目次

  1. 適材適所とは
    1. ビジネスにおける適材適所とは
    2. 適材適所が必要な理由と進まない理由
  2. 適材適所に人材配置するメリット
    1. 生産性が高まる
    2. 定着率が向上する
    3. 求める人材を確保できる
  3. 適材適所に人員配置するデメリット
    1. 成長機会を奪う可能性がある
    2. 社員の心理的負担がかかる恐れがある
  4. 適材適所に人員配置する施策と手順
    1. 手順①経営戦略と人材課題洗い出し
    2. 手順②求める人物像の明確化
    3. 手順③キャリアパスの設定
    4. 手順④人事評価の実施と希望確認
  5. 適材適所に人員配置した事例
    1. ジョブローテーションの推進
    2. スペシャリストコースの創設
  6. 適材適所の実現は個人と組織を幸せにする

 適材適所とは、その人の能力や適性に合わせて、ふさわしい地位や仕事を与えること、就いてもらうことを指します。

 ビジネスにおける適材適所とは、社員のスキルや特性を見極め、適任とされる部署に配置することです。

 事業や組織のニーズに合わせて、人的資源を最適化することで、一人ひとりのパフォーマンスが高まり、組織全体の生産性向上を実現できます。

 適材適所が必要な理由は、以下の2つです。社員と会社それぞれに、適材適所に人材配置したい理由があります。

対象 必要な理由 目的
社員 働きがいの向上 能力を発揮できたり、希望する業務に就いたりすることは、自分の力が組織のなかで活かせていると実感できる
会社 定着率の向上 自身の望むキャリアの実現や貢献実感を持つことで、離職防止につながる

 年功序列や終身雇用という日本型雇用慣習は、長期的な人材育成を目的にしています。そのため、経験や実績を重視し、過去の実績に縛られた配置を検討するため、個人の能力や強みを活かした適材適所が妨げられやすいのです。

 「過去の実績が高いから、新しい職場でも実績を出せるだろう」という感覚的な人材配置では適材適所が進まなくなります。

 ここでは、適材適所を見極めて人材配置するメリットをご紹介します。

  1. 生産性が高まる
  2. 定着率が向上する
  3. 求める人材を確保できる

 適材適所は、組織の生産性を向上させます。たとえば、コミュニケーション力が高い人材を営業に配属させることは、本人の強みをいかんなく発揮することにつながるため、売上や利益に良い影響を与えます。

 しかし、コミュニケーション力を強みとする人材を、黙々とひとりで作業する業務に配置した場合、本人の強みが生かされない場合があります。

 その結果、本来発揮してほしい業務の戦力が不足し、生産性の低下につながるでしょう。

 適材適所を実現することは、一人ひとりのパフォーマンスを最大限発揮することです。それが組織の成果につながり、生産性向上に寄与します。

 適材適所の人材配置によって、社員の定着率を向上させられます。

 社員が力を発揮し、やりがいを感じて仕事に向き合える環境は、個人の成長意欲と組織への貢献意欲が高まります。また、現在の職場でさらなる力を発揮しようとする意欲の喚起につながるでしょう。

 仕事のなかで、苦手なことに向き合うことも大切です。しかし、長い間克服できなかったり、そのことを責められたりすると、モチベーションは低下します。自分にはこの仕事は向いていないと、転職を検討することも考えられるでしょう。

 適材適所に人材を配置することは、求める人材を確保できるようになり、社員と組織のミスマッチを防げます。

 そのためには、組織が求める人材像を明確にしておく必要があります。各部署で必要な能力を明確にすることで、感覚的な配置や主観的な視点で配置を決めることを避けることが可能になるのです。

 また、組織が求めるキャリアパスに合う人材を確保できるため、採用から定着、活躍までの道のりがスムーズになります。

 適材適所は組織を成長させるため重要なことです。しかし、実施するうえでは短期的なデメリットがいくつかあります。

  1. 成長機会を奪う可能性がある
  2. 社員の心理的負担がかかる恐れがある

 順にご紹介します。

 適材適所に人材配置することで、まだ気づいていない潜在的な能力に気付けなくなるかもしれません。

 得意分野や強みを活かした適材適所は、社員と会社それぞれに大きなメリットを与えると考えられます。しかし、さまざまな部署で経験を積めば発揮されるかもしれない、潜在的な能力に気付く機会を奪う可能性があります。

 また、万が一ミスマッチが生じた場合は、短期間での異動が発生してしまうのです。慣れてきたタイミングで異動が発生するため、パフォーマンスの発揮が阻害され、組織の生産性も一時的に低下することが懸念されます。

 適材適所に人材配置された社員は、人間関係や周りの期待感から心理的負担がかかるかもしれません。

 新しい職場へ異動するということは、新しい役割や責任の発生、新しい人間関係の構築がともないます。新しい職場への期待を持つ一方、不安やストレスも発生するのです。

 また、適材適所による人材配置となると、新しい部署でのパフォーマンスを期待されているため、それがプレッシャーになることもあるでしょう。

 適材適所の人材配置を実現するための手順は以下のとおりです。

  1. 経営戦略と人材課題洗い出し
  2. 求める人物像の明確化
  3. キャリアパスの設定
  4. 人事評価の実施と希望確認

 会社の方向性を明確にし、その方向へ向かうためにクリアすべき課題を洗い出す必要があります。

 たとえば、3年後に今よりも2倍の会社規模を目指す場合、まずは社員数を増やす必要があるでしょう。また、専門領域の人材や営業人材など、必要なスキルや人数もおおよその計画を立てられます。

