エンゲージメントサーベイとは 効果やデメリット・質問項目の考え方
エンゲージメントサーベイとは、従業員の働きがいを調べるための調査です。この記事では、誤解も多いエンゲージメントサーベイの意味や手法、見込まれる効果や効果を出すための注意点及び実施手順について、人事評価制度に詳しい社労士が解説します。
エンゲージメントサーベイとは、従業員の働きがいを調べるための調査です。この記事では、誤解も多いエンゲージメントサーベイの意味や手法、見込まれる効果や効果を出すための注意点及び実施手順について、人事評価制度に詳しい社労士が解説します。
目次
エンゲージメントサーベイとは、多くの場合、従業員のワーク・エンゲージメント(働きがい)に関する調査を指します。
エンゲージメントサーベイの目的は、従業員のやる気や組織への関与度を図ることです。エンゲージメントサーベイの実施により、組織における従業員の状態や課題が定量化され、またその改善を行った結果の効果が見えやすくなります。
「エンゲージメント」は非常に多義的に使われている言葉です。
経産省が2022年に発表した「未来人材ビジョン」では、「『エンゲージメント』は、人事領域においては、 『個人と組織の成長の方向性が連動していて、互いに貢献し合える関係』といった意味で用いられる」というギャラップ社の定義を採用しています(参照:「未来人材ビジョン」p.34|経済産業省)。
ここでいうエンゲージメントとは、学術的にはワーク・エンゲージメントと呼ばれる概念です。ワーク・エンゲージメントは、ウィルマー・B・シャウフェリ教授らが提唱した概念で、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態のことを指しています。
ワーク・エンゲージメントの構成要素は活力 (Vigor)、熱意(Dedication)、没頭(Absorption)の3要素で、これらを高めることが働きがいに繋がっていくといわれています。(参照:ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化|日本職業・災害医学会会誌 63巻4号)。
活力 (Vigor) | 就業中の高い水準のエネルギーや心理的な回復力。仕事から活力を得ていきいきとしていること |
熱意(Dedication) | 仕事への強い関与、仕事の有意味感、誇り。仕事に対し熱意、誇りを持っていること |
没頭(Absorption) | 仕事への集中と没頭。仕事に熱心に取り組んでいること |
エンゲージメントと混同されやすいものに、従業員満足度(従業員エンゲージメント、ES)があります。
従業員満足度は、職場の労働条件や福利厚生、人間関係などに対する従業員の満足度を図る調査です。組織コミットメント(組織への帰属意識)を含むこともあります。エンゲージメントが個々人の労働者の熱意や仕事への姿勢を図る調査であるのに対し、従業員満足度調査は仕事そのものへの姿勢に加え、組織や環境も含めた満足度を調べる目的で行われます。
組織はエンゲージメントや従業員満足度の調査により、自社で働く従業員のやりがいやモチベーションの状態を知ることが可能です。そのうえで、従業員の定着率の施策や生産性向上の取り組みなど、組織の改善に活用しています。
エンゲージメントサーベイには、大きく分けてセンサスサーベイと呼ばれる調査手法と、パルスサーベイという調査手法があります。
センサスサーベイは長期間にわたってデータを取得し、多角的に組織の問題を検討改善するのに効果的です。一方、パルスサーベイは短期間で大まかなデータを取得し、早期改善を目指すときに活用されます。
それぞれの違いを下記にまとめました。
センサスサーベイ | パルスサーベイ | |
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目的 | 長期間にわたり、定期的に、詳細なデータを取得し、組織の改善に利用する | 短期間で大まかな問題について設問でのデータを取得し、組織の改善に利用する |
実施頻度 | 年1回、数年に1回など低頻度 | 週1回、月1回など高頻度 |
設問数 | 多い | 少ない |
効果 | 長網羅的に設問を設定することができるため、多角的に組織の問題を検討改善できる | 早期に組織の問題を発見し、改善につなげることができる |
活用イメージ | 長期的な視点で複合的に組織の問題点を定期的把握し、根本的な課題の発見と解決につなげる | 短期的な視点で組織の問題を把握し、PDCAの効果を確認する |
エンゲージメントサーベイの実施には、さまざまな効果やメリットがあります。
ここでは、代表的な内容を三つご紹介します。
