リードタイムとは 改善方法・注意点を事例を交えてわかりやすく解説
「リードタイム」は製造業や流通業にとって、ビジネスの骨格に影響する非常に重要な要素です。しかし、リードタイムの経営上の意義を正確に理解しているビジネスパーソンは少ないのではないでしょうか。リードタイムの考え方や改善する方法と注意点について、事例を交えながらご紹介します。
「リードタイム」は製造業や流通業にとって、ビジネスの骨格に影響する非常に重要な要素です。しかし、リードタイムの経営上の意義を正確に理解しているビジネスパーソンは少ないのではないでしょうか。リードタイムの考え方や改善する方法と注意点について、事例を交えながらご紹介します。
目次
リードタイム(L/T)とは、あるプロセスに着手してから完了するまでの「所要時間(期間)」のことです。ビジネス上では、製造の所要時間を「製造リードタイム」、納入(納品)までの所要時間を「納入(納品)リードタイム」などと呼びます。英語でも"Lead time"と言います。
似た概念として「納期」という言葉もあります。納期は「納入期限」を略した言葉なので、「○月○日」といった具体的な期日を指すのですが、リードタイムは「○日間」といった一定の時間的スパンを表す点に違いがあります。
リードタイムの数え方について、納入リードタイムを例に考えてみましょう。
納入リードタイムとは、商品を注文してから納入されるまでの所要期間のことです。卸売業者が小売業者に納入するケースでは、24時間または48時間のリードタイムが主流です。
ただし、「リードタイムが24時間」の場合でも、「卸売業者が注文を受けてから24時間後に小売業者に納入する」というわけではありません。通常の商取引では、受注を締め切る「〆時間」が設定されており、実際の納入リードタイムは〆時間を起点に計算されることになります。
例えば「昼12時が〆時間」という取り決めの場合には、午後に注文した商品は翌日(正確には翌営業日)の12時までの注文と合算され、翌々日の昼12時までに納入されればよいということになります。このように、「リードタイムが24時間」とされていても、実際の納入リードタイムは24時間ジャストではないことに注意が必要です。
なお、上記の「昼12時が〆時間」の例では、「翌日12時」が納期ということになります。この納期は、納入する側が顧客に約束した期限という意味で「約束納期」と言います。この他、顧客が要求する納期を「要求納期」などと言って区別するのですが、納入リードタイムは約束納期から遡って計算することが一般的です。
リードタイムにはさまざまな種類がありますが、中小の製造業や流通業にとって特に重要な「調達」「製造」「納入」の3つのリードタイムについて紹介します。
なお、各リードタイムの言葉を表面的に理解しても意味がありません。以下では経営上、どのような意味があるのかも説明しますので、その点を含めて理解することが重要です。
調達リードタイムとは、製造業の場合には、原材料や部品をベンダーに発注してから自社に納入されるまでのリードタイムのことです。流通業であれば、商品が納入されるまでのリードタイムということになります。いずれの場合も、自社が「買い手」の立場に立つという点が重要なポイントです。
自社が流通業の場合を考えてみましょう。商品の調達リードタイムが1週間で、他社へ販売する納入リードタイムが24時間である場合には、自社在庫に品切れが起きてもなかなか補充できません。納期遅延の発生にもつながります。また在庫切れを起こさないためには、より多くの在庫を抱えておく必要がある、とも言えます。
つまり買い手の立場から見て「調達リードタイムが相対的に長い」ということは、経営上リスクが大きい、ということです。
製造リードタイムとは、社内の責任部署が生産数量などを決定し、製造部門に製造の指示(オーダー)をしてから、製造が完了するまでのリードタイムのことです。
なお、製造リードタイムを「実際に製造するための所要時間」と説明している場合もありますが、両者は異なることに注意が必要です。例えば、パン工場では、小麦粉、卵などの原料をラインに投入してからパンが焼き上がるまでの所要時間は、せいぜい数時間程度でしょう。しかしながら、製造リードタイムは「数週間」となるケースがあります。
食品業界では通常、週単位などで生産計画を立案します。製品の売れ行きを踏まえ、製造ラインを調整し、必要な人員や原材料を確保したうえで、翌週の製造計画を工場に指示します。
製造リードタイムは、このような「段取り」のプロセスを考慮した時間ですので、「数時間」といった期間よりもはるかに長くなるのです。
納入リードタイムとは、商品(製品)を注文してから納入されるまでの所要期間のことです。
ここで注意が必要なのは、前項の「製造リードタイム」との関係です。製造業が製品の注文を受けた場合、納入に先だって製造する必要があります。それでは、納入リードタイムには製造リードタイムを含めるべきでしょうか?
