目次

  1. 「妊活で仕事をやめる」「人工授精の日も仕事を休めない」という声
  2. 不妊治療を企業が支援する意義
  3. 不妊治療と仕事の両立へ 企業の実施ステップ
    1. ステップ1:取組方針の明確化、取組体制の整備
    2. ステップ2:社員の不妊治療と仕事との両立に関する実態把握
    3. ステップ3:制度設計・取組の決定
    4. ステップ4:運用
    5. ステップ5:取組実績の確認・見直し
  4. 両立支援に取り組む企業の事例
    1. 大林組(建設業)
    2. 小柳建設株式会社(建設業)
    3. オタフクソース(食料品製造業)
  5. 不妊治療と仕事の両立を支援する上でのポイント

 厚労省の不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック(PDF)によると、2022年には77,206人が生殖補助医療により誕生しており、これは全出生児の10.0%にあたり、年々その割合は増えています。

 一方、働く現場では「妊活で仕事をやめる」「人工授精の日も仕事を休めない」という声があります。厚生労働省の調査では、不妊治療と仕事との両立ができず11%の方が離職しています。

 不妊治療と仕事との両立を困難にしている要因としては、通院にかかる時間が読めないことや医師から告げられた通院日に外せない仕事が入るなど仕事との日程調整の難しさ、精神面での負担の大きさ等が挙げられています。

 月ごとの通院日数の目安は以下の表の通りです。

治療 女性 男性
一般不妊治療 診療時間1回1~2時間程度の通院:2日~6日 0~半日
※手術を伴う場合には1日必要
生殖補助医療 診療時間1回1~3時間程度の通院:4日~10日+診療時間1回当たり半日~1日程度の通院:1日~2日 0~半日
※手術を伴う場合には1日必要

 こうしたなか、不妊治療と仕事を両立できるよう厚労省が「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」を改訂しました。

 不妊は、女性だけでなく男性にも原因がある場合や、原因が特定できない場合もあります。新卒で入社したばかりの社員が不妊治療に関心を持ったり、治療を開始したりすることも決して早すぎるということはありません。

 不妊治療の方法は、タイミング法や人工授精といった一般不妊治療から、体外受精や顕微授精といった生殖補助医療まで多岐にわたり、治療期間や通院頻度も個々人によって大きく異なります。特に生殖補助医療においては、女性は頻繁な通院が必要となる場合があり、身体的・精神的・経済的な負担も伴います。男性も、女性の治療に合わせて通院や検査が必要となる場合があり、精神的な負担を感じることがあります。

 このような状況において、企業が不妊治療と仕事の両立を支援することは、単に社員の福利厚生を充実させるだけでなく、企業経営においても重要な意味があります。

  • 離職の防止: 両立支援を行うことで、優秀な社員が不妊治療を理由に離職することを防ぎ、貴重な人材を確保できます。
  • 社員のモチベーション向上: 企業が社員の事情に配慮し、サポートする姿勢を示すことは、社員の仕事への意欲を高めます。
  • 企業イメージの向上: 不妊治療と仕事の両立支援に取り組む企業は、社会的に評価され、新たな人材を惹きつける魅力となります。
  • 組織の活性化と生産性の向上: 社員が安心して不妊治療を受けられる環境を整備することで、最終的には組織全体の活性化と生産性の向上につながります。

 マニュアルは、企業が不妊治療と仕事の両立支援に取り組むための具体的なステップを紹介しています。

不妊治療と仕事との両立支援導入ステップとチェックリスト
不妊治療と仕事との両立支援導入ステップとチェックリスト

• 企業トップが、不妊治療と仕事の両立支援を推進する方針を明確にし、社内外に周知します。
• 両立支援を担当する部門や担当者を決定します。人事部門や総務部門が主導する、またはプロジェクトチームを編成するなどの方法が考えられます。
• 国の施策や他社の取組事例など、関連情報を収集します。

• 社員の不妊治療に関する理解度やニーズ、治療状況、仕事との両立における不安などを把握するために、アンケートやヒアリングを実施します。
• 労働組合など、社員の意見を取りまとめる組織との意見交換も有効です。

