目次

  1. ランチェスター戦略とは?
  2. ランチェスター戦略の基本法則
    1. 第一の法則(局地戦:弱者の戦略)
    2. 第二の法則(広域戦:強者の戦略)
    3. ランチェスター戦略におけるマーケットシェア理論
  3. ランチェスター戦略の3つのポイント
    1. ナンバーワン主義
    2. 一点集中主義
    3. 足下の敵に勝つ
  4. ランチェスター戦略の実践方法
    1. 地域戦略
    2. 営業戦略
    3. 新規事業戦略
  5. ランチェスター戦略の事例
    1. パナソニック(Panasonic)
    2. hushykke (ハシュケ)
  6. 弱者の勝ち方はランチェスター戦略に学ぼう

 ランチェスター戦略とは、ビジネス上の競争に勝つための理論と、そのための実務を体系化したマーケティング・販売戦略の一種です。とくに、小さな会社が大きな会社に勝つための戦略として有名で、「弱者逆転のための戦略」とも言われています。

 イギリスのF. W. ランチェスター氏が第一次世界大戦中に発見した、兵力投入などの軍事戦略「ランチェスターの法則」をベースとしています。

 戦後は経営戦略にも応用され、田岡信夫氏が、社会心理学の知識と日本市場での研究をもとに進化させ、競争に勝つための販売戦略として確立しました(参照:協会概要|ランチェスター協会)。

 ランチェスター戦略の基本となるのは、敵と味方の力関係を「戦闘要員数」と「武器性能」を用いて表した、ふたつの法則です。

 ランチェスターの法則をビジネスに置きかえると、「戦闘要員数」は営業や販売担当の人数、ディーラーの数、売り場の広さや飲食店の座席数などの量に相当します。もう一方の「武器性能」は商品力や営業力、技術、サービス品質、価格など、提供する価値の質に相当します。

 それを踏まえたうえで、ランチェスター戦略のふたつの法則を具体的に説明していきます。

 第一の法則は「一騎打ちの法則」とも呼ばれ、古典的な戦いである1対1の戦い、局地戦、接近戦に適用される法則です。

①第一の法則とは

 第一の法則の場合、戦闘力は「戦闘要員数×武器性能」で計算されます。同じ武器性能であれば兵力数は多いほうが勝ち、相手より上回った分の兵力数が生き残ります。逆に兵力数が同じであれば、武器性能が高いほうが勝つということです。

 具体例を挙げてみていきましょう。

【パターン1】武器性能が同じ場合
A軍:戦闘要員10人 × 武器性能 1 = 戦闘力 10
B軍:戦闘要員 7人 × 武器性能 1 = 戦闘力 7

 パターン1の場合は、シンプルに戦闘要員の多いA軍が勝ちます。

【パターン2】B軍の武器性能が高い場合
A軍:戦闘要員10人 × 武器性能 1 = 戦闘力 10
B軍:戦闘要員 7人 × 武器性能 2 = 戦闘力 14

 パターン2の場合、戦闘力の高いB軍が勝ちます。つまり、戦闘要員の差で負けていても、武器性能が高ければ勝てる可能性があることを表しています。

 ビジネスに置き換えると、エリアや領域を絞った局地的な競争においては、差別化された強い商品やサービスを提供することで、規模の大きな相手にも勝てる可能性があるということです。

②弱者のランチェスター戦略の活用法

 弱者は、第一の法則に則って戦略を作ることが推奨されています。弱者の基本戦略は武器性能を上げて戦いに勝つことであり、ビジネスにおいては「独自性」や「優位性」によって差別化することを意味します。

 なお、ランチェスター戦略では、市場シェア1位以外の企業はすべて弱者として扱います。弱者に有効とされる第一の法則に則った戦い方には、以下のような5種類があります。

戦略 内容 具体的な手法
局地戦 狭い地域や領域に限定して戦う 一位の死角となっている地域や狙いにくい領域に絞って、自社のリソースを集中的に投入する
接近戦 消費者やエンドユーザーなど、最終顧客に近いところで戦う 営業による顧客との関係性の強化、卸売りをやめてユーザーへ直接販売する
一騎打ち 1対1の戦いに持ち込んで戦う 一社としか取引していない企業や1品しか使っていないユーザーを狙う
一点集中 局所的にダントツ1位を目指して戦う 小さな領域(地域、カテゴリー、顧客層、用途などにおいて)に集中し、そのなかでの圧倒的ナンバーワンを実現する
陽動作戦 真の攻撃目標から目をそらさせるよう、敵をかく乱させたり意表をついたりする方法で戦う 広域戦で戦うふりをしながら、悟られないように一部のターゲットに集中して営業をかけたり、業界的に非常識な手法を持ち込んだりする

