PPM分析とは? 意味や分析の3ステップ、メリットや注意点を解説
PPM分析とは、経営資源の投資配分を最適化することを目的とした分析方法です。PPM分析を活用すると、事業や商品の立ち位置を可視化できます。この記事では、PPM分析の定義や手順について解説するとともに、PPM分析を活用したことによる企業の成功事例を紹介します。
PPM分析とは、経営資源の投資配分を最適化することを目的とした分析方法です。PPM分析を活用すると、事業や商品の立ち位置を可視化できます。この記事では、PPM分析の定義や手順について解説するとともに、PPM分析を活用したことによる企業の成功事例を紹介します。
目次
PPM分析とは、市場成長率(マーケットシェア)と市場占有率の二軸にもとづいて自社の事業・製品・サービスなどを分類する手法です。経営資源の最適な投資配分を決定することを目的としています。1970年代にボストン・コンサルティング・グループが提唱しました。
PPM分析を活用すると、事業や商品が市場に対してどの立ち位置にあるのかが明確になり、投資撤退の判断や投資配分についての検討が可能となります。
PPM分析では、市場がどれほどのペースで成長しているかを示す市場成長率と、市場のなかでどれだけのシェアを持っているかを示す市場占有率の二つの軸にもとづいて、事業・製品・サービスなどを以下四つのカテゴリーに分類します。
これらのカテゴリーに分類することで、戦略的な判断を下す際の明確な指針を得られます。ここでは、四つのカテゴリーがそれぞれ何を意味するのかについて解説します。
花形は、市場成長率と市場占有率の両方が高いポジションです。市場成長率の高さは、利益拡大の機会が多いことを意味します。一方、市場占有率の高さは、企業がその市場で高いシェアを獲得しており、顧客数が多いことを示しています。
ただし、高い成長率を持つ市場では多くの競合企業が参入を試み、市場競争が激化する傾向があります。そのため、花形に位置する事業に関しては、シェアを維持し続けることが重要です。
戦略としては「市場調査」や「消費者からのフィードバック」を通じて、消費者のニーズを深く理解することからはじめます。その後、消費者のニーズにもとづいて、競合他社と差別化された新製品やサービスを開発します。
開発後は、デジタルマーケティング手法などを利用して、オンラインでの製品やサービスの露出を高める強化が必要です。
具体的な事例としては、Appleの製品戦略が挙げられます。Appleは市場調査と消費者のフィードバックをもとに、ユーザーフレンドリーで独創的なデザインの製品を開発しました。そのうえで強力なブランディングとマーケティング活動をおこない、製品の差別化と市場でのリーダーシップを維持しています。
また、市場の動向を常に監視し、必要に応じて追加投資をすることで、競合からのシェアを奪い取ることも重要です。花形の事業や商品の場合、自社にとって高い収益を得るチャンスは豊富に存在しますが、そのポジションを維持するための戦略的な取り組みが不可欠になります。
金の生る木は市場占有率が高く、市場成長率が低いポジションです。市場占有率が高い事業や製品は、競合と比べて高いブランド力や優位性を築いてるため、安定した利益をもたらす可能性が高いといえます。一方で市場成長率の低さは、市場拡大の可能性が低く、将来的な成長の機会が限られていることを示しています。
例えば、成熟した市場における長年のブランド構築により、高いシェアを持つ製品やサービスが金の生る木に該当します。しかし、金の生る木は、新たな投資による大きな成果は難しいため、利益の最大化と効率的なコスト管理を目指すのが望ましい戦略です。
例えば、下記のような戦略が有効といえます。
具体的な事例としては、MicrosoftのWindowsオペレーティングシステムが挙げられます。MicrosoftのWindowsは、PC市場において高い市場占有率を持っているものの、PC市場自体の成長率は高くありません。そのため、効率的な運営とコスト管理を通じて利益を最大化し、定期的なセキュリティアップデートや機能改善を提供して顧客のロイヤルティを維持しています。
安定した利益を得ている現状を維持しつつ、成長が期待できるほかの市場や事業への投資を考慮することで、高い収益性を保てるでしょう。
問題児は、高い市場成長率を持つ一方で、市場占有率が低いポジションです。市場自体は拡大しているものの、競合に対するブランド力や優位性がまだ確立されていないため、安定した利益を上げることが難しい状況にあります。
例えば、SaaSやネット証券のように急速に成長している市場で、市場シェアを十分にとれない新規参入企業やスタートアップが問題児のポジションに該当します。問題児に該当する事業については、シェアを増やす戦略が必要です。
