目次

  1. STP分析とは
    1. STP分析の手法はもう古いのか?
    2. S:セグメンテーション
    3. T:ターゲティング
    4. P:ポジショニング
  2. STP分析を利用するメリット
    1. ターゲットに効率的にアプローチできる
    2. 市場や顧客に対する理解が深まる
    3. 自社組織の活動方針を合わせられる
  3. STP分析のやり方と注意点
    1. ステップ1. 目的を明確にする
    2. ステップ2. 必要な情報やデータを集める
    3. ステップ3. STP分析を行う
    4. ステップ4. STP分析をもとにマーケティング戦略を立てる
  4. STP分析の事例 マックカフェとスターバックスを比べると
  5. STP分析を活用して効果的なビジネス展開を

 STP分析とは、「Segmentation(セグメンテーション)」「Targeting(ターゲティング)」「Positioning(ポジショニング)」の3つの工程からなる顧客主導型マーケティングのフレームワークです。主に新商品やサービスを世の中に出すときに戦略の土台を考えるための手法で、BtoB・BtoCの両方に使えます。

 STP分析の目的は、多様なニーズがある大きな市場をより小さな単位に分割し、そのなかから自社が最も収益を上げられそうな集団を特定して、そこにいる顧客と良好な関係性を築くことです。

 多くの企業にとって、すべての顧客を対象に等しくビジネスを展開することは困難になってきています。そこで、自社が効率的に利益を上げられる市場を特定し、そのなかでどのように競争優位性を築くか、戦略を練る必要があります。STP分析は、それを助ける考え方のフレームワークとして有効なものです(参照:Principles of marketing, PHILIP KOTLER et al., p.199, Pearson出版)。

 アメリカの偉大なマーケティング学者であるフィリップ・コトラー氏によって提唱され、現在では多くの成功しているマーケティング企業で取り入れられています。

 一方で、「STP分析は、もう古い手法ではないか?」という意見をたまに聞きます。アジャイル開発やリーン・スタートアップの時代には、始めからきっちりターゲットを定めて、競争優位性を持たせるポイントを決め込むのは古いのではないか、との声もあります。最初に提唱されてから数十年経っているのは事実です。

 しかしSTP分析は、近年、消費者が接する情報が膨大になるなかで、より一層重要になってきています。STP分析によって、狙うべき市場やターゲットを始めに明確にしてこそ、初期段階での設計・開発を効率的に進められます。そして、狙ったターゲットにどのように評価されたかを検証でき、素早く軌道修正できるのです。これからの時代、STP分析はますます大事になってくると筆者は考えています。

 では、STP分析の3つの項目について詳しく解説していきます。

 セグメンテーションとは、市場を何らかの基準によって区分けし、グループに細分化することを指します。分けられたものを「セグメント」と呼びます。

 市場を分ける方法は多様なため、企業は自らが提供する商品やサービスの市場構造を検討するのにふさわしい分け方を見つけなければなりません。

 ここでは、代表的な4つのセグメンテーションを紹介していきます。

地理的セグメンテーション(ジオグラフィック・セグメンテーション) 国、地域、都市など異なる地理的単位に区分けしたもの
属性的セグメンテーション(デモグラフィック・セグメンテーション) 年齢や性別、収入、職業、家族構成などの属性で、市場をセグメントで分けているもの
心理的セグメンテーション(サイコグラフィック・セグメンテーション) ユーザーの価値観や、嗜好、理想の姿などによって分けられたセグメンテーション
行動的セグメンテーション(ビヘイビアル・セグメンテーション) 製品・サービスの使用状況、利用頻度、利用タイミングやロイヤリティ度など、顧客の行動に基づいて分類したもの

 上記のセグメンテーションは単独で使うだけでなく、複数のセグメンテーションを組み合わせて使うこともよくあります。なお、市場を分ける方法は多くありますが、必ずしもすべてが有効とは限りません。

 また、意味のない分け方になってしまわないように、アメリカの経営学者であるフィリップ・コトラー氏は次の5つの条件を挙げています(参照:Principles of marketing, PHILIP KOTLER et al., p.207, Pearson出版)。

Measurable:測定可能であること セグメントのサイズや購買力、顧客のプロフィールなどの情報を入手できる手段がある
Accessible:アクセス可能であること セグメントに対してスムーズに到達し、商品やサービスを提供できる
Substantial:実質的であること 利益を出すために十分なサイズがセグメントに備わっている
Differentiable:差別化可能であること 各セグメントが異なるニーズや価値観を持ち、さまざまなアプローチを検討できる
Actionable:実行可能であること 魅力的な商品やサービスを提供するために、セグメントに対して効果的な戦略を立てられる

