BCPとはBusiness Continuity Planの頭文字を取った言葉で、日本語では事業継続計画と呼ばれています。中小企業庁はBCPについて下記のように説明しています。
企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
中小企業BCP策定運用指針
企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
BCPを策定する手順は、中小企業庁や厚生労働省が詳細に示しているのでそれらを参考にするといいでしょう。今回は、BCPを機能させるための組織づくりについて解説します。というのも、せっかくBCPを策定しても組織体制に問題があれば機能しないからです。日ごろ、組織運営に問題を感じていない経営者もひとごとではありません。
BCPは非常時のための計画です。残念ながら、非常事態の最中、人間は普段通りに行動できず、想定外の出来事が当たり前に起きます。それでもあわてずにBCPを実行するためには、経営者が普段から機能的に動く組織を築き上げるしかないのです。
ルールは、会社が進むべき方向を定める役割を果たします。それゆえ、社内ルールが明確であり、社員が常にルールを順守しながら働いている状態が理想です。
せっかく綿密なBCPを策定しても、その通りに動こうという意識が社員になければ無駄に終わってしまいます。逆にルール通りに動く意識が社員に根付いている会社では、BCPが非常に大きな効果を発揮します。
最近では、社内ルールがないことを働きやすさの象徴として捉える向きもあります。しかし、それは全く逆です。交通ルールで考えてみてください。歩行者もドライバーも安全かつ快適に道路を利用するためのルールがあるはずです。
これは、企業も同じです。生まれも育ちも違う様々なバックグラウンドを持った社員が集まり、一つの目標に向かって歩を同じくするには、ルールが不可欠なのです。ルールがない、あってもあいまいな会社は今すぐ整えましょう。
ルールづくりのポイントは、誰もが能力に関係なく守ることができ、守っているかどうかがはっきり分かるものにすること。具体例としては、「毎日退社時には机の上に何もない状態にする」や「オンライン会議をする際は開始時間の3分前までに入室する」などです。
「営業担当は1カ月で100万円売り上げる」をルールにしても、達成できるかどうかは社員の能力次第です。また、「帰社時には机の上をきれいにする」、「オンライン会議時にはできるだけ早く入室する」では、あいまいでそのルールを守ったかどうかが分かりません。これでは機能しないため、注意が必要です。
社員がルール違反をしたら、決して見逃さず、その都度指摘してください。そうしないと、「ルールを守らなくても別にいいんだ」と社員が勘違いする恐れがあります。ルールがない、あってもあいまいな会社にいきなりルールを設けると、社員から反発を受けるかもしれませんが、それを恐れているようではいつまで経っても会社は変わらず、有事の際に統率された行動も取れないと、肝に銘じてください。
指示の「一個飛ばし」は厳禁
ルールが決まったら次は組織図づくりです。経営者を頂点とした組織図を整備し、経営者の意思決定が中間管理職を通じて末端のメンバーにまで素早く浸透する「ピラミッド型」の組織を構築します。もちろん、現場の情報を経営者が素早くくみ取れるようにもしなければいけません。
最近は、経営者以下全ての社員が横一列に並ぶ「フラット型」の組織が流行しています。しかし、これでは決断のスピードに余計な時間がかかってしまいます。
災害発生のような緊急時にいつまでも議論が平行線のままでは取り返しがつかない事態になりかねず、平時であってもスピード感に欠けるため、お勧めしません。
また、業務上必要なコミュニケーションは、直属の上司と部下の間で完結させるようにしましょう。例えば、部長、課長がいるのに、経営者が課長や末端のメンバーにまで直接指示を出すようなコミュニケーションは厳禁です。
このような「部下の部下」への指示を、我々は「一個飛ばし」と呼んでいます。「一個飛ばし」がなぜだめかというと、中間管理職が成長しないからです。中間管理職が主体的に行動せず、何もかも経営者任せになります。中間管理職がそんな状態のなかで、経営者自身が被災するなど万が一のことがあれば、会社は途端に立ち行かなくなるでしょう。
ただ、緊急時には直属の上司と部下との間で連絡が取れない可能性もあります。その際、どこに連絡をすればよいかも合わせて決めておくといいですし、場合によっては、一個飛ばしもやむを得ません。
社員に決断の機会を増やす
最後が役割定義です。役割定義とは、そのポジションの社員が果たすべき役割とそのために使える権限を明確にすることになります。
これがはっきりしていないと、社員がやらなくてもよい仕事に全力を傾けたり、決められる権限があるのに上司に判断を仰いだり、あるいは権限がないのに勝手に決断を下してしまったり、組織にとって歓迎すべきでない事態が起きてしまいます。
そんな組織が災害に見舞われたとき、社員一人ひとりが自分の役割を果たすために最適な行動に移れるかは疑問です。それに、普段から決断に慣れていないと、いざというとき重要な場面での決断を間違えてしまいやすくなります。
すべてを自分で決めなければ気が済まない経営者もいるでしょうが、そのエゴによって会社は確実に弱体化してしまうのです。社員にはどんどん責任を与え、決断の機会を増やしてあげてください。
自分や家族、大切な友人、会社の同僚が災害に巻き込まれたとき、人は平時と同じ精神状態ではいられません。それでも、経営者は社員と会社を守るためのBCPを機能させるため、今のうちからできる準備をしておくべきです。
入澤勇紀さん
識学上席コンサルタント 営業部 課長
早稲田大学政治経済学部を卒業後、大同生命保険株式会社に総合職として入社。プロパー営業や営業企画、顧客サービスなどに13年にわたって従事。その後は介護系のベンチャー企業に転職。福祉用具の営業を経て、識学に入社。
(※構成・平沢元嗣)
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