レートリーは業務用冷凍洋菓子の食品OEM・PB商品受託製造専門メーカーです。従業員はパートスタッフを含めて約40人。関連会社である埼玉県戸田市の「スカーフード工業」協力のもと、商品開発・販売を行っています。
製造ラインと手作業の組み合わせにより中ロットで多種多様な商品を製造できるため、1990年以来、飲食店やカフェチェーン、ホテル向けの冷凍ケーキを製造してきました。
実は、おなじみの全国チェーンのレストランやコーヒーショップにも採用されており、知らず知らずのうちにレートリーの冷凍洋菓子・冷凍ケーキを口にしたことのある人も少なくないのです。
しかし、2020年4月の緊急事態宣言発令を機に、メイン顧客はおおむね厳しい経営状態に晒されることになりました。そのあおりを受け、同年4月の売上は前年比で6割減、緊急事態宣言が明けた6月も4割減。
インバウンド観光客や旅行客減少によるホテルや観光地のレストランへの顧客減少の影響はいつ戻るかわからない。そのような状況下の2020年7月、BtoCへの本格参入についてSaya-Bizへ相談に訪れたのです。
元々レートリーは、主力であるBtoBビジネスに加えて、BtoC、すなわち消費者への直接販売の拡大を検討していました。食品ロス/廃棄ロスの削減を目的にスタートした工場直売所(埼玉県狭山市)の人気が日に日に高まっていたからです。
さらなる顧客拡大に向けて楽天市場への出店準備をしていた最中のコロナ禍突入でした。そこでこの環境変化を受け、BtoCへの本格参入を決めました。しかし当初は「業務用冷凍洋菓子を、インターネットを通じて直接顧客に売る」という販路拡大の視点しかありませんでした。
確かに工場直売所は人気でした。しかしそれは「工場直売」という場の力が大きく影響しており、ECとなると話は別です。
特に業務用商品は「量が多いわりに単価が安くお得」というブランドイメージが強く価格勝負になりがちであることから、BtoCをもう一つの事業の軸として育てていくのであれば、ターゲットを意識した新商品を開発すべきと判断しました。
中ロットで多種多様の商品を生産できるという強みもありました。一方で、前述のように一刻も早い売上のインパクトも求められていました。そこでまずは既存商品を活かした新商品の開発を提案したのです。
様々な商品開発を並行して進める中で、注目したのは「おうち時間」というキーワードです。この時期、保育園の休園等によりお子さんとご家族が自宅で楽しめるコンテンツが求められており、ホットケーキミックス売り切れのニュースも巷をにぎわせていました。
そこで「外出が困難なお客様にも手軽に楽しみながらスイーツを味わってもらい元気になってほしい」という願いから、既存の商品のパッケージをお子さんやお母さんを意識した可愛いイラスト入りにリニューアルし、解凍するだけで自宅でクレープがつくれるクレープ生地とホイップクリームを組み合わせた「おうちdeクレープ」シリーズを2020年9月に市場投入しました。
そしてほぼ同時期に楽天市場にて「パティスリーLeitry(レートリー)」をオープンし、これまでは飲食店やホテル等にのみ販売していた冷凍ケーキやクレープを1個から通信販売で購入できるようにしたのです。
業務用商品とは異なる出荷方法となるため、EC対応専門に人員も追加しました。結果、ECサイトでは4ヵ月で約450万円、スーパーマーケットでは1ヵ月で約600万円の売上につながりました。
おうち時間ブームにうまく乗っかったことはもちろんですが、そもそもクレープ生地やホイップクリームは直売所でも人気上位の商品でした。商品力を活かし、ターゲットを絞ったブランディングを行う。まさに王道の戦略だったのです。
2021年9月には「おうちdeモンブランセット」も発売しました。
SNS発信、2つの工夫でフォロワー増
同時に力を入れたのがSNSでの発信です。
これまでBtoBビジネスがメインだった屋号の認知度は、残念ながら決して高くはありません。そこで消費者の認知度を上げて売上につなげるため、インスタグラムとツイッター(当時)を本格的に使い始めました。
社内で担当を決めるとともに「中の人」が毎日投稿。フォロワーを増やす工夫として、まずは月1回を目安としたプレゼントキャンペーンを実施しました。
プレゼントに応募する際に投稿のフォローとリポストをしてもらうことでフォロワー数を増やす作戦です。
加えて、このような企画に応募してくれる消費者の多くは、プレゼントが当選した際に感想や写真でレビューする人が多いため、ここでもフォロワーが増えるきっかけを作ることが出来ました。
もう一つの工夫は、アンバサダー企画です。
毎月お届けする商品で調理いただいたオリジナルメニューの食べ方や感想などを投稿して頂く存在として、アンバサダーを募集することにしたのです。
ホイップクリームやクレープ、ケーキを愛するアンバサダーの投稿や写真の美しさは、目を見張るものでした。
そしてこれらの企画を通じて公式ツイッターのフォロワーは1年間で2万人増加。SNS写真がより魅力的になり、更にフォロワーが増える…という好循環の結果、2024年1月時点で、公式ツイッターフォロワーが約5万人、公式インスタグラムのフォロワーは約3000人まで増えています。
「食べたいときに…」BtoBとは異なる商品の価値
SNS上での認知度が上がってきたところで、レートリーは次の企画に着手しました。それはSNSのフォロワーのニーズを捉えたオリジナル商品の開発製造です。
まず、味に関して公式ツイッター上で「食べたくなる冷凍ケーキの味」についてアンケートを実施しました。約2000人からの回答の結果、1位がチーズケーキ、2位がチョコレートケーキでした。
この結果を反映して、新商品の味はチーズとチョコレートの2種類に絞りました。
次に検討したのが「冷凍ケーキであることのメリット」です。ケーキが食べたければ洋菓子店に買いに行けばいいものを、消費者はなぜあえて冷凍ケーキを購入するのか?という問いを立てました。
これまではBtoBが主流だったため「納品が容易」「長期保存が可能」「価格が安価」という価値が明確でしたが、BtoCの場合は異なるはずです。
こちらもアンケートを実施した結果「食べたいときにすぐに食べられるから」がダントツ1位でした。
では、フォロワーの年齢層を考慮したとき「食べたくなるとき」ってどんなときだろう…?
