目次

  1. 自動車の部品メーカーから畑違いの新商品
  2. 深掘り質問で唯一無二の「当たり前」を探そう
  3. 技術力×社会的ニーズで生まれた「読みづらい名札」
  4. 「事業アイデアを量産できる”ひらめき”プログラム」開講します

 「こういう新商品を考えたんですけど、売れませんか?」

オカビズでの相談風景

 これまで累計3800社からの相談を受けてきましたが、その中で最も多い相談が、新商品・新規事業です。すでに出来上がったものを持ってきての相談もあれば、「うちって何をすればいいですか」という段階の相談もあり、相談される側としては腕を問われる瞬間です。

 その日オカビズに訪れたのは、製造業のまち・岡崎を象徴する自動車の部品メーカー「飯田樹脂」。名の通り、樹脂の製造・切削加工を手掛け、小指の先に乗るようなコンマ何ミリの部品をつくることも可能という、確かな技術を持つ企業です。聞けば業績も好調とのこと。

 日本を代表する自動車という産業を支える町工場が、なぜ新商品の開発を急ぎ、オカビズに相談にきたのでしょうか。

 将来、後を継ぐ山川麻依さんによれば、「EV化が進むと部品点数が減ります。樹脂のニーズもこのまま順調というわけにはいかなさそうで」。

 そう言ってそっと差し出されたのは、結婚式のウェルカムボードや、子どもの身長計でした。もちろん、樹脂製で、切削加工により文字が彫られています。

 「自動車の部品メーカーがウェルカムボードなんて」

 もしそう思ったなら、あなたはすでに「ひらめき」のタネを見逃しています。オカビズの流儀は、第1回のホタルヤでもそうしたように、ただひたすらに「強み」を掘ります。問題点や課題は、決して指摘せずに、です。

 そうして掘り下げていった先に、ひらめきにつながる「強み」が見えてくるのです。

 もしあなたがオカビズ相談員だったら、どんなふうに飯田樹脂の「いいところ」を掘り下げ、新規事業へのとっかかりを見つけるでしょうか?

 「こだわりはどこですか?」

 「どんな技術が使われているんですか?」

 オカビズの鉄則は徹底的な「いいとこ探し」。そのためには、相手が何を考えて新商品をつくったのか、会社の歴史と照らし合わせるとどうなのか、といったところを押さえることが欠かせません。

 多くの会社では、たとえ新商品には自信がなくとも、自社の技術やサービスには自信があるもの。こだわりを深掘っていくと、本人たちにとっては「当たり前」になってしまっている「すごいところ」が見えてきます。飯田樹脂の場合も、その技術力は群を抜いていました。

 山川さんは、ウェルカムボードの文字を指し、「文字がくっきりはっきり見えるように、刃を入れる角度や深さを調節しているんです」。簡単に彫られているように見える文字も、自動車で培われた精緻な技術があってこそだといいます。これはすごいと驚いていると、ぼそっとつけ加えました。

 「……魚拓も彫れるんです」

 お父さまである社長の飯田幹雄さんの趣味である釣り。その魚拓をスキャンしたものも彫っていて、しかも筆のかすれやにじみまで樹脂上で再現できるというのです! 実際、飯田樹脂では表札のオーダーも受けています。

 技術の高さに驚くとともに、ふと気がつきました。「なぜ、その技術の活かし先がウェルカムボードや身長計なんだろう」と。この点も深掘りすると、飯田樹脂の「当たり前」が見えてきました。

 飯田樹脂には、昭和63年の創業当初から、人材を区別せずに採用を実施し、子育て中の母親も多く雇用してきたという歴史があったのです。事実、従業員の6割が女性で、彼女らの感性を活かす事業として、ウェルカムボードや身長計が生まれたという。ウェルカムボードなんて、と切り捨てていたら、この強みに気づくことすらできなかったでしょう。

 さあ、情報が出そろった。今回のお題はこうです。

  • 自動車の部品メーカーとして培ってきた高い技術(樹脂の切削加工)
  • その技術の精度は相当高く、文字を彫れば刃を入れる角度や深さを調節すれば筆のかすれすら再現可能
  • EV化が進むと、樹脂の需要が減る可能性がある
  • 従業員のうち、6割が女性。しかも、子育て中の方も多い

 ここから、どんな新規事業が描けるでしょうか。一度考えたうえで、読み進めてみてください。

 先に答えを言いましょう。飯田樹脂がつくった新商品は、子ども用の名札です。

 「ちょっと待って。それって表札と何が違うの?」

 その答えは、技術力に掛け合わせた、ある「社会的なニーズ」です。

 2017年当時、社会を大きく騒がせた事件がありました。行方不明の女児が、2年ぶりに発見されたというニュースを覚えている方もいるかもしれません。

 登下校時に名札を見て名前を呼んだというその手口に、学校や保育園、保護者、地域の人が震撼しました。

 そもそも名札は、学業においてはもちろん、災害時にも役立ちます。しかし、登下校時に狙われるのは何とか避けたい。

 結果、全国で登下校のときだけ裏返したり外したりするなどの指導がなされていました。この情報が頭にインプットされていたため、ウェルカムボードや表札の話を聞くなかで、自ずとこんな質問が飛びだしていました。

 「文字がくっきりはっきり見えるよう彫れるんだったら、読みづらく彫ることもできますか?」

 「……できますが」

 「知っていますか? 岡崎市では、登下校では名札を外して、と指導されているんですよ」

完成したお名前かくれんぼ
完成したお名前かくれんぼ

 こうして誕生したのが、近くにいると読めるけど、3m離れると読めなくなる名札「お名前かくれんぼ」。

 子育て中の母親が多く働く飯田樹脂では、この社会課題との親和性も高い。「子どもたちの安全のために、母親たちが名札を開発」というストーリーで、毎日新聞、NHK「おはよう日本」などメディアを席巻しました。全国から注文も殺到し、教材という新たな販路の開拓にもつながっていったのです。

お名前かくれんぼのチラシ
お名前かくれんぼのチラシ

 技術力や組織力は、それだけでももちろん「強み」となります。だが、その真価が発揮されるのは、トレンドやニーズと掛け合わされたときだ。雑多で圧倒的な情報収集を欠かすことなく続け、自社の強みや当たり前と組み合わせたときに、新規事業のタネは生まれるのです。

★やってみよう

・あなたの会社や組織の「当たり前」を、深掘りして「強み」に言い換えてみましょう。
・普段見聞きするニュースや情報から、「社会の困りごと」を探してみましょう。
・リフレームした強みと、社会の困りごとを掛け算し、課題解決につながる具体的なアイデアがないか、書き出してみましょう。

 本連載で秋元氏が述べた「強み」に気づいてリフレーミングする手法や、トレンドと紐付けるための8つの「ちいさな習慣」について、2024年4月から体系立てて学べるスクールをオンラインで開講する予定です。

 全5回で20万円 (税込22万円)。

 ご関心のある方は、ツギノジダイの問い合わせフォームからご連絡ください。登録いただいたアドレスに講座詳細やお支払いについてのご案内を差し上げます。