目次

  1. 職場崩壊とは?
    1. 職場崩壊のプロセス
    2. 職場崩壊が起きた企業の末路
  2. 職場崩壊の7つの前兆
    1. 管理職者のマネジメント不全
    2. 社員間のコミュニケーションの減少
    3. 社員の就労意欲の低下
    4. 職場秩序の乱れ
    5. 職場におけるハラスメントの発生
    6. 生産性・業務品質の低下と顧客クレームの増加
    7. 休職者・離職者の発生
  3. 職場崩壊を防ぐために企業ができること
    1. 社員、特に管理職者のリーダーシップの強化
    2. マネジメントスキル獲得ができる学びの提供
    3. 社内コミュニケーションの改善
    4. 労働時間・業務量の確実な把握
    5. 社員一人ひとりが働きやすい職場環境の提供
    6. 定期的なサーベイの実施とPDCAサイクルでの改善
  4. 職場崩壊の前兆がありながら立て直した会社の事例
    1. 存在意義を定義付けし、モチベーションを回復した事例(パーソルホールディングス)
    2. 徹底した対話で社内風土を変え、業績も立て直した事例(側島製罐)
  5. 職場崩壊が発生する前に経営課題として対応を

 職場崩壊とは、職場である組織が職場としての役割を果たせない状態になることを、比喩的に指す言葉です。チーム単位、プロジェクト単位でも起こりうるほか、結果として部署、企業そのものが機能不全になってしまう状況もあり得ます。

 一度職場崩壊が発生してしまうと、業務配分が適切に行われず恒常的な残業が行われたり、人員不足によって逼迫した状況になったりするなど、従業員の労務管理にきわめて大きな影響が出ます。

 また、組織内での生産性が低下することによって十分な商品・サービスの供給ができなくなり、事業そのものの継続が危ぶまれる事態も生じます。したがって、企業は経営課題として対策を行う必要があるのです。

 職場崩壊はある日突然起こるのではなく、段階的にプロセスを経て進行していきます。例えば、すでに下記のような段階を経ている場合、職場崩壊が起こっている可能性があるでしょう。

職場崩壊のプロセス
初期段階 職場における些細な不満や軋轢、些細なミスの発生
中期段階 社員間のコミュニケーション不足、モチベーション低下
後期段階 離職率の上昇、生産性の低下
最終段階 組織の機能不全、事業継続の危機

 一つひとつは小さな出来事ではありますが、段階を経るごとに対策が難しくなっていくため、初期段階で食い止めることが重要です。

 ひとたび職場崩壊が起きてしまうと、さまざまな観点で大きな影響が生じます。

 社員の労働意欲の低下やメンタルヘルスへの影響による休職・離職の発生、それに伴う人手不足から余裕が無くなり、さまざまなハラスメントが生じるリスクが高まります。

 労働力を補うために採用コストが膨らみますが、十分なOJT(職場内訓練)の機会を提供できないと定着に至らず、さらに採用が難しくなるでしょう。

 また、一つの部署で崩壊が起こると、その崩壊を食い止めるために他部署の人員が配置されることもあり、連鎖的に企業全体へ負の影響が生じます。そのために、ステークホルダーへの対応に不足やタイムラグが生じ、顧客離れを招く恐れがあります。取引先企業や顧客からの信頼が低下することで、ブランドイメージが棄損される可能性もあるでしょう。

 社会的評価が下がれば株主からの信用も失い、事業継続それ自体が難しくなる場合も少なくありません。職場崩壊は、倒産や廃業の可能性もあるリスクなのです。

 職場崩壊はある日突然起こるのではなく、必ず前兆を伴います。職場の現状を注意深く観察し、早期に対策をとることで崩壊を食い止めることは可能です。

 ここで紹介する7つの前兆を参考に、職場の状態を把握しましょう。

職場崩壊の7つの前兆
・管理職者のマネジメント不全
・社員間のコミュニケーションの減少
・社員の就労意欲の低下
・職場秩序の乱れ
・職場におけるハラスメントの発生
・生産性・業務品質の低下
・求職者・離職者の発生

