目次

  1. 基本給とは?押さえておくべき基礎知識
    1. 基本給に固定の諸手当をあわせたのが「月給」
    2. 月給に変動手当をあわせたのが「月収」
    3. 月収から控除項目を差し引いたのが「手取り」
  2. 基本給が影響を及ぼす手当や控除
    1. 賞与(ボーナス)
    2. 残業代(時間外手当)
    3. 退職金
    4. 社会保険料
  3. 基本給の決定方法
    1. 属人給型(年齢・勤続年数)
    2. 仕事給型(能力・業務内容)
    3. 総合給型
  4. 基本給を設定する際の注意点
    1. 業界や地域の平均値を把握する
    2. 最低ラインを下回らない
    3. 雇用形態の違いに留意する
  5. 適正な基本給を設定しよう

 基本給とは、給与の大部分を占める固定的な賃金(労働の対価として企業が従業員に支払うものの総称)のことです。「1時間」「1カ月」と労働時間に応じて保証されている賃金で、給与明細の支給項目欄に記載されています。

 企業によっては基本給を「属人給」や「業務給」などさらに細分したり別名称にしたりされますが、給与の大部分を占める固定的な賃金という点では変わりありません。

 詳しくは後述しますが、基本給に固定的な諸手当を加えたものが「月給」、月給に残業代など変動的な手当を加えたものが「月収(額面)」と呼ばれます。

 また、月収から税金や社会保険料など控除項目を差し引いたものが「手取り」となります。

基本給・月給・月収・手取りのイメージ図
基本給・月給・月収・手取りのイメージ図(著者作成)

 月給とは、基本給に固定的な諸手当をあわせた金額のことです。代表的な固定手当として、通勤手当・住宅手当・役職手当などが挙げられます。「月給」表記は、求人などでよく使われ、同じ意味合いで「固定給」と呼ばれることもあります。

 勤怠状況にあわせて毎月計算される時間外勤務手当(残業代)・深夜手当・休日手当といった変動的な手当は月給に含まれません。

 月収とは、月給に変動手当を加えた金額です。給与明細では総支給額の部分に相当します。月収を厳密に求める場合には、ボーナス(賞与)を支給対象期間で割った金額を加算します。

 たとえば、月給25万円に残業代が月2万円、半年に1度のボーナスが30万円の場合、月給は25万円、月収は32万円となります。

月収の計算例
25万円 + 2万円 +(30万円 ÷ 6カ月)=32万円

 手取りとは、月収から税金や社会保険料などを控除した金額のことをいいます。代表的な控除項目は以下のとおりです。

  • 所得税
  • 住民税
  • 雇用保険料
  • 健康保険料
  • 介護保険料
  • 厚生年金保険料
  • その他労使協定で定められたもの

 控除項目のうち、後ろに保険料とついている項目が社会保険料と呼ばれるものです。社会保険料は、社会保険に加入している人のみが控除対象となります。

 所得税・住民税は月収が一定の基準(約88,000円)を超えると発生する税金です。

 基本給は就職や転職の際に必ず確認される項目です。なぜかというと、基本給は賞与(ボーナス)や残業代などの計算の基礎となる非常に重要な項目であるためです。

 賞与の支給は企業の任意であり、賞与の計算式は企業によって異なります。しかし、賞与を「基本給 × 〇カ月分」としている企業がほとんどです。求人でも賞与の欄では「基本給〇カ月分(昨年実績)」と記載してあることが多い傾向です。

 基本給を元に計算すると、月収が同じ金額であっても賞与では差が出てきます。たとえば、月収が30万円のAさんとBさんについて、Aさんは基本給25万円、Bさんは基本給18万円だとして賞与を2カ月分で計算するとその差は14万円となります。

Aさん(基本給25万円 + 固定手当5万円)
賞与…25万円 × 2カ月=50万円
Bさん(基本給18万円 + 固定手当12万円)
賞与…18万円 × 2カ月=36万円

 基本給と残業代は比例するため、企業が昇給を検討する際には残業代も相応に増加することを見込む必要があります。

 残業(時間外労働)をした場合には、所定の割増率で計算した賃金(割増賃金)を支払う必要があります。残業により支払われる賃金がいわゆる残業代です。

 残業のほか、22:00から翌日5:00間の深夜労働や法定休日に働く休日労働も同様に割増賃金の支払が必要です。

 割増賃金の計算基礎は基本給と固定手当を含めた月給ですが、次の7つの手当は除きます。

1.家族手当
2.通勤手当
3.別居手当
4.子女教育手当
5.住宅手当
6.臨時に支払われた賃金
7.1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(年2回のボーナスなど)

参照:労働基準法第37条第5項労働基準法施行規則第21条丨e-Gov法令検索

 退職金の計算では基本給に支給率を乗じたり、一定期間ごとに基本給の〇%を積み立てたりと方法はさまざまですが、多くは基本給をもとに算出されます。

 退職金は賞与と同様、支給有無や計算式は企業の任意となります。退職金は社内準備制度のほか、中小企業退職金共済制度など外部の制度を利用する方法があるため、どの制度を利用するべきかも検討しましょう。

 控除項目の一つである社会保険料の計算にも基本給は関係しています。健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料については、「標準報酬月額」と呼ばれる月の平均的な月収額を元に算出しているためです。標準月額報酬は、4・5・6月の平均月収を「標準報酬月額等級区分」にあてはめて決定します。なお、時給制や日給制のアルバイトなど支払基礎日数が17日未満の月がある場合はこの限りではありません。

