セグメントとは?意味やマーケティングへの活用方法をわかりやすく解説
大きな市場には多様なニーズがあるため、市場をセグメントに分けて戦略を立てることは効果的なマーケティングをするうえでとても重要です。この記事では具体的な企業事例を紹介しながら、セグメント分けの種類や注意点、ビジネス戦略への活用についてリサーチの専門家が丁寧に解説します。
大きな市場には多様なニーズがあるため、市場をセグメントに分けて戦略を立てることは効果的なマーケティングをするうえでとても重要です。この記事では具体的な企業事例を紹介しながら、セグメント分けの種類や注意点、ビジネス戦略への活用についてリサーチの専門家が丁寧に解説します。
目次
セグメントとは、市場を細分化することであらわれた集団やまとまりのことです。
どのような市場でも、購買者の置かれた状況、ニーズ、購買習慣は同じではありません。市場すべての購買者に等しくアピールすることは、多くの企業にとって困難になってきています。
成功している企業の多くは、多様なニーズがある大きな市場を、より小さな単位のセグメントに分割し、そのなかから自社が最も収益をあげられそうな集団を特定して、そこにいる顧客と良好な関係性を築くマーケティングのやり方に移行しています。
特定のセグメント特有のニーズにあう製品やサービスを提供して、集中的にマーケティング投資をすることで、企業は限られた資源で、より効率的にマーケティングができるようになります。
セグメントの関連用語に、セグメンテーションがあります。セグメンテーションとは、市場をセグメントに分ける行為をさすこともありますが、正式には、市場が何らかの基準によって区分けされている状態をさします。
例えばユーザーセグメンテーションはユーザーがいくつかのまとまりに区分けされている状態をさし、地理的セグメンテーションはあるカテゴリーのマーケットが地域ごとにいくつかのセグメントに区分けされている状態をさします。
セグメントとターゲットは何が違うのか、という声がしばしば聞かれます。市場をいくつかに区分けして出来たまとまりがセグメントであるのに対して、ターゲットとは、それぞれのセグメントの魅力度を評価したうえで、企業が狙うべき対象として選ばれた1つ(または複数)のセグメントのことを指します。
セグメント、セグメンテーション、ターゲットの関係性を話すとき、例えば次のような使い方をします。
「地理的セグメンテーションを採用して市場を5つのニーズの違う地域セグメントに分け、そのなかの1つを当社のターゲットとした」
つまり市場のセグメント分けは、企業にとって狙うべきターゲットを見つけて、適切な戦略を立てるための大切なステップになります。
市場をセグメント分けする方法は、多様です。そのため、企業は自らが提供する商品やサービスの市場構造を検討するのに最適な分け方を見つける必要があります。
ここでは代表的な4つのセグメンテーションを説明していきます。
地理的セグメンテーションとは、市場を国、地域、あるいは大都市と地方といった異なる地理的単位に区分けしたもののことです。
例えば関西地区と関東地区では、食品の味付けの好みが違うことがあるでしょう。またスーパーマーケットは、住宅街にある店舗では調理材料やベビー用品を充実させ、オフィス街にある店舗では時間に追われるビジネスパーソン向けの手軽なお弁当を充実させるなど、立地によって品ぞろえを変えています。
このように地理によって発生するニーズの違いや、特定地域における自社ビジネスの優位性を意識して戦略を立てることができます。
年齢や世代、ライフ・ステージ、性別、収入、職業、家族構成などの属性に基づいて、市場をセグメント分けしているものです。このように人口統計学的な要素で市場を分けるのは、セグメンテーションにおいて最も一般的な方法でしょう。
消費者の行動やニーズが、属性と関連があることが多いとされているだけでなく、そもそもデータが入手しやすいからです。
例えば、国内の市場なら、公表されている国勢調査の結果から属性別の人数を正確に把握することができます。またアンケートなどでも容易に得られます。
ただし年齢や世代などでセグメンテーションを行う際には、思い込みに気をつけなくてはなりません。例えば同じ40代夫婦でも、全く違うライフ・ステージにいることはよくありますので、ステレオタイプに考えてしまわないように注意が必要です。
ユーザーの価値観、パーソナリティ、嗜好、ライフスタイルなどによって分けられたセグメンテーションです。同じ属性であっても、全く異なる心理特性をもつことはよくあります。
例えば旅行会社のなかには、アクティブに冒険したい人向けに専門家と一緒に行くツアーを提供している会社もあれば、個人で自由に街中を探索したい人に向けて、市街地のホテルと交通を組み合わせた簡易的なパッケージを提供している会社もあります。
