物価高や人手不足に備える「ディフェンス力」 経営者の実践法を解説
前回は中小企業経営の「ディフェンス力」を磨くために、何をすればよいかを総論としてお伝えしました。今回は実践編として、ディフェンス力をどのように高めれば会社を守る経営判断につながるのかについて、実際にあったケースなどをもとに解説します。
前回は中小企業経営の「ディフェンス力」を磨くために、何をすればよいかを総論としてお伝えしました。今回は実践編として、ディフェンス力をどのように高めれば会社を守る経営判断につながるのかについて、実際にあったケースなどをもとに解説します。
まず最初に、筆者が実際に相談を受けた飲食業のケースを紹介します。
《業種》飲食店(レストラン)
《店舗所在地》首都圏の県庁所在地。周りはオフィス街や繁華街
《売り上げ》年間4千万円、直近は黒字を確保
《相談内容》 創業から間もなく10年が経ちます。徐々にお客様が増え、売り上げや利益も伸びてきました。新型コロナウイルスの影響で、売り上げや利益は落ち込みましたが、何とか事業を維持するだけの数字は確保できていました。しかし、コロナ禍が落ち着いたタイミングで、今度は物価高に直面し、利益が前年よりも下回ってしまいました。このままでは、赤字の幅が増えてしまいます。
このような状況下で、経営者であるあなたはどんな手を打つことができますか。考えられる方法は大きく分けて、「現状維持」「出費の見直し」「売価の見直し」の三つになります。それぞれ順番に見ていきましょう。
特に新しいことをする必要もなく、現状のまま進められる点では楽かと思います。しかし、このままでは利益の確保どころか、赤字の幅が増える可能性が高いです。様子を見たところで事態が好転しなければ、赤字の幅が増える可能性が高いので、やはり何らかの手を打たなければなりません。
こちらは主に二つの手法があります。
機器が古くなっていたり、効率が悪くなっていたりしたら、長期的に見て利益を圧迫する要因になります。設備を見直すことで、長期的に見れば出費を抑えられる可能性が高いです。ただし、設備を買い替える際には、一度に多額の出費が予想されるため、現金の確保が必要になります。短期的には資金繰りの不安を解消することが最優先になると思います。手元の現金や預金は少なくとも、月の売り上げの2カ月分以上確保できていることが条件です。
経費の見直しは、以下の3点の確認が重要です。
↓ここから続き
直近1年くらいの納品書を見比べてみてください。同じ材料でも、昨年より30%上がっているという例もよく見かけます。もし可能なら、仕入れ先と交渉をすることも必要ですが、おそらく価格は今までより高い価格で提供されることが予想されます。仕入れ側も材料の確保に一苦労している例も多くみられるからです。
その場合、考えられることは以下の三つです。
1.仕入れ先の変更
こちらはあまり現実的ではありません。なぜなら、物価高は世界的な問題なので、変更したところで劇的に仕入れ値が下がることは考えづらいです。また変更するにしても、仕入れ先の選定から扱っている材料の精査までに相応の時間がかかるため、その意味でも現実的でないと考えます。
2.頻度を見直す
例えば、仕入れを週4回から3回に減らすことで、月の仕入れ額を下げられる可能性が高いです。ただし、在庫が減って売り切れになること(販売のチャンスを逃してしまうこと)は避けなければなりません。
3.在庫管理を徹底
仕入れの頻度や量を調整する代わりに、今まで以上に在庫管理の徹底が求められます。多く仕入れ過ぎて使い切らずに破棄したものは無いか、材料の使い方を無駄にしていないか、などを考える必要があります。
例えば、肉をメインに扱った食堂であれば、余ったすじ肉をシチューやカレーなどにしてランチで販売すれば、肉を使い切ることにつながります。
今いるスタッフが適正な人数かどうかなど、店舗内の人員配置を考えたり、賃金体系を見直したりすることが挙げられます。
ただ、ここ最近の経営者の悩みで大きなウェートを占めているのが人手不足です。もし経費削減を最優先させて、今いる従業員を辞めさせてしまっては、新たな採用に時間がかかり、人手不足で業務に支障が出かねません。
人件費削減の前に、店舗内の人員配置を考え、働いている従業員がやる気が出る仕組みづくりを進める必要があるかと思います。
水道光熱費の高騰も、最近の経営者の悩みの種の一つです。前年の同時期と同じくらいしか使用していないのに、料金が倍近くになってしまったという声も聞かれます。水道光熱費をゼロにすることは難しいですが、経営者をはじめとする社員全員がコスト意識を持つことで削減できると思います。
例えば、今まで従業員用のスペースに誰もいなくても電気がついていることが多かった飲食店がありました。そこで、店長をはじめ従業員一人ひとりが誰もいないときは電気を消すという当たり前のことを徹底したことで、電気代が前月と比べて2万円下がったそうです。
このほか、電気やガスをまとめて契約する、電気を新電力に切り替えてコストを下げるといった方法もあります。ただし、新電力の会社がスムーズに運営できるかは見極めが必要です。
ある会社が電気代削減のために新電力と契約したところ、何年かたって経営が立ち行かなくなったために、やめてしまったという例が実際にありました。新電力から元の電気会社に切り替えようとしても、元の電気会社が難色を示したという例もあります。
しかし、黙って何もアクションを起こさないのでは経費が高いままになってしまいます。これまで述べた行動は、経費削減の観点から進めた方が良いと思います。
