事業承継に向けた計画を解説

 事業承継を視野に入れた後継ぎは、何から始めるべきでしょうか。中小企業庁監修の「経営者のための事業承継マニュアル(PDF)」には、事業承継(親族内・従業員承継)の5つのステップが書いてあります。

1. 事業承継に向けた準備の必要性の認識
2. 経営状況・経営課題等の把握(見える化)
3. 事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)
4. 事業承継計画策定
5. 事業承継の実行

 前編は、ステップ1~2についてインタビューしました。今回はステップ3以降について、東京双和法律事務所の大宅達郎弁護士にお話を伺いました。大宅弁護士は日本弁護士連合会の中小企業法律支援センターの委員・事務局次長や、中小企業の支援を目的としたネットワーク「ジャパン・リーガル・アライアンス」代表幹事を務め、事業承継のスペシャリストとして知られています。

資金繰りの安定が重要に

――「事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)」の段階では、どのような点に留意することが必要でしょうか。例えば、経営状態があまり良くない会社で、後継ぎ候補が専務取締役になった場合、親子で力を合わせて経営改善するには、どうすればいいのでしょうか。

 経営改善を行うにしても、損益の改善には一定の時間がかかりますので、まずは足元の資金繰りを安定させることが重要です。新型コロナウイルスによる影響への対応が、まさにそのケースにあたります。現在は日本政策金融公庫などの政府系金融機関による緊急融資だけでなく、民間金融機関によるつなぎ融資も始まっています。政府系金融機関による金利負担を軽減するための借り換えもあります。

 また、借り入れだけでなく、資金繰りの改善には、支出のコントロールも重要になります。新型コロナウイルスの影響による資金繰りの悪化に関しては、金融機関も返済猶予に柔軟に応じているので、まず相談することをおすすめします。もし、経営者の方が、ご自身で金融機関と返済猶予について交渉するのが難しい場合には、弁護士によるサポートや、公的機関である中小企業再生支援協議会が、企業と金融機関の間に入り、返済を一時的に止めた上で、余裕を持った返済計画を立てるサポートをする「特例リスケジュール」という取り組みも実施しています。

ーー資金繰りの次に着手すべきなのは、どのようなことでしょうか。

 足元の運転資金を確保した上で、損益の改善に取り組むことになります。損益の改善には、①売上を増やす、②コストを下げる、という2つのアプローチがあります。このうち、すぐに効果が出やすいのが②だと思います。

 コストは、原価と販管費に分けられます。例えば、原材料の調達先の見直しなどでコストが下がるケースもありますし、生産工程の見直しで原価率が低減することもあります。原価率をしっかりと把握できていない会社も少なくないので、公認会計士、中小企業診断士などの専門家を活用しながら、把握することから始めるのが良いと思います。

 また、販管費も見直すと意外と無駄が多かったということは多々あります。会社の利益に貢献するわけではないけれど、昔からの付き合いで支払いを継続してきたという先については、現社長(先代)は人間関係で見直しにくい面もあるので、後継者が主導して取り組めばよいと思います。

ーー損益改善の次は何をすべきなのでしょうか。

 資金繰りや損益の改善が進めば、利益の積み上げによって財産状況、つまり貸借対照表の改善が進みます。また、営業活動から生まれるキャッシュで借入金の返済ができると見込まれる場合には、経営者の個人保証が不要となっていきます。

 一方、損益の改善によって利益が増えても返済できないほどの負債がある場合には、負債をカット(削減)することも検討する必要があります。具体的には、金融機関からの借入金について、収益力で返済できる範囲を超える額について、資本に組み替えたり、債権放棄を求めたりすることが考えられます。金融機関が債権放棄をするにあたっては、経済合理性を中心として十分に納得できる理由と、公平性・透明性のある手続きが必要になります。従って、弁護士と一緒に対応する必要がありますし、金融機関の意向をふまえて、中小企業再生支援協議会などの第三者支援機関を使うことも考えられます。

マイナスも含めた情報開示が必要

――経済合理性ということですが、銀行にとっても、会社が潰れるよりは債務免除の方が良いということなのでしょうか。

 はい。銀行としても、債権放棄に同意することは容易ではありませんが、融資先の事業がなくなってしまったら元も子もありません。会社や事業が存続すれば、残った貸付金や利息の支払いは続いていくので、銀行にも経済的なメリットがあります。

 私たちのように会社を支援する弁護士は、会社が廃業や倒産した場合と存続した場合の2つのシミュレーションを行います。例えば、後継ぎが不在となって会社を廃業した時には、資産を切り売りして債権者に弁済することになります。このような場合、例えば担保に差し入れた不動産は競売手続になることが考えられますが、競売は普通に売買をする場合よりも売却代金が下がる可能性がありますし、手続費用もかかります。在庫についても廃業時に一度に処分するよりも、事業を継続しながら売却した方が高くなります。

