目次

  1. キャッチコピーとは 「最強の営業マン」の重要性
  2. キャッチコピーを作るときの3つのコツ
    1. ちゃんと相手の「不」を解決する言葉になっているか?
    2. 相手に伝わるわかりやすい言葉を選べているか?
    3. いつも「結論から話す」のではなく、最適な順序で語れているか?
  3. キャッチコピーを作る5つのステップ
    1. ステップ1.その商品・サービスが助けられる相手を明確にする
    2. ステップ2.フィールドワークで商品が解決できる「不」を明らかにする
    3. ステップ3.「不」をベースにたくさんコピーを書いてみる
    4. ステップ4.書き出した言葉を眺め、相手の立場で「動かされる言葉」を選ぶ
    5. ステップ5.顧客の反応やデータを見て、言葉を磨き、改善し続ける
  4. キャッチコピーの有名な具体例
    1. さみしくなったら、おヘソを見よう。(日本新聞協会)
    2. #この髪どうしてダメですか(P&G パンテーン)
    3. 育児をしない男を、父と呼ばない。(厚生労働省)
  5. キャッチコピーを上手く作れないときの対処法
    1. 世の中にある身近な広告のキャッチコピーをたくさん見てみる
    2. とことん考えた後は一旦寝かせて、思考が整理されるのを待つ
    3. コピーライティングに関する書籍を読んでみる
  6. 売れるキャッチコピーのコツは「うるおすマインド」

 現代は情報爆発時代と呼ばれています。情報に溢れているからこそ、ますます人の心を捉えるキャッチコピーは近年、重要性を増しています。特に中小企業の経営においては、大企業と違い有名タレントの起用やTVCMを大量に流すといったパワープレイを取ることができません。

 その点、コピーライティングはタレントを起用したPRなどと比べて、比較的費用を抑えて制作することができます。また一度、消費者や取引先に深く届く言葉を開発できれば、キャッチコピーは「最強の営業マン」として永続的に活躍してくれるのです。

キャッチコピーを作るときのポイントとステップ
キャッチコピーを作るときのポイントとステップ(デザイン:紀井佑輔)

 キャッチコピーの作り方に関する解説では、「数字や専門性、権威性、オノマトペ、心理学のテクニックなどを活用するとよい」という解説がしばしば行われておりますが、現場の感覚としては、そこまで大切な問題ではありません。

 売れるキャッチコピーは、目に入ると思わず立ち止まってしまう赤信号のように、届けたい相手に目をとどめてもらう機能を持っていることが重要です。そんなキャッチコピーを作るためには、下記のような3つの要素を抑えることが大事だといえます。

 奇抜な言葉を選べば、いいキャッチコピーができるわけではありません。例え一瞬見てもらえたとしても、全く商品やサービスに関係ないお客さんを集めるだけで、機能しない場合があります。つまり、たくさんバナー広告はクリックされたけど、誰もその商品は購入しなかった、という自体が起きてしまうのです。だからこそ、見かけ上のクイック率などの数値に振り回されず、最終的な売上にどれだけ寄与しているかでみていく必要があるのです。

 そこで届けたい相手に反応してもらうキャッチコピーを作るためには、きちんと相手の「不」を解決できている言葉を選べているか、きちんとチェックする必要があります。

 ここでいう「不」とは、顧客が感じる不安や不満、不快感、不思議な疑問などのことです。例えば、あなたがペットボトルの水を売るコピーを考えるとします。そのときに水道水を競合に設定して、「大切なお子さんが飲む水、気になりませんか」といった不安に共感した言葉が考えられます。

 またウォーターサーバーを競合と捉えると、「我が家にウォーターサーバーを置いた。部屋が狭くなった」といった不満が「不」にあたります。キャッチコピーを作る際は、そうした「不」を意識し、その「不」を解決する商品やサービスとお客さんとの関係を明らかにする必要があります。