例えば、下記のような戦略が有効といえます。
具体的な事例としては、Netflixが挙げられます。Netflixは、もともとビデオレンタル事業を展開していましたが、オンラインストリーミングサービスを提供することで、市場に新しい価値を提供しました。
競合との差別化を図る製品開発やマーケティング活動にも積極的に投資し、市場の潜在性を生かし、時間と共に市場シェアを増加させています。成功すれば市場占有率が高まり、将来的には花形や金の生る木のポジションに移行する可能性があります。
負け犬は、市場成長率と市場占有率の双方が低いポジションです。事業や製品が成熟した市場に位置しており、なおかつ競合に比べて競争力が不足していることを意味します。
このような状況下では利益の上昇は期待できず、さらに市場の成長も鈍いため、赤字のリスクが高まると考えられます。負け犬の事業に対する戦略としては、事業撤退の検討が挙げられます。
例えば、下記のような戦略が有効といえます。
具体的な事例としては、Kodakがフィルムカメラ事業からの撤退を検討した事例があります。Kodakは、デジタルカメラの普及に伴い、フィルムカメラ事業の撤退を検討し、デジタル技術へのシフトと資源の再配分をおこないました。
しかし、この決断は遅く、Kodakは市場での競争力を失いました。この事例から、市場の動向と技術の進化を密に監視し、適切なタイミングで戦略的決定を下すことが重要であることがわかります。
撤退や縮小により得られる資金やリソースを、成長が期待できる花形や問題児のポジションにある事業へと投資することで、企業全体の競争力を高められます。
PPM分析は、事業の立ち位置を捉え、中長期的な経営戦略を立てていくのに効果的です。PPM分析は下記三つのステップで実施できるので、ぜひ導入してみましょう。
PPM分析の最初のステップでは、市場成長率の算出をします。市場成長率の算出はシンプルで、今年の市場規模を昨年の市場規模で割ることにより得られます。
ゲームのハードウェアの市場規模を例にしてみましょう。例えば、ゲームのハードウェア業界の今年の市場規模が2,099億円、前年の市場規模が2,028億円の事業の場合、計算は以下の通りです。
2,099億円(今年の市場規模)÷2,028億円(昨年の市場規模)=1.03(市場成長率) |
市場成長率が1.03となり、これは3%の成長を示しています。
実際に市場規模のデータを得るためには、経済産業省が提供するデータや、各種業界団体が公表する統計情報を用いることで、正確かつ信頼性の高い市場規模の情報を取得できます。
市場成長率を明確にした後は、市場占有率の算出が必要です。「特定の事業者の売上(金額または数量)」を「市場全体の規模(金額または数量)」で割り、その結果に100%をかけることで市場占有率を求められます。この値が大きいほど、市場における影響力が強いことを意味します。
例えば、任天堂が販売している「Nintendo Switch」を例に市場占有率を算出してみましょう。2022年の「Nintendo Switch」の販売台数の合計は「480万4,546台」です。また、同年のハードウェアの市場規模は「626万1,824台」でした(参照:ハード売上データ|ゲーム売上定点観測)。
これらを計算式に当てはめると、以下のとおりになります。
480万4,546台(任天堂スイッチの販売台数)÷626万1,824台(市場規模)×100%=76.7% |
上記の計算から、「Nintendo Switch」の市場占有率は76.7%であることがわかります。市場占有率を算出することで、ある商品やサービスの市場内での存在感や競争力を数値的に示せます。
次に、事業の分類および立ち位置の確認をします。算出した市場成長率とマーケットシェアをもとに、各事業や製品を「花形」「金の生る木」「問題児」「負け犬」の四つのポジションに分類します。
「Nintendo Switch」を例に考えてみましょう。
まず、ゲームのハードウェア業界の市場成長率は「1.03」なので、低いポジションといえます。一方、「Nintendo Switch」の市場占有率は「76.7%」のため、高いポジションです。そのため、「Nintendo Switch」は、市場占有率が高い一方で、市場成長率が低いポジションの「金の生る木」であると分類できます。
このように、各製品や事業の立ち位置を明確にすることで、戦略の策定がスムーズに進められるのです。
PM分析を実施する最大のメリットは、下記の二つです。
