目次

  1. プロスペクト理論とは 行動経済学の代表的な理論
    1. 「リスク回避」の原則
    2. 「損失回避」の原則
  2. プロスペクト理論における重要な3つの概念
    1. 損失回避性
    2. 参照点依存性
    3. 感応度逓減性
  3. ビジネスにおけるプロスペクト理論の応用例
    1. 損失回避を促すキャンペーン
    2. 参照価値を踏まえた価格設定
    3. 感応度逓減性が働く高額商品購入時
  4. ビジネスにおいてプロスペクト理論を活用するときのポイント
    1. 損をしたくないという気持ちに積極的に訴える
    2. 希少性をアピール
    3. リスクリバーサル
  5. 派生的な理論とビジネス実践例
    1. コンコルド効果
    2. フレーミング効果
    3. メンタルアカウンティング
  6. プロスペクト理論は普段の営業やマーケティングに活かせる

 プロスペクト理論は、行動経済学の代表的な理論であり、損得の問題に対して、人がどのように反応して行動するかをまとめたものです。

 結論からいうと、プロスペクト理論によって「人は利益を得る喜びよりも、損する苦痛の方が2倍以上強い」ということが明らかにされました。例えば、株や投資、ギャンブルで負け始めた人は、利益を優先して合理的な意思決定をするのではなく、しばしば「損を取り返したい」という不合理な心理に囚われて大金をつぎ込んでしまいます。

 また、恋愛の駆け引きにおいては、心が離れそうになっている恋人に対して「自分がいることで生じる満足感」を感じさせることよりも「自分を失うことで生じる喪失感」を感じさせることが有効な場合があります。

 プロスペクト理論を代表とする行動経済学は、このように恋愛やギャンブル、投資など私たちの日常の生活の行動にも当てはまりますし、後述するとおりビジネスやマーケティングでも応用することができます。

プロスペクト理論とは?
プロスペクト理論とは?(デザイン:吉田咲雪)

 以下では、プロスペクト理論の2つの原則について具体的に解説します。

 例えば、下記の2つの選択肢のうち、どちらを選択するでしょうか?

 ①100%の確率で90万円もらえる
 ②90%の確率で100万円もらえる

 この場合、ほとんどの人が「①100%の確率で90万円もらえる」を選びます。①も②も期待値(手に入る見込みの金額を平均値で表した数字)は同じ90万円であり、合理的に考えると①を選ぶ人も②を選ぶ人も50%になるはずです。

 しかし、「確実に90万円もらえるならもらいたい」という心理が強く働くため、②を選ぶ人がほとんどいないのです。たとえ100万円もらえる可能性があったにしても、まったくもらえない可能性(10%)をリスクとして強く感じます。

 プロスペクト理論では、損得に関する反応・行動の大きな原則として、このような「リスク回避」の傾向に注目します。利益が得られる場面において、多くの人は「利益を逃すかもしれない」というリスクを避け、より確実な方法によって利益を確保しようとするのです。

 では、次の場合はどうでしょう?

 ①100%の確率で90万円を失う
 ②90%の確率で100万円失う

 この場合は、多くの人が「②90%の確率で100万円失う」を選択します。こちらも①と②の期待値は同じ90万円ですが、「確実に90万円を失うことは避けたい」という心理が強く働くため、②を選ぶ人が多くなります。100万円失う可能性があっても、失わずに済む可能性(10%)を「損失回避できる可能性」として強く感じるためです。

 プロスペクト理論では、損得に関する反応・行動の大きな原則の1つとして、このような「損失回避」の傾向に注目します。損失を被る場面では、多くの人は「損失せずに済む選択をとりたい」と感じ、損失自体を回避しようとする傾向があるのです。

 さらに理解を深めていただくため、プロスペクト理論の重要な3つの概念について、それぞれ説明します。

 1つ目の重要概念は「損失回避性」です。上述した原則とも重なりますが、損失回避性とは、利益を求めるより損失を避ける心理的な傾向のことをいいます。人は利益を得る喜びよりも損失から来る痛みの方を大きく感じます。

 例えば、「1万円得られる喜び」と「1万円失う痛み」は同じものではなく、「1万円失う痛み」の方が2倍以上大きいといわれています。

 2つ目の重要概念は「参照点依存性」です。参照点依存性とは、絶対的な判断に基づいて物事の価値を測るのではなく、参照点(別の物事の価値)との比較によって価値を測る心理的な傾向のことです。

 例えば、今年の年収が600万円になった場合、前年の年収が400万円の人にとっては、200万円上がったとうれしく感じますが、前年の年収が800万円の人にとっては、残念に感じます。

