【役員退職金とは】支給金額の決め方・税金の計算方法の注意点を解説
事業を引き継ぐ場面では、先代への役員退職金の支給についても話を進める必要があります。支給の方法や時期、功績倍率法を用いた支給金額の計算方法、税金計算に関する注意点などについて、実例も用いて解説します。
事業を引き継ぐ場面では、先代への役員退職金の支給についても話を進める必要があります。支給の方法や時期、功績倍率法を用いた支給金額の計算方法、税金計算に関する注意点などについて、実例も用いて解説します。
目次
事業承継の場面で、先代が退職して後継者が代表になる際には、先代に対して退職金の支給を検討する必要があります。
役員退職金とは役員の退職に伴って支給される臨時的給与で、在任期間中の職務執行の対価(報酬の後払い・功績などに対する謝礼)と考えられています。
また、実質的な経営権は後継者に移すにしても、万が一に備えて先代を役員として名前を残しておきたい場合もあります。
その際は分掌変更(役員の地位や職務内容が激変)で実質的に退職と同じような状況になったことに伴って、退職金を支給することもあります。
一つ例を挙げると、代表取締役が非常勤のヒラの取締役になるような状態です。このような場合には、実態を見た上で分掌変更に伴う退職金の支給も検討します。
なお、分掌変更したから退職金の支給をしなくてはいけないということではありません。完全に退職した段階で通常の退職金を支給することも可能です。実務上もそのほうが自然なケースが多いです。
会社法上、役員が法人から報酬などを受けるにはどんな名目であれ定款または株主総会で定めなければいけません。
通常は定款で定められていないため、株主総会の決議が必要です。総会の決議が無い場合は無効となります。
会社法に規定されている決議すべき事項は以下の通りです。
株主総会で支給総額のみを定め、その他の事項(各人の支給額、支給時期、支給方法など)は取締役会に一任する旨を決議する場合もあります。
なお、取締役会に無条件に一任することは無効です。支給総額や社内規定など一定の支給基準によって支給する旨を示した上で、取締役会がその基準に沿って具体的な退職金の支給額、支給時期、支給方法などを定めることになります。
支給決定後、その内容に応じて支給を行います。また、支給額と在任期間によっては所得税と住民税の源泉徴収が必要になります。
なお、退職金支給時までに受給者から会社に対し「退職所得の受給に関する申告」を提出するかどうかによって、源泉所得税の計算は変わります。
源泉徴収が必要な場合は支給時に会社が控除し、支給日の翌月10日までに税務署や市区町村に納めます。
また、退職後1カ月以内に、受給者と税務署、市区町村に退職所得の源泉徴収票を提出する必要があります(税務署については翌年1月31日までの提出でも可能)。
法律上は、役員退職金について具体的な支給額や算定方法、支給時期、支給方法などの定めはありません。しかし、税金計算上の費用として処理するには考慮すべき事項があります。
一般的には功績倍率法という方法で算定します。計算式と各項目の内容は以下の通りです。
退職金額=報酬月額×勤続年数×功績倍率+(功労加算金)
一般的には退職直前の報酬になります。おのおのの事情で退職直前の報酬が大幅に減額されているなど、会社側が算出方法として適当でないと判断する場合には、減額前の報酬金額などを報酬月額として採用するケースもあります。
役員として業務に従事した期間です。社員から役員に昇格した際、社員分の退職金の支給が無い場合は、社員の期間と役員を務めた期間に分ける必要があります。
役員として法人の業務に従事した期間および役員の職責に応じた倍率で、通常は1.0~3.0程度の間で設定されている場合が多いです。
役員退職金の支給で問題になるのは、支給額が税務上、不相当に高額な金額に該当しないかです。
会社側で規定などを作成し、法的に正しい手続きを経ていたとしても不相当に高額な部分の金額は税金計算上の費用として認められない場合があります。
詳細は割愛しますが、不相当に高額な金額に該当するかは、対象の役員の在任期間や退職事由、同業で地域や事業的規模などが類似する法人での支給実績などから総合的に判断されます。
なお、類似する法人については、国税庁のデータベースによる判断のため、同じものを確認することはできません。過去の判例を確認したり、必要に応じて書籍や専門会社の情報などを参考にしたりします。
また、退職していないのに退職金を支給した場合は、全額が税金計算上の費用として認められなくなります。この部分は前述した分掌変更の際に支給した退職金に関するもので、実態と照らし合わせて税務上問題となるケースがあります。
規定よりも高い金額を支給したい場合は、株主総会の決議を得るなどの要件を満たせば支給は可能です。なおその全額が税金計算上の費用と認められるかどうかは前項の通りで、対象の役員の在任期間や退職事由、同業で地域や事業的規模などが類似する法人での支給実績などから総合的に判断されます。
正しい手続きを踏んでさえいれば、規定より少ない金額を支払うことも可能です。会社の資金繰りから、どのくらい支給できるか判断することになります。
実際の退職金の支給時期は支給額が確定してからになります。また支給時期についても総会などで決議しておきます。
税金計算上、役員退職金は原則、退職金の金額が確定したときに費用として処理することができます。また、実際に支払った時の費用処理も可能です。
定款または総会で支給金額を決議すれば、実際の退職前に役員退職金の支給は可能です。しかし、それは支給が可能というだけであり、税金計算上は退職の事実があった段階で費用として処理されます。
