賞与支払届とは 記入方法から提出までの流れと注意点を社労士が解説
賞与支払届とは、賞与を支払った際に日本年金機構へ提出する書類です。忘れがちな届出の一つですが、将来の年金受給額などにも影響する大事な手続きとなります。この記事では、どこに何を書いたらよいのかといった記入のポイントや、ダウンロード先、電子申請をふくめた届出の方法について、社会保険労務士が解説します。
賞与支払届とは、賞与を支払った際に日本年金機構へ提出する書類です。忘れがちな届出の一つですが、将来の年金受給額などにも影響する大事な手続きとなります。この記事では、どこに何を書いたらよいのかといった記入のポイントや、ダウンロード先、電子申請をふくめた届出の方法について、社会保険労務士が解説します。
目次
賞与支払届とは、企業が従業員に対し賞与を支給した際に日本年金機構に提出する書類です。提出の対象となる企業は社会保険の適用事業所で、届出の対象となる従業員は社会保険の被保険者です。
賞与は企業分、従業員分について社会保険料が徴収されます。しかし、この保険料は通常の標準報酬月額に基づいた金額ではなく、実際に支払われた賞与の金額に応じて徴収される仕組みになっています。そのため、その金額を日本年金機構に報告する必要があります。
賞与支払届の提出期限、提出先は下記の通りです。
書類名称 | 健康保険・厚生年金保険・被保険者賞与支払届 |
---|---|
提出先 | 事務所所在地を管轄する事務センター・年金事務所 |
提出期限 | 賞与支払日から5日以内 |
提出方法 | 電子申請・電子媒体(CD・DVD)・郵送・窓口持参 |
添付書類 | なし |
不支給の場合 | 賞与支払届に代えて賞与不支給報告書を提出 |
※2021年4月までは賞与支払届に加え、総括表の提出義務がありました。こちらは現在廃止されており、かわって賞与を支払わなかったときにその事実を報告する賞与不支給報告書を提出することになっています(参考:【事業主の皆さまへ】令和3年4月からの賞与支払届等に係る総括表の廃止及び賞与不支給報告書の新設について|日本年金機構)。
それでは、ここから実際の手続きや記入方法について説明します。
まずは、各従業員の賞与支払の事実を確認します。「賞与が支払われていた場合は、賞与支払届」「賞与が支払われていない場合は、賞与不支給報告書」と用意すべき書類が変わるからです。
賞与支払届の記入対象となるのは、役員も含め、賞与の支払いを受けた社会保険の被保険者と70歳以上の従業員のみです。
アルバイトなどで社会保険に未加入の場合は記載の対象から除外します。賞与の支払い対象が全被保険者ではない場合や、支払いのなかった被保険者の場合についても記載する必要はありません。
また、ここでいう賞与とは、次のものを指します。
賞与、ボーナス、手当その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるもののうち、年3回以下の支給のもの。
※たとえば、年2回支給すると決まっている「繁忙手当」「奨励手当」などは賞与に該当し届け出が必要です。
※夏季賞与、冬季賞与、決算賞与と3回支給する場合はすべて賞与支払届が必要です。 ※年4回以上支給されるものは対象外です。
※慶弔見舞金は対象外です。
なお、70歳以上の従業員と、退職者に支払われた賞与については扱いが特殊になるため、後程詳しく説明します。
賞与支払届と賞与不支給報告書は最寄りの年金事務所窓口で受け取るか、日本年金機構のホームページからダウンロードできます。PDFファイルとExcelファイルのいずれかが選択できますので、使いやすい方をご活用ください。
印刷の際はモノクロ出力で十分です。届出書が切れないように余白設定などを確認して印刷してください(参考:賞与を支給したとき、賞与支払予定月に賞与が不支給のとき|日本年金機構)。
なお、支払予定月を登録している企業には、日本年金機構より支払予定月の前月に報告書用紙が郵送されてきます。こちらには支払予定月の前々月まで在籍している被保険者の氏名・生年月日などの情報が印字されているので、ぜひご活用ください。
また、給与計算ソフトには、賞与支払届を自動作成できるものもあります。非常に便利な機能ですが、健康保険組合加入企業では指定のフォーマットがある場合があるため注意が必要です。
賞与支払届は電子媒体での作成・提出や電子申請も可能です。そちらは後述します。
届出書類を準備したら、必要事項を記入します。まずは、賞与支払届からです(賞与不支給報告書の記入方法については、「ステップ4.賞与不支給報告書の記入」にお進みください)。
賞与支払届に記載する内容は、共通情報と対象被保険者ごとの情報に大きく分けることができます。それぞれの記入方法をご紹介します。
なお、届出を書き損じた場合は二重線で訂正が可能です。訂正後、正しい情報を書き入れましょう。
まず提出者記入欄に事業所整理記号、事業所の所在地・名称と事業主の肩書・氏名、電話番号を記載します。ここは事業所のスタンプ印などでも問題ありません。代表取締役印は不要です。
この欄の上は届出書の提出日になります。複数枚にわたる場合、すべてに記入が必要です。
④欄に賞与の支払日を記入します。こちらも複数枚にわたる場合すべてに記入が必要ですのでご注意ください。なお、同一月内に2回賞与の支払いが行われた場合は、④欄には最後の支払日を記入します。
次に対象被保険者ごとの情報を記入していきます。
賞与の支払を予定していたにも関わらず支払がなかった場合は、賞与支払届に代えて「賞与不支給報告書」を提出します。この届出については、記載箇所のポイントを絞って記載方法をお伝えします。
賞与支払届または賞与不支給報告書の記載が済んだら、届出は事業所管轄の年金事務所へ持ち込みまたは郵送するか、年金事務センターに郵送することで届け出ます。郵送先は、日本年金機構の「全国の事務センター一覧」ページをご覧ください。