 職場崩壊が起きかけると、部署を束ねる管理職者が部署内を統括できなくなり、社員個々人の情報把握が難しくなります。

 管理職者のリーダーとしての資質、特に職場を束ねる力が弱くなると、社員それぞれがどのような状況下で働いているのかを管理しきれません。これにより、職場の秩序が維持できなくなります。

 結果として、特定の社員に業務負担が偏ったり、部署全体の疲労感が増したりする影響が出ます。

 社員同士のコミュニケーションの総量が減るのも、職場崩壊の前兆です。コミュニケーションが減少すると、業務に必要な情報伝達が行われなくなるほか、他の社員がどのような業務を行っているのかといった周囲への目配りが不足します。

 そのため、「自分だけが頑張っている」といった自己奉仕バイアスなど認知の歪みが生じやすくなり、職場の統制がとりにくくなります。

 職場崩壊の前兆の一つに、社員の自発的な行動や主体的な提案などが減り、指示待ちになったり、言われたことだけを行うようになったりするケースが挙げられます。自分に与えられた待遇や業務量に不満を持ったり、業務の成果に対する見通しが持てなかったりして、就労意欲自体を減退させていきます。

 自分の成長につながるような経験でも、負荷が高ければ難色を示し、消極的に抵抗するのも特徴です。

 社員のモラルや就労意欲が落ち、職場秩序を維持することにモチベーションが働きにくくなっていると感じたら、職場崩壊が始まっているかもしれません。「職場の整理整頓が行われない」などは、重大な職場崩壊のサインです。

 勤怠や風紀が乱れがちになると、生産性が低下します。また、モラルが欠如した社員はハラスメント行為の当事者になったり、適切な業務指導に対しパワハラを訴えたりするなど、問題を引き起こす原因にもなります。

 職場崩壊が始まりかけると、社員間のコミュニケーションが減少し、パワー・ハラスメント(パワハラ)やセクシャル・ハラスメント(セクハラ)の疑い、ないし明確な事案が発生します。社員同士に物理的にも精神的にも余裕がなくなってくるため、些細なことでもトラブルの火種になります。

 当事者に対して会社が処遇決定を検討している間に、別のハラスメントが発生することもあります。

 職場において通常達成可能な目標が達成できなくなってきたら、職場崩壊の前兆かもしれません。一つひとつの業務の品質が劣化し、顧客からのクレームが発生する可能性もあります。

 クレームに対応することでまた人員が割かれてしまうため、本来の業務を行う時間が減少し、生産性が悪化します。悪化した生産性をカバーするため、残業時間が増加することもあります。

 業務過多やパワハラ・セクハラなどの影響で、休職者・離職者が発生します。こうした欠員により、残っている社員に負荷がかかり、さらに休職者・離職者を生み出すという負の循環が生じます。

 業務量の低減や納期の調整、人員の補充など改善の見込みが示せず、将来の見通しが持てない状況下では、この傾向が高まります。

 職場崩壊が起こってしまうと対策は困難です。そのため、職場崩壊を起こさないために予防的措置をとることが重要です。

 ここでは、平時より行いたい取組を6つご紹介します。

職場崩壊を防ぐために企業ができること
・社員、特に管理職者のリーダーシップの強化
・マネジメントスキル獲得ができる学びの提供
・社内コミュニケーションの改善
・労働時間・業務量の確実な把握
・社員一人一人が働きやすい職場環境の提供
・定期的なサーベイの実施とPDCAサイクルでの改善

 管理職者がリーダーとして適切な統制を取ることは、職場崩壊の大きな抑止になります。また、社員一人ひとりがリーダーシップを発揮できる体制を整えておくことで、モチベーションの向上も期待できます。