属性が同じ30代男性会社員であったとしても、どちらの旅行が好みかはパーソナリティや価値観によって異なるでしょう。
近年では人々の嗜好性が多様化していることから、このような心理的セグメンテーションを利用して市場を分け、商品によって得られるライフスタイルや体験価値をアピールするマーケティングが増えています。
製品の使用状況、利用頻度、利用タイミングなどによる分類です。
カフェは朝コーヒーを買いに立ち寄る人と、夕方に友人とお喋りをしに来る人ではニーズは全く違うでしょう。また、何度もリピートしてくれているロイヤルユーザー、たまに購入するライトユーザー、または初めて購入するユーザーでは、求める体験ニーズが違うことが想定されます。
近年ではオンライン上のデータ取得が容易になり、購買頻度やタイミングといった行動データが入手しやすくなったこともあり、マーケティングへの活用が大きく注目されています。
市場をセグメント分けする方法は多くありますが、必ずしもすべてが効果的であるとは限りません。例えば商品の選び方やニーズに影響の少ない要素で市場を分けても、ビジネスを進めるうえではあまり意味がありません。
有益なセグメンテーションであるための条件として、「近代マーケティングの父」と呼ばれるフィリップ・コトラー氏は、次の5つを挙げています。
また、セグメンテーションを行う際の留意点としては4Rという呼び方もあり、具体的にはRank-優先順位 、Realistic-有効な規模 、Reach-到達可能性、Response-測定可能性の4つの条件をさします。
セグメントをマーケティングに実際に活用するときは、STP分析と呼ばれる手法を用います。
STPとはS:セグメンテーション(Segmentation)、T:ターゲティング(Targeting)、P:ポジショニング(Positioning)の略で、以下のようにセグメンテーションからマーケティングにおいて重要な自社の立ち位置を決める方法です。
STP分析のポイントに触れながら、セグメントをマーケティングに生かすプロセスをご説明します。
セグメンテーションの方法は様々です。本記事では代表的な4つのセグメンテーションを紹介しましたが、他にも多様な切り分け方があります。
また単独ではなく、複数のセグメンテーションを組みあわせて使うこともよくあります。それも含めて、企業は最適な市場の分け方を選ぶ必要があります。マーケティング戦略の肝の部分といってもよいでしょう。
セグメンテーションは分けることが目的ではなく、あくまで効果的なマーケティング戦略を立てるために行っています。ターゲットに設定したセグメントのことを深く理解し、そのセグメントに属する人たちに合わせた商品・サービスの設計や、広告・宣伝活動を組み立てるところまでやり遂げることが大事です。
セグメンテーションの議論をするとき、それぞれに合わせた商品・サービスの開発をすることに注目しがちです。ですが、広告をだす媒体や、商品をアピールする方法、購入体験などセグメントに合わせて多面的にマーケティングを最適化することで、セグメント内でより強く存在感を出していけるでしょう。
市場をいくつかのセグメントに区分けをしたら、それを元にターゲットを決めていきます。ターゲットを決めるにあたっては、それぞれのセグメントの魅力度を評価する必要があります。
そのために、各セグメントの規模(どのくらいの人がいるか)、購入金額、ニーズなどの情報をまとめていきます。購買意欲が高そうなセグメントか、という視点だけでなく、自社の技術的優位性を活かせそうか、過度な競争状況にないか、なども視野にターゲットを決めていきます。
セグメンテーションをベースにしてターゲティングとポジショニングをする際には、大きく分けて2つの方法があります。
・差別化型マーケティング
市場の複数のセグメントに対して、それぞれ異なる商品・サービス、あるいはマーケティング施策を展開する方法です。
例えば、大手自動車メーカーは、複数のブランドの車を生産しており、それぞれ別のセグメントをターゲットにしています。各セグメントの人々が求めるニーズ、ライフスタイル、購入金額などに合わせて最適な車を提供するためです。それによって市場の多くをカバーしています。
成功すれば大きな売り上げを得ることができる方法ですが、複数のセグメントに対応することは、コストを増大させることにもなります。そのバランスを考えて戦略を決定することが求められます。
・集中型マーケティング
ターゲットを1つまたは少数のセグメントに絞り、そのなかで大きなシェアを狙う方法です。特定の市場に関する深い知識をもとに、最適化された商品・サービスや価格帯を設計し、消費者との親密なコミュニケーションを通じて強いポジショニングを獲得します。
限られた資源でビジネスを行う小規模な事業者は、効率的なマーケティングを展開する必要があります。大企業が見過ごしている可能性がある特定のセグメントにおいて、集中的に資金・人材・知恵を投入することで、存在感を出すことができます。