この答えを知るためには、「受注生産」と「見込み生産」の違いを理解しなければなりません。皆さんが普段、購入する消費財のほとんどは、販売予測をもとに在庫を保有する「見込み生産」のシステムを採用しています。一方、自動車産業の一部などでは、受注してから生産を行う「受注生産」のシステムを取っています。
前者に該当するほとんどの消費財では、納入する製品は保管されている在庫から出荷されるため、納入リードタイムに製造リードタイムを含める必要がない、ということになります。
このような違いを理解しておくことも重要なポイントです。
リードタイムは「売り手」と「買い手」のどちらの立場に立つのかによって、意味が変わってきますが、買い手の立場から見ると、納入リードタイムは短いほうが望ましいと言えます。顧客には「早く届けて欲しい」というニーズがあるからですが、逆に言えば、短いリードタイムには、そのような顧客ニーズに応えるというメリットがあるわけです。
一方、「売り手」の立場から見ると、短すぎるリードタイムには以下のようにさまざまなデメリットが生じます。なお、ここでは納入リードタイムを例に説明します。
納入リードタイムが24時間のように短い場合、トラックの手配が大きな課題になります。
24時間というリードタイムは、わかりやすく言うと「今日来た注文を翌日届ける」ということなので、ほとんど時間的な余裕がありません。もしも予想外に多くの注文が来て、1台に載りきらない場合には、追加のトラックを探すことが必要です。
ところが現在はトラック不足が顕著であるため、片っ端から電話を掛けてもトラックが見つからない場合もあります。営業マンが自分の営業車で届けるといったケースも珍しくありません。また、トラックの確保が優先されるため、割高な運賃であっても飲まざるを得ず、コストアップにもつながってしまいます。
短いリードタイムの場合には、足りない在庫を補充する時間的な余裕がないので、常に手元在庫を多めに保有しておかなければなりません。
また、日用品などの業界で一般的な24時間程度の短いリードタイムでは、1カ所の拠点から納入することは不可能です。離島などは除くとしても、関東・関西・北海道・九州などに拠点を分散させることが必要です。その場合、在庫を拠点ごとに保管しておく必要が生じますので、さらに在庫が増加することになります。
このような複数の要因から、短いリードタイムは在庫の増大につながってしまいます。
例えば、リードタイムが「1週間」の場合には、数日分をまとめて納品することが可能になります。このように、リードタイムが長い場合にはロットがまとまる効果が生じる一方、リードタイムが短いと、荷物が分散する「荷分かれ」が生じてしまいます。
物流はまとめて運ぶほど効率化しますので、このような小ロット化は、物流効率の著しい低下を招いてしまいます。
日本の流通は「リードタイムの短縮」が行き過ぎた状態にあり、物流などの非効率を招いています。そのため、リードタイムを適正化するための取り組みが進められています。
ここでは前項に引き続き、「納入リードタイム」を例として、リードタイムを改善するための方法を説明します。
過剰に短いリードタイムは顧客の過剰要求が理由だと考えられがちですが、必ずしもそうではありません。リードタイムが短いほうが「売りやすい」と考える経営者や、営業部門の意向が強く反映された結果、過剰に短いリードタイムが設定されているケースが多々あります。
従って、社外との交渉に先立ってまず、社内で議論を行い、「本当にどの程度のリードタイムが適切なのか」という合意形成を図ることが必要です。
注意点 |
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もちろん、何の材料もなしに議論をしても意味がありません。社内で議論する前にまず、顧客のニーズ・意向、他社の動向など、必要な情報を整理しておくことが大切です。リードタイムの適正化によるコスト削減効果なども試算しておくことが望ましいと言えます。 |
何としても売りたい営業マンに、「リードタイム適正化」を納得させるのは難しいのも事実です。その場合の1つの解決策は、コストの「見える化」です。
著しく短いリードタイムの場合、定期運行のトラックでは運びきれず、軽トラックを1日借りるなどして緊急納品を行うケースもよく耳にします。わずかな商品の納品のため、万単位のチャーター費用を掛けることもあります。このような不合理を止めるには、「○の納品に○円掛かった」というようにコストを見える化し、担当の営業マンを納得させる要素を表面化させることが有効です。イレギュラーな輸送については、営業部門に負担を求めるのも一案です。
注意点 |