「不」の種類 具体例・解説(ペットボトルの天然水を売りたい場合)
不安(VS 水道水) 大切なお子さんが飲む水、気になりませんか。
不満(VS ウォーターサーバー) 我が家にウォーターサーバーが届いた。
部屋が狭くなった。
不都合な真実(VS ジュース) 女性はジュースの飲用量が多いほど糖尿病の発症リスクが高い、という研究結果がある。
参照:清涼飲料水(ソフトドリンク)と糖尿病発症との関連について|がん対策研究所 予防関連プロジェクト
不意な場面(VS ビール) 突然ですが質問です。砂漠で遭難した時に飲みたいのは?
A:とりあえずビール B:とりあえず水
不思議な疑問(VS 水道水) あなたが飲んでる、名前に「天然」とつかない水は、
人工水かもしれない。

 たくさん語彙力を磨いている人ほど、つい難しい言葉を使ってしまいがちです。例えば普段の会話でも「アグリーです」というより「賛成です」という方が直感的に伝わりやすいですよね。

 語彙力を磨く前に、観察力を磨きましょう。観察力とは、SNSでの口コミや顧客が普段使っている言葉に耳をすませることです。無理に難解な言葉を使う必要はありません。相手が普段使っている言葉を取り入れたり、中学生にもわかるシンプルな言葉を使うようにしましょう。

 最終的に伝えたいことが「この商品を買ってください」だったとしても、ストレートにいつでも結論から話せばいいわけではありません。

 そもそもその商品に興味を持っていない場合は、まず相手の不安や不満などに寄り添う必要があります。あくまでも、その「不」を解決する手段として商品やサービスがあることを伝えなければならないのです。

 目を留め、足を止めてもらうためのキャッチコピーを作るための、重要かつ本質的な5つのステップについて解説していきます。

 キャッチコピーが「不の解決」を目指すものだとすれば、そもそも自社の商品・サービスが助けられる相手は誰でしょうか?ついターゲット(標的)という言い方で、自分が狙いたい相手を自分勝手に決めてしまいがちです。

 ですが、例えば自分が勝手に「お金持ちに売りたい」とターゲットを決めたとしても、そのお金持ちが自分の商品やサービスを求めていなければ、語りかけるだけ無駄になってしまいます。

 そのうえ、無理やりゴリ押しして一度は買ってくれたとしても、嫌な感情が残ってしまい、クレームが増えるだけです。だからこそ、まずはきちんと自分の商品・サービスが誰を助けられるのか、じっくり観察する必要があるのです。

 助けられる相手が見つかったら、その消費者や取引先の「不」をより明確にしていきましょう。そのためには、顧客のことをより深く知るためのフィールドワークを行います。フィールドワークには、オンラインで行えるものと、リアルで行うものが存在します。

 まずオンラインでのフィールドワークは、困っている相手が普段使っているSNSの声を拾っていくことから始めてみましょう。Yahoo!知恵袋やTwitterでのつぶやき、商品レビューなどをリサーチしていくことで、顧客の不安や不満、不都合な真実などに触れることができます。

 またリアルなフィールドワークとしては、実際にその商品やサービスが使われている現場に足を運びましょう。そして実際に自分自身も購入してみたり、使ってみたりする経験が大切です。お店に並んでいる商品をみると、周りの競合商品がどのようなPOPで訴求しているかなどを実感できますし、五感を通じて体験することで、これまで気づかなかった視点や着想を得ることもできます。

 こうしてオンラインやリアルなフィールドワークを終えたら、次は「不」に関する項目ごとにキャッチコピーを書き出していきましょう。

 例えば、相手が普段「不快」に感じるのはどんなときでしょうか?「不意」に商品を手に取りたくなる場面は?もしも競合の商品がいわれたくない「不都合」な真実があるとしたら?あえて相手にクイズや質問で「不思議」な疑問で興味を持ってもらうなら?

 このように「不」の要素を分解しながら、思考を発散させていきます。そのときに、あえてひとつひとつのコピーの質は問いません。例えば、ペットボトルの天然水のキャッチコピーを考える場合、ウォーターサーバーと比較して『不満』を軸に考えるとします。その場合は、

 ・「ウォーターサーバーは場所を取る」
 ・「ウォーターサーバーの電気代が気になってきた」
 ・「一人暮らしだと、ウォーターサーバーを導入するほどでもない」
 ・「ウォーターサーバーは持ち運べない」

 などハードルを下げて思いつく限り書いていきます。まずはたくさん書き出すことを意識しましょう。そうすると書き出した中で「我が家にウォーターサーバーが届いた。部屋が狭くなった」など、気になる視点が見つかったりするのです。

