改正消費者契約法とは 2023年6月から契約の取消権などを追加
消費者契約法が改正され、事業者との契約トラブルから消費者を守る法制度が拡充されます。改正法の施行は2023年6月1日(一部は同年10月1日)です。契約の取消権が追加されたり、事業者の努力義務が拡充されたりします。法改正のポイントをわかりやすくまとめました。なお、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を受けた霊感商法に関する改正消費者契約法は2023年1月5日に施行されています。
消費者契約法が改正され、事業者との契約トラブルから消費者を守る法制度が拡充されます。改正法の施行は2023年6月1日(一部は同年10月1日)です。契約の取消権が追加されたり、事業者の努力義務が拡充されたりします。法改正のポイントをわかりやすくまとめました。なお、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を受けた霊感商法に関する改正消費者契約法は2023年1月5日に施行されています。
目次
消費者契約法とは、個人である消費者と事業者との間で締結される契約に関し、消費者の利益を擁護するために定められた法律です。
消費者契約法は第1条で、消費者と事業者との間には「情報の質及び量並びに交渉力の格差」があるとしています。消費者はこの法律に基づき、事業者の一定の行為により不利益を被った場合、契約申し込みの意思表示を取り消したり、無効としたりすることができます。
消費者の利益を守ることを目的としており、今回の法改正も、消費者擁護の実効性を高める趣旨のものとなっています。
改正消費者契約法の施行は2023年6月1日です。改正に向けては消費者庁の「消費者契約に関する検討会」が2019年12月から2021年9月まで検討を重ねてきました。
この報告書では改正の背景について、超高齢社会の進展やコロナ禍でオンライン取引が急拡大したことを挙げ、「環境の変化に対応した法の規律の在り方を、改めて考える必要がある」としています。
また改正にあたっては、前回2018年法改正時の付帯決議の要請が考慮されました。付帯決議とは、衆参の委員会が法案を可決する際、委員会の意見として付す決議のことです。
※衆議院の公式サイト「消費者契約法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(2018年改正)
主な改正事項は以下の四つです。
契約の取消権とは、事業者による不当な勧誘行為があった場合、消費者が契約(意思表示)を取り消すことができる権利のことです。
事業者による不当な勧誘は「誤認類型」と「困惑類型」に分けられ、それぞれ具体的な行為が定められています。
今回の法改正では、「困惑類型」に新たに三つの権利が追加されます。
※政府広報オンライン「消費者契約法これだけは知っておきたい消費者契約のABC」
・重要事項について事実と異なる説明があった場合(不実告知)
例)「この機械を付ければ電気代が安くなる」と勧誘し、販売
・不確かなことを「確実だ」と説明された場合(断定的判断の提供)
例)確実に値上がりするとは限らない金融商品について、「確実に値上がりする」と説明して販売
・消費者に不利な情報を故意又は重大な過失により告げなかった場合(不利益事実の不告知)
例)すぐ隣の土地に、眺めや陽当たりを阻害するマンションの建設計画があることを知りながら、それを説明せずに、「眺望・日照良好」と説明して住宅を販売
・営業マンなどが強引に居座った場合(不退去)
例)消費者が「もうお引き取りください」と言っても、「契約してくれるまで帰らない」などと居座り、契約させた
・販売店などで強引に引き留められた場合(退去妨害)
例)「契約はしませんのでもう帰ります」と言っても、「まだ説明が終わらないから」などと強く引き留め、契約させた
・【追加】退去困難な場所へ同行されての勧誘
例)「景色を見に行こう」と事業者に誘われ、交通の便の悪い山奥に一緒に行ったところ、行った先で儲け話の勧誘を受けた
・【追加】威迫による相談妨害
例)契約するかどうか親に電話で相談して決めたいと事業者に言ったところ、「もう大人なんだから自分で決めないとだめだ」と迫られ相談させてもらえなかった
・就職セミナー等(不安をあおる告知)
例)就活中の学生の不安を知りつつ、「このままでは一生成功しない、この就職セミナーが必要」という勧誘を事業者から受けた
・デート商法等(好意の感情の不当な利用)
例)SNSで知り合った男性と何度か連絡をして好きになった。宝石展示場に誘われて行ったところ、「買ってくれないと関係を続けられない」と男性から言われ契約した