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この手法はあくまでイレギュラーなリードタイムが対象です。24時間など会社が規定するリードタイムの枠内で営業マンが多数の商品を受注した結果、物流部門の処理が間に合わず、運びきれない分を緊急輸送した場合には、営業マンの責任でないのは明白でしょう。 |
リードタイムを適正化するには、交渉を通じて顧客の理解を得ることが欠かせません。24時間のリードタイムを48時間に延ばすといった場合には、顧客の業務に大きな影響が生じますので、丁寧な説明が必要であることはもちろんのこと、顧客にもメリットのある提案をすることが必要でしょう。
なお、顧客にデメリットの生じる交渉は不可能に思えるかもしれませんが、産業界では近年、顧客交渉が進展しており、リードタイム適正化も急速に進んでいるという事実はぜひ知っておきたいところです。
例えば、加工食品業界では「食品物流未来推進会議」などの業界組織が中心となり、納入リードタイムの延長を推進しており、確実に改善が進んでいます。実際にキユーピー社では、受注締め時間を2時間後ろ倒しにしても、受注面や物流面で有効性が見られたとの結果が出ています(参照:持続可能な物流の構築に向けて p.18丨経済産業省)。
注意点 |
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リードタイムの適正化(延長)は顧客側にデメリットを生じます。よって、「本来なら10%の商品値上げが必要だが、リードタイムを延長した場合には5%の値上げに留める」といった交換条件を提示するなど、さまざまな交渉術を駆使することが必要です。 |
顧客交渉を円滑に進める1つのアイデアは、「メニュープライシング」を導入することです。メニュープライシングとは、「X日という納品リードタイムでは○円」のように、条件によって売買価格(仕切り値)を変動させる価格体系のことです。海外では広く導入されている手法ですが、国内でも日用品や食品業界の一部では導入が進んでいます。
リードタイムが短い場合は高く、長い場合は安く設定することで、価格メカニズムを利用して適正化を進めることが可能になります。
注意点 |
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メニュープライシングの価格体系は非常に複雑です。効率化を誘導するためには精緻な制度設計が必要であり、納入リードタイム別の原価シミュレーションを実施するなど、精緻な計算を行ったうえで導入しなければなりません。 |
最後に、リードタイムを改善した事例を紹介します。
日用品メーカーA社は、納入リードタイムの「D2」への延長を進めています。なお「D2」は「翌々日」を示す業界用語で、翌日納品の場合は「D1」と言います。
日用品業界は今のところはD1が標準的ですが、A社など一部ではD2への転換が進みつつあります。A社では上述のメニュープライシングの仕組みを有効活用しながら、D2や、さらなる前倒し発注の推進に取り組んでいます。
納入リードタイムが特に問題になっている業界の1つが、通販業界です。通販業界では熾烈なサービス競争によって過度な納入リードタイム短縮が進み、物流コスト増に苦しんでいます。
また、リードタイム短縮の副次的な影響として、物量の波動性の問題(時期や施策によって物量の変動が大きくなる問題)にも苦しめられています。というのも、通販では「○○スーパーセール」といった特売日に受注が集中する傾向があるため、「翌日納品」といったリードタイムではセール直後の特定日物量が著しく増大してしまうためです。
このような問題を踏まえ、各社では「時間に余裕を持った配送」を進めています。例えば、ロハコでは「おトク指定便」により余裕のある配達日を選択した場合に、ポイントを付与する実証実験などの取り組みを行っています。
かつて日本企業の多くが、納入や製造のリードタイムを短くすることに心血を注いでいた時代がありました。その結果、これらのリードタイムが過度に短縮してしまい、物流コスト増大などの副作用がむしろ大きな問題となっています。
このような背景から、多くの大企業・先進企業ではリードタイムの適正化を進めているのですが、リードタイムへの取り組みは、中堅・中小企業でも差し迫っている重要な課題と言えます。
また、リードタイム適正化は会社の一部門だけでは解決できない複雑な問題でもあります。全社的な経営課題として、本腰を入れて取り組むことが期待されます。
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