提出期限は賞与支給日より5日以内です。
なお、事業所が健康保険組合に加入している場合は、日本年金機構のほか、健康保険組合にも届出を提出する必要があるのでご注意ください。
賞与支払届を提出すると、「健康保険・厚生年金保険 標準賞与額決定通知書」と「保険料納入告知額・領収済額通知書」(保険料を口座振替にしている場合は「納入告知書」)がそれぞれ事業所に郵送されます。
標準賞与額決定通知書は、そのまま事業所で保管します。決定した標準賞与額は従業員へ通知する必要があるので、忘れずに行いましょう。
また、保険料納入告知額・領収済額通知書に従い、保険料を納付します。納付期限は、同書類が送付された月の末日です。
なお、通常の標準報酬月額にかかる社会保険料と併せての納付となるため、資金は多めに準備しておきましょう。口座振替の場合も月末に引き落とされるので、残高には十分ご注意ください。
賞与支払届はCD、DVDなどの電子媒体での提出のほか、電子申請ができます。
電子媒体で作成する場合は、事業所が導入しているシステムを使う方法と、日本年金機構が提供する「届出作成プログラム」を使う方法があります。
事業所のシステムを使う場合は「電子媒体届出仕様書」に沿った仕様であるかチェックし、適合している場合に利用が可能です。また、電子媒体にはパスワードを設定し、電子媒体とは別に日本年金機構へ送付する必要があります。
「届出作成プログラム」は、日本年金機構のホームページから無料でダウンロードできます(ダウンロードページ:電子申請(届出作成プログラム)|日本年金機構)。このプログラムを利用した場合はパスワードの別送は不要です。
いずれにしても作成したデータを格納した電子媒体に、電子媒体届出総括票を添付して提出します。提出先は管轄の年金事務所または事務センターです。
また、賞与支払届はe-Govを用いて電子申請で行うことも可能です(公式サイト:e-Gov 電子申請)。届出にはGビズIDが必要になります。GビズIDについては日本年金機構の「GビズID」ページをご覧ください。
つづいて、賞与支払届の手続きで気をつけたい4つのパターンと、それぞれの対応方法をご紹介します。
70歳以上の従業員に賞与を支払った場合、前述のとおり賞与支払届⑦欄に基礎年金番号またはマイナンバーの記入、⑧欄に○を付与して届け出る必要があります。この手続きが電子媒体ではできません。したがって、他の従業員について電子媒体で届け出たとしても、70歳以上の従業員については紙の届出書をあわせて提出する必要があります。
また、70歳以上の従業員は正社員であったとしても、通常、厚生年金保険の被保険者にはなりません。一方で、老齢厚生年金の在職老齢年金の支給停止額確認のために届出が必要になります。この場合、厚生年金保険の保険料はかかりません。
しかし、この方が70歳時点で老齢年金の受給資格がない場合は受給資格を得るまで任意で加入する「高齢任意加入」という制度があり、この制度を使用している方については賞与支払届の②欄に氏名に続けて「高齢任意」と記入します。
賞与は社会保険料の賦課対象になりますが、社会保険料はその資格を喪失した月については徴収の対象としません。したがって賞与支払月に退職した場合、賞与に対する社会保険料はかかりません。
しかし、標準賞与額の決定は行うため、退職者に賞与を支払った場合も賞与支払届の提出は必要です。混同して届出を怠らないよう注意しましょう。
なお、賞与支払月の末日に退職した場合、資格喪失日が翌月1日になりますので、この場合は賞与についても保険料賦課の対象になります。こちらも誤解の多い部分ですのでご注意ください。
休業中の従業員に賞与を支払った場合も届出の対象になります。育児休業・産前産後休業をしている従業員に対して支払われた賞与は社会保険料の賦課対象にはなりませんが、標準賞与額の決定は行われるためです。
標準賞与額は上限があり、573万円と定められています。この上限額を超えた場合は標準賞与額は0として決定されます。なお、保険料についても健康保険は年間(4月1日から翌年3月31日までの1年間)573万円以内、厚生年金保険は月間150万円以内が賦課対象となり、超えた分は課税されません。
支払い対象となる従業員が同一年度内で転勤・移籍出向するなど資格の得喪があった場合で、賞与の支払額が573万円を超えたことがわかったときは、従業員の申出に基づき「健康保険 標準賞与額累計申出書」を提出する必要があります。
資格の得喪(とくそう)を伴わない転勤や異動の場合は、この「標準賞与額累計申出書」の提出は不要です。
賞与支払届を提出しないまま放置していると、賞与支払月として日本年金機構に届けて出ている月の翌々月に催告状が届きます。
提出期限の賞与支払後5日以内に届け出るのが基本ですが、支払いのタイミングによって数日遅れることは問題になりませんのでご安心ください。また、催告状が来た場合は速やかに届出および保険料の納付を行うこととなります。
うっかり忘れていたことに気が付いた場合は、直ちに管轄の年金事務所に連絡し、指示に従いましょう。
賞与支払届によって決定される標準賞与額は将来の年金額に影響するほか、60歳代で老齢厚生年金を受けながら働いている従業員にとっては支給停止額に影響する重要な手続きです。
特に夏季賞与として支給される場合、7月の算定基礎届の手続きの前後に支払日がくることも多く、うっかり忘れてしまいがちな手続きでもあります。
しかし、前述のとおり非常に大切な手続きの一つですので、賞与支払いの際には5日以内に届出することを忘れないように、あらかじめスケジュールしておくことをおすすめします。
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