目次

  1. ピーターの法則とは
    1. ピーターの法則の概要
    2. ピーターの法則のメカニズム
    3. ピーターの法則に関連する法則
  2. ピーターの法則が組織に与える影響
    1. 生産性の低下が加速する
    2. 人事制度と給与体系が形骸化する
    3. イノベーションが生まれにくくなる
  3. ピーターの法則の影響を回避する方法
    1. 企業の回避方法
    2. 個人の回避方法
  4. ピーターの法則を回避するうえでの注意点
    1. 昇進・昇格の要件と給与体系の同時見直し
    2. 職場の心理的安全性の確保
  5. ピーターの処方箋を上手く使えば組織は有能でいられる

 ピーターの法則とは、階層的な組織のなかで、能力を発揮していた人が、昇進によって無能化し、組織全体が無能な人材の集まりとなってしまうというものです。組織がそのような状態に陥らないためには、この法則の特徴を理解して対策する必要があります。

ピーターの法則とは
ピーターの法則とは(デザイン:増渕舞)

 ピーターの法則は、教育学博士で南カリフォルニア大学のローレンス・J・ピーター教授とレイモンド・ハルの共著で紹介されました。 

 同書によれば、「階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに到達する」(引用:『[新装版]ピーターの法則(原題:The Peter Principle)』p.27┃ダイヤモンド社)とされています。

 具体的には、有能な人は限界に達するまで上位の階層に昇進し、その人にとっての最上位の階層で無能化します。そして、無能な人は昇進せず同じ階層にとどまり続けます。

 そのため、結果的に階層社会のすべての人が無能化することになります。

 ビジネスを行う組織においては、ピーターの法則の影響を免れることはできません。

 なぜなら、階層がある組織の場合、どの階層から始まったとしても、どこかの時点で次の階層への昇進が待っているからです。

 そして、1回目の昇進で能力を発揮できたとしても、またその次がやってくるため、終わりがありません。

 こうしてほぼすべての人は、何回昇進するかという違いはあるものの、いつかは自分の能力が発揮できない階層に達してしまい、無能になるという仕組みです。 

 では、自分を無能化させずに自分の能力を発揮し続ける方法はないのでしょうか。 

 ピーターが推奨するのは、「創造的無能」です。これは、提案された昇進を拒否するのではなく、最初から昇進の話が自分に来ないように工夫し、次の階層にいくことを避けるという方法です。

 昇進の候補に挙げられそうになったとしても、少し変わった癖や特徴が目立つ人物を演じ、自分をすでに「無能化」した人物だと周囲に思い込ませて、最終的な昇進を巧みに避けます。

 自らをあえて「無能」と演出するため、「創造的無能」といわれています。

 ピーターの法則に関連した法則がいくつかあります。そのうちの主なものを3つ紹介します。

①ディルバートの法則

 ディルバートの法則とは、無能な者は組織に害を及ぼさないように、意図的に昇進させられることです。アメリカの漫画家スコット・アダムズが生み出したキャラクターにちなんで名付けられ、ピーターの法則の変形ともいわれています。

 これは、ある条件の組織においては、生産的かつ実質的な仕事は、平社員レベルのいわゆる下層部に属する人々によって実践されており、上層部の人々は実質生産的な仕事には寄与していないという考え方に基づいています。

 ピーターの法則とディルバートの法則が同時に成り立っている組織も、実際には珍しくありません。

②パーキンソンの法則

 パーキンソンの法則とは、組織が肥大化することを洞察した結果から見出した法則で、役人の数は仕事の量に関係なく増え続けるというものです。イギリスの学者シリル・ノースコート・パーキンソンが提唱しました。

 パーキンソンの法則は、大きく分けて2つの法則で構成されています。

 第1の法則は、「その仕事の完成までに与えられた時間をすべて使いつくすまで、仕事の量は膨張し続ける」です。たとえば、人員を増やした場合、一人あたりの仕事量が減少しても、一人あたりの労働時間の短縮にはつながらないという矛盾を意味します。