 成り行き任せの採用と人材配置は、戦略の実現が難しくなります。そのため、あらかじめ人材の計画を決めておくことで、会社の目指す姿を実現しやすくなるのです。

 経営戦略に合わせた課題を設定したら、組織が求める人物像を明確化します。ここでは、求められるスキルや経験だけでなく、態度や姿勢も含めて設定しておくと、ミスマッチを防げるでしょう。

人物像を明確化するときのポイントの例
・チャレンジ精神を持って行動ができる人
・粘り強い思考と行動ができる人
・主体的に物事を検討し、行動する人
・リーダーシップを発揮できる人
・組織をマネジメントできる人

 求める人物像を明確化せずに必要な能力やスキルだけを定義すると、経営戦略に対してミスマッチを起こす可能性があります。

 そこで、求める人物像を明確化しておけば、社内異動だけでなく、必要な人材を採用する際にも役立ちます。

 キャリアパスの設定は、社員の主体的なキャリア意識を生むだけでなく、個人と組織の成長促進を図るうえで重要です。

 キャリアパスが設定されることで、社員はキャリアを考えるきっかけになり、必要なスキルや伸ばしたい能力を意識するようになります。

 また、キャリアパスでジョブローテーションを推進する会社もあります。多様な業務経験を積めるため、自身が気付かなかった適性に気付いたり、新たな能力が開発されたりするのです。業務におけるマンネリ化を防ぐ効果もあります。

キャリアパスとは 社員がスキルや経験などを獲得する方法を計画し、実現するために必要なことを示した成長の道筋
ジョブローテーションとは さまざまな部署を定期的に異動させることで、スキルや経験を積ませる人事的戦略

 キャリアパスがあることで、人材配置を検討する際に、社員の現在の状況と今後のキャリアの方向性をふまえて、どこに配置すべきかを検討しやすくなります。

 適材適所の人材配置を実現するには、個人の能力とスキルを測る手段を持っておきましょう。

 これらを測る方法として、人事評価制度が有効です。人事評価制度は、求める人物像やキャリアパスにもとづいて必要な能力や姿勢、目標の達成度合いなどを評価するものです。社員の能力とスキルが明確になり、適材適所の人材配置を検討する際に役立ちます。

 また、組織が望む人材配置が、本人にとって望ましいかはわかりません。そのため、定期的に本人の希望を確認することが重要になります。希望の確認に役立つ方法として、以下が挙げられます。

  • 人事評価での面談
  • 1on1ミーティング
  • 異動希望やキャリア希望届

 社員の希望を叶えることが難しいときもあります。しかし、社員の希望と組織の希望をすり合わせるだけで、より働きやすい環境を整えられ、働きがいを得られるきっかけになることは間違いないでしょう。

 適材適所の人材配置に成功した企業の事例を紹介します。

 社員50人の製造業A社の事例です。A社では、ジョブローテーションを推進し、適材適所を実現したことで、社員の視野が広がり、社内に活気を生みました。

 以前のA社は以下3つの問題を抱えていました。

  1. 部署間でのセクショナリズム(他部署と協力せず、自部署の利益を優先すること)
  2. 中堅社員の中だるみ
  3. 社員の高齢化

 これらによって、組織の風通しの悪さと今後の人材育成を課題としている状況です。

 そこで、ジョブローテーションによる、適材適所の配置を実現することで、「幹部社員の育成」「部署間の橋渡し役の育成」「新たな視点の投入による中だるみ抑制」を目指しました。

 これにより、新たな職に就いた社員は、自部署だけでなく前工程や後工程に対する理解も深まり、全体的な視点で業務を捉えるようになったのです。さらに、社内で人材が流動化したことで、お互いが協力し合おうという姿勢が社内に生まれるようになりました。

 社員30人のサービス業B社の事例です。B社ではキャリアパスを設定し、新たなキャリアコースを創設したことで社員の不安や不満が軽減され、成長欲求が芽生えるようになりました。

 B社は、創業12年売上も利益も成長し続けてきた企業で、離職率も低く大きな問題は一見ないように見える企業です。ところが、社員アンケートやヒアリングを実施すると、入社3~7年程度の社員の能力が伸び悩んでいたり、給料に不満を感じていたりする社員が複数名いるとわかりました。

 そこでキャリアパスを設定し、成長の方向性を明確化するとともに、そのキャリアパスのなかに「マネジメントコース」と「スペシャリストコース」を創設したのです。

 より技術を追求して組織に貢献したい場合は、スペシャリストコースに進む道があることを示しました。キャリアパスによって自身の進む道が見えたことで、モチベーションの向上や組織の発展につながりました。

 企業は、利益を確保し、持続的な成長を実現していくことが求められています。しかし、企業を支えるのは「人」です。

 社員一人ひとりが主体的に行動し、成長しなければ、組織も成長しません。成長が低下し組織風土が悪くなれば、人材の定着も確保も難しくなります。

 適材適所の実現は、個人の働きやすさと働きがいに報いることであり、組織のありたい姿を実現するものでもあるのです。適材適所を成功させて、社員と組織の幸せを実現していきましょう。