特定のセグメント内で圧倒的な顧客の支持を得ているということになれば、そのセグメントに対する新規参入企業を思いとどまらせることにもつながります。また知名度が向上して、将来的により広範なセグメントを対象に、ビジネスを展開できる可能性も出てきます。
ターゲットとするセグメントやターゲットにとっての自社の立ち位置を決めたら、徹底的に対象セグメントの情報を集め、ニーズを最大限に汲んだマーケティングを展開していきましょう。
提供する商品・サービスそのものを変えなくてはいけないとは限りません。セグメントの特性の違いに合わせて、アプローチ方法や購買体験を最適化することも戦略の1つです。
例えばある商品を初めて購入する人は詳しく説明を聞きながら納得して買いたいと思うでしょう。一方で、何度も購入している人はできるだけクイックに商品を手に入れることのほうが大事です。同じ商品を販売する場合でも、このようなニーズの違いに合わせて販売方法を変えることもできます。
失敗を避けるために気をつけたいポイントとして、現実的に実行可能か、を常に考慮することが大事です。理論上は最適な戦略であっても、実際には自社の人員や資金、生産キャパシティ、原材料の調達などの問題で、実行が困難という場合もあります。
その場合には、段階を踏んで理想形にもっていく道筋を考えるなど、現実的な戦略をたてましょう。
活用するときに参考となる企業事例を2つ、ご紹介します。
マレーシアを本拠地とするエアアジアは、東南アジアを中心とした地域に、低価格の航空便を集中的に展開しています。これは地理的セグメンテーションで世界を区分けし、ターゲットとする地域をアジアに絞り込んだといえます。
また、ビジネスを始めた当初、マレーシアの国内線はマレーシア航空がほぼ独占していましたが、徹底的に無駄を省いた低コストの航空券を販売し、一気にシェアを拡大しました。これは属性的セグメンテーションで、中~低所得層の個人旅行客にターゲットを絞ったといえます。
さらに当時、航空券は旅行代理店を通じて購入することが一般的でしたが、エアアジアは主にインターネットでの直販を行いました。これは行動的セグメンテーションで、飛行機で旅をすることに慣れている人をターゲットにしたといえるでしょう。
現在ではエアアジアは、空の上だけでなく、旅行で必要になるホテルやレンタカーなども含めて、トータルで個人旅行者をサポートするサービスをアプリを通じて展開しています。
スウェーデンで生まれた家具会社イケアは、デザイン性の高い商品を低価格で販売し、30カ国以上で親しまれています。IKEAはさまざまなセグメンテーションを組み合わせてターゲティングされたマーケティングを展開し、その組み合わせこそがIKEAの強みといわれています。
まず心理的セグメンテーションでは、モダンなデザインに囲まれたライフスタイルを好むセグメントにフォーカスしているといえるでしょう。伝統的なスタイルや、自然派な暮らしを好むセグメントにはアプローチしていません。
属性的セグメンテーションでは、主に子どものいる若い世帯をターゲットにしています。そのための品ぞろえだけでなく、店舗では子どもが楽しめるような買い物体験が設計されています。また、家具に使える予算が限られている層にフォーカスし、すべての商品は低コストで作られています。
地理的には、主には都心から少し離れた住宅地をターゲットにし、駐車場のある大型店舗を構えています。しかし国は限定せず、世界各地で同じスタイルの商品や店舗を展開しています(近年は渋谷などの都心にも一部、店舗ができました)。
商品の展示方法は、それまでの多くの家具店のように商品をジャンルごとに並べず、部屋が丸ごと展示されています。行動的セグメンテーションで、一度に複数の家具を購入して部屋全体のコーディネートをするオケージョン(場面)を想定しているといえるでしょう。
家具業界はイケアが急成長を始める以前から、激しい競争環境にありました。IKEAはそのなかで、子育て世代にデザイン性の高いものを低価格で一度に購入してもらうという、他の家具メーカーにはなかった考え方で戦略をたて、急成長を遂げてきました。
市場をセグメント分けするのは、自社の限られた資源で効率的にビジネスを行うためです。
消費者の生活や求めるものが多様化している近年では、よりクリアにターゲット像を描いて、その特有のニーズにあわせたマーケティングをすることが重要になってきています。
そのために、市場を適切にセグメント分けし、自社が最も優位にビジネスを進められそうなターゲットを特定して戦略を構築することが欠かせません。
この記事を参考に、市場のセグメント分けをマーケティングに活かしていただければ幸いです。
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