低価格だった「畳縁」に付加価値を 雑貨で活路を開いた老舗メーカー
畳の摩耗を防ぐため、縁につけられた布が「畳縁」(たたみべり)です。単体での商品展開が限られ、値段で差をつけにくかった素材に光を当てたのが、岡山県倉敷市の畳縁メーカー・髙田織物です。2020年5月に就任した6代目の髙田尚志さん(39)は、1000種もの畳縁を雑貨用のハンドメイド素材として売り出し、付加価値を高めました。
畳の摩耗を防ぐため、縁につけられた布が「畳縁」(たたみべり)です。単体での商品展開が限られ、値段で差をつけにくかった素材に光を当てたのが、岡山県倉敷市の畳縁メーカー・髙田織物です。2020年5月に就任した6代目の髙田尚志さん(39)は、1000種もの畳縁を雑貨用のハンドメイド素材として売り出し、付加価値を高めました。
「畳縁」は畳の製造には欠かせない素材です。畳の摩耗を防ぐだけでなく、畳を敷き詰める際にできやすい隙間を引き締める役割もあります。髙田織物は、明治初期に創業し、老舗メーカーとしての地位を築きました。
しかし、畳縁の認知度は高いとは言えませんでした。髙田さんが東京の大学を卒業する際「お前、畳屋になるのか」と同級生に聞かれました。「畳屋じゃなくて、畳縁を作っているメーカーの後を継ぐんだ」と話したところ「そんな会社があるのか」と言われたそうです。
「それがすごく悔しかった。畳のことはみんな知っていても『畳縁』は知られていない。この現状を変えなければと思いました」
ところが、故郷に戻っても状況は同じでした。「倉敷市の児島地域は、全国の畳縁の8割を生産する一大産地です。それなのに、地域の人の認知度はほぼゼロでした。岡山は学生服やデニムの生産が盛んということは知っていても、『畳縁も作っていたの?』と言う人が多かったんです」。そして、父親が経営する髙田織物に入社した髙田さんの奮闘が始まりました。
現場の仕事を経て、30歳で専務に就任しました。その時、父から「お前が39歳になるときにバトンタッチをする」と言われ、意識が変わりました。 自分が社長を継ぐときまでに、不安要素はすべて解消しようと決めたといいます。
「事業承継の時期を決めたことで、社長はこう判断したけれど自分だったらどうするだろうと、常にシミュレーションするようになりました。意見を言うともちろんぶつかるときがあります。でも、私には『思い』はあっても経験が足りない。社長の経験値に最大限の敬意を払いながら、変えられるところから変えていきました」
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もともと畳縁は緑、黒、茶など色の数も決まっており、どのメーカーも同じような低価格帯の商品でした。ところが畳の売り方は「一畳いくら」で、値段も固まっています。畳屋からすれば、売値が同じならば畳縁は安いメーカーから仕入れる方がコストが抑えられるということになります。外国で大量生産された安い畳縁も輸入されていました。
そんな状況を打破すべく、先代の社長は、鮮やかなカラーや柄物の畳縁を作って売り始めました。
畳縁は基本的には、メーカーから商社を通じて、問屋に卸してから畳屋に納めるという商流でした。しかし髙田織物は、畳を扱う工務店やハウスメーカーなどにカタログを直接送る戦略を採りました。すると「髙田さんのカタログにある畳縁を使いたい」というニーズが、加速度的に高まり始めたのです。
髙田さんは「業界の反発は相当ありました。高いし、送料はかかるし、余計なPR活動をするのはやめてくれと。ただ、畳屋さんは大切なお客様であることは間違いないのですが、実際に畳を使ってくださるお客様の声にも耳を傾けなければならないと考えていました」
この頃から、多品種、小ロット、短納期という、現在まで続く髙田織物の生産体制が確立していきました。同社の畳縁は現在では1000種類を超えています。
一畳に使われる畳縁は約4メートルです。しかしその単価は誰も知らない、というのがそれまでの常識でした。ですが、髙田さんの中には、それを覆すアイデアが既に温められつつありました。その源になったのは、工場見学と、畳縁をハンドメイド素材として使った雑貨の制作でした。
工場見学は畳縁の認知度を上げるため、年間を通じて取り組んでいました。「髙田織物の畳縁はこんなに多くの種類があるから、ぜひ畳を新しくするときには指定して使ってください、ということをお伝えしたくて続けてきました」。続けるうちに、「ここで畳縁は買えないんですか」という一般の顧客からの問い合わせが増えてきました。
また、髙田さんたちは当時、畳縁を使って、小物入れや名刺入れといったシンプルな雑貨類を制作し、ギフトショーなどへの出展もしていました。「自分たちで2次加工した製品を売ろうとチャレンジしていましたが、なかなかうまくいかず、その時はまだ畳縁を素材として売るという発想はありませんでした」
それでも、工場見学に来た顧客に即席の店を開いて、お土産用に売りました。そのうちリピーターも現れ始め、クラフトブームも影響し、髙田織物の畳縁はハンドメイドの素材としてだんだん認知されていきました。
髙田さんは2014年春、満を持して、本社の敷地内にハンドメイド用素材としての畳縁と関連グッズの専門ショップ「FLAT」をオープンしました。髙田さんはFLATを「情報の受発信基地」と位置づけています。畳縁の魅力発信のみならず、顧客からもさまざまな情報をもらい、ものづくりのヒントや新しいコラボレーションのきっかけにしたいという思いからです。
畳縁に値付けして単体で売り出すという概念のなかった畳業界にとっても、画期的な出来事でした。畳縁に独自の価値があるとなれば、畳にプラスして料金をもらうことができるからです。髙田織物の畳縁を使って利益が得られる仕組みを作ったことで、業界にとっても良い循環が生まれていきました。
髙田さんは新型コロナウイルス禍の5月に社長になったばかりです。コロナの影響で、素材販売の売り上げは下がったものの、利益はしっかり残したといいます。その理由はオンライン販売の開始です。「今まで対面販売をかなり意識していましたが、店の休業を要請されたこともあって、急遽、人手を割いてECサイトを開設しました」
それも功を奏し、店も再開した今は、素材販売が同社の売り上げの2割を占めるほどの柱に育ちつつあります。
髙田さんは言います。「畳縁作りは伝統産業で、ものを作る技法が確立されているがゆえ、社員の成長の鈍化が起こってきます。さらに技術を磨いていくために、経営者として新しいお客様との出会いやコラボレーションといった成長機会をどれだけ提供し続けていけるかを意識しています。リアルな店やECサイトを通じて、目の前にいるお客様の喜びが直に伝わることが、次のものづくりへの励みになるのです」
商社を通じた販売と、直接エンドユーザーに届ける取り組みを両立させて、伝統産業に新たな風を吹かせました。「二本の柱を持ち、メーカーとして強くありたい」という髙田さんの挑戦はこれからも続きます。
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