 第二の法則は、「集団vs.集団」の戦いを想定したものです。1人で多数の敵を攻撃できる近代的な武器(機関銃など)を用いて、広域で戦う場合に適用される法則です。

①第二の法則とは

 第二の法則の場合、戦闘力は「戦闘要員数の二乗×武器性能」で計算されます。1人が多数を攻撃できることが前提のため、第一の法則と比べて戦闘要員の数の差が大きな差を生み出します。

 具体例を挙げてみましょう。

【パターン1】武器性能が同じ場合
A軍:戦闘要員10人の二乗(10×10) × 武器性能 1 = 戦闘力 100
B軍:戦闘要員 7人の二乗(7×7) × 武器性能 1 = 戦闘力 49

 パターン1の場合、A軍が勝つことになりますが、第一の法則と比較して戦闘力の差が格段に大きくなっていることがわかります。

【パターン2】一方の武器性能が高い場合
A軍:戦闘要員10人の二乗(10×10) × 武器性能 1 = 戦闘力 100
B軍:戦闘要員 7人の二乗(7×7) × 武器性能 2 = 戦闘力 98

 パターン2の場合、B軍の武器性能が2倍の強さになったとしても、A軍に勝てません。つまり、広域戦においては戦闘要員の数が勝敗に大きくかかわっていることを表しています。

 ビジネスに置き換えると、広い地域や広いターゲット層を狙った競争では、小さな会社が強い商品を提供しても、資金力や営業担当者の数で圧倒する大手企業に勝つことは困難であるということです。

②強者のランチェスター戦略の活用法

 強者は、第二の法則に則って戦略を作ることが推奨されています。広域戦に持ち込み、戦闘要員数の多さで勝つのです。

 ランチェスター戦略では、市場シェア1位の企業のみが強者です。ただし、1位であってもシェア26%以下の場合は弱者の戦略をとるのが原則となります。

 強者に推奨される戦い方は、次の5種類があります。

戦略 内容 具体的な手法
広域戦 地域や領域を限定せず戦う 市場において死角を無くし、すべての顧客を相手にビジネスを展開する
確率戦 同時に複数の競合を攻撃できる兵器を利用して戦う 商品ラインナップを充実させる、取引先が多い顧客を狙って営業をかける、多くの代理店を使う
遠隔戦 離れた顧客にもアプローチできる仕組みを作り、接近戦になる前に勝負を決める 卸し店や代理店を使って隅々まで配荷したり、マス・コミュニケーションを活用したりする
総合戦 圧倒的なスケールでさまざまな資源を投入して総合的に戦う 営業人数、マーケティング予算、商品数など多角的な面で優位に立つようにする
誘導作戦 競合を自らの土俵におびき出して徹底的に戦う 自社の強みがある領域に競合をおびき出し、徹底的に倒すとともに、弱者の集中戦略を崩す

 これらはすべて、戦闘要員の数が多いほど、優位に働く戦略です。

 つまり、強者のとるべき戦略は、優位である戦闘要員の数や資金力を充分に活かし、弱者の局地戦や接近戦などの効果を打ち消す戦略をとることになります。

 弱者が狙う戦い方の効果を打ち消すのに、もっとも有効なのは「ミート戦略」になります。ミート戦略とは、弱者が差別化のためにおこなったことと同じことを実行し、珍しいものではないようにするものです。同じような価値であれば、多くの顧客が1位の会社を選ぶというわけです。

 こうして武器性能のレベルを揃えてしまえば、強者は戦闘要員数の多さを使って勝ち続けられます。

 ランチェスター戦略においては、強者と弱者で取るべき戦略が変わってきます。その強弱を分ける基準は、マーケットシェア(市場占有率)になります。

 シェアはとりあえず1位であればよいという訳ではなく、安定するために下位の競合をどこまで引き離すべきかという視点も大事になります。一方、参入したての企業であれば、いきなり1位をめざすのは非現実的なため、当面の目標をどこに置いて戦略を立てるかを決める必要があります。

 ランチェスター戦略では、市場におけるシェア目標を体系化して理論を確立しています。それが次の7つのシンボル目標数値です。

シェア率 目標値 意味
74% 上限目標値 戦いの最終目標であり、これ以上シェアをとると逆にデメリットが生じるリスクがある
42% 安定目標値 安定して首位を独走できる目標シェア
26% 下限目標値 強者の最低条件であり、これを下回ると首位は不安定になるため、シェア1位であっても弱者の戦略をとるべきとされる
19% 上位目標値 市場においてシェアが上位となり、首位が射程圏内に入ってくる
11% 影響目標値 顧客においても有名な存在となり、市場全体に影響を与える分岐点
7% 存在目標値 市場において影響を与える力はないものの存在が認められる
3% 拠点目標値 市場参入時の最初の目標値であり、これを超えて初めて競争を始める