自社の各事業の立ち位置が把握できれば、事業の優先順位を明確に設定できます。これにより、資源(人材、資本、時間)の配分を効果的におこなえます。結果、資源を適切に配分し、ROI(投資対効果)を最大化することにもつながるでしょう。
また、将来性を加味した事業判断が可能です。例えば、低い市場占有率や市場成長率を示す事業は、企業にとってコスト削減の機会を提供します。事業の撤退や再構築を検討することで、不必要なコストを削減し、収益性の改善が可能です。
PPM分析は、経営陣にとって明確な事業の立ち位置と方向性を提供します。これにより、意思決定プロセスが効率化し、迅速な判断が可能となります。
PPM分析は経営の戦略を考えるうえで効果的な分析手法ですが、万能ではありません。ここでは、主な注意点を二つ紹介します。
PPM分析を実施する際の注意点として、新規事業には向いていないことが挙げられます。新規事業の場合、事業や製品のポジションを評価するのに必要な判断材料が、十分でないことが多いためです。
例えば、新しい市場や技術が生まれた段階では、市場の規模・成長の動向・競合状況などの情報が不足していることが一般的です。このような状況でPPM分析を適用しても、正確な事業のポジショニングや適切な戦略の策定は困難です。
したがって、新規事業の立ち上げや市場の初期段階においては、事業の内外の要因を理解するための「SWOT分析」など、ほかの分析手法やアプローチの検討が望ましいでしょう。
PPM分析には、ほかの事業との関係性を考慮した分析が難しいといった問題点もあります。PPM分析が、主に事業単体の市場成長率と市場占有率にもとづいて評価をおこなう手法であるためです。
例えば、ある事業が別の事業の成功をサポートする役割を果たしている場合、その相互の関係性や価値はPPM分析の結果には反映されづらくなります。
また、主力事業のサポートや補完を目的とした新しいサブ事業が存在する場合、市場占有率や市場成長率が低くても、主力事業との関係性から見ればそのサブ事業には大きな価値があるかもしれません。
ほかの事業との関係性を考慮しづらいことを意識しながら、PPM分析を実施していく必要があります。
PPM分析を活用することで成功を収めている企業は数多く存在します。ここで紹介する2社の成功事例を知り、自社でのPPM分析の活用に生かしましょう。
ソニーは、PPM分析の成功事例として多くのビジネススクールや経営者に学ばれています。
2000年代初頭、主力事業であったAV機器やパソコンの業績が低迷していたため、ソニーはPPM分析を用いてこれらの事業の将来性や競争力を深掘りしました。分析の結果、これらの事業が「負け犬」としての特性を持っていることが明らかになったのです。
そこで、ソニーはAV機器事業の規模縮小とパソコン事業の売却を決めました。同時に、市場成長率が高いゲーム事業や音楽事業へのシフトを進めました。
結果として、ソニーはPlayStationシリーズを中心としたゲーム事業や音楽配信事業で高い市場占有率を達成し、事業の再構築や企業としての競争力の回復に成功しています。
多岐にわたって飲料事業を展開するサントリーホールディングス(以下サントリー)も、PPM分析の成功事例として広く知られています。
サントリーはウィスキー事業とビール事業の違いを明確に捉え、それぞれの事業のポジションに合わせた戦略を実行してきました。
例えば、ウィスキー事業は高品質な製品とブランド力を背景に安定した利益を上げており、市場占有率も高いことから「金の生る木」として位置付けられています。
一方、ビール事業については、サントリーが参入した当初、競合他社との厳しいシェア争いのなかで「問題児」としての特性を持っていました。
そこで、サントリーが取り組んだのは、独自のブランド戦略やマーケティング活動の展開です。また、ほかの事業からの資金を再投資する形で、ビール事業への支援を強化しました。
結果、サントリーのビール事業は市場において確固たる立ち位置を獲得し、「花形」の事業へと成長を遂げました。
PPM分析とは、企業の事業や製品の立ち位置を明確にし、戦略的意思決定を支援する枠組みです。PPM分析は、市場成長率と市場占有率の二つの主要指標にもとづいて、製品や事業を「花形(Star)」「金の生る木(Cash Cow)」「問題児(Problem Child)」「負け犬(Dog)」の四つのカテゴリーに分類します。
これにより、企業は各製品や事業のパフォーマンスとポテンシャルを一目で把握し、資源の配分や戦略の方向性の最適化につなげられます。PPM分析は、競争の激しいビジネス環境で賢明な戦略的判断を下すために有効な手法となるので、この記事を参考にPPM分析を取り入れてみましょう。
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