民間会社の調査によれば、エンゲージメントが高い社員はそうでない社員に比べ、現在働いている企業への残留意図(その企業で働き続けたいと考える程度)が顕著に高いことがわかっています(参照:エンゲージメントは本当に 企業の業績につながるのか? p.6|エンゲージメントコンパス)。
したがって、エンゲージメントサーベイの調査により、従業員の定着率の予測ができ、採用計画や人材育成計画を効果的に立てることができます。
エンゲージメントが高いほど自己啓発学習への動機づけや創造性が高くなり、積極的に仕事に取り組むことが知られています(参照:ワーク・エンゲイジメントに注目した個人と組織の活性化|日本職業・災害医学会会誌 63巻4号)。
エンゲージメントサーベイによって組織における課題を発見できれば、従業員の生産性を高めるために効果的な施策の立案ができたり、その施行の影響を調べたりすることができます。
エンゲージメントサーベイでは、目的に応じてさまざまな設問を設定できます。そのため、組織の問題を大きく把握したいときや、言語化できていない職場風土、組織文化、カルチャーを客観視したいときにも役立ちます。
こうしたまだ言語化できていない問題や課題を顕在化させ、認識することができるのはエンゲージメントサーベイの実施意義の一つです。
エンゲージメントサーベイを実施する際には、何を目的として行うかを明確化することが重要です。それによって採用する方法も異なり、その後のPDCAのアプローチも異なってくるからです。
効果の高いエンゲージメントサーベイを行うには、質問設計が重要になります。また、自社で設計するのではなく、製品として販売されているサーベイを購入する場合も、目的にかなった設問であるかどうかを判断することが重要です。
質問項目を設計する際は、測定したい内容を聴取できるようにする必要があります。
センサスサーベイとして行う場合は、複数の側面から設定しておくと網羅的に組織の課題を抽出できます。
パルスサーベイで実施する場合は設問数が絞られるため、組織の課題を仮置きし、従業員が回答しやすい項目で設定していきましょう。
ここでは、ワーク・エンゲージメントを測定する場合に各領域においてどのような設問項目が考えられるか、作問の具体例をご紹介します。
エンゲージメントサーベイの質問項目:仕事から活力を得ているか |
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・仕事をすることに喜びを感じる ・自分の役割や職場にやりがいを感じる ・自分の仕事はきちんと評価されていると感じる ・与えられた仕事は自分に見合ったものであると思う ・与えられた仕事で自分の特性、得意領域を活かす機会がある ・会社のビジョンや将来像に共感できる ・今のチームメンバーと働くことは自分にとってよい影響があると思う ・この会社で働くことは自分にとってポジティブな影響がある ・この会社では公正にものごとが取り扱われていると思う |
エンゲージメントサーベイの質問項目:仕事に対する熱意はあるか |
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・ここで働けることを誇りに思う ・この会社の商品・サービスを自分の知人や友人にぜひ勧めたいと思う ・仕事に当たり、必要なリソースや情報を利用できる環境にある ・仕事に必要十分な時間を確保することができている ・自分はこの仕事を通じて成長できている ・3年後もこの会社で働き続けたいと思う ・自分は知人や友人にこの会社で働いていることを積極的に話している ・知人や友人に対し、この会社で働くよう働きかけたいと思う |
エンゲージメントサーベイの質問項目:仕事への能動的な取り組み姿勢があるか |
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・自分の姿勢は会社と同じ方向に向かって進んでいると思う ・自分の役割が会社の成功にどう関係しているかを理解している ・担当している仕事は挑戦しがいのあるものである ・会社内で自分のキャリアがどのようになっていくか、展望を描ける ・自分は期待されているパフォーマンス以上の働きをしたいと思う ・自分の意見は尊重され、受容されていると感じる |
エンゲージメントサーベイの設問項目を作成するにあたっては、次のような内容に注意する必要があります。
エンゲージメントサーベイを実施する際の一般的な手順は、下記のとおりです。
エンゲージメントサーベイを実施する手順 |
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1.実施目的の明確化及び共有 2.調査手法・ツールの選定と質問票・回答票の作成 3.エンゲージメントサーベイの実施 4.回答票の分析と改善点の洗い出し 5.エンゲージメントサーベイの再実施 |