 たくさん書き出した言葉を今度は俯瞰して眺めてみましょう。これまでフィールドワークで観察してきた、相手の立場になってみてください。自分が思わず目を止めた言葉はありましたか?まず荒削りの表現でも構いませんので、素直に心が動いた言葉やフレーズを選んでみましょう。

 選んだ言葉は、実際に顧客の声や反応を見てください。内容は刺さるけど、伝わりにくいのであれば「てにをは」や単語を別のものに変えていくなどで調整し、伝わりやすい表現に言葉を磨いていきましょう。

 逆に相手から思った反応がなかった場合は、思いきって別の切り口の「不」から再度選び直すのもありです。キャッチコピーのABテスト(複数のキャッチコピーを試験的に運用し、結果を確かめるテスト)をすると、いろんな学びが得られます。キャッチコピーは唯一の正解があるというものではないため、常に相手のことを観察し、言葉を改善し、よりよいキャッチコピーを作り続ける必要があります。

 ここで、キャッチコピーの具体例をご紹介します。まずは筆者自身が制作に関わった事例です。

さみしくなったら、おヘソを見よう。

出典:2009年度 新聞広告クリエーティブコンテスト丨日本新聞協会

 「絆の大切さを伝える」というお題に対して、「絆が感じられないときの『不安』って何だろう?」という視点から考えたキャッチコピーです。「さみしくなったら」という言葉で、絆が感じられないときの「不安」を想起させています。さらに「あなたがひとりじゃなかったこと。思い出せたらもう大丈夫。実感しよう、絆」と畳み掛けることで、絆を実体のある身近な存在として伝えることができます。実際にこの新聞広告が掲載されたことで反響を呼び、中学の国語の教科書にも掲載されました。

 続いて、一般的に有名な「不」の切り口のキャッチコピーについてもご紹介します。

 自分らしい髪型を楽しみたいのに黒く染めないといけないという「不満」を持つ就活生や、校則に縛られた学生など若い世代に対して問題提起・共感してもらうためのシャンプーの広告の言葉です。社会的な問題提起を行うことで、ブランドに対する強い興味を持たせることに成功しています。

 それまで女性が抱えていた「不満」をベースに、ストレートに表現することで、多くの共感を産んだキャッチコピーです。イクメンブームや、現在の女性活躍の推進にも大きく寄与した言葉でもあります。

 キャッチコピーがうまく作れないときは誰にだってあります。そんなときは以下の3つを試してみるとよいでしょう。

 あえて商品やサービスと関係なくても、自分の身近にあるたくさんのキャッチコピーを見てみましょう。思わずクスッと笑ってしまう言葉や、ハッとさせられる言葉、じわっと心が暖かくなる言葉、泣ける言葉などが見つかるはずです。豊かな言葉に触れることで、こんな切り口があったのかと、自分が描きたいキャッチコピーを作るためのヒントになったりします。

 情報をたくさんインプットしてとことん考えると、思考が凝り固まって脳が疲れてしまう場合があります。きちんとリサーチやフィールドワークで情報をインプットした後は、無意識のなかで思考が整理されるまで待つのも効果的です。もちろん何のインプットもせず、考える過程も踏まずにただ待つだけだと、よいキャッチコピーは降りてきませんので、ご注意を。

 本格的にコピーライターの思考をインストールするために、キャッチコピーの作り方に関する本を読んでみるのもよいでしょう。一流の広告コピーライターの本から学べることはたくさんありますが、初心者の人は、シンプルに本質的な解説を行っている入門書を読むのもおすすめです。

 この記事で紹介してきたのは、単に売るために、心理学的なテクニックを使うという話ではありません。大切なことは、無理やり「売る」のではなく、あくまでも困っている相手の不を解決すべく言葉を紡ぐという「うるおす」というマインドです。お腹いっぱいの相手に無理やり「売る」のではなく、砂漠で喉カラカラの困っている人を「うすおす」ような姿勢を大切にしましょう。

 あなたが相手のことをフィールドワークを通じて観察し、とことん相手の困りごとに寄り添うことができれば、自ずと相手を動かす売れるコピーは書けるようになります。とことん顧客に向き合いながら、言葉を磨いていきましょう。