退職後に支給する場合、いつまでに支払えばよいでしょうか。通常は退職後速やかに支給するものですが、受給者との調整や資金繰りなどの理由で金額の確定や支給が遅れることもあります。
税務上は退職の事実からおおむね3年以内に支給額が確定すれば、退職金として処理することが可能と考えられています。しかし、退職金は税金計算上の費用に計上できるため、支給時期を意図的に調整すると利益の調整弁になってしまい、課税上の問題となります。
支給方法も一括や分割または年金形式などがあり、場合によっては金銭ではなく株式や不動産など他の資産で支給することも可能です。実情に応じて決議をします。
原則は一括で支給する場合が多いと思います。税金計算上は退職金額が確定したときでも、支給のタイミングでも費用として処理することが認められています。
資金繰りの都合などで一括払いができず、何回かに分割して支給する場合もあります。
こちらも、分割払いについて総会などで決議されていること、分割に合理的な理由がある(利益調整ではない事情など)こと、また分割が長期ではないという事情があれば、税金計算上も役員退職金の支給として費用処理できます。
この場合、支給総額の確定時点で税金計算上の費用とする方法と、分割して支払う度に税金計算上の費用とする方法のどちらも可能です。なお、長期とはおおむね3年程度と言われています。
退職金をはじめから長期の年金形式で払う方法もあります。なお、この場合には税金計算上も年金として処理をする必要があります。
法人側では年金を支払う度に費用処理、受給者側も年金の受給に応じて所得税の計算がなされます。
退職金は金銭での支給が原則ですが、受給者との合意があれば金銭以外(株式・不動産・保険の権利など)での支給も可能です。その際は金銭以外の財産を時価で評価して、税務・会計上の処理をする必要があります。
役員退職金は高額になるケースが多く、資金や会計の両面で大きな影響があります。また税金計算上は原則費用になりますが、不相当に高額な部分については税金計算上の費用として認められません。
また、退職金の支給によって法人税だけではなく他の税目にも影響が生じます。税務上の影響がある主な内容は以下の通りです。
役員退職金は金額が大きいこともあり、欠損金(税金計算上のマイナス)が発生することもあります。一定の要件を満たすことで、欠損金は前期の利益と相殺して税金の還付を受けたり、翌期以降の利益と相殺して税金の負担を軽減したりできます(最長10年間繰り越し)。
会社が役員退職金を支給することにより、決算において損失が発生し、会社の税務上の株価が下がるケースがあります。そのため、退職金を支給したタイミングで自社の株式を先代から後継者に動かすことで、退職金支給前と比べて低い価額となり、所得税や贈与税などの負担が軽くなる場合があります。
退職金は給与や年金と比べて、所得税の計算が受給者にとって有利になります。そのため、受給者は退職金で税負担が少なくまとまった金額を受け取ることができます。ただし、年金形式の場合には退職金ではなく年金として税金計算がされます。
また、受給者は状況に応じて確定申告が必要になります。
事業承継の過程で発生した役員退職金について、筆者の事務所で取り扱った事例です(個人情報保護のため、設定は一部変更しています)。
従業員10人ほどの製造業の2代目社長は、3代目となる後継者が入社してある程度の実務を経験した段階で代表を退任し、退職金が支給されました。また、そのタイミングで株式の移転も行い、経営と株式の両面から事業承継を進めました。
先代の時に事業が拡大したこともあり、その功績も考慮して役員退職金支給額は規定で定めた金額を若干上回りました。そのため、支給金額の妥当性を担保するために、筆者の事務所と会社側それぞれで同業の類似事業者のデータ取得などをしました。
先代は以前から一線を退くことを意識していたこともあり、事前に退職資金を確保していました。
後継者からの希望もあり、登記上は取締役として名を残しましたが、経営そのものからは完全に退き、報酬も無しにしました。また、退職金の支給と株式の承継をすることで、経営が完全に移行する旨を、先代と後継者にお伝えして判断していただきました。
従業員30人ほどの卸売業2代目社長は、もうしばらく後継者への指導をしつつ、代表として経営を行うつもりでしたが、本人やご家族の体調の問題もあり退職を決断。会社の資金繰りも考慮し、3回に分けて分割支給をしました。
会社への貢献度から金額を算出し、そこから会社の実情に合わせて減額調整を行いました。
事前に「いつかは退職」との話はありましたが、実際に決断してからは早かったため、会社の資金の見通しを慎重に行い、資金繰りに過度な負担をかけず、また支払いが短期間(今回のケースでは1年以内)で済むように、実施可能な時期と金額を決めました。
会計・税務上の処理としては、支払いの度に費用として計上する方法を選択しました。
どちらの事例にも関係しますが、退職後は役員報酬が無くなるため、退職後の資金繰りについて、公的年金の受給状況や現時点の財産、今後のライフプランを合わせて検討する必要があります。
役員退職金は税務上の留意点が多く、税務ありきで話を進めてしまいがちですが、会社の実態や実情に合わせた判断をしないと無理が生じるケースがあります。
事業承継の場面では避けて通れない内容であり、金額が大きくなるケースも多いと思います。検討する際には、顧問税理士などへの相談をお勧めします。
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