 リーダーシップ研修や育成プログラムを導入し、平時より自身にあったリーダーシップの発揮の仕方を身に着けておくとよいでしょう。

 業務に対し必要な工数や人員数を見積もり、企業の持つリソースの配分を適切に行っていくためには、マネジメントスキルが必須になります。また、部下育成のための指導・フィードバックの方法や、ハラスメントが発生したときに適切に対処するための知識もマネジメントを行う上で必須のものです。

 こうした知識を得るための研修や、他部署・他社での情報共有の場など、学びを得られる機会の提供を行っておくことが望まれます。

 職場は仕事の場であり、むやみやたらに雑談を行う必要はありません。しかし、対話なしには、必要な情報把握や配慮を行うことは困難です。

 適切な自己開示の方法を知ったりタイミングを学んだりするために、定期的な1on1ミーティングのような対話の機会を設ける取組を行い、コミュニケーションの質を改善していきましょう。

 特定の個人に業務負荷が偏ったり、人員数でさばき切れない業務を抱えていたりする状態では、疲労感が抜けずミスやハラスメントが発生しやすい環境になります。そのような状況を放置すると、休職者・離職者の増加につながりかねません。

 個々人の抱える業務量と負担感を把握し、進捗管理を行って適切な介入をしていきましょう。

 社員のキャリア志向や働き方、価値観を尊重しつつ職場において能力が発揮できるよう、多様な就労環境や柔軟な働き方を整備します。

 また、ハラスメントを許さないというトップメッセージの発信や研修の実施、相談窓口の整備などは、職場環境を守ろうとする組織の意思の現れです。風通しのよい、不満の芽を早期に解消できる環境づくりをすすめて行きましょう。

 社員の働き甲斐を調べるワーク・エンゲージメントや職場に対する満足度を調べる従業員満足度調査(ES)などのサーベイを活用し、組織の状況を定期的に把握しましょう。

 そのうえで、どこが組織の課題になっているのかを分析し、その改善のための取組を社員に提示しながら行っていきます。組織が主体的に改善行動を行い、その過程を開示することは、社員の安心感や就労意欲につながっていきます。

 エンゲージメントサーベイについては、下記記事で詳しく解説しています。

 職場崩壊の前兆がある、または崩壊しかかっている状態でも、組織が適切な対応により食い止めることが可能です。ここでは、実際にそのような状況を回避した会社の事例を2つご紹介します。

 総合人材サービスのパーソルグループでは、複数の会社が経営統合した経緯があります。そのため、パーソルホールディングスの情報システム部門ではグループ基幹システムの統廃合など難度の高いプロジェクトを数年にわたり多数抱え、メンバー全員が疲弊している状況でした。

 辞職者も相次いでいたタイミングで責任者に就任した朝比奈ゆり子氏は「自分たちが何をする部署か」の定義づけを行い「社員向けのサービス」を考えて提案。少しずつメンバーのモチベーションも回復し、生産性も向上しました(参照:「垣根を超えて越境、協創し、イノベーションを起こす!」イベントを開催!|note SALA Digital Lab)。

 1906年創業の老舗缶メーカー・側島製罐は徹底したトップダウン経営で、社内では怒号が飛び交い挨拶もままならない状況であり、売上もじりじりと減益傾向にありました。そこに次期社長として入社した石川貴也氏は、社員一人ひとりとの対話を重視し、社員と共に企業理念を策定します。

 ほかにも、自己申告型報酬制度を採用するなど、自律分散型で働く仕組みをつくり続け、ティール組織への組織変革を実現。生産性も向上し、業績は年々1億以上の積み増しに。中小企業における企業経営の成功事例としても注目されています(参照:”中小企業型ティール組織”という新しい未来への挑戦|石川貴也)。

 職場崩壊は静かに進行しますが、必ず前兆を伴うものです。些細なものだからと対策を先送りしていると、手の付けられない状況まで一気に進行しかねません。職場環境や労務管理を行いつつ、前兆が見えた際には早期に対策を講じて、企業リスクを減らしましょう。