バイトから専務に抜擢「仕事は演技」が変えたセルフプロデュース術
総合警備会社エムアイディの専務、永岩創さん(39)は、現社長の北村義匡さんに見いだされ、23歳でアルバイトの警備スタッフからグループ会社の取締役へ抜擢。2019年4月からは本社の専務に就任し、取締役としての立ち振る舞いを意識するようになりました。心境の変化を追いました。
総合警備会社エムアイディの専務、永岩創さん(39)は、現社長の北村義匡さんに見いだされ、23歳でアルバイトの警備スタッフからグループ会社の取締役へ抜擢。2019年4月からは本社の専務に就任し、取締役としての立ち振る舞いを意識するようになりました。心境の変化を追いました。
――入社する前に、2回ほどエムアイディでアルバイトをしていたそうですね。
最初は調理師を目指していて、専門学校を出た後に1年ほど調理師として働いていました。その頃に出会った友人がサーフィン好きで、一緒に毎週のように海に行くようになったんです。面白くて、どんどんサーフィンにのめり込んでいったのですが、まだ新米調理師で給料も少なかったので交通費を出すのも一苦労でした。思っていた以上に調理師の仕事がハードだったこともあり、「いっそ海の近くに住んで、プロサーファーを目指そう」と、仕事を辞めて転居費用を稼ぐために日給の高い警備員のアルバイトを始めました。
当時のエムアイディはまだ警備員も20~30人程度で、アットホームな雰囲気でした。たまたま「車上荒らしを張り込みでキャッチする」という変わった案件を担当したことから、社長と直接話をする機会が多く、目に留まったようです。あとで「初めて会った時から、何か惹(ひ)かれるものを感じた」と聞かされました。
その後、サーファーを目指すべく静岡に引っ越したものの、挫折が待っていました。工場で働きながらサーフィンの技術を磨いていたのですが、海の近くに住む地元のサーファーたちがとにかく上手で。子供の頃から学校帰りや仕事帰りに気軽に波に乗るような生活を送ってきた人たちです。19歳で始めた私が、そうそうかなうわけもありません。とはいえ、働いていた工場は調理師時代に比べて給与も高く、休みにはサーフィンが存分に楽しめるという最高の環境でした。いま思えば何も考えずに楽しんでいました。
――その後、再びエムアイディにアルバイトとして戻った理由は?
母子家庭に育ったこともあり「いつかは母の面倒をみたい」という気持ちがありました。いつまでも浮ついていてはダメだ、という気持ちから、静岡で3年ほど過ごした後に地元の京都に戻り、ちゃんとした仕事が見つかるまで、エムアイディでアルバイトをしようと思って北村社長に会いに行きました。
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一介のアルバイトに過ぎないのに、社長から「社員にならへんか」と持ちかけられました。「いつかは君に会社を任せるし」と、熱烈にアプローチされて。最初は「変わった人だなぁ」と思っていたのですが、何度か声をかけられているうちに気持ちがだんだん動いてきました。エムアイディは当時ちょうど子会社の設立準備を進めていて、他の立ち上げメンバー2人には「永岩さんも加えて3人でやるのはどうか」と声をかけていたようです。母からも「そんなチャンスはめったにないから、挑戦してみたら?」という後押しがあって、2005年12月に子会社「エムアイディ・plus」の設立と同時に取締役に就任しました。
――不安はありませんでしたか?
不安よりも「来月の売り上げをどう立てようか」という目先のことで頭がいっぱいでした。エムアイディ・plusは当時、警備業で取引があったクライアントに対して事務や作業員、設備管理といった周辺業務の人材を派遣していました。仕事はそれなりにいただけるものの、売り上げを安定させるのに苦労して、私たち取締役の収入がほとんどない月もあったくらいです。その後、社長から「一度エムアイディに戻って、本業である警備業の営業を経験した方がいい」と本体に戻ることになりました。
――そこから後継者としての教育を受け始めたのですか。
そうですね。といっても、実務について具体的なことについて言われた記憶はありません。当時はまだリーマン・ショックの影響を引きずっていて、新規案件の受注が伸び悩んでいたので、社長に「どうやって新規の仕事を開拓すればいいんですか?」と相談したのですが、「女の子を口説くのと一緒だよ」と返ってきました。
普通なら「ふざけないで真剣に答えてください」と言いたくなるところかもしれませんが、「仕事は演技」という社長の言葉を思い出しました。
「朝礼で話す時に、体がフラついていてはダメ」「ランチのメニュー選びくらい即決しなきゃ。経営者は決断するのが仕事なのだから」
つまり、常に取締役らしくふるまえ、自分の見せ方次第で周りの評価や態度が変わってくる、と伝えたかったのだと思います。
それなら、自分をどう見せたら受注につながるのだろう、と考えるようになりました。とにかく何度も足を運んで、熱心さをアピールする。電話はせずに毎日訪問してあえて名刺だけおいてくることで、控えめな誠実さを見せる。時にはわざと走って汗をかきながらあいさつして、フットワークの軽さを感じさせる。こういった演技で道がひらけたり、受注につながったりすることもあり、営業力に自信が持てるようになりました。
――経営層として、どのようなことに取り組んでいますか?
防犯カメラやAI(人工知能)技術などを組み合わせた「新しい警備システム」の展開を検討しています。機械やシステムに警備を任せるとなると一見、警備員の仕事が減りそうにも思えます。でも、すべての業務をカメラやITに任せることはできません。機器やシステムをチェックする人、何かが起こった時に直接対応する人は必ず必要になります。現場によっては細やかな対応と的確な判断ができる人の目が重要視されることもあるので、コストを抑えたいならシステムと人を組み合わせる、確実さを求めるなら警備員を、と提案の幅を広げることで、顧客の拡大につなげられそうです。
珍しい取り組みとしては、ワーキングホリデーで来日した外国人労働者の受け入れも始めました。将来の人材不足に備えてスタートしたのですが、ビザの関係で最初は難航し、警備業協会や京都府警本部、入国管理局などに何度となく問い合わせたところ、就労制限のないワーキングホリデーなら比較的スムーズに採用できることが分かりました。手始めに、日本語が堪能な台湾人などの受け入れを始めているところです。
また、警備員の正社員化も推進してきたいですね。警備員というと日給制でアルバイトや契約社員、というイメージが強いと思うのですが、やはり人材を定着させるためにも、安心して働き続けられる環境を用意する必要があります。固定給にして、賞与も少なからず出せるようにしたのですが、人数はまだまだ。これから経営者としてさらに会社を発展させていくためにも、将来私に続く後継者を見つけるためにも、正社員の採用を強化していきます。
有名経営者の本を読むなど、会社経営について学ぶことができますし、永岩さんは数字作りについての実績も充分に持っています。今後は一見目立たないような社員にも目を配って、社員ひとり一人の持つ可能性を見出せるよう、常に意識して欲しいですね。将来社長となってより強い組織、いい会社を作っていく時に、そういった社員が彼の力になってくれるはずです。
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