利用シーンを絞り込み、辿り着いたのが「お風呂上がりやお子さんが寝たあと」。このようにまずは顧客が冷凍ケーキを欲するシーンを絞り込むことで、コンセプトを決めていきました。最終的な商品コンセプトは「大人のご褒美」としました。
冷凍ケーキの困りごととは?
次に検討したのは顧客のペインについてです。
他社からも様々な冷凍ケーキが発売されているなか、レートリーの商品を選んでもらう理由にもなる視点です。
様々な角度で検討した結果、冷凍ケーキは長期保存が可能な反面、解凍しなければ適切な大きさに切り分けにくいため、実は「食べたいときにすぐに食べられない」のではと考えました。
そこで商品は製造時から一口大にカット。必要な時に必要なだけ解凍しやすくしました。
また、パッケージについてもお風呂上がりやお子さんが寝たあとに、一人で手軽にホテルクオリティのケーキを通して、プチ贅沢気分を味わってもらうことをイメージし、高級感のある写真と色合いでデザインしました。
このようにしてでき上がった商品が、解凍具合によって“さらりとしたくちどけ”も“濃厚なコク”も楽しめるプチ贅沢ケーキ「夜のごちそうチーズケーキ」「夜のごちそうチョコテリーヌ」です。
解凍具合によって「さっぱり」から「濃厚」まで多様な美味しさが楽しめ、コーヒーや紅茶はもちろん、ワインにも合う深い味わいが特徴の商品となりました。
2022年秋に市場投入後、ECサイトとスーパーマーケットを中心に販路を拡大。年間約500万円を売り上げる人気商品に成長しています。
BtoBにも波及 次のテーマは「家族向け」
その後、展示会にて「大人のご褒美・夜のごちそうシリーズ」を紹介していたところ、あるバイヤーから、レートリーに「一口サイズの形状が良い」という評価とともに「もう少し単価が安く家族向けの商品が欲しい」とのリクエストがありました。
そこで、新たな商品開発が始まりました。前回は大人向けでしたが、今回は「家族向け」。
そして、形状指定もあります。前回同様、どんなシーンで強みを発揮できるか?を検討しました。
そこで顧客からのフィードバックの中にあったのが「子どもでも一人で食べられるちょうどいいサイズ」という声でした。
顧客へのヒアリングをさらに進めていくと「子どもは半分等に分けられることなく、1つのケーキをまるごと食べたいと思っている」というジョブを確認することが出来ました。
そこで2023年夏には、子どもがいるお母さんをターゲットにした「ママと私のケーキ」(全4種類)を発売。
こちらは「お子さんが独り占めしても大丈夫」をコンセプトとし、子どもが食べてもその後の食事に影響のないサイズであることに加え、カロリーも適量値以内にコントロールしています
保存料も不使用にしました。もちろん、前作同様に切れ目が入っていることで一個ずつ食べたい分だけ解凍可能。味は子どもが好むストロベリー、カラメルカスタード、チーズ、チョコレートの4種類をそろえました。
おやつに対する親の不安を解決するだけでなく、子どもの満足感も満たすことのできる冷凍ケーキに仕上がっています。
また、発売時期が7月だったということもあり、夏休みの時期に子どもに食べてほしいという思いがありました。
そこで、冷凍ケーキの「完全解凍のときと半解凍のときで味わいが変化する」という特徴に注目。
味や食をテーマとした自由研究も一定数存在するという裏付けのもと「自由研究シート」を作成、無料配布しました。
自由研究の要件を押さえたフォーマットとなっており、「解凍時間での温度の変化と味の変化」を調べた見本も付いているなど、夏休みならではのプロモーションが話題となりました。
2024年夏に向けて新たな商品開発を進めているレートリー。SNSを利用したプロモーションも、公式ツイッター、公式インスタグラムに加えて公式LINEも立ち上げ、リピーターや直売所の顧客に対してのファンマーケティングに活用中です。
商品力と情報発信力を駆使してBtoCブランドを高めているレートリーの取り組みはBtoC商品開発に悩んでいるBtoB企業の参考になるはずです。