 上限目標の74%は、強者の最低上限である下限目標26%のおよそ3倍になっています。これは、企業間競争において3倍のシェア差があれば逆転は困難であるとする「射程距離理論」とつながっています。

 ランチェスター理論では、第一法則と第二法則のどちらを適用する戦いかによってこの射程距離が変わるとされています。射程距離とは、つまり首位がひっくり返されることがあるのか、あるいは安全圏なのかということです。

・第一法則(一騎打ち戦、局地戦の場合)……下位の競合に3倍のシェア差をつければ安全圏
・第二法則(広域戦)……下位の競合に√3倍(約1.7倍)のシェア差をつければ安全圏

 1位になったうえで、上記のシェア差を満たしていれば安全圏にあるダントツ1位になれます。逆に、シェア差が上記よりも小さければ、2位以下の企業は逆転が狙えるという意味でもあります。

 なお、シンボル目標値は、市場環境などによってあてはまらない場合があります。あくまでシンボルとして捉えて、自社が戦っている市場の状況に合わせて応用してください。

 ここからは、実際にランチェスター戦略をもとに企業活動を考えるときのポイントを3つご紹介します。

 ナンバーワン主義とは、文字どおりNo.1(1位)を目指すことです。ただし、ランチェスター戦略でのナンバーワンは、2位以下を射程距離の圏外に引き離してダントツ1位になっている状態を指します。

 2位以下と圧倒的な差がついていれば、2位以下は戦っても勝ち目がないと悟り、棲み分けを意識するようになります。その結果、1位企業の収益性はさらに高まります。

 一点集中主義は、大きな市場を小さな領域に細分化して、どこか1つ狙うべき領域に集中させ、そのなかでナンバーワンを目指すことです。マーケティングにおいて有名な理論である、STP分析とも通じるところがあります。

 多くの企業は売り上げを拡大するために戦いの場を広げ、多種の商品を扱ったり顧客層を広げたりすることを考えます。しかし、弱い立場で無理に戦線を拡大すると、利益が圧迫される事が多くなるため、一部の領域において局地的に1位を目指すことが推奨されています。

 まずは選択と集中で、自社の勝ち筋を想像できる戦いの場を選び、そのなかで圧倒的ナンバーワンを目指しましょう。

 市場が急成長している場合を除き、自社の売上を上げる場合は競合の売り上げを奪う必要があります。ランチェスター戦略において、売り上げを奪う相手は、自社より1ランク下の競合相手になります。

 ランチェスター戦略には、「勝ち易きに勝つ」という思想があります。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実際は多くの企業が1つ上の会社との厳しい闘いに挑もうとしています。

 このステップを踏まずに強者に戦いを挑むと、自社の力が足りずに苦しい戦いとなり、その間に足下の敵が力をつけて追い抜こうとしてくる場合があります。

 足下の敵を攻撃することは、ナンバーワンを目指すにあたっての足掛かりであり、足下を救われないためにも重要なポイントです。

 ランチェスター戦略の基本理論をもとにした、実践での適用方法をより具体的に紹介していきます。

 ランチェスター戦略のなかでもっとも多く適用されているのは、特定の地域でナンバーワンを狙う地域戦略です。小売店やレストラン、法人営業、住宅や不動産など、地域という概念が関係するビジネスでは重要な戦略です。

 地域戦略では総合的なシェアが2位以下であっても、地域を細分化し一点集中すれば、そのなかでナンバーワンを取ることが可能になります。ナンバーワンを獲得したエリアをひとつひとつ増やすことで、売り上げを向上させるということです。

 このとき、市町村といったような行政区分で細分化せずに、敵に悟られないように独自の分け方で細分化しましょう。細分化をもとに、ナンバーワンになれそうな地域を選んで順に攻撃をかけていきます。

 ランチェスター戦略では、弱者は一点集中攻撃による狙い撃ちで強者に勝つ作戦をとります。しかし、弱者は営業担当者の数が少ないことが多く、1人あたりの担当範囲が広くなりがちです。

 そこで、効率的に営業するために、ランチェスター戦略には重要な顧客に多くの時間をさける仕組みづくりがあります。

 手順は、まず特定のエリアでローラー調査と呼ばれる全数調査(すべての顧客や取引先に対する調査)をおこない、顧客のタイプを調べ、自社にとっての重要度に応じて分類します。

 そのうえで、それぞれの得意先に対して、どのくらいの頻度で、どの程度の滞在時間を持つべきかという基準を決めます。たとえば次のような形です。

A分類・・・高頻度(週1回)× 長時間(2時間)
B分類・・・中頻度(隔週1回)× 中時間(1時間)
C分類・・・低頻度(2カ月に1回)× 短時間(30分)
新規開拓・・・B分類と同じ