【社員用】不妊治療と仕事との両立に関するアンケート(例)
【社員用】不妊治療と仕事との両立に関するアンケート(例)

• 実態把握の結果を踏まえ、自社の状況や社員のニーズに合った制度や取組を検討し、設計します。
• 不妊治療に特化した休暇制度や休職制度、治療費の補助制度だけでなく、柔軟な働き方を支援する制度(フレックスタイム制、テレワーク、短時間勤務など)の導入も有効です。
• 年次有給休暇の半日単位・時間単位取得を可能にすることも、通院の際に役立ちます。
• 労働基準法では就業規則の作成に際し、第89条第1号から第3号までに定められている事項(始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金、昇給、退職等に関する、いわゆる絶対的必要記載事項)について必ず記載しなければならないとしています。導入する制度によっては、就業規則の整備や労働基準監督署への届出が必要となる場合があります。

企業独自の休暇の取得事由に不妊治療を含める場合の就業規則の規定例

第○条
会社は社員が次の各号のいずれかの事由により休暇を請求したときは、1年につき○日を限度に休暇を与える。
①配偶者の出産(出産当日前後各4週間以内)
②家族の看護(配偶者及び2親等以内の者。ただし、小学校第3学年修了前の子を除く。)
③家族の疾病予防又は検診(配偶者及び2親等以内の者。ただし、小学校第3学年修了前の子を除く。)
④子の学校行事への参加(保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校及びこれに準ずる学校。ただし、小学校第3学年修了前の子に係る入園、卒園又は入学の式典その他これに準ずる式典への参加を除く)
⑤不妊治療
2 前項の休暇の合計日数のうち、○日は出勤扱いとし、これを超える日数は公休扱いとする。

• 導入した制度の内容や利用方法を、役員、管理職を含む全社員に周知します。社内イントラネット、社内報、説明会、研修などを活用します。
• 制度の利用がしやすい職場風土づくり、不妊治療に対する理解促進、ハラスメント防止のための意識啓発を行います。
• 不妊治療と仕事の両立に関する相談窓口を設置し、社員が安心して相談できる体制を整備します。相談者のプライバシー保護には十分配慮します。
• 管理職や人事担当者は、制度の周知や意識啓発において重要な役割を担います。

• 制度や取組の実施後、一定期間ごとに利用状況や社員の意見を収集し、効果や課題を検証します。
• 必要に応じて制度や運用方法の見直しを行い、改善を図ります。

 マニュアルは、様々な業種の企業における不妊治療と仕事の両立支援の取組事例が紹介しています。以下にいくつかの事例を抜粋して紹介します。

 不妊治療費の補助金制度や貸付制度を設け、失効年次有給休暇の積立制度を不妊治療目的でも利用可能としています。匿名で相談できる福利厚生プラットフォームも導入しています。

 従業員だけでなく、二親等以内の家族の不妊治療も対象としたファミリーサポート休暇制度を導入。時間単位での取得が可能で、使途を限定しないことで利用しやすい制度設計となっています。

 不妊治療または生理による体調不良のための特別有給休暇(時間単位取得可能)、不妊治療のための短時間勤務制度、休職制度などを設けています。不妊治療で退職した社員の再雇用制度もあります。

 マニュアルは、不妊治療と仕事の両立を支援する上での重要なポイントが挙げています。

• 男女ともに同様に利用可能な制度とする。
• 非正規雇用労働者も対象とする。
• 社員のニーズを把握し、多様な制度を整備する。
• 「不妊治療」を前面に出さない方がよい場合もある(制度の名称や利用目的の告知など)。
• 不妊治療以外の施策とパッケージ化して導入する。
• 導入時には外部にも発信する(企業イメージ向上や制度利用促進につながる)。
• プライバシーの保護に配慮する。
• ハラスメントを防止する。
• 制度づくりと併せて職場風土づくりをする(トップのメッセージ発信、管理職の理解促進など)。
• 不妊治療と仕事との両立に係る認定(くるみんプラスなど)の取得を目指す。