新型コロナで家族間の花火に需要

 老舗花火会社「井上玩具煙火」(静岡県島田市)が作ったのは、『駿河伝統花火「義助」(よしすけ)』という手持ち花火の自社ブランド製品です。1年半ほど前から製造・開発の準備を進めていました。

 今年に入り、新型コロナウイルス感染症を理由に全国で花火大会が中止に追い込まれましたが、慶彦さんは、義助に新たな価値を見いだしました。「家族で花火を楽しむ人が増えています。家族が一緒に花火を楽しめる時間を義助でつくりたいと考えています」。そんな思いが、テレビ東京の情報番組「ワールドビジネスサテライト」や朝日放送テレビ「なるみ・岡村の過ぎるTV」のほか、静岡県内のテレビや新聞でも取り上げられ、3000円(税別・送料別)にも関わらず、製造が追いつかないほど注文が相次いでいます。

新規事業の背景に危機感

 日本煙火協会によると、手持ち花火や線香花火、吹き出し花火といった「おもちゃ花火」の2018年度の国内生産額は9億5千万円。しかし、製造している会社は、海外製の花火の台頭や国内市場の縮小により、経営環境が厳しくなっています。

 花火セットに国産も海外産も一緒に入れられて売られている状況に、慶彦さんは危機感を覚えていました。花火は問屋を通じて量販店に販売されているため、井上玩具煙火には消費者の声が届きません。そこで、創業以来初となる「D2C」(Direct to Consumer、自社サイトなどを通じて消費者に直接販売する仕組み)に取り組むことにしました。その商品が、「義助」でした。

「義助」は、島田の刀鍛冶の名工の名前から借りました。鉄の粒子からなる火花が、美しい金色の花となって連続的に花開くなど特徴的な花火を5本詰め合わせたセットです。燃焼時間は35秒。

反対する社員を説得

 入社4年目の慶彦さんは、社内で最年少です。一方、職人は40~60代のベテランそろい。当初、義助の直販を企画会議で提案すると、反対意見が噴出しました。「(事業の)中身が見えない」「1本いくらで売れるわけがない」……。

 しかし、慶彦さんは「いまのままの薄利多売では、この先通用しない。火薬を取り扱って自社製品を開発できる強みがある。ストーリーと会社の歴史。うちにしかできないことをしたい」と説得を続けて、義助の販売にこぎ着けました。その結果、予定していた500セットを売り切りました。

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