売れない元バンドマンが取締役 非血縁の後継候補に抜擢された決め手とは
IT業界向けにハードウエアのレンタル事業や第三者メンテナンス事業を手がけるアプライドテクノロジーは、創業37年を迎え「あえて血縁者には継がせない」という創業者の意思のもと、業界経験のなかった佐竹善仁さん(38)が「3代目の後継者」として期待されています。「非血縁」の佐竹さんが社内トップ級の営業マンとなり、経営を意識するようになるまでの経緯を聞きました。
IT業界向けにハードウエアのレンタル事業や第三者メンテナンス事業を手がけるアプライドテクノロジーは、創業37年を迎え「あえて血縁者には継がせない」という創業者の意思のもと、業界経験のなかった佐竹善仁さん(38)が「3代目の後継者」として期待されています。「非血縁」の佐竹さんが社内トップ級の営業マンとなり、経営を意識するようになるまでの経緯を聞きました。
――もともと会社経営には興味があったのでしょうか。
まったく考えたことがありませんでした。地元・徳島県の工業高等専門学校を卒業後して上京したのですが、最初はただ田舎を出たい一心で。ライブハウスなどで音楽活動をしながら、原宿のカフェでアルバイトする生活を送っていました。バンドやアルバイトで出会った仲間は、一人また一人と卒業し就職するという道に進んでいくわけです。3~4年たって、音楽のプロになれそうもない自分に気づき、「そろそろ将来のことを真剣に考えなければいけないかな」と思うようになっていました。
まずは就職先を見つけなければ、と未経験者向けの求人情報を探して、たまたま見つけたのがアプライドテクノロジーでした。フリーターのような生活を送ってきたので、名刺交換のやり方さえ知らない状態だったのですが「営業職の募集だし未経験可と書いてあるから、明るく元気にあいさつできれば大丈夫だろう」と応募したんです。今思えば楽観的でしたね(笑い)。
――入社する決め手となったのは。
当時はIT機器に興味があったわけではありません。一次面接は営業部長(現社長の喜田寿一さん)と会ったのですが、「若くて元気な子ですよ」と当時の社長(現会長で創業者の鎗水紀行さん)に推薦してくれたようでした。つい数日前まで髪を伸ばしてバンドをやっていて、営業どころか社会人としての経験もない私に対して、最終面接で「期待している」「ぜひうちに来てほしい」と前向きな言葉をかけてくれたことを覚えています。他にも何社か内定をいただいてはいたのですが、「必要とされていた」と強く感じたことが決め手になりました。
入社後は、ほかの社員の3倍働くことを意識しました。何の経験もない私に期待し、採用してくださった現社長や現会長に恩返しをしたい、「採用してよかった」と思えるような人材になりたいとの一心でした。元が売れないバンドマンでしたから、努力次第で収入も上がることが新鮮だったし、やりがいも大きかったので。「これなら24時間、働いてもいいな」とさえ思うほどでした。
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――非常に短期間でキャッチアップできたのですね。
もちろん、実際はそれほど長時間勤務していたわけではありません。同じ時間で人より成果を上げるためにはどうすればいいのか。「人よりも早く行動し、経験値を増やせばいい」と、スピードを意識するようになりました。おかげでITの知識ゼロで入社しながら半年足らずで仕事の基本を一通り覚え、1台で約800万円もする業務用のコンピュータを売れるようになったのです。
仕事を人よりスピーディーにやろうと思ったのは、もう一つ理由があります。当時の代表や営業部長、技術部長などが仕事帰りに近くのお店でよく飲んでいて、そこで先輩の話を聞くことが何よりの楽しみだったのです。若く未熟な自分にとって、仕事や人生に関する経験談は刺激にもなりましたし、学びにもなりました。
また、当時の社長が月1回ほど、成績優秀者を高級店での食事会に招待していました。自分では食べられないようなご馳走目当てで仕事をがんばった、という面もありますね。料理や酒の選び方、会食の流れやマナーなど「大人のふるまい」をそこで教えていただいたことも、社会人としての自信につながりました。
――その後は営業部長に抜擢され、32歳で取締役に。どのような変化がありましたか。
社員だったころは自分で動くことがほとんどですから、あくまで「自分目線」。現在は営業部長を兼任しているので実務にも関わっているのですが、ビジネスの「仕組み」や人脈を部下に任せるようにしながら、「どう組織として成果を上げるか」を強く意識するようになりました。
日本国内はもちろんですが、海外での人脈も意識的に作っていこうとしています。海外メーカーのIT機器をたくさん扱っていることもありますし、アプライドテクノロジーは創業時から海外、特に米国のビジネスモデルを参考にしながら事業を拡大してきたこともあって、入社後早い段階から海外出張に行くことができました。
私は英会話が苦手で、到底ビジネスレベルの英語力ではありません。それでも米国企業の担当者とは通訳なしでやり取りし、初めてお会いした方に招かれればホームパーティーにだって参加します。つたない英語でも、同じ業界でビジネスをする者同士。分かり合おう、何かを相手から学びたいという姿勢があれば、なんとかなるものです。
採用や人材についての考え方も大きく変わりました。以前は誰かが退職すると寂しい気持ちはあっても、心のどこかで「そういうものだ」と割り切っていました。取締役として自ら採用に関わるようになってからは、社員への責任や期待、思い入れが以前よりずっと強くなっています。
社員として迎えるからには、その人の成長や今後のキャリア形成に力を貸したいし、できれば長く一緒に働いて欲しい。私自身が現会長や現社長に見いだされ、その期待に応えようと思ったこと。また、多くを学ばせていただいたという感謝の気持ちがあります。なので、優秀な後輩たちに同じようにチャンスや活躍の場を用意するのが私の役割であり、その結果として会社の発展に貢献するのが自分なりの恩返しかな、と思っています。
――取締役であり後継候補とも見なされています。創業家の親族外を育てる文化がアプライドテクノロジーにはあります。新たに経営のバトンを受けるとしたら、今後はどんなことに取り組みたいと思っていますか。
これまでにも当社は、海外のビジネスモデルをいち早く導入しながら、時代の流れやマーケットの変化にいち早く対応することで成長を遂げてきました。中古IT機器の販売からレンタル中心へと移行してきたほか、メーカー以外の会社がメンテナンスを担う第三者保守のサービスの提供を拡大しています。ここ数年間は毎年、前年同期比で2割以上の成長率を誇っています。新型コロナウィルスの影響でパソコンレンタルなどのニーズも増えており順調ですが、現状に甘んじるつもりはありません。
社外では自ら会社を興したいわゆる「創業社長」とお会いする機会も多いのですが、皆さん誇りを持って「僕の会社はね」、とおっしゃいます。私自身も経営上の意思決定に関わってはいるのですが、「経営層」であり「自分の会社である」と言い切るには、さらなる成長が必要、というところでしょうか。
将来、経営について自信を持って語れるように、今後はこれまで会長や社長が築いてきた事業を発展させるだけでなく、新しいことにも積極的にチャレンジするつもりです。既にいくつか新規サービスの立ち上げも予定しています。これからますます仕事を面白くしたい、と考えています。
佐竹君は営業として早くから頭角を現していました。営業成績だけでなく、お客様と強い信頼関係を作り、これまでにない営業手法を企画するなど新しい取り組み方を工夫するなどで成果を上げてきた逸材です。今後も今までのやり方や常識だけにとらわれず、どんどん新しいスキームを作りながら会社を育てていって欲しいと願っています。
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