改正消費者裁判手続特例法とは 2023年10月施行 和解の早期柔軟化
消費者裁判手続特例法が改正され、事業者との契約トラブルから消費者を守る法制度が拡充されます。改正法の施行は2023年10月1日です。特例法に基づく被害回復裁判の対象が拡大されます。法改正のポイントをわかりやすくまとめました。
消費者裁判手続特例法が改正され、事業者との契約トラブルから消費者を守る法制度が拡充されます。改正法の施行は2023年10月1日です。特例法に基づく被害回復裁判の対象が拡大されます。法改正のポイントをわかりやすくまとめました。
消費者裁判手続特例法とは、ある事業者との消費者契約に関して相当多数の消費者が共通の財産的被害を被った場合、被害回復のための裁判を集団的にできるよう定められた法律です。
この法律に基づく訴えは、内閣総理大臣の認定を受けた「特定適格消費者団体」という法人が担うことができるとされています。
消費者の被害救済を目的としており、今回の法改正も、この救済制度の実効性を高める趣旨のものとなっています。
改正消費者裁判手続特例法の施行は2023年10月1日です。改正に向けては消費者庁の「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」が2021年3月から同年10月まで検討を重ねてきました。
※消費者庁の公式サイト「消費者裁判手続特例法等に関する検討会 報告書」
この法律に基づく特定適格消費者団体による訴訟制度は2016年10月に運用が始まりました。これまでに明らかになった課題に対応すべく、見直しの検討が始まりました。
検討会では、制度は社会的インフラと評価すべきも、活用範囲に未だ広がりを欠いていると指摘されました。制度運用開始から報告書作成までの5年間で、特定適格消費者団体により提起された被害回復裁判は4件のみでした。
検討会ではこうした問題意識のもと、法改正の内容が議論されました。
主な改正事項は以下の四つです。
現行法では、特定適格消費者団体による被害回復裁判で対象となる損害は「財産的損害」に限られていました。今回の法改正で、その対象に一部の「慰謝料」が追加されます。
消費者裁判手続特例法に基づく被害回復裁判は、一段階目の「共通義務確認訴訟」(事業者が消費者に対して責任・共通義務を負うか否かを判断する訴訟手続)と、二段階目の「簡易確定手続」(事業者が誰にいくらを支払うかを確定する手続)とに分かれています。
※消費者裁判手続特例法に基づく被害回復裁判の流れ(消費者庁「消費者裁判手続特例法の改正(概要)」より)
二段階目で対象債権の存否や内容を判断しやすくしたり、一段階目で事業者が被害額の見通しを把握しやすくしたりするため、裁判での損害の対象は「財産的損害」に限られていました。
一方で、検討会の報告書では、慰謝料が含まれなかったことにより十分な被害回復がなされなかったケースがあったことが指摘されました。2018年に発覚した、東京医科大の不正入試問題です。
※朝日新聞デジタル「受験料返還求め、東京医大を提訴 不正入試巡り消費者団体」(2018年12月18日)
※消費者機構日本「学校法人東京医科大学 入学検定料等に係る被害回復訴訟の和解について」(2021年8月19日)
特例法に基づく消費者被害回復裁判の初の判例となったこの事案ですが、検討会の報告書は「問題の本質は、出願した消費者が、大学入試という人生の選択に関わる重要な場面において、何らの説明なく、性別等により一律に不利益に扱われた点にあると言える事案であり、慰謝料が中核的な請求になり得、かつ、類型的に共通する被害が生じたと考えられるが、現行法では慰謝料が対象とならないことから、受験料等の財産的損害の請求にとどまった」と指摘しました。
こうした指摘を受け、今回の法改正により、次のような場合に慰謝料が請求の対象として認められることになります。
「慰謝料額の算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者について共通するもの」かつ「財産的損害と併せて請求される場合」または「事業者の故意によって生じたものの場合」
現行法に基づく共通義務確認訴訟では、対象となる被告は「事業者」に限られていました。今回の法改正により、対象に「事業者以外の個人」が追加されます。
追加の理由は、事業者としての財産が散逸・隠匿されたような場合でも、消費者の被害回復を図れるようにするためです。検討会の報告書は次のように指摘しています。
「いわゆる悪質商法にあっては、事業者自体の財産は散逸・隠匿される一方で、代表者や実質的支配者個人に財産が移転していることが珍しくない」