 このように、廃業時に資産を処分すると通常よりも安い金額でしか処分できないことが多く、それよりは、事業継続の道を探った方がいいというケースもあります。

――業績や財務内容が良くない会社で事業承継に向けて動く場合、メインバンクなどの取引金融機関には、どこまで情報提供をすればいいのでしょうか。

 今まではいかに会社の良い部分を強調するかが重要、というところもあったかと思います。しかし、事業承継に際しては、やはりマイナスの部分も含めた正確な情報開示が必要です。きちんと情報が伝われば、親身になって相談に応じ、中小企業再生支援協議会などの支援機関を紹介してくれる銀行もあります。一方で、かえって、後継者の個人保証を求められる場合もあります。そのようなときは、会社や経営者の側に立って対応する専門家が関与する必要があるので、事業承継や事業再生に取り組んでいる弁護士に相談することをおすすめします。

経営状態が悪い時こそ早めの相談を

――業績が良くない場合、後継ぎは経営の見直しに、どうやって取り組めばいいですか。

 基本的には、通常の承継と同じように収益力を向上させるための計画と実行を進めることになります。ただ、赤字の場合には足元の資金が減っていることが多いので、結果を出すまでの時間が限られます。このため、早めの着手が重要になります。また、過剰債務ということで、借入金の完済が見込めない場合には、弁護士への早めの相談も重要になります。お医者さんの治療と同じで、早い時期であれば、収益の改善によって健康な状態に戻す取り組みもできますし、やむを得ず債務免除が必要な場合であっても、早めに対処すれば、より痛みが少ない方法をとることができます。

――経営状態が悪化し過ぎた場合、法的整理を選択することも考えられますか。

 法的整理も考えられますが、なるべく避けた方が良いと思います。金融機関と返済額の減額などを交渉し、会社の再建を目指す私的整理で対応できるケースも多いからです。会社を清算する場合でも私的整理であれば取引先に迷惑をかけずに済むことができます。また、経営者の個人保証についても、「経営者保証に関するガイドライン」を利用して、経営者の保証債務を免除する手続があります。この場合には、個人破産を回避でき、信用情報機関にも登録されませんので、いわゆるブラックリストに載ることもありません。金融機関にとっての経済合理性が大きければ、華美でない自宅を残せる可能性もあります。

多くの事業承継案件を手がけてきた大宅達郎弁護士(写真は大宅弁護士提供)

 なお、会社が破産や民事再生などの法的整理を行う場合でも、経営者保証に関するガイドラインを利用して個人破産を避けることはできます。ただ、税金や社会保険料を全額払えない場合は私的整理はできませんので、その場合には法的整理をとらざるを得ません。それでも、法的整理は取引先を巻き込んでしまいますので、できれば私的整理をおすすめします。

株式の分散保有は好ましくない

――ステップ4の「事業承継計画の策定」で、留意するべき点は何でしょうか。親子承継の場合、現社長である親が自社を客観的に分析するのは難しい面があると思いますが。

 事業承継計画の策定には、自社の現状分析と将来に向けた中期経営計画を作ることが大切だと思います。自社の分析に関しては、経営者や後継者ご自身が行うことも大事ですが、できれば、外部の弁護士や公認会計士、中小企業診断士などの専門家を利用して、第三者の分析を入れてほしいと思います。現経営者の方も、息子さんや娘さんの言うことは素直に聞けなくても、第三者が言うのであればスムーズに聞くというケースも実際にあります。後継者の方は、その意味でも外部の専門家を利用するという視点を持っていただけたらと思います。

 また、承継計画の策定には家族の相続が絡む場合が多く、株式などの資産の移転に際しては必ず税金の問題が出ますので、税理士の関与は必須です。加えて、株式を承継する兄弟など利害関係人が複数いるなら、法的な課題や紛争を防止するために、弁護士も入った方がいいでしょう。

――事業承継の際、現代表取締役が株を100%持っている会社は少ないと思います。株保有者が多数存在する場合、どのような対策が必要ですか。

 確かに、先代の意向や相続税対策のために、株を分散して保有させているケースはあります。また、後継ぎとそれ以外の兄弟との仲が悪いなどの理由で、株を渡したくない人がいる場合もあります。

 兄弟の事例だと、兄が会社を継ぐとなった場合、他の資産は弟が継ぐことが考えられます。ただ、他の資産が現金ではなかった場合にどうするのかという問題は発生します。当事者間の協議でスムーズにまとまれば良いですが、センシティブな話でもあるので弁護士を入れて、お互いの主張を整理して調整することも有効だと思います。そして、先代が保有していた不動産や上場株式などを現金化して弟に配分して、お互いが納得できるようにフォローすることが大切です。