ディフェンス力を高めるには、売り上げを見直すことも必要です。具体的には、単価と数量の見直しです。
単価の見直しは大きく二つに分けられます。
物価高の影響で、材料費も値上がりしています。このままの商品単価で提供した場合、昨年同時期と売り上げが変わらなければ、利益率は昨年よりも小さくなる可能性が高いです。
実際の例を挙げると、ある飲食店では昨年の物価高の影響で仕入れ価格が高騰し、社長は商品単価の値上げが必要かどうか迷いました。もし値上げをしたら、今まで来てくれていたお客様が離れてしまうのではないかという恐怖から、値上げに踏み切れませんでした。
しばらく様子を見てみようと決めた結果、売り上げは前々年の同時期とほぼ同じでしたが、利益は前年よりも40万円ほど減ってしまいました。その飲食店にとっては、40万円あればアルバイト従業員の給与3人分と水道光熱費、家賃を十分まかなえた金額でした。
値上げをしなかったために、本来確保できた利益を確保することができず、資金繰りに不安を残す結果になりました。
その影響もあって、今度は商品価格の値上げに踏み切りました。その際、以下の手順で進めました。
①単価の見直し | 昨年の同時期と同じくらいの利益率を確保するためには、どのくらいの単価が良いかを割り出す |
②ターゲット層と単価の比較 | ①で出した単価が、ターゲットとしているお客様が引き続き利用できるかどうかを判断する |
③新しい単価の決定 | 最終的な単価を決定する |
④値上げの時期と告知方法の決定 | いつから値上げするのか、告知方法をどのようにするかを決めておく |
ちなみにこちらのお店では、メインの肉料理を前より100円値上げしました。食事に来る主なお客様は、昼夜問わず店の周辺で勤務している人や会社の経営者が多いため、自社の利益を確保できる100円の値上げをしました。
値上げに踏み切った後、多少お客様の来店数に影響があったものの、今は従来通りの数に戻っています。
この飲食店が単価の見直しと同時に、どのようにして客単価を増やすかを考えました。例えば、商品の陳列方法やメニューのリニューアル、買い上げ点数を増やすための提案などが挙げられます。
この店で行ったのはメニューのリニューアルです。以下の手順で進めました。
①提供商品の見直し | 人気のある商品とそうでない商品を過去のデータから割り出す |
②原価の算定 | それぞれの商品の原価を割り出す |
③販売商品の選定 | 想定している原価よりも割高だったり、人気のない商品を外す |
④新商品の追加 | 夜の時間帯の来店客数増加のために、一品料理とお酒の種類の増加を行う |
ちなみに、こちらのお店では、端末にどんな料理がどのくらい出ているのかを把握できます。
普段からあまり出ていないメニューの削減をしたり、お客様からのリクエストのあった料理を新たに出したりして、利益を出す努力とお客様に目新しい印象を持ってもらうことを両立したのです。
新しいメニューが完成したら、メニュー表のデザインも大幅に変えました。お客様の評判も良く、実際に売り上げを回復させることができました。
この結果、今まで来ているお客様は継続したのはもちろん、新たに夜の時間帯に食事にくるお客様も増え、客単価もプラスになりました。
数量の見直しで意識することは主に二つあります。
まず一度お店に来ていただくようにするために、例えば店頭の看板を変えたり、チラシを配布したりなどが考えられます。最近では、YouTubeやTikTokでお店の存在を認知してもらい、LINE公式アカウントに誘導して定期的な情報提供を行い来店を促す方法も主流になっています。
すでに何回も来ている人向けにノベルティーやポイント、チケットなどを渡したり、限られた顧客だけが受けられる新しいサービスを実施したりすることが考えられます。
最近ではLINE公式などを活用しながら、顧客限定の商品やサービスの情報提供を定期的にして、また来てもらえる構造を作り出していることが多いです。
これらの方法は自分で行っても、専門家に依頼する場合でもある程度の費用を見積もる必要があります。経費の削減を優先するあまり、広告費にお金をかけなさすぎると、かえって自分の首を絞めることにもなるので、他の方法と比較しながら、優先順位を決めて進めるのが良いと思います。
筆者のクライアントの飲食店では、規模関係なしでこのような広告を多く取り入れるようになっており、特に小規模事業者であるほど意識は高い印象です。
業種によって違いますが、広告費の初期投資は10万円からで、ランニングコストは月5万円前後になります。大体売り上げの1~2%くらいをかけているところが多いようです。
以上、ディフェンス力の磨き方について、事例を交えてお伝えしました。
以前筆者が書いた「事業計画書入門」でも触れましたが、経営は計画通りになかなか進まないことが多いです。そのような時こそ、経営者がどのようにかじ取りをするかがカギを握っています。
事業計画や長期的な目標を念頭に置き、目標を達成するにはどのように行動していくのが良いかを常に考え、行動するのが経営者が果たすべき役割です。
これらの方法を参考にしながら、もし自分の事業で似たようなことが起きたときにどのように行動するか、ディフェンス力を高める計画を事前に立てておくことをお勧めします。
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