・高齢者等が不安をあおられる(判断力の低下の不当な利用)
例)加齢により判断力が低下した消費者に対し、「投資用マンションを買わなければ、定期収入がなく今のような生活を送ることは困難である」と告げる勧誘を受けた
・霊感等による知見を用いた告知
例)「私は霊が見える。あなたには悪霊がついておりそのままでは病状が悪化する。この数珠を買わないと、悪霊を除去できない」と告げる勧誘を受けた
・契約前なのに強引に代金を請求される等(契約締結前に債務の内容を実施等)
【追加】例)事業者が、注文を受ける前に、自宅の物干し台の寸法に合わせてさお竹を切断し、代金を請求された(契約締結前に契約の目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にした)
例)別の町の事業者から、マンション投資の勧誘で会ってほしいと言われ会ったが、「あなたのためにここまで来た、断るなら交通費を支払え」と告げ勧誘された
・分量や回数などが多過ぎる場合(過量契約)
例)一人暮らしであまり外出せず、着物をふだん着る習慣もない高齢の消費者に対して、事業者がそのことを知りながら、その消費者が店舗に訪れた際に勧誘して着物を何十着も販売した
契約条項に基づいて解約料が発生する場合、事業者にはその額の算定根拠を説明する努力義務が課せられるようになります。
努力義務が課される説明の内容は、消費者に対しては「算定根拠の概要」、適格消費者団体に対しては「算定根拠(営業秘密を除く)」とされています。
現行の消費者契約法では、契約解除に伴う損害賠償や違約金の金額について「平均的な損害」の額を超える部分を無効とすることが定められています。
これについて検討会の報告書は、「平均的な損害」が意味するところが不明確であり、「消費者及び事業者の間で共通認識ができていないためにトラブルが多発している」と指摘しました。
そこで事業者に対し、違約金額が不当に高額ではなく、妥当であることを説明する努力義務が課されることになりました。消費者や適格消費者団体が説明を求めた際、事業者はその求めに応じるよう努めなければならなくなります。
免責の範囲が不明確な条項とは、例えば以下のような条項です。
「法令に反しない限り、1万円を上限として賠償します」
上記のような条項は、今回の法改正により無効となります。理由は次の通りです。
現行の消費者契約法第8条は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項」「事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項」は無効とすると定めています。
一方で軽過失に限っては、事業者の損害賠償責任の一部を免除する条項を盛り込むことが認められています。
ところが、「法令に反しない限り」といった留保文言では、軽過失の場合に適用される条項であることが不明確です。この点について検討会の報告書は「消費者の事業者に対する損害賠償責任の追及を抑制してしまい、法第8条の目的が大きく損なわれることとなりかねない点に不当性がある」と指摘しました。
そのため今回の法改正で、軽過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていない一部免責条項は無効とされることになりました。
有効となる文言としては、以下のような例示がされています。
「軽過失の場合は、1万円を上限として賠償します」
今回の法改正では、事業者に対して次のような努力義務が課されることになります。
→消費者による解除権の行使が円滑に行われるため
→消費者の理解が不十分であるときは一般的・平均的な消費者のときよりも基礎的な内容から説明を始めるなど、個々の消費者の理解に応じて丁寧に情報提供を行うことが望ましいため
消費者契約法をめぐっては、2023年1月に上記と異なる中身の法改正も施行されました。霊感商法による被害救済の拡充策です。
この法改正は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)による深刻な消費者被害が相次いで表面化してきたことを受け、2022年秋の臨時国会に改正法案が出され、12月に成立しました。
2023年1月5日にすでに施行されており、この記事で説明した改正内容とは異なります。
今回、消費者契約法は、消費者裁判手続特例法と併せて改正するものです。消費者裁判手続特例法の改正もあわせてチェックしてみてください。
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