目次

  1. グレーゾーン解消制度とは
  2. 弁護士法72条とは
  3. グレーゾーン解消制度で議論「AI契約審査サービス」の適法性
  4. 法務省は「違反の可能性」を指摘
  5. 弁護士ドットコムの新サービス照会でも「違反の可能性」
  6. リーガルフォース「事業に影響うけない」
  7. 法務省、AI契約審査サービスのガイドラインを公表

 グレーゾーン解消制度とは、事業者が「新規事業における規制の解釈・適用の有無を確認したい」と考えたときに利用できる制度です。具体的には、いまの規制の適用範囲が不明確な場合でも、事業者が新規事業に取り組めるよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度です。

 リーガルフォースの回答では、この「具体的な事業計画に即して」という点が焦点の一つになっています。

 今回グレーゾーン解消制度で、法務省に照会があったのは、AI契約審査サービスが下記の弁護士法第72条に抵触するかどうかです。弁護士法72条とは、弁護士法に定められている弁護士だけができる行為を弁護士以外の者が行う「非弁行為」を禁止する内容です。

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。

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 AIを使った法律関連サービスはこれまでにも弁護士法72条に抵触するかが議論となっていました。照会した「AI契約審査サービス」は具体的な会社名とサービス名は明らかにされていませんが、次のような具体的なサービスのことを指しています。

ユーザーが法務審査を希望する契約書をアプリケーション上にアップロードし、照会者において、AI技術を用いて、当該契約書の記載内容につき、①法的観点から有利であるか不利であるか、②法的リスク、③法的観点から修正を検討すべき箇所及びその修正の文案、④法的観点から留意すべき事項について検討を促す旨、⑤法的なリスクを数値化したリスクスコア、をいずれもユーザーの立場に立ってアプリケーション上で表示する。

グレーゾーン解消制度の活用事例

 上記のAI契約審査サービスは、照会した人が確認を求めたサービスが弁護士法72条の規定する「その他一般の法律事件」に関して「鑑定(中略)その他の法律事務」を取り扱うことに該当するかの照会でした。

 法務省は「本件サービスは、弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる」との回答を公表しました。

本件サービスにおいて、審査対象となる契約書に含まれる条項の具体的な文言からどのような法律効果が発生するかを判定することが大前提となっており、これは正に法律上の専門的知識に基づいて法律的見解を述べるものに当たり得る。よって、本件サービスは弁護士法第72条本文に規定する「鑑定」に当たると評価され得るといえる。

なお、本件サービスを提供する照会者は、ユーザーが法務審査を受ける契約書に係る契約の当事者等ではないから、本件サービスによる法務審査が「他人の」法律事件に関するものに当たると評価され得る。

 上記に続き、弁護士ドットコムも契約書の内容を人工知能(AI)で審査して締結後の契約書について、リスク検出を容易にするサービスについて、グレーゾーン解消制度を使って弁護士法第72条本文に違反しないかどうかを照会しました。

 弁護士ドットコムは照会書で「形式的には弁護士法72条本文前段に違反すると認められるような行為であったとしても、弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には、同条に違反するものではないと解する余地もあるといえる」という裁判例があり、正当業務行為にあたる場合には違法性が阻却されることがあり得る」と主張しました。

 しかし、法務省は「弁護士法第72条本文に違反すると評価される可能性があると考えられる」と回答しました。具体的には次のように結論づけました。

「正当な業務による行為」(刑法第35条)として違法性が阻却されるか否かは、本件サービスの目的、利用者との関係、提供及び利用の態様等の個別具体的な事情を踏まえつつ、関係者らの利益を損ねるおそれや法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げるなどの弊害が生ずるおそれがなく、社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められるかといった観点から判断されるべきものであり、照会書記載の全ての事実を考慮しても「正当な業務による行為」に当たるか否かを判断することは困難である。

グレーゾーン解消制度の活用事例(経産省の公式サイト)
記者会見で話すリーガルフォースの角田望社長(同社提供)

 AI契約審査サービスに対し違法の可能性があるとした法務省の回答に対し、角田氏は6月の会見で「AIが審査を行うことを前提にすると、確かに法的見解を述べていると捉えることができます。(今回の照会では)AIが契約審査を代替することを前提に、ユーザーに対し法的有利不利、リスクの判定、修正箇所の提示していると読めます。法務省の回答は、従前の法解釈に照らしても自然ではないでしょうか」と話しています。

 そのうえで、法務省の回答を前提にしてもリーガルテックのサービスは解釈論のなかで設計でき、弁護士法72条が発展を阻害することはないとの見解を示しました。

 リーガルフォースのサービスについても、「弊社のサービスはAIを活用して契約審査業務を支援するソフトウェアで、照会のあったAI契約審査サービスとは前提が異なる仕組みです。弁護士法72条が規定する『鑑定』にあたるかは、個別のサービスをみないと判断できません。裁判例の蓄積や法律の解釈論を踏まえて適法に設計していくことが事業者の責任かと思います。ソフトウェアは法律に適合するように柔軟に対応できるので、事業が影響を受けるものではありません」と話しました。

 そのうえで、今後、自社サービスについてグレーゾーン解消制度の照会を受けるかどうかについては「検討します」と話しました。

 法務省の公式サイトは2023年8月1日、AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係についてガイドラインを公表しました。

 ガイドラインを公表した目的について「AI等を用いたリーガルテックは、サービスによっては『非弁活動』に当たるかが問題となるが、企業の法務機能向上を通じた国際競争力向上や、契約書審査やナレッジマネジメントにおける有用性等に鑑み、弁護士法72条の趣旨を踏まえつつ、同条とリーガルテックとの関係の予測可能性を高める」と説明しています。

 ガイドラインでは、問題となり得る点ごとに、判断の考慮要素や、通常該当しない例と該当し得る例を明確化しています。ガイドラインをもとに、LegalOn Technologiesは公式サイトで次のようにコメントしています。

今回公表されたガイドラインでは、弁護士法72条の要件の一つである「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件」について、「いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、多くの場合『事件性』がない」ことが明記されております。また、本ガイドラインでは、弊社が『LegalForce』及び『LegalForceキャビネ』にて提供している主な機能が、「鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務」に該当しない例として明確にされています。

法務省大臣官房司法法制部より、「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」と題するガイドラインが公表されました(LegalOn Technologies公式サイト)