打ち水の原理を活用

 密対策したら、熱中症になった
 熱中症対策したら、密になった
 両方やったら、電気代がどえりゃーことになったがや!

 大場さんは、そんな売り文句のカタログを作っています。3つの課題を同時に解決するために導入しようとしているのが、打ち水の原理である「気化熱」を利用した技術です。夏の暑い時期に単に外気を工場に取り込むだけでは涼しくはならず、作業員が熱中症になるおそれがあります。そこで、外気を取り込むときに水を使って、空気の熱をうばうのが新システムの機能です。
 大冷工業では、10年ほど前から工場や倉庫向けの気化熱を利用した省エネ空調がありました。ただし、これは空気と水が直接触れる方式だったため、使うと空気中の水分量が増えてしまいます。そこで、今回、導入しようとしているのは、水と空気が直接触れあわないシステムです。そのため、じめっとさせずに気温だけを下げられます。これが「間接気化方式」と呼ばれる方式です。

間接気化のイメージ(カタログから抜粋)

 使う電力は、主に空気を取り込むファンと水を流すポンプ用で、エアコンと比べると省エネになります。現在、インドの空調メーカー「A.T.E」社の技術を日本向けにカスタマイズしています。

コロナで見えた間口の広いニーズ

 大場さんは、空調設備を取り扱う会社の後継ぎですが、実はクーラーが苦手です。ほかの家族にとってクーラーは夏の夜に欠かせないものですが、大場さんは体調を崩してしまいます。
 「こんなに冷やしすぎる必要があるんだろうか」と常々疑問に感じていました。室内全体を一定の温度に保つには、膨大なエネルギーが必要ですし、都市部で各家庭が使うと排熱によってヒートアイランド現象の原因にもなります。

 大場さんは、大冷工業の取締役(事業革新担当)として、新規空調システムの研究開発などを任されています。そのなかで出会ったのが、今回の「間接気化式」という技術でした。元々は工場や倉庫といった広くて人の少ない場所での使い道を想定していました。しかし、新型コロナの影響で、換気しつつも、屋内を冷やす場面が増えました。大場さんは「換気と冷房の補助という間口の広いニーズが見えてきました」と話します。

 この新システムのデモ機はすでに完成しており、8月末に日本に到着する予定です。大場さんは現在、工場、体育館、避難所向けに提案を進めています。

子どものころは創業家を意識せず

 大場さんは、中学校くらいまで自分の家系が社長の創業家系だとは意識せずに育ちました。現社長の父も家で仕事の話はしませんでした。しかし、会社の行事には顔を出していたので、入社後に古参社員から「ボーリング大会で会ったよね」、「船上研修で見かけたことがある」と声を掛けられることがあったそうです。

社内での行事に参加する大場さん(右から2番目)

 入社を決めたのは、大学3年のときでした。「そろそろ就職活動を……」と家族に話すと、父から「うちに入るなら入ってもいい」と声がかかりました。

 会社に入るまで家業のことはほぼ意識していませんでした。そのため、空調設備については仕事を始めてから一つひとつ学びながら仕事を進めています。

取り組んでいる経営課題とは

 大場さんはいま、仕事についてどんなことを課題に感じているのでしょうか。
 「攻めと守りのバランスが難しいなと思います。リスクテイクするべきなのか、するべきではないのか。攻めと守りの線引きで私の見えていない世界があるので、(社長である親から)ブレーキをかけられないうちはどんどん進んでいこうと思っています」

もう一つが、社員との関係です。

大冷工業技術部の岩田さん

 「あることを始めるとモチベーションが上がる人もいれば、下がる人もいる。全員が一様ではないところの方向を合わせていくことが難しいです。特にこれまで数十年間やり方や考え方を変えずにやってきて結果を出している社員に、もっと力を発揮してもらうためにはどうやって引き出せばいいかを考えています。なんのために仕事をしていくのかをもっとみんなで共有しながら成長していきたいです」