 上記を考慮したうえで、自社の戦略を立てるためにふさわしいセグメンテーションを検討していきましょう。なおセグメントに関する詳しいことは、下記記事で紹介していますので参考にしてください。

 ターゲティングとは、細分化した市場のなかから、自社が狙うべきセグメントを決めることです。分けたセグメントの魅力度を評価し、どのセグメントに対して商品・サービスを提供することが自社にとって最も適しているか決める必要があります。

 異なる市場セグメントを評価する際は、次に挙げる3つの要素に注目します。

1.セグメント規模
規模(含まれる人数・総購入金額)は、収益性に直結する大事な要素です。しかし、必ずしも大規模・高成長率が高いセグメントが自社にとって魅力的とは限りません。自社のビジネス規模も考慮しながら、最も収益を上げられそうなところはどこかを考えます。
2.セグメント構造
すでに強力な競合他社が多数存在して競争環境が激しいセグメントは、魅力が低くなります。また新規参入が容易なセグメントである場合も、潜在的に厳しい環境といえるでしょう。
セグメント内にどのようなプレーヤーがいるかや、それらの企業のビジネス状況を調べたうえで、魅力的かどうかを評価します。
3.自社ビジネスの狙いとリソース
収益性が高いセグメントであっても、自社のブランドや中長期的な目標に合わないため、参入しないケースもあります。また、自社の人員・資金・スキルなどのリソースが、あるセグメントで競争優位性を出すのに十分ではないこともあります。

 上記を考慮し、競合他社よりも優位に立てるセグメントを選んでターゲティングをしていきます。

 ターゲットは、共通のニーズや特徴を持つ顧客の集合で構成されます。そのターゲットに対するマーケティングは、主に以下の3種類が用いられています。

1.無差別型マーケティング
市場の細分化されたセグメントを考慮せず、幅広いターゲットに対して同じ製品を提供する手法です。資金力のある大企業や、ほとんどの購買者が同じ嗜好を持つようなカテゴリーに適しています。
2.差別型マーケティング
市場の複数のセグメントに対して、それぞれのニーズに合った商品・サービス、あるいはマーケティング施策を展開する方法です。大手の自動車メーカーや化粧品メーカーなどは、この方法で市場の多くをカバーする戦略を取っています。
3.集中型マーケティング
ターゲットを1つか少数のセグメントに絞り、そのなかで大きなシェアを狙う方法です。限られた資金でビジネスを行う小規模な事業者に適しています。

 これらの戦略を決める際には、競合他社がどの方法を取っているかも考慮する必要があります。例えば、複数の競合他社が集中型マーケティングを行っているときに、無差別型マーケティングを展開するのは危険な戦略です。

 逆に競合他社が無差別型マーケティングを行っている場合は、特定のセグメントのニーズに焦点をあて、集中型マーケティングを展開することで優位に立てる可能性が高くなります。

マイクロ・マーケティングも増えてきている

 上記3つのほかに、近年頻繁に使われるようになってきた戦略として、マイクロ・マーケティングがあります。マイクロ・マーケティングとは、特定の個人や地域の顧客層の嗜好に合わせて、製品やマーケティングプログラムを調整する方法です。

 ソーシャル・メディアやモバイル端末の普及により、より細分化された個人に向けて、商品やマーケティングのメッセージをカスタマイズできるようになったことから、今後も増えることが予想されます。

 ポジショニングとは、ターゲットとするセグメントに対して、どのように差別化された価値を創造するか、自社がどのようなポジションを取るかを決めることです。つまり、競合製品と比較して、消費者の心のなかでどのように認識されることを目指すのかを検討することです。

 ポジショニング戦略を考える際には、ポジショニング・マップと呼ばれる以下のような二次元の図を作成することが一般的です。消費者からみて購買に影響を与える2つの要素を軸にして、自社と競合他社の位置づけを明確にします。

ポジショニング・マップの例
ポジショニング・マップの例(筆者作成)

 ポジショニングマップの作成で注意したいポイントは、軸が顧客にとって商品やサービスを選ぶ基準になっているか、という点です。商品を差別化しようとするあまり、顧客にとって関心のない要素を軸に採用してしまうと、市場ニーズのないポジションに自社を置いてしまうことになります。

 また競合他社の位置は、なんとなくで置くのではなく、客観的な競合分析をもとにすることが大事です。競合分析のやり方からポジショニングマップの作り方までは、下記記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