 第2の法則は「支出の額は、収入の額に達するまで膨張し続ける」です。具体的には、たとえば収入が増えたら貯金ができるはずなのに、収入が増加してもその分支出も増えてしまい、結局貯金ができないというようなことです。

 そのため、結果的に役人の数が仕事量に関係なく増え続けることになります。 

 ピーターの法則とパーキンソンの法則も同時に成り立ち、無能化した人材はパーキンソンの法則の成立にも影響を及ぼす可能性が高いと考えられます。

③ハロー効果

 ハロー効果とは、一種の認知バイアスであり、ある事象を評価する際に、その対象が持つ目立った特徴に引きずられて、他の特徴に対する評価が影響を受けることをいいます。

 たとえば、ある社員が有名大学の出身であるという特徴によって、重要な仕事を任せられるなど、本来の仕事の力量とは関係のない要素で仕事の能力を評価してしまうことは、ハロー効果が働いた典型的な例です。

 ハロー効果は、組織がピーターの法則に陥りやすくなる認知バイアスの一つといえます。

 ピーターの法則が組織に与える影響のなかで、特にデメリットとなるのは次の3点です。

 本来の能力を発揮できない、または発揮しない無能化状態の人材が、そのまま同じポジションに居続ければ、生産性は当然低下していきます。

 たとえば、目の前のお客様の接客スキルに長けて売上に大きく貢献していた店員が昇進し、他の店員の指導をするマネージャーになった途端に無能化してしまった場合、売上は激減し、本人だけでなくチームの生産性も低下します。

 さらに、このように無能化状態になってしまった人材が増えるにつれて、組織全体の生産性の低下が加速していきます。

 たとえ昇進した途端に本人が無能化状態となってしまったとしても、一度昇進させた人材を降格させることは極めて稀です。

 そのため、昇進に伴う昇給に見合う実績や役割を果たすことができなくても、給料は昇進時の基準が守られ、職能給や役職手当などを受け取り続けることになります。

 そのような状態が続けば、やがて人事制度も給与体系、職務上の役割や職能に合わせた等級も、実態を伴わない仕組みになってしまい、制度そのものが形骸化していくというリスクが生じます。

 ピーターの法則の影響を受けてしまうと、組織の生産性が低下するだけでなく、新しいことに取り組もうとする意欲も生まれにくい組織になります。

 また、無能化を防ぐためには創造的無能が推奨されていますが、これは本来なら持っているかもしれない能力を意図的に発揮しないようにすることであるため、自由な発想を必要とするイノベーションはやはり起こりにくくなります。 

 ピーターの法則が組織に与える影響を回避する方法について、企業と個人とに分けて紹介します。

企業の回避方法 個人の回避方法
①昇進・昇格の要件を見直す
②人材育成プログラムを各役職に合わせる
③個人の特性に合ったキャリアパスを用意する
①理想のキャリアビジョンを持つ(ピーターの予防薬)
②昇進・昇格に必要なスキルを訓練する(ピーターの痛み止め)
③現状の価値を認める(ピーターの気休め薬)
④ピーターの法則に対処する方法を知る(ピーターの処方箋)

①昇進・昇格の要件を見直す

 昇進・昇格による無能化を起こさないためには、昇進・昇格の要件を見直し、できるだけわかりやすい基準にします。

 現在のポストで有能な活躍ができていても、その上のポストでも同様に活躍できるかどうかわかりません。

 昇進後のポストで求められるスキルや経験をあらかじめ明確にし、その基準を満たせる人物かどうか、昇進を決定する前に見極めましょう。

 必要に応じて、降格の基準を設けておくことも有効です。

②人材育成プログラムを各役職に合わせる

 昇進後も活躍できるようにするためには、昇進後に求められるスキルや能力について、理解させるだけでは不十分であり、実際に能力を身につけてもらう必要があります。

 そのため、スキルや能力を養うための人材育成プログラムを、できれば昇進する前から計画的に実施するのが効果的です。

 各役職の要件に合わせた人材育成プログラムを開発することで、役職と能力のミスマッチを防ぐことができます。

③個人の特性に合ったキャリアパスを用意する

 昇進・昇格に求められる要件には該当しない、別の専門的な能力を持っている人材もいます。そのため、個人の特性にあったキャリアパスが用意できるとよいでしょう。

  たとえば、個人の能力は高いが、管理職には興味もないし、向いてもいないという人もいます。そうした人材には、専門職としてのキャリアパスを用意することで、昇進による無能化を回避できます。

