事業者に4月から一人親方への保護義務 労働安全衛生法の省令改正
アスベスト(石綿)や電離放射線などを取り扱う危険有害な作業をするとき、事業者が保護すべき対象が2023年4月1日から「労働者」に当てはまらない一人親方や資材搬入業者などにも広がります。労働安全衛生法の改正省令が施行されるためで、厚生労働省が建設・製造業の関係事業者に周知を図っています。保護対象が拡大する背景や、事業者が気を付けるポイントについて整理しました。
アスベスト(石綿)や電離放射線などを取り扱う危険有害な作業をするとき、事業者が保護すべき対象が2023年4月1日から「労働者」に当てはまらない一人親方や資材搬入業者などにも広がります。労働安全衛生法の改正省令が施行されるためで、厚生労働省が建設・製造業の関係事業者に周知を図っています。保護対象が拡大する背景や、事業者が気を付けるポイントについて整理しました。
目次
危険有害な作業とは、事業者が労働者に対し、健康障害防止のための保護措置をとらなければならない作業のことです。労働安全衛生法第22条は次のように定めています。
労働安全衛生法第22条:事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
一 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
二 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
三 計器監視、精密工作等の作業による健康障害
四 排気、排液又は残さい物による健康障害
ただし、たとえば、一人親方は労働者ではないため、労働安全衛生法では保護対象とはなっていませんでした。
今回改正されるのは、上記の条文に基づく次の11省令です。
改正のきっかけは、石綿のばく露により健康被害を受けた作業員やその家族が国に賠償を求めた「建設アスベスト訴訟」の最高裁判決です。
2021年5月に出された判決では、労働安全衛生法上の「労働者」に限らず、個人事業主の「一人親方」らについても、「人体への危険は(法的な)労働者か否かで変わらない」などとして国の責任を認めました。
※朝日新聞デジタル「国・石綿建材業者に賠償責任 最高裁、初の統一判断 「一人親方」も救済対象」(2021年5月18日)
同種の訴訟で高裁の判断が分かれていた争点でしたが、最高裁が国の違法性を認める判断を下した形になりました。これを受け、厚生労働省が2021年10月から、労働政策審議会安全衛生分科会において対応を検討してきました。
※厚生労働省の公式サイト「第140回労働政策審議会安全衛生分科会議事録」
2023年4月1日の11省令の改正施行により、危険有害な作業をする事業者には、健康障害を防ぐため、作業やその一部を労働者でない一人親方などに請け負わせるときや他の作業に従事する人に対しても次に示すような措置を講ずる義務が課されます。作業者の種別ごとの変更ポイントは次の通りです。
作業の一部を請け負わせる場合には、請負人に対して以下の措置の実施が義務付けられます。
一人親方や他社の労働者、資材搬入業者、警備員らを含め、同じ作業場所にいる人(契約関係は問わない)に対しても、以下の措置の実施が義務付けられます。
省令改正に関する注意点は次の通りです。
省令改正によって事業者に生じる配慮義務や周知義務は、請負契約の相手方に対してです。例えば、三次下請まで作業に従事する場合は、一次下請は二次下請に対する義務を負い、三次下請に対する義務はありません。二次下請が三次下請に対する義務を負います。
また、事業者が作業の全部を請負人に請け負わせるときは、事業者は注文者の立場となり、措置義務の対象となりません。
元方事業者は、関係請負人が省令に基づいた適切な措置をせず、規定に違反していると認めるときは、必要な指示をしなければなりません。
請負人に局所排気装置などの設備を使用させる配慮義務について、配慮すれば結果が伴わなくてもよいというものではありません。何らかの手段で、労働者と同等の保護が図られるようにする義務が事業者に課されます。
周知の方法は以下のいずれかとされています。
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