき消費税(益税)の一部を確実に徴収する目的もあるとされています。
インボイスとは、売り手が買い手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝える書面です。具体的には請求書に「T+13桁の登録番号」や「8%、10%が示されている適用税率」、適用税率に対応した「消費税額等」が記載されている書類やデータになります。
売り手がインボイスを発行するためには、適格請求書発行事業者になるための申請を行い、税務署長から登録を受ける必要があります。筆者の経験上、個人事業主や創業5年未満の方、年商が1千万円に達していない方は、今になってどうするか迷っていたり、様子を見たりするケースが多いように感じています。
適格請求書には、次の六つの項目が網羅されている必要があります。
売り手側と買い手側は、それぞれ次のような対応が必要になります。
↓ここから続き
売り手である登録事業者は、買い手である取引相手(課税事業者)から求められたときは、インボイスを交付しなければなりません。また、交付したインボイスの写しをデータなどで保存しておく必要があります。
買い手は、仕入れ税額控除(商品などを売った時に得られる消費税額から、原料などの仕入れ時にかかった消費税額を差し引いて納税する仕組み)の適用を受けるために、原則として、取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存などが必要となります。
買い手は自らが作成した仕入明細書などのうち、一定の事項(インボイスに記載が必要な事項)が記載され取引相手の確認を受けたものを保存することで、仕入税額控除の適用を受けることもできます。
なお、インボイスを発行しない免税事業者からの課税仕入れについては、インボイス制度の実施後3年間は、仕入税額相当額の8割、その後の3年間は5割の控除ができる経過措置が設けられています。
10月1日以降の取引については、インボイスの交付義務が発生します。例えば、商品・サービスの販売や提供が10月1日以降になされた場合には、インボイス交付が義務づけられます。
これに対し、9月以前の取引について、10月以降に請求書を出す場合には、インボイス対応の必要はありません。
読者である事業者の大半の方はインボイスの登録を済ませているかと思いますが、9月30日ギリギリに登録した方もいるかもしれません。10月になっても登録番号が届かないことも想定されます。その場合は、以下のいずれかの対応を取ってください。
先ほど示したようなインボイスの発行が可能かどうか、フォーマットを確認する必要があります。もし対応できていなければ、先ほど示したようなフォーマットに変える必要があります。
さらに、2024年1月から請求書類や領収書、帳簿などの電子保存が義務化される電子帳簿保存法にも対応できるように、電子データで保存するための準備も併せて行う必要があります。
また、小売店や飲食店などレジを使う場合も同様に、先ほどのフォーマットのようなインボイスの対応になっているか確認する必要があります。POSレジなどであれば、バージョンアップによってインボイス対応の領収書が発行できるようになっていると思いますが、念のために確認を取る必要があります。
受け取ったインボイスが、先ほどのフォーマットの要件を満たしているか確認する必要があります。特に想定されるのが、Tから始まる登録番号が無い場合です。
事前に取引先からインボイス発行事業者の登録を受ける旨が確認できたときは仕入れ税額控除が可能です。ただし、後から必ず登録番号を確認して保存したり、場合によってはインボイスの発行をし直してもらったりする必要があるかと思います。
例外として、基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者は、2023(令和5)年10月1日~2029(令和11)年9月30日までの間、税込1万円未満の課税仕入れについて、帳簿の保存のみで仕入税額控除が可能(「少額特例」といいます)なので、上記対応は不要です。
例えば、23年10月15日に5千円の品物を購入した場合は、帳簿の保存がされていれば、特例の対象になりインボイスの保存は不要になります。
現状、取引先の多くは紙でインボイスの取引をしているところが多いと思います。こちらについては、24年1月から義務化される電子帳簿保存法に対応できるように、電子データなどで請求書のやり取りをすることも取引先と話し合う必要があります。
もし紙で送付された場合は、自社でスキャンしてデータを保存する必要があります。その場合には、経理担当者の事務工数が今よりも増えることが想定されるので、今から対策を立てておく必要があります。