 なお、頻度と滞在時間は、事業分野や商材によって変わります。

 この基準値があることで、営業担当が集中して攻めるべきところにしっかりと時間を使えるようになります。また、重要なことは訪問を計画するだけでなく、実際に訪問したかを確認し、その効果を検証していくことです。

 新規事業戦略とは、新たな地域や領域に参入したり、新規事業を立ち上げたりなど、起業するときの実戦体系です。起業するときは、ランチェスター戦略の3つの原則をもとにどの戦略を採用するかを検討します。

・第1の原則|市場参入の初期は弱者の戦略
・第2の原則|市場の成長期には強者の戦略
・第3の原則|市場が成熟期以降は、弱者・強者に応じた戦い方をする

 第1の原則は、「市場参入の初期は弱者の戦略」が基本ということです。これは、新市場への参入でも、新しい商品の投入でも、新規事業であっても同様に適用されます。

 導入期には、商品ラインナップを絞り込んだり、ターゲット顧客の属性を狭めたりし、一点集中主義で攻めます。地域や販売チャネルを限定し、広告メディアなどもターゲットにピンポイントに届くものに絞ります。

 第2の原則は、「市場の成長期には強者の戦略」を基本としています。ここで意味する強者の戦略とは「総合戦」のことです。シェアをスピーディに拡大するために、経営資源を投入して勝負をかけます。

 第3の原則は、「市場が成熟期以降は、弱者・強者に応じた戦い方をする」というものです。獲得している市場のシェア率をもとに、戦略を変える必要があります。

 ランチェスター戦略での戦い方を取り入れて、成功した企業の事例をご紹介します。

 パソコン分野への参入は後発だったパナソニックは、特定の顧客の課題を解決する商品を作り、世界の頑丈ノートPCの分野でトップシェアとなりました。

 パナソニックのタフブック(ノートPC)は、巨大グローバル企業が激しい競争を繰り広げているノートPC市場において、独自のポジションを築き、長年のロングセラーとなっています。

 タフブックは、オフィス以外の現場作業で使われることを想定して作られています。その名のとおりタフなノートPCで、耐衝撃・耐振動・防滴・防塵の機能を備えています。開発にあたって、アメリカ国防総省が軍需品に採用する耐久性試験にも合格したことで第一号が完成しました。

 パナソニックは、差別化されたノートPCでアメリカ全土の警察をターゲット顧客として集中的に営業をかけ、その結果、多くの警察機関に採用されました。

 警察機関に採用されたことをきっかけにタフさが話題を呼び、工事現場など屋外作業を伴う過酷な現場で採用されるようになっていきます。その後は消防・救急などを含めた「パブリックセーフティ」の分野や電気・ガス・水道などの「ユーティリティ」分野などへと広げていきました。

 参照:パナソニック技術百年史 タフブック レッツノート|パナソニック ホールディングス株式会社

 オンラインショップhushykke (ハシュケ)は、北欧雑貨という狭いカテゴリーに特化し、深いこだわりの店として勝負しています。

 これは弱者の戦略にあたり、特定の狭い層だけをターゲットにする局地戦で戦っている事例となります。ランチェスター戦略は、地域戦略・販売戦略として有名ですが、ECサイトなどのWeb上でも有効です。

 また、厳選した商品のみを販売し、それらの魅力をスタッフが写真付きの記事にして紹介しています。そうすることで、顧客は自信をもって商品を選べるようになり、限定された品揃えであっても満足のいく買い物ができます。

 その結果、強者が得意な品揃え勝負の確率戦に引き込まれず、弱者が得意な一騎打ちで戦えているということです。

 ハシュケは、局地戦や一騎打ち戦を活用することで、大手のECサイトと差別化された魅力を持ち、確実にファンを味方につけて戦っている好事例と言えるでしょう。

 参照:北欧と食器、インテリア雑貨のオンラインショップ ハシュケ|hushykke

 ランチェスター戦略は、「弱者」「強者」それぞれの立場での戦い方を示しています。

 業界で圧倒的ナンバーワンを誇る強者は1社しか存在しないため、多くの会社が弱者の立場で戦っていることとなります。業界の大手やライバル会社が強靭で、どう戦っていいか途方に暮れることもあるでしょう。

 ランチェスター戦略は、会社が小さくても、局地戦での勝ちを積み重ねることで大手との戦いに勝ち残る方法を明示してくれます。

 この記事が、ビジネスでの戦いに勝つための戦略を考える人にとって参考になれば幸いです。

【参考文献】
・『新版 ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則』福永雅文著/日本実業出版社
・『決定版 ランチェスター戦略がマンガで3時間でマスターできる本』田岡佳子著/明日香出版社