先代の急逝で粉飾の形跡を発見 財務状況を事前につかむためのポイントは
社長だった父が若くして亡くなり、慌てて財務を調べたところ、思わぬ問題が見つかるーー。そんなリスクに不安になる若い後継ぎの方もいるのではないでしょうか。連載「中小企業のディフェンス力」4回目では、信用金庫で中小企業の融資相談に携わった経験を持つ専門家が最近、50代半ばの経営者の急逝に直面した経験をもとに、不測の事態に備える財務状況の確認方法について、後継ぎの方向けに四つの視点で解説します。
社長だった父が若くして亡くなり、慌てて財務を調べたところ、思わぬ問題が見つかるーー。そんなリスクに不安になる若い後継ぎの方もいるのではないでしょうか。連載「中小企業のディフェンス力」4回目では、信用金庫で中小企業の融資相談に携わった経験を持つ専門家が最近、50代半ばの経営者の急逝に直面した経験をもとに、不測の事態に備える財務状況の確認方法について、後継ぎの方向けに四つの視点で解説します。
今回は、筆者が実際に目の当たりにした経営者の相続について感じたことや、事前の備えについて解説します。
先日、お世話になっていた経営者(従業員数は15人規模)が突然亡くなりました。後継ぎの息子さんや残された家族、従業員は会社がどのような状況なのかしっかり把握しておらず、どのように今後立ち回ったらよいか分からずに途方に暮れてしまいました。
それでも息子さんは、家族や取引先や先輩経営者の助けを借りて何とか動き出そうとしていますが、それでも今までと違い、経営者としてかじを取らないといけません。いずれ経営者が亡くなったり、一線を退いたりすることを想定し、後継ぎが今から準備をしておくべきことを書き進めます。
その経営者の訃報が届いたのは、年明けの夜のことです。経営者の息子さんから連絡がありました。亡くなった方はまだ50代半ばの働き盛り。20代半ばの息子さんは、父の後を継ぐため、同じ会社で仕事を覚えている最中でした。
葬儀が終わり、少し落ち着いたタイミングで、私から息子さんに「今、会社の状況はどうなっているの?」と尋ねました。すると、息子さんは「会社に多額の借金がある」と言うのです。
決算書を見ると、銀行からの借り入れが2億円を超えていました。債務超過にはなっていなかったものの、他の項目を見ると金融機関からコンスタントにお金を借りられるようにするため、売り上げを架空に上げるという粉飾が疑われる形跡がありました。
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私は、息子さんにこのような決算状況を把握していたのか尋ねました。息子さんからは「粉飾までしてお金を借りている状況までは分からなかった」との答えが返ってきました。
筆者は、後継ぎや従業員がもし事前に経営状態を把握していれば、残された人は苦労せずに済むのではないかと感じました。
今回の出来事を通じて、残されたご家族や従業員に不安を生じさせないために、後継ぎの皆さんが今から実践した方がいいことを、財務の視点から記載します。
今回のケースは、経営者が50代半ばで突然亡くなったため、会社の現状を把握するのに時間がかかってしまいました。もし後継者である息子さんや古参の従業員が財務状況を把握していれば、会社の再スタートも容易だったかもしれません。
財務状況を把握するための基礎資料になるのが、決算書になります。一つひとつの見方は、以前、筆者が連載した「経営に生かせる決算書の読み方」をご参照いただければと思いますが、特に後継ぎの方には、以下の四つのポイントについて解説します。
主に決算書の損益計算書の話になりますが、どのような取引先からどのくらいの売り上げがあるのか(定量的)、取引先の担当者とどのようなコミュニケーションをとっているのか(定性的)を記録に残しておくといいでしょう。売り上げだけでなく、仕入れについても同じような記録を残しておくことで、今後の取引がスムーズに進むと思います。
例えば、以下のような表にまとめるといいでしょう。
取引先 | 平均取引金額 | 相手方担当者 | 特記事項(最近の話や注意事項) |
---|---|---|---|
A株式会社 | 1カ月100万円 | A野太郎(代表取締役) | 同業他社からのアプローチが多い |
株式会社B工業 | 1カ月150万円 | B川一郎(営業部長) | 新製品を開発できないかという相談があった |
こちらは主に貸借対照表(バランスシート)の話になりますが、以下の項目について確認する必要があります。
特に、それぞれの金融機関とどのような付き合いがあるのかは必ず確認しておきましょう。例えば毎月担当者が訪問に来る、課長が担当している、最近融資の相談を行ったなど、普段からどのようなコミュニケーションを交わしているか、記録しておくと良いと思います。
金融機関と向き合うために、自社の財務状況を冷静に把握したい場合は、経済産業省が作成したローカルベンチマークの活用をお勧めします。
さらに不動産に関しては、金融機関からの融資の担保に入っている場合もあります。どこにどのくらいの担保が入っているか、一覧にしておくことをお勧めします。
例えば、自社の工場や経営者の自宅が担保に入っている場合、経営者に万が一のことがあり返済が困難になったときには、不動産を手放さなければならない可能性があり、事業や残された家族の生活に大きな影響を及ぼします。このようなことを防ぐ意味でも、担保の状態は一覧にしておきましょう。
意外と見落としがちなのは、経営者に万が一のことがあったとしても滞りなく資金が回っているかどうかです。
以前のコラムで資金繰りについて解説しました。月ごと、または日ごとに資金繰り表を作成することで、どのようなタイミングで資金がショートするのか、それともずっと資金が回るのかを把握できます。資金繰り表は、日本政策金融公庫のホームページからもダウンロードできるので、ご活用ください。
ただ、資金繰り表さえ作っておけば、それでいいというわけではありません。資金繰り表が経営者しか知らない状況だと、いざ本人が亡くなったときに、残された人がどのタイミングでお金が出ていくのか分からず、不安になってしまいます。
こうした事態を防ぐには、経営者だけでなく、後継ぎ自身や、ほかに信頼できる人も資金繰りを把握することで、経営者に万が一のことがあっても、スムーズに事業活動を進めることができます。
筆者が経験した冒頭のケースでは、経営者が亡くなった際、会社が受取人となる生命保険に加入していました。保険金の手続きがスムーズに進んだおかげで当面の資金の手当てができ、息子さんや残された家族や従業員にとって、大きな助けになりました。
後継者の皆さんは、改めて経営者と相談しながら、保険証券を見ていただき、以下の項目を確認しておきます。
もし見方が分からない場合は、契約をした保険会社に改めて確認しましょう。
人間はいつ亡くなるかは分かりません。働き盛りの世代の経営者が突然亡くなることも考えられます。亡くなった後、少しでも早く元に近い事業活動ができるようにするためには、後継者の皆さんも普段から万が一に備えて現状把握を把握し、ディフェンス力を高めておくことが必要だと感じています。
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