 3つ目の重要概念は「感応度逓減性」です。感応度逓減性とは、利益や損失の絶対値が大きくなるにつれて、損得の感応度が減少する心理的な傾向のことです。

 例えば、数千万円の不動産などの高額の商品を購入する場合は、数万円のオプションの支出で生じる痛みを少なく感じます。

 では、上記の原則や概念はビジネスにおいてどのように応用されているのでしょうか。ここからは、ビジネスにおいてプロスペクト理論を活用した具体例を解説します。

 人には「損失を回避したい」という心理傾向があります。こうした「損失回避性」をマーケティングで活用する場合、以下のような施策が挙げられます。

・期間限定セール
・無料キャンペーン
・先着100名様割引

 上記の例のようなマーケティングを行うと、消費者の「今買わないと損をする」という「損失回避性」に強く働きかけることができます。

 人には「参照点との比較において価値を決定する」という心理傾向があります。この「参照点依存性」を価格設定に応用した事例として、「松竹梅の価格設定」を挙げることができます。

 松・竹・梅という3段階で価格設定するマーケティング手法は、メニューなどによく取り入れています。

 この場合、消費者は「参照点依存性」に働きかけられるため、松は「高い」、竹は「普通」、梅は「安い」と認識します。同時に、単純に松は「高い」と感じるため選ばれにくくなり、梅は「安いから満足が得られず損をするのではないか」という「損失回避性」によって選ばれにくくなります。その結果、多くの人が竹を選ぶことになります。

 家を購入する際、消費者の購買心理には「感応度逓減性」が生じます。施工価格で数千万円支払うことが決まっている場合、「大理石調のキッチンにしませんか? プラス5万円でできます」と勧められると、簡単に購入を決めてしまう傾向があります。普段は5万円の出費に痛手を感じても、家を購入する場合は既に数千万円の支出の痛みがあるため、5万円の支出に対する痛みを少なく感じるのです。

 上記のとおり、プロスペクト理論はビジネスに応用することができます。具体的に活用する際は、以下の3つのポイントを抑えるといいでしょう。

 1つ目のポイントは「損したくない」という気持ちに積極的に訴えることです。人は「得をしたい」という気持ちより、「損をしたくない」という気持ちの方が強いです。セールストークやコピーライティングをする際は、この心理を意識的に活用しましょう。

 「この商品を購入すると月に1万円得をする」という表現で得をしたい気持ちを煽るのではなく、「この商品を購入しないと月に1万円損をする」という表現で損したくない気持ちを煽る方が訴求効果が高くなります。

 2つ目のポイントは希少性をアピールすることです。希少性とは、魅力が高いが手に入らないかもしれない状態のことです。希少性をアピールすると、「魅力的な商品を得る機会を失うかもしれない」という気持ちに働きかけ、消費者に購買行動を促すことができます。

 3つ目のポイントはリスクリバーサルを意識することです。リスクリバーサルとは、消費者がお金を出す際に生じる不安を取り払うマーケティング手法のことです。リスクリバーサルの例としては、以下のような例が挙げられます。

 ・全額返金保証
 ・無料期間の設定
 ・アフターフォローの充実

 消費者は、商品を購入したいと思っても「損をしたくない」という気持ちが大きいと購入に至りません。そのため「どうなっても損をしない」と思ってもらうため、上記のようなリスクリバーサルを意識します。

 補足として、プロスペクト理論から派生する3つの理論と、それぞれのビジネスにおける活用例をご紹介します。

 コンコルド効果とは、過去に失って取り戻せないコスト(時間、お金、労力など)を惜しみ、行動が制限されてしまう心理的な傾向のことです。サンクコスト(埋没費用)効果ともいいますが、要は「もったいない」と思う心理的な傾向のことです。

 ビジネスへの活用例としては、ECサイトで「5,000円以上の購入で送料無料」と表示するマーケティング手法が挙げられます。購入する商品を確認する画面などで、5,000円に達するための商品が表示されると「もう少し買わないともったいない」と思わせることができ、結果としてより消費者の購入を促すことができます。

 フレーミング効果とは、同じ内容であっても、焦点の当て方などによって受け手の判断や選択が変わるという認知的な偏りのことです。例えば、「Go To EatキャンペーンTokyo」では、25,000円分使って20,000円支払うという「20%割引」ではなく、20,000円支払って25,000円分使えるという「25%お得」と表現していました。いずれも同じ内容ですが、同キャンペーンではメリットをアピールして利用につなげていました。

 客観的に測れるお金の価値は変わりませんが、人はお金を出所や使途で無意識に分けており、使い方も変えています。その心理的な傾向をメンタルアカウンティングといいます。

 例えば、仕事でコツコツ貯めたお金は大事に使っても、ギャンブルで儲けたお金は散財してしまうことが多いです。

 メンタルアカウンティングのビジネスにおける活用例としては、ショッピングで得たポイントが挙げられます。ショッピングのポイントは、抵抗感なく使う傾向があります。そのため、ポイントで購入できる商品を目につく場所に展示すると、効率的に商品購入へつなげることができます。

 プロスペクト理論などを扱う行動経済学を学ぶことで、人がどのように非合理的行動をするのかを知ることができ、またその知見をマーケティング施策に活かすことができます。この記事で解説したプロスペクト理論を、自社の営業活動やマーケティングでも有効活用してください。