①理想のキャリアビジョンを持つ(ピーターの予防薬)

 組織のキャリアパスには関係なく、自分自身のキャリアビジョンを持つことで、昇進・昇格を追い求めず、ピーターの法則を回避します。この方法は、「ピーターの予防薬」といわれています。

 社内の人間にはキャリアパスに興味がある素振りを見せながら、無能化の可能性がある昇進・昇格の候補に名前が上がらないように「変わり者」を演じるなど、創造的無能を実践することで、無能化を防ぎます。

②昇進・昇格に必要なスキルを訓練する(ピーターの痛み止め)

 昇進・昇格によって一度は無能化した場合でも、再度能力を発揮できるように、トレーニングして能力の向上を図る方法です。これは、「ピーターの痛み止め」といわれています。

 社内の研修コースを受講したり、外部の検定や資格取得に取り組むことによって無能化状態から抜け出し、求められている実績や役割を果たせるようにスキルを身につけます。

③現状の価値を認める(ピーターの気休め薬)

 昇進・昇格によって能力を示せなかったとき、無能化状態を抑えるため現在の役職や仕事の意義・価値を認めるという方法があります。それによって、昇進・昇格への積極的な姿勢を一旦中断し、現状の課題に目を向けることで終点到達症候群を抑える効果を狙います。この方法は、「ピーターの気休め薬」といわれています。

④ピーターの法則に対処する方法を知る(ピーターの処方箋)

 自分の現状が無能化状態にどの程度近いのかを正確に把握することは難しいかもしれません。しかし、前述の「ピーターの予防薬」、「ピーターの痛み止め」、「ピーターの気休め薬」などそれぞれの活用法を知っていれば、自分で自分に合った方法を試すことができます。それが「ピーターの処方箋」になります。

 まだ無能化状態には達していない場合は予防薬を処方し、すでに無能化状態に達してしまった場合は、痛み止めか気休め薬のどちらが必要かを処方することで、完全な無能化を回避できる可能性が高まります。

 ピーターの法則を回避するうえで注意する点は、以下の2つです。

 ピーターの法則は、組織の昇進・昇格と密接な関係にあるため、影響を回避するうえでは、給与体系とセットで見直す必要があります。

 どちらか一方を見直しただけでは、人事制度全体として矛盾が生じてしまうからです。また、降格の要件を決める際にも給与体系と連動しておく必要があります。

 この2つを同時に見直すことは簡単な作業ではありません。十分に時間をかけて、慎重に行ってください。

 ピーターの法則の回避策として創造的無能を実践する社員に活躍をしてもらうには、個々の能力や個性に合ったキャリアビジョンを会社として尊重することが重要です。

 そのためには、社員が自分のキャリアビジョンを正直に表明できるように、職場の心理的安全性の確保が必要です。

 心理的安全性とは、たとえば、個人のキャリアビジョンを上司に伝えたときに、尊重され、応援されていると感じられる環境のことです。

 日頃からコミュニケーションをとって、心理的安全性を確保したうえで、キャリアビジョンを共有していきましょう。

 現代社会においてピーターの法則の影響をまったく受けていない企業はないといっても過言ではありません。

 しかし、 たとえ現在無能化状態の社員が多数を占めるような組織だったとしても、ピーターの法則の適切な処方箋を適用すれば、以前よりも一層有能な会社に成長できる可能性があります。

 ピーターの法則の特徴を理解し、人材育成や組織マネジメントに活かしていただければと思います。