 標準報酬月額は年に1度決定されるほか、基本給や固定手当に大きな変動があった際に見直しがおこなわれます。そのため基本給の変動は社会保険料に影響を及ぼします。

 基本給は、年齢、学歴、勤続年数、職務遂行能力、業績・成果など従業員の性質や属性、または従事する業務の成果といった要素によって決定されます。基本給を決める際に重視する要素によって3つの決定方法があります。

・属人給型
・仕事給型
・総合給型

基本給の要素と決定方法のイメージ
要素と決定方法のイメージ(著者作成)

 属人給型は、高卒・大卒といった学歴や年齢・勤続年数など、本人の属性を重視して基本給を決定する方式です。年齢・勤続年数で基本給が決定するいわゆる年功序列制度でもあり、従業員は企業への帰属意識を持ちやすいというメリットがあります。

 仕事給型は、職務遂行能力や職務・業務内容、仕事の業績・成果など、従事する業務に伴う要素を重視して基本給を決定する方式です。ポテンシャルや努力を評価する部分が大きいので経験が浅くても基本給が高めに設定されることもあり、従業員のモチベーション向上が期待できるというメリットがあります。

 総合給型は、属人的な要素と業務に伴う要素のどちらも考慮して基本給を決定する方式です。多くの日本企業で採用されています。具体的には、年齢・勤続年数で等級があがり、業績・成果を号給で評価するイメージです。

 下記表のように、横軸の等級が年齢・勤続年数によって決定され、縦軸の号給が業績・成果などによって評価する方式が総合給型です。

総合給型の等級・号給表のイメージ
総合給型の等級・号給表のイメージ(筆者作成)

 最後に、基本給を決める際の注意点を3点説明します。

・業界や地域の平均値を把握する
・最低ラインを下回らない
・雇用形態の違いに留意する

 基本給が業界や地域の平均値より低いと思うように人材が集まりません。また、就職したとしてもより基本給の高いところに転職する可能性もあるため、事前に平均値を把握することは採用や人材定着において重要です。

 業界別、都道府県別の平均値をみるには厚生労働省の「賃金構造基本調査」より産業別もしくは都道府県別のページをみるとよいでしょう(参照:令和5年賃金構造基本調査|厚生労働省)。

 なお、賃金構造基本調査や下記にある産業(業界)別賃金の表、および都道府県別賃金の表でいう賃金とは、月給のことを指します。

産業 男女計賃金
全平均 318,300円
電気・ガス・熱供給・水道業 410,200円
学術研究、専門・技術サービス業 396,600円
情報通信業 381,200円
医療、福祉 298,000円
宿泊業、飲食サービス業 259,500円
 都道府県(全国順位) 男女計賃金
全国計 318,300円
東京(1位) 368,500円
神奈川(2位) 350,400円
大阪(3位) 340,000円
栃木(4位) 323,000円
愛知(5位) 321,800円

 賃金には法律により最低ライン(最低賃金)が定められています。地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があり、地域別最低賃金はすべての労働者の賃金に対して適用されます。

 一方で、特定最低賃金は特定の産業または職業について設定される最低賃金です。労使の申出により審議会の調査を経て決定され、適用は認められた企業のみとなります。

 下記は、厚生労働省が提示する「令和5年度地域別最低賃金改定状況」を参考にした、地域別最低賃金表の一部です。

都道府県(全国順位) 1時間あたりの最低賃金
全国加重平均 1,004円
東京(1位) 1,113円
神奈川(2位) 1,112円
大阪(3位) 1,064円

 たとえば、東京で160時間働いてもらうとした場合、基本給部分を1,113円 × 160時間 = 178,080円以上で設定しなければなりません。

 地域別最低賃金は毎年10月に改定がおこなわれるので、毎年確認するようにしましょう。最低ラインを下回ると、地域別最低賃金の場合は最低賃金法違反となり50万円以下の罰金、特定最低賃金の場合は労働基準法違反となり30万円以下の罰金が科される恐れがあります。

 2021年4月1日より同一労働同一賃金のルールが全面施行されました。これは雇用形態の違いのみを理由として基本給や手当など労働条件に不合理な差をつけることを禁止するものです。

 たとえば、正社員と有期契約社員(非正規社員)に対して同じ内容の業務や責任の程度であるにも関わらず、雇用形態の違いのみを理由に基本給で差をつけると違法となります。

 問題となるのは、以下のようなケースです。

・通勤手当について、非正規社員は雇用期間に定めがあり職務内容が正社員と異なるため支給しない
・賞与について、非正規社員は人事評価をおこなっておらず、貢献度を評価できないため支給していない

 同一労働同一賃金ルールに罰則はありません。ただし、訴訟リスクはあるため複数の雇用形態がある場合は、基本給をはじめとする労働条件の差が不合理なものとなっていないかよく注意しましょう。

 基本給とは、給与の大部分を占める固定的な賃金のことをいいます。基本給の決定方法は年齢・勤続年数を重視する属人給型や能力・業務内容を重視する仕事給型、それらを掛け合わせた総合給型があります。

 基本給は、賞与(ボーナス)・残業代・退職金に影響を及ぼすため、従業員にとっても企業にとっても重要な金額となります。なお、基本給を決める際は、最低賃金を下回ると違法となるため注意してください。

 賃金の平均値や雇用形態を考慮して、無理のない適切な基本給を設定しましょう。