ECサイトの売上3日で100万円 「推し色」に着目したアイデア商品
廣畑達也
(最終更新:)
愛知県岡崎市で、1000超の新規事業・新商品を生み出している「岡崎ビジネスサポートセンター(オカビズ)」の立ち上げセンター長の秋元祥治さんは、ヒト・モノ・カネのない小さな会社、小さなビジネスであっても、新規事業を生み出す「ひらめき」は必ず起こせるといいます。今回は、コロナ禍で窮地に陥った地方の画材店が、見逃されていた強みから起死回生の新商品を生んだケースから、ニーズの掘り起こし方を考えます。後段では売上の悩み解決を目指すスクール「事業アイデアを量産できる”ひらめき”プログラム」もご案内します。
地方の画材店が持っていた「とてつもない強み」
「ネットショップを開設したいんですが……」
ある時期、オカビズにはこの相談が殺到した。勘のいい方はすでにお気づきでしょう。
そうコロナ禍です。リアルに店を構える大半のお店が売上が激減。販路はもうネットにしかない――。
その日相談にきたのも、そんな会社の一つでした。
岡崎で画材の販売、絵画教室、そして貸しギャラリーを営んでいる彩雲堂の山田将裕さん。売上減どころか、教室、ギャラリーともに売上がゼロになるという緊急事態。確かに、活路はネットにしかない状況でした。
しかし、ECは非常に難しいのです。これまでは「岡崎市の画材店」でよかったのですが、いざネットの海に出れば日本中の画材店が横並び。
しかも、全国区の知名度の店舗や、Amazonをはじめとした黒船、さらにはメーカーの直販とも競う必要があります。これからネットショップを始める彩雲堂に、勝ち目などあるのでしょうか。
ところが私たちはオカビズ。絶対に、課題をあげつらうようなことはしません。やることは一つ。連載でも繰り返してきた通り、「強み」を、ひたすらに掘り下げていくことでした。
その際に非常に強力なのが、「人」です。相談に来た人の来歴を深掘りすることで、ひらめきのタネが見つかることは、実は非常に多いのです。たとえ それが今のビジネスとは一見関係のない過去の経歴だとしても。
「社会人になったときですか? ホルベインに入社し、大阪で営業をしていました」
山田さんは、画材メーカーで有名なホルベインで働いてから、家業の彩雲堂を継いだ、いわゆる「アトツギ」です。ところが、その後にぽろっと漏らしたことが決め手でした。
「今も、いろんな商品を扱わせてもらってます。オリジナルのパッケージで売ることも許可してもらってて」
その瞬間、「これだ!」と頭の中でひらめきました。著名メーカーの画材を用いてオリジナル商品がつくれるのです。それだけでもすごいのですが、あるトレンドとの掛け算が頭の中で成立しました。
ここで、これまでの情報をおさらいしましょう。
- コロナ前はECを一切やっていなかった地方都市の画材店
- コロナで全事業が大打撃。
- 社長は家業を継ぐ前、画材メーカーで勤務しており、今も深い関係性を持っている
ここから、どんなトレンドと掛け合わせたのか、推理してから次を読んでみてください。
「色」から浮かび上がった二つのトレンド、大ヒット商品へ
絵の具、と聞いたとき、私は二つの脳内情報がつながりました。
一つは、世の中には「特定の色が好きな人」が存在するという情報。身につけるものや部屋の調度品をピンクや青など、特定の色に統一しているのを、テレビ等で見たことがある人もいるでしょう。
そしてもう一つが、ここ数年で一気に定着した言葉、「推し」です。
好きなアイドル、俳優、スポーツ選手……熱心に応援することを指すこの言葉はすでに市民権を得ており、「推し活」といった消費形態をも生み出しました。
この推しと切っても切れないものが、「色」だ。自分が応援しているアイドルが担当している色は、推しカラーとも呼ばれています。
現代は、「色」が大きな意味を持つ時代なのです。
こうしたトレンドから着想を得て生まれたのが、感性を磨く「だけえのぐ」シリーズです。
「特定の色が好きな人向けの絵の具」として、赤系統だけを12色、青系統だけを12色……と、それぞれ詰め合わせたセットを、ホルベイン協力のもと開発。見た目もグラデーションになっていて美しく、ネットで見ても十分差別化可能な商品となりました。
これがネットの世界で大きくバズりました。結果、注文が殺到し、3日で300セット、100万円を売り上げたのです。「だけえのぐ」シリーズは、コロナ禍を乗り越える力となっただけでなく、今も彩雲堂の主力商品となっています。
前回記事「樹脂メーカーから子どもを守るアイデア商品 強みとニーズの連立方程式」は、子どもの安全という大きな社会課題との掛け算でしたが、ニーズにはもっとパーソナルなものもあるのです。
今回の「色」のようなちょっとしたトレンドが、自社のビジネスやサービスにとってどんな影響があり、どんな可能性をもたらすのか。常に情報収集し、目を光らせておくことで、彩雲堂のようにピンチをチャンスに変えることが可能になるのです。
★やってみよう★
・あなたが今までやってきたこと、経験してきたことを、当たり前だと思っていることも含めて、すべて棚卸ししてみよう。
・雑誌やテレビなどから、世の中で流行っているものを常にキャッチし、自分の本当の強みと掛け合わせるクセをつけよう。
「事業アイデアを量産できる”ひらめき”プログラム」次回検討中
本連載で秋元氏が述べた「強み」に気づいてリフレーミングする手法や、トレンドと紐付けるための8つの「ちいさな習慣」について、2024年4月から体系立てて学べるスクールをオンラインで開講しています。
全5回で20万円 (税込22万円)。
次回の開催は未定ですが、ご関心のある方は、ツギノジダイの問い合わせフォームからご連絡いただければ、開催決定時に優先的にご案内します。
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この記事を書いた人
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廣畑達也
編集者
1983年生まれ、大阪府出身。ダイヤモンド社にて17年勤務した後、現在は英治出版に所属。駆け出しの頃、社会起業家という存在に出会い、事業を通して「経済性」と「社会性」を両立させるそのあり方に感銘を受け、以来、12年以上にわたり「ソーシャルイノベーション」について取材を続けている。また、本や書店をめぐる状況をいかに持続可能にできるのかも探究中。
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