――引き継ぎ時の資本関係の整理について、注意点はありますか。

 相続税対策から、株の引き継ぎを含めた相続人を増やすことを勧める専門家もいますが、会社の支配権が不安定となり、ガバナンス(企業統治)の点から考えると、好ましくないと思います。 また、第三者へのM&Aが必要になったときも同様の懸念が生じます。株式の保有比率を検討するにあたっては、税金の問題だけでなく、長期的な会社の支配権の維持や会社の重要な資産を安定的に保有できているかなど、全体のバランスを考えることが重要です。

専門家を介した調整も必要に

――ステップ5の「事業承継の実行」で、留意した方がいい点を教えて下さい。

 資産が動くので税務上のリスクコントロールが必要になることから、税理士のサポートは必須だと思います。利害関係人がいるのであれば、契約が必要となりますし、その前提として、法的論点の洗い出しや利害調整も発生するので、弁護士もいた方がいいでしょう。また、資金調達が必要になる場合は、金融機関のサポートも必要になります。

 大事な点は、しっかりと計画を立てて準備をすること、専門家を活用して安定的な承継を行うことだと思います。一度実行してしまうと、後でやり直すのが難しくなってしまいます。専門家のサポートも一人に任せ過ぎずに、セカンドオピニオンを取るというのも一つだと思います。

――父親と経営について突っ込んだ話ができず、コミュニケーションが難しいという後継者も少なからずいます。どのように父親に承継を持ちかけ、準備を促すべきなのでしょうか。

 第三者の手助けが重要だと思います。銀行内のコンサルタントや、承継を支援する自治体の窓口に話をしてみても良いでしょう。そして、事業承継を機に会社を成長させたいのであれば、お互いの言い分を聞ける士業を活用してコミュニケーションを取るのも手です。

 例えば自分が今、支援している企業は、銀行から紹介を受けて相談に乗ることになりました。まずは現経営者から、次に後継ぎの経営者に話を聞き、最後に3人で話をしました。お二人とも会社の現状認識は同じでしたが、後継ぎの方は、個人保証をしなければならない点や、先代が持っているような技術力を、どのようにして身に付ければいいか分からない点に不満や不安を抱えていました。後継ぎの方は、既に入社しているので取引先との関係はできていましたが、そうした場合でも親子間で認識の食い違いが生じることがあります。

中小企業経営には無限の可能性

――会社員をやってきた人が中小企業の経営者になるにあたって、マインドセットが難しい面があると思います。事業承継に取り組んでこられた弁護士の立場から、会社の後継ぎになるにあたって、大事だと思う点をお聞かせください。

 弁護士として、様々な形で中小企業支援に関わる中で感じるのは、やはり経営者の方の人間性が重要になるということです。

 大企業で管理職などの立場で活躍していた場合には、部下を持ち、仕事の裁量もあったと思います。ただ、組織の一員という面もありますので、上司から仕事が振られることも多かったと思いますし、役割も明確だったと思います。

 一方で中小企業の経営者は、会社のビジョンを提示して従業員をまとめあげ、取引先からの信頼を得て取引を広げ、利益を確保する役割を担い、会社の大黒柱にならなくてはなりません。もちろん、自身で仕事を創り出していく必要もあります。

 大企業と中小企業でサイズは小さくなるかもしれませんが、役割は質的に大きく違います。一から始めるつもりで取り組む気持ちが大切だと思います。

――他に、大切だと思うことはありますか。

 会社の支配権や役職の承継だけでなく、事業承継後、会社がどのような状態になるのか。すなわちポスト事業承継が大切だと思います。また、経営者としては経験が少ないので、先代の意見はもちろん、従業員の方々、外部の関係者などと丁寧にコミュニケーションをとりながら、事業を進めていくことが大切ではないでしょうか。

 事業環境や産業構造が変化する中で、中小企業は難しい時代になってきていると思いますが、成長可能性は十分にあると感じています。ご自身がイニシアティブを取って事業運営のかじ取りをすることにダイナミズムを感じるようなら、経営は面白いし、無限の可能性があると思います。

 今年4月から、一定の条件を満たした場合には、後継経営者の個人保証なしで融資を実施する新たな信用保証制度(事業承継特別保証制度)も導入されました。 個人保証を求めない融資実務は進みつつあります。

 中小企業は課題も多いですが、改善余地も多く、M&Aや構造改革によって収益性が大きく伸びる可能性も十分にあります。中小企業の経営に参画する後継ぎの皆さんは、ぜひ楽しみながら、新たな気持ちで事業承継と承継後の企業経営に取り組んでみてはいかがでしょうか。