インボイス制度への対応が遅れることに関するデメリットとしては、次のようなことが考えられます。
自身が売り手側の立場に立った時、すなわちお金をもらう側の時は「適格事業者にならないと取引先から取引の見直しの可能性をほのめかされ、それがきっかけで取引が減ってしまう。しかしその一方で、適格事業者になると課税免除から外れ消費税の負担が増えてしまう」ことが懸念されます(※)。
※編集部注:経過措置によって一定の割合で仕入税額控除が認められているのに、発注事業者が取引先の免税事業者に対し、課税事業者に転換しない場合、消費税相当額を取引価格から引き下げるとなどと一方的に通告をした事業者は独占禁止法や下請法で問題になる可能性があります(関連記事)。
この場合は、売り上げが事業者、個人どちらが多いかによって考え方は違ってきますが、事業者の取引が多いところは、たとえ売り上げが年間1千万円に達していなくても、インボイスの登録をしている方が多いように感じられました。おそらく取引先と継続した取引を考えているためと感じています。
注意しなくてはいけないのが、今まで消費税がかかっていなかった事業者に関しては、今後申告の時に消費税の支払いが発生します。たとえ赤字だったとしても、計算によっては消費税が発生する可能性が高いです。
その場合には、期日までに消費税の支払いをしなくてはならず、資金繰りに大きな影響を及ぼします。そのことを考慮して今後の資金計画を組み立てる必要があります。どのくらいの金額がかかるかについては、事前に顧問税理士に相談してみてください。
買い手側としては、「インボイスに基づく処理をしないと仕入課税控除が受けられない」ことが大きなデメリットといえます。それだけではなく、相手先がインボイスの登録をしているかどうか、請求書や領収書が法令で決められたフォーマットで作成されているかなど、当面の間の経理事務がいつも以上に煩雑になることが予想されます。
特にインボイスの登録が9月末までだったので、駆け込みで登録した方も多くいらっしゃるかと思います。9月末ギリギリに登録した場合、登録番号が分かるのが数カ月後ということが十分考えられます。
その場合、登録番号が無い先の領収書や請求書については、インボイスの登録の確認の連絡をしなければならず、いつも以上に事務に時間がかかることが予想されます。さらに、登録していない先については、仕入課税控除を受けることができませんので、領収書や請求書を区別して保管する必要があります。
それだけでなく、使用している会計ソフトがインボイスに対応したバージョンになっているかを確認することも忘れてはいけません。
インボイスについては、「自社は登録しなければならないか」という相談や10月以降の事務の進め方に関する相談が、筆者のところに寄せられています。特に事務の場面については、法令に則ったフォーマットややり方で進めていくしかありませんが、24年1月から義務化される電子帳簿保存法のことも見据えて、事務のシステムをバージョンアップすることも考えなくてはならない局面に来ていると感じます。
インボイス制度の開始によって、今まで以上に経理面の管理が重要になります。それだけでなく、来年1月からの電子帳簿保存法の義務化も意識したときに、自社の経理面を今以上にシステム化して対応しなければ、取り残されてしまいます。
そのためにも改めて法改正に合わせた対応を取る必要があります。詳しくは国税庁のホームページで確認したり、顧問の税理士の先生に相談したりすることをお勧めします。
【参考資料】
(続きは会員登録で読めます)
ツギノジダイに会員登録をすると、記事全文をお読みいただけます。
おすすめ記事をまとめたメールマガジンも受信できます。
おすすめのニュース、取材余話、イベントの優先案内など「ツギノジダイ」を一層お楽しみいただける情報を定期的に配信しています。メルマガを購読したい方は、会員登録をお願いいたします。
朝日インタラクティブが運営する「ツギノジダイ」は、中小企業の経営者や後継者、後を継ごうか迷っている人たちに寄り添うメディアです。さまざまな事業承継の選択肢や必要な基礎知識を紹介します。
さらに会社を継いだ経営者のインタビューや売り上げアップ、経営改革に役立つ事例など、次の時代を勝ち抜くヒントをお届けします。企業が今ある理由は、顧客に選ばれて続けてきたからです。刻々と変化する経営環境に柔軟に対応し、それぞれの強みを生かせば、さらに成長できます。
ツギノジダイは後継者不足という社会課題の解決に向けて、みなさまと一緒に考えていきます。