エンゲージメントサーベイの目的を明確化することがスタートになります。サーベイ調査は従業員にも負担をかけるものであるため、「何のために行うのか」「その結果をどのように活用するのか」を社内で丁寧に共有しましょう。これにより、従業員の回答精度の向上が見込め、より正確なデータを得ることができます。
なお、この段階で調査対象者も決定します。例えば、若手社員の離職防止のための調査であれば30歳未満に限定して実施する、女性社員のポジティブアクションを目的とした調査であれば女性社員に限定して実施するなどが考えられます。
このように全社員を対象とせず、回答者を限定する場合は、回答により個人が特定されないよう十分な配慮が必要です。
エンゲージメントサーベイの目的にかなう調査方法を選定します。センサスサーベイ、パルスサーベイに加え、目的によってはヒアリングでの定性的調査を行うこともあります。この段階で、自社で調査票を作成するのか、既成の調査票を利用するのかも検討しましょう。
調査手法を決定したら、次は設問項目を決定し、質問票と回答票を作成します。作問にあたっては上記の注意事項に留意し、特定の属性の従業員が答えにくいものになっていないか、一定の回答に誘導するものになっていないかなど、実際にテスト回答をしながらチェックします。
エンゲージメントサーベイの質問票が完成したら、調査対象者に回答期間を通知して配布します。回答期間はセンサスサーベイで1~2週間程度、パルスサーベイで1~3日程度で設定するとよいでしょう。
その際、回答に当たって必要な所要時間を示すと、従業員の心理的な負担軽減につながります。
エンゲージメントサーベイを実施したら、回収した回答の分析を行います。
分析に当たっては数値そのものに注目するほか、AとBの事柄に何らかの関係性があることを示す相関関係や、Aが原因となってBという結果が出るといった因果関係に注意しましょう。また、回答者の属性に注目した分析なども可能です。
分析により組織の課題や改善点が抽出できたら、何が問題で、何を優先して改善していくべきかの順位をつけてリストアップします。
エンゲージメントサーベイの分析結果を社内にフィードバックします。特に人事施策や福利厚生などの制度改革の根拠とする場合、適切なフィードバックをすることで社内の理解を得やすくなります。
また、抽出した組織の課題に対する改善フローのロードマップもここで示しておくと納得感が高まるでしょう。その後、改善フローを実行し、次回のエンゲージメントサーベイ調査までにPDCAサイクルを回していきます。
改善フローの効果を確認するため、一定期間ごとにエンゲージメントサーベイを行います。実施する間隔は、サーベイ調査によるPDCAサイクルと一致させる頻度で行います。
センサスサーベイの場合、調査項目が多いため抽出する課題数も多くなります。それら個々の課題におけるPCDAを網羅的に回していくことが必要になるため、結果検証のためのサーベイ調査は年次や3年ごとなど長期スパンで行うのが一般的です。
パルスサーベイの場合、調査項目も限定的でありPDCAサイクルも短期間で回すことを想定しています。したがって結果検証を目的としたサーベイ調査の実施頻度は週次や月次を想定するとよいでしょう。
エンゲージメントサーベイにはメリットも多数ありますが、実施にはコストもかかり、その扱いにも注意が必要です。ここでは代表的なものを三つご紹介します。
前述のとおり、エンゲージメントは多義的な言葉です。そのため、経営者が何をもって「エンゲージメント」と定義しているのかについて、及びサーベイの目的について労使間で十分な認識のすり合わせをしておく必要があります。
このプロセスを怠ると、サーベイの目的を達成できない可能性があるからです。
センサスサーベイ・パルスサーベイいずれの手法であっても定期的に行う必要があるため、その実施コストをあらかじめ確保しておく必要があります。
また、実際に行ったサーベイの分析や結果を活かした施策立案も必要です。サーベイを実施しても特段の改善が見込まれない場合、従業員の組織への信頼が損なわれるリスクがあります。
エンゲージメントサーベイは、労働者個々人の仕事に関する情報を取り扱います。サーベイで得られた回答は、あくまでも回答者本人のものです。
したがって、回答されたデータは個人情報として適切な管理が求められます。個人情報の管理が甘い場合、従業員が組織への信頼を失う可能性があります。
エンゲージメントサーベイは一度実施しただけで効果がでるものではありません。健康診断のように定期的に実施し、改善点に対するPDCAを行うことで初めて効果が出るものです。
従業員の働く意欲、生産性を高めるために、適切な設問設計と運用を行って行きましょう。
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