 企業は、ターゲット顧客の心のなかで、競合他社よりも優れた価値を提供する場所に位置づけられれば、競争優位性を獲得できます。

 しかし当然ながら、確固たるポジションを得るには、実際に約束した品質とサービスを提供し、そのポジションを効果的に市場に伝えることが求められます。STP分析によって位置づけを明確にした後は、それを実行に移すための具体的な戦術を検討していきましょう。

 STP分析を利用するメリットを紹介します。

 市場には商品やサービスに関する情報があふれており、消費者は購入決定のたびに商品を評価し直すことは多くないでしょう。消費者は購買プロセスを単純化するため、「商品・サービス・企業」をカテゴリーに整理し、頭のなかで位置づけています。

 企業はSTP分析によって自社の位置づけをはっきりさせ、それが消費者に伝わるようマーケティング活動をすることによって、狙ったターゲットに効率的に自社の優位性を理解してもらえます。

 STP分析の過程では、市場や顧客をしっかり理解してセグメンテーションをする工程が欠かせません。またポジショニングのプロセスでは競合を詳しく分析することが求められます。これによって、自社を取り巻くビジネス環境に対する理解が深まり、さまざまな戦略を立てるベースになります。

 STP分析によってロジカルに構築されたポジショニング戦略は、社内で共通認識しやすいメリットがあります。マーケティング、広報、営業などの担当者が、同じ戦略のもとで活動することで、より効果的に顧客のなかで狙った位置づけに自社を置けます。

 ここでは、STP分析のやり方と注意点について解説します。

 まず、事業の目的とゴール(なりたい姿)を明確に定義することから始めます。なぜSTP分析をするかは、事業の目的を達成するために他ならないからです。

 この部分が曖昧になっていると、例えば、ターゲティングの過程でどれくらいの規模の層をターゲットにすべきか選択に迷った際などに、立ち返るところがなくうまく決められない可能性があります。また社内でも認識のずれが生じ、納得いかないポジショニングが設定されたという不満を抱いてしまう人が出てきやすくなってしまいます。

 STP分析をすること自体が目的になってしまわないためにも、とても大事なプロセスです。

目的を明確にする際の注意点
事業の目的は、目標とする売上金額や利益、あるいは顧客の数など数字で表せるものを含めるとよいでしょう。この利益を達成するためには、どのセグメントを狙うべきか、といった検討のベースにすることで、議論がスムーズになるからです。

 STP分析には、市場データや顧客情報が欠かせません。始める前に、必要な情報をまとめて集めておくと後の工程がスムーズです。

 セグメンテーションには、市場・顧客の情報が必要となります。地理的セグメンテーションと属性的セグメンテーションは、政府や公共機関、研究機関などが公表している地理データや人口動態などのデータを活用できます。

 心理的セグメンテーションは、一般的に価値観やライフスタイルなどを調査したアンケート結果を使います。必ずしも自社で顧客に調査をしなくても、調査会社や大手広告代理店が自主調査として実施したものを参考にすることもできます。

 行動的セグメンテーションは、顧客の購買履歴やアクセス履歴、来店時間などのデータを活用するほか、使用実態をアンケートで確認したものを使用することもあります。

 ターゲティング、ポジショニングにあたっては、競合情報が必要になります。ホームページや財務情報、実際に商品を購入して調べるなどして、競合の情報をまとめておきます。

情報やデータ収集時の注意点

自社の思い込みでSTP分析を進めないためにもデータ収集は非常に大事です。しかし、すべての情報を完璧に集めようとするあまり、始める前に多大な労力や時間がかかって、なかなか分析が始められなくなってしまう例もよくあります。

現実的には、準備にかける期間の目安をあらかじめ区切っておき、そのなかでできる限りの情報収集をするという割り切りも視野に入れたほうがよいでしょう。

 なお、競合分析の詳しいやり方は下記記事も参考にしてください。

 セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを実際に進めてみると、スムーズに決められない場合も多くあります。行き詰まったら1つ前の工程に戻ったり、あるいはひとまず先の工程に進んでみたりと、柔軟に考えて全く問題ありません。

 STP分析のフレームを活用して、市場としての魅力度、成長性、競争環境、自社のリソース、競争優位性が出せるかなど、総合的に考えたうえで、狙うべきターゲットと自社の位置づけを決めていきましょう。

