インタビューに答えたのは、ゑびや代表・小田島春樹さんと、元湯陣屋の女将・宮崎知子さんです。地域も業態も異なる2人ですが、ともに配偶者の家業を引き継ぎ、ITの力を使って老舗を急成長させたという共通点があります。

そろばんからAIへと進化

 ゑびやの小田島さんは元々起業家志向で、ソフトバンク勤務を経て、2012年に妻の実家が営む「ゑびや」に入りました。1912年創業で伊勢神宮の参道という好立地にある店でしたが、「当時は撤退戦のような話も出ていて、不動産事業を手がけようとしていました。でも、うまくいかず、店舗ビジネスを再構築しなければいけませんでした」

 店で販売する土産は古めかしく、店頭の食品サンプルは日焼けして色褪せ、店内は広い桟敷が広がる海の家のような雰囲気でした。当時は電卓やそろばんを使いながら、食券の裏に手書きでメモをして会計するアナログな管理手法でした。

ゑびやでは売上、客数、顧客属性など様々なデータの可視化や共有を進めていきました(ゑびや提供)

 小田島さんは段階を踏んで、店舗運営のIT化を進めていきました。そろばんからエクセルに変え、エクセルでデータベースを作り、POSレジを導入しました。そこから機械学習による来客予測に着手。伊勢神宮参道の通行客の画像解析によってAIデータを収集して来客予測し、2018年にはデータベースの可視化に行き着きました。

交渉力や根回しも必須

 老舗の従業員にIT化を理解してもらうのは難しくなかったのでしょうか。小田島さんは「特に苦労することはなかった」と言います。「私たちは普段、スマートフォンやカーナビを使って特に苦労することはありません。同じように、日々の大変なことや無駄なことを、デジタルに変えていっただけなのです」

ゑびやは伊勢神宮のそばに位置しています(ゑびや提供)

 「使い方が分からない」という先入観や苦手意識で尻込みする従業員はいましたが、使える人が教えることで、次々と使いこなせるようになったといいます。では、IT化を進めるために、経営者として必要なものは何でしょうか。小田島さんはこう話します。

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