目次

  1. 芸能界の取引構造
  2. 芸能界の契約実態の課題
    1. 移籍・独立した芸能人への妨害
    2. 共同または事業者団体による移籍制限
    3. 芸名・グループ名の使用制限
    4. 業務等の強制
  3. 芸能界に対する公正取引委員会の対応

 公取委が公表した「音楽・放送番組等の分野の芸能人と芸能事務所との取引等に関する実態調査」によると、芸能界で、俳優やタレント、歌手ら芸能人は、自身の才能や表現力を用いて芸能活動を行います。芸能事務所は、芸能人の活動を支援し、マネジメントやプロモーションを行います。著作隣接権や著作権の帰属や利用許諾については、契約によって定められる場合があります。

取引主体及び取引の流れ
取引主体及び取引の流れ

 さらに、芸能事務所は、放送事業者・番組制作会社と番組出演契約を結び、レコード会社とは専属芸能人契約も結びます。

 公取委は2024年、芸能事務所や芸能人などに対し、アンケートやヒアリング調査を実施しました。そのなかで、独占禁止法・競争政策上問題となり得る行為が見つかったといいます。いくつか例示して紹介します。

芸能人と芸能事務所の取引において問題となり得る行為の例
芸能人と芸能事務所の取引において問題となり得る行為の例

 アンケート調査のなかで、放送事業者等に対して、移籍・独立した芸能人を出演させないようにする働き掛けを受けたことがあると回答した芸能事務所が4%ありました。ただし、かつては働き掛けもあったが、徐々に減ってきているなどとする回答もありました。

移籍・独立した実演家に対する妨害
移籍・独立した実演家に対する妨害

 また、放送事業者等へのヒアリング調査では、芸能事務所からの働き掛けがない場合でも、移籍した芸能人の出演を自主的に控える場合があるなどといった回答がありました。

 公取委は「芸能事務所が、実演家又は他の芸能事務所と放送事業者等との取引を妨げることにより、他の芸能事務所が排除される、またはこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合には、取引妨害として独占禁止法上問題となる」との見解を示しています。

 共同または事業者団体による移籍制限とは、「所属する芸能人の引き抜きをお互いにやめて、自社で抱え込もう。また、引き抜いたと他の事務所に思われてしまわないように、退所直後の入所は互いに断ろう」と、複数の芸能事務所が共同して、または事業者団体が芸能人の移籍を制限することを指します。

共同又は事業者団体による移籍制限
共同又は事業者団体による移籍制限

 芸能事務所に対するヒアリング調査では、明示的に移籍を制限しているという実態を把握には至らなかったものの、「業界として引き抜きは御法度である」、「団体内での移籍はしないこととなっている」などと、芸能事務所間の移籍は許されないという認識の芸能事務所が複数あったといいます。

 公取委は「複数の芸能事務所が共同して実演家の移籍を制限することで、一定の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限として独占禁止法上問題となる」と指摘しています。

芸名・グループ名の使用制限
芸名・グループ名の使用制限

 芸能事務所と芸能人の契約では、所属期間中の使っていた芸名またはグループ名が退所後も芸能事務所に帰属するとされる場合があるといいます。アンケート調査では、芸名等の使用の制限をすると回答した芸能事務所が数%ありました。

 一方、芸能人へのヒアリング調査では「合理的な理由がなく改名させられた」、「芸名等の使用が制限され改名すると、芸能活動に支障が出る」とする回答があったといいます。

 公取委は、「芸名等について退所した後においても芸能事務所に帰属するとしている場合に、退所した実演家等を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成する手段として芸名等の使用を許諾せず、これによって実演家の通常の事業活動が困難となるおそれがある場合には、単独の取引拒絶として独占禁止法上問題となる」と説明しています。

 実演家と芸能事務所はそれぞれ独立した事業者であり、雇用関係にはないことから、芸能事務所が実演家に指揮命令をするものではありませんが、芸能人へのヒアリング調査では「望んでいないにもかかわらず身体の露出が高い仕事を強要されることがある」とする回答もありました。

業務等の強制
業務等の強制

 公取委は、芸能人が業務を拒否しているにもかかわらず当該業務を強制的に実施させることにより、芸能人が本来望む方向の実演依頼が来なくなるようにさせるなど正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える場合には、優越的地位の濫用として独占禁止法上問題となるとしています。

 実態調査で芸能界の契約をめぐる様々な課題が明らかになったことに対し、公取委は芸能事務所に報告書の内容の周知しようとしています。

 また、報告書の内容をもとに、独占禁止法及び競争政策上の具体的な考え方を示す指針を策定、公表する予定です。