 STP分析のアウトプットとして、段階的に複数のターゲットを狙う戦略を立てることも可能です。例えば、自社のリソースが競合他社と比べて十分といえない場合は、まずは小さな市場で確固たる地位を築くことを目指し、3年後には別のターゲットを含めたより大きな市場で存在感が出せるように計画を立てるなどです。

STP分析実行時の注意点
STP分析で起こりやすい失敗は、机上の理論に偏ってしまって、顧客が置き去りになってしまうことです。特に自社商品の差別化ポイントにこだわりすぎると、ニーズのないポジショニングを取ってしまうことも起きやすいので注意しましょう。

 STP分析によってターゲットと自社の位置づけを明確にした後は、それを具体的なマーケティング戦略に落とし込んでいきます。ブランドとは顧客の頭のなかで作られるものなので、顧客にわかってもらわなくては意味がありません。

 ポジショニング戦略をサポートするためには、マーケティング活動はすべて同じ方向性である必要があります。提供する商品・サービスだけでなく、セグメントの特性に合わせて購買体験やアプローチ方法を変えていくことも重要です。

 つまり、提供する商品・価格・販売場所・プロモーション(マーケティングの4Pと呼ばれる要素)は、策定したポジショニングを実現するための戦術ということになります。

 通常、ポジションの確立や変更は簡単ではなく、それなりの時間がかかります。一方で、何年もかけて築き上げたポジションが、すぐに失われてしまうこともあります。

 いったん望ましいポジションを築いたら、一貫したパフォーマンスとコミュニケーションを通じて、そのポジションを維持するように配慮することも忘れないようにしましょう。

マーケティング戦略を立てる際の注意点

マーケティング戦略が一貫したものになるために、STP分析によって明確にされたポジショニングは、自社内でしっかりと共有し合意を得ておくことが大事です。

また、よくある失敗として、最適な戦略を立てたけれど、それは理論上なだけであって現実的には実行が難しいものだった、ということがあります。人や資金は足りているか、生産キャパシティは間に合っているかなど、実際に取り組めるのか多方面からチェックするようにしましょう。

 STP分析を活用したマーケティング戦略を展開している企業は、私たちの周りにもたくさん存在します。同じカテゴリーの商品を展開していながら、全く違うポジショニングを取っている事例を紹介します。

 マクドナルドが展開するマックカフェと、スターバックスは、どちらもコーヒーやケーキなどのお菓子類を提供し、店内で簡単な食事ができるお店です。しかしターゲットとする顧客は異なり、それぞれ違ったポジショニングを取っています。そのポジショニングに合わせて、商品・店舗・価格・プロモーションといったマーケティング戦略も違ったものになっています。

 マックカフェは幅広いターゲットに向けて、安心品質のドリンクとフードを気軽に楽しめることを目指している店舗です。どちらかといえば、学生や若いファミリー層をターゲットの中心に据え、店舗は都内中心部には少なく、やや郊外に多く展開しています。

 誰もが気後れせずに利用できる雰囲気の空間で、ドリンクサイズはMサイズ・Lサイズとわかりやすいメニューを手頃な価格設定で提供しています。また、新しい顧客を幅広く獲得するために、クーポンを配るプロモーションを展開しています。

 一方のスターバックスでは、ビジネスパーソンをターゲットの中心に据え、ミッションには「人々の心を豊かで活力あるものにするために」と掲げています。

 イタリア語の名前がついたオシャレで一流品質のカフェメニューがあり、都心に多くの店舗を展開し、コーヒーチェーン店としては高めの価格設定です。少し装飾的でありながら居心地のよい空間が設計されているなど、ドリンクが完成するまで待つことが苦にならない工夫がされています。

 プロモーションは、コアなファン層にリピートしてもらうことを狙って、ロイヤリティプログラムを充実させたり、季節ごとに目新しい限定メニューを出し続けたりしています。

 誰もが気軽に楽しめるポジショニングを取るマックカフェと、コアなファンに心の豊かさを提供するスターバックスは、それぞれが立ち位置をはっきりさせ、自らのターゲット層のニーズに忠実な価値提案を行っていることで、顧客の心のなかに存在感を作りだしているといえます。

 STP分析は、自社の限られた資源を効率的に活用してビジネスを行うために有効な手法です。始めに提唱されてから年月が経っていますが、消費者を取り巻く情報があふれている近年では、より一層重要になってきているといえるでしょう。

 ポジショニングは、一度決めたら終わりではありません。消費者ニーズや競合他社の戦略の変化に合わせて、時間の経過とともにポジションを適応させていくことも重要です。

 この記事を参考に、STP分析をビジネスに取り入れていただければ幸いです。