目次

  1. 変形労働時間制とは 1ヵ月単位を例に
  2. 1ヵ月単位の変形労働時間制の採用方法
    1. 労使協定の締結または就業規則への規定
    2. 労使協定または就業規則に定めるべき事項
  3. 変形労働時間制の就業規則の規定例
  4. 変形労働時間制の労働時間の計算方法と上限
  5. 変形労働時間制の割増賃金の支払い
  6. 変形労働時間制で申請・届出に使う様式
  7. 1年単位の変形労働時間制の場合は?

 変形労働時間制とは、たとえば、1ヵ月単位でいうと、1ヵ月以内の期間を平均して労働時間が1週間あたり40時間以内となるように労働日ごとの労働時間を設定しつつ、労働時間が特定の日に8時間を超えたり、特定の週に40時間を超えたりすることが可能になる制度です。

 たとえば、月初めが比較的業務が少なく、月末が忙しい場合、閑散期の月初を1日7時間労働、繁忙期となる月末を10時間労働とし、1週間あたりの平均労働時間を40時間以下とするといった運用があります。

 業務の繁忙期と閑散期に合わせて労働時間を調整し、効率的な働き方と働く人のワークライフバランスが期待できます。

 ただし、常時使用する労働者数が10人未満の商業、映画・演劇業(映画の製作の事業を除く)、保健衛生業、接客娯楽業などの特例措置対象事業場は週40時間ではなく週44時間となります。特例措置対象事業場の場合は40時間を44時間に読み替えてください。

 1ヵ月単位の変形労働時間制を導入するには、以下の手順と定められた事項を守る必要があります。

 1ヵ月単位の変形労働時間制を採用するためには、労使協定を締結するか、就業規則に定める必要があります。

  • 労使協定: 労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との間で書面による協定を締結します
  • 就業規則: 常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則を作成し、所轄労働基準監督署に届け出る義務があります。就業規則で変形労働時間制を定める場合も、同様に所轄労働基準監督署への届出が必要です

 労使協定または就業規則には、以下の事項を具体的に定める必要があります。

  1. 対象労働者の範囲: 制度の適用を受ける労働者の範囲を明確に定める必要があります。法令上の制限はありませんが、範囲は具体的に定める必要があります。
  2. 対象期間および起算日: たとえば、「毎月1日を起算日とし、1ヵ月とする」など1ヵ月以内の具体的な対象期間と、その期間の開始日(起算日)を定める必要があります。
  3. 労働日および労働日ごとの労働時間: 対象期間におけるすべての労働日と、それぞれの日の具体的な労働時間を、シフト表や会社カレンダーなどであらかじめ明確に定める必要があります。
    この際、対象期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間を超えないように設定しなければなりません。いったん特定した労働日または労働日ごとの労働時間を、使用者の都合で任意に変更することは原則としてできません。
  4. 労使協定の有効期間: 労使協定を締結する場合、その有効期間は対象期間よりも長い期間とする必要があります。厚労省は適切な運用のためには3年以内が望ましいとしています。

 厚労省の公式サイトは次のような就業規則の規定例を紹介しています。

就業規則規定例(始業時刻、終業時刻および休憩時間)

第○○条
 毎月1日を起算日とする1か月単位の変形労働時間制とし、所定労働時間は、1か月を平均して1週間40時間以内とする。

第○○条
 各日の始業時刻、終業時刻および休憩時間は、次のとおりとする。

始業時刻 終業時刻 休憩時間
1日から24日まで 午前9時 午後5時 正午から午後1時まで
25日から月末まで 午前8時 午後7時 正午から午後1時まで

(休日)第○○条
 休日は、毎週土曜日および日曜日とする。

 1ヵ月単位の変形労働時間制で、対象期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えないようにするためには、対象期間中の労働時間を以下の計算式で算出した上限時間以下とする必要があります。

上限時間=1週間の法定労働時間(40時間)×(対象期間の暦日数÷7)

 たとえば、対象期間が31日の場合、1週間の法定労働時間が40時間の事業場における上限時間は以下のようになります。

上限時間=40時間×(31日÷7)で約177.1時間となります。

 下の表は、対象期間の暦日数に応じた労働時間の上限を示しています。

月の暦日数 週の法定労働時間 40時間 週の法定労働時間 44時間
28日 160.0時間 176.0時間
29日 165.7時間 182.2時間
30日 171.4時間 188.5時間
31日 177.1時間 194.8時間

 1ヵ月単位の変形労働時間制を採用した場合でも、以下のいずれかに該当する時間は、割増賃金の支払いが必要となります。

① 1日について、8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間。
② 1週間について、40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となる時間を除く)。
③ 対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①または②で時間外労働となる時間を除く)。

 変形労働時間制で労働基準監督署に申請または届出する場合に使う様式は厚労省の公式サイトに掲載されているものを使うとよいでしょう。

 変形労働時間制は1年単位でも運用することもできます。1ヵ月を越え1年以内の一定の期間を平均し、1週間あたりの労働時間が40時間以下となる範囲内で、特定の日または週に1日8時間または週40時間を超え、一定の限度で労働させることができる制度です。

 1年単位の変形労働時間制を採用するためには、労使協定において以下の事項を定め、協定を所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要です。

  • 対象期間を1ヵ月を超え1年以内とし、
  • 対象期間を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内で、
  • 1日10時間、1週52時間以内(対象期間が3ヵ月を超える場合、週48時間を超える週の数について制限あり)、連続して労働させる日数の限度が6日(特定期間については週に1日の休日が確保できる日数)
  • 対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を特定するとともに、
  • 労使協定の有効期間を定める

 1年単位の変形労働時間制でも、労働基準監督署に申請または届出する場合に使う様式は厚労省の公式サイトに掲載されているものを使うとよいでしょう。