報告書ではこうした実例として、2020年に発覚した給料ファクタリングの事案を挙げています。
※朝日新聞デジタル「給料ファクタリング、全国2例目の摘発 容疑の7人逮捕」(2021年1月14日)
こうしたケースを受け、消費者にとって十分な被害回復が図れるよう、悪質商法に関与した事業監督者・被用者を念頭に事業者以外の個人が被告の対象として追加されることになりました。
特例法に基づく被害回復裁判での一段階目となる共通義務確認訴訟ではこれまで、共通義務の存否を対象とした和解しか認められていませんでした。
つまり、共通義務の全部又は一部が存在する・しないといったことについては和解できた一方、共通義務の存否にかかわらず対象消費者に解決金を支払うこととする旨の和解や、対象消費者への支払額まで合意する和解は認められませんでした。
今回の法改正により和解の範囲が拡大され、解決金を支払う和解、金銭を支払う以外の和解、総額和解、消費者への支払まで完結する和解などについて認められるようになりました。
この意義について検討会の報告書では「和解により解決できる場面が増えることで紛争の長期化を避け、早期解決を図ることできる」「多種多様な消費者被害に対応した柔軟な解決が可能になる」と説明しています。
今回の法改正では、特例法に基づく訴訟にかかわる消費者に対する情報提供を充実する方策についても盛り込まれています。
現行法では、共通義務確認訴訟において事業者の責任が認められた場合、対象となる消費者に対し、簡易確定手続への加入を促す通知は特定適格消費者団体がするものとされていました。
ですが、通知内容が多岐にわたり「かえって消費者に読まれない」といったことや、特定適格消費者団体の認知度がまだ十分でなく、通知を受け取った消費者にとって「詐欺的な連絡との区別も容易でない」といった問題が検討会報告書で指摘されました。
そこで今回の法改正により、事業者が自ら把握している消費者に対して個別通知を出すことが義務付けられました。
検討会の報告書は「事業者にとって対象消費者は顧客であることが多く、連絡手段を有している場合も多いと考えられる」「受け手である消費者にとっても、初めて接する特定適格消費者団体からの通知よりも、従前から一定の取引関係にある事業者から個別連絡を受ける方が、プッシュ型の情報に対する警戒感も薄らぎ受け入れやすい場合がある」としています。
簡易確定手続に際して消費者に個別通知を出すためには、対象消費者の氏名、住所、連絡先といった情報が必要になります。現行法では、事業者が対象消費者の情報を持っている場合、特定適格消費者団体への情報の開示は拒むことができないとされていました。
しかし、共通義務確認訴訟を経た簡易確定手続の段階で情報を保有していないという事態が発生したことを受け、情報開示の実効性を確保するための対策が必要だと指摘されていました。
そこで今回の法改正では、事業者が保有する対象消費者の氏名、住所、連絡先の各情報を、共通義務確認訴訟が終了するより前の段階で保全する仕組みが設けられることになりました。具体的には、事業者に共通義務があると認めるに足る十分な証拠が示された場合、裁判所は特定適格消費者団体の申し立てにより、事業者に情報開示を命ずる決定ができるようになります。
法改正により、簡易確定手続において特定適格消費者団体が消費者に対して出す通知について、これまで必要とされてきた一部の記載が不要となります。
検討会報告書は、簡易確定手続について初めて接する消費者にとっては、まずは「救済対象となることを自覚できるようにする」ことが重要だと指摘していました。そのため「なるべく簡潔であることが重要」だとして、詳細な情報は公告によって提供されるべきだと提言していました。
現行法では、行政の役割として、内閣総理大臣による公表がなされることされていますが、その公表事項は「共通義務確認訴訟の確定判決の概要」などに限られていました。
検討会の報告書は、行政の役割について「特定適格消費者団体による通知・公告の信頼性や真正性を担保する上で行政機関はより積極的な役割を果たすべき」だと指摘しました。
そこで法改正により、内閣総理大臣が公表するとされている情報を拡充し、新たに「簡易確定手続開始決定の概要」や「公告・通知の概要」が追加されることになりました。
今回、消費者裁判手続特例法は消費者契約法と併せて改正するものです。消費者契約法の改正もあわせてチェックしてみてください。
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