役職者なのに「作業員」、後ろ向きな社員…評価制度で会社を変える
他社での就業経験を持つ後継ぎは、自社の「課題」に気づきやすいようです。評価の不透明さやマネージャーの不在、ローパフォーマー(能力不足など周囲に悪影響を与える人)といった問題に気づいた後継ぎが、評価制度の整備で「評価されるべき人が評価される会社」の作り方を目指した事例を紹介します。
他社での就業経験を持つ後継ぎは、自社の「課題」に気づきやすいようです。評価の不透明さやマネージャーの不在、ローパフォーマー(能力不足など周囲に悪影響を与える人)といった問題に気づいた後継ぎが、評価制度の整備で「評価されるべき人が評価される会社」の作り方を目指した事例を紹介します。
大阪市淀川区に本社を置く「斎藤塗料」の5代目となる予定の菅彰浩さん(Twitterアカウント:@sugaakihiro3110)が家業に入ったのは約2年前。それまではディー・エヌ・エー(DeNA)で、ソーシャルゲームのプロデューサーやマネジメントを経験しました。
DeNA時代は、入社1年目に菅さんも含めて6人程度のチームで、年間の売上高は約10億円。2年目からは誰もが知っている有名タイトルの担当となり、同じ規模のチームで売上高が月商で20億円にものぼりました。
「当時のソーシャルゲームは、ユーザーコミュニティーと私たち運営のコミュニケーションツール的な存在でした。運営が面白いイベントを生み出せば、それでユーザーコミュニティーが盛り上がります。仕事はハードでしたが、頑張った分だけユーザーの反応や売上といった形で成果が見えるのが面白かったんです」
その頃に結婚し、子どもが生まれたことをきっかけに「いずれ大阪に戻るなら、子どもが幼稚園や学校に入る前に」と家業に入ることを決めました。
家業はこれまでBtoB向けの塗料販売のみでしたが、家業に戻った菅さんはSNSの運用を始めています。
おはようございます!
— 斎藤塗料株式会社【公式】 (@saitopaint3110) January 20, 2020
斎藤塗料です🛢
今日の大阪の天気はくもり☁
出張の時に絶対やってみたかったやつ☺️ミニ四駆と車窓からついにできました🚅✨
隣に座ってる社長に笑われましたが、中の人は至って真面目ですよ😎#企業公式が毎朝地元の天気を言い合う #静岡出張#mini4wd #公式ミニ四駆部 pic.twitter.com/DB5YR6NH4w
家業に入って最初に感じたのは「マネージャーがいない」ということでした。もちろん、部長や課長という役職者はいるのですが、みな「いち作業員」に過ぎず、たまたま社歴が長いから役職がついただけ。つまり年功序列です。
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前職で最終的に100人規模のマネジメントを経験した菅さんから見ると、「メンバーの管理や育成など、マネージャーとしての役割を果たしていない」と思えたのです。技術者が多い会社なので、現場志向の社員もいます。そういった人に無理やりマネージャーをやらせるより、スペシャリストとしてのキャリアを用意することも大切なのではないか――。「マネージャーは実力も資質も備わった人に任せたい」と思いました。
もう1つ気になったのが「後ろ向きな社員が少ないながらもいる」という点です。前向きに仕事に取り組んでいる従業員が大半なのですが、中には仲間の足を引っ張るような言動、行動をする人がいることが気になりました。頑張る人、成果を出す人が評価される環境にしなければ、会社は成長しません。
これは社員だけの問題ではありません。これまでは経営側も、会社のビジョンや目指す方向、どういった人材を求めているかを明確にしていませんでした。そこで、菅さんはキャリアパスや役職者の役割、評価基準なども含めて提示する人事評価制度づくりに取り組むことにしました。
最初に取り掛かったのが、現状の把握です。全社員との面談を考えましたが、時間がかかり過ぎるため自由記述のアンケート形式をとりました。「会社についてどう思うか」「いいところ、悪いところはどこか」「自分はどう評価されていると思うか」……。
もちろん、社員の立場で考えたら、どこまで正直に書くべきか悩むでしょう。そこで「社長や取締役の菅さんはアンケートを一切見ない」と約束し、社会保険労務士がまとめたものだけを見ました。
それでも社員の声や想いは充分に伝わってきました。「仕事を手抜きしている社員が頑張っている人と同じように評価されているようで不満」「いい意味でも悪い意味でもゆるい。何をしても注意する人がいない」など厳しい意見もありましたが、これは菅さんも感じていたこと。他の企業を経験してから家業に入った後継ぎだからこそ、自社を客観的に見ることができたのしかもれません。
評価制度づくりには、次のような流れで取り組んでいます。
人事理念は、会社が「どういう人を高く評価し、どのような人物像を求めているか」や行動指針を、社長と共に考えました。それに沿って部長や課長、係長や主任、そして新入社員までどのような能力を求められ、どのような責任を持つべきかを定めました。あとは評価システムづくりです。社労士も交えて「どのような面談をするか」「評価項目の詳細」、「S、A、B、Cなどの4段階で評価する」などを決定。そして、「主任で評価がSなら●●万円」という風に給与テーブルとひもづけます。2021年1月には一部社員によるテスト導入を行い、4月からの本格導入を目指します。
今はまだ社長で母の斎藤由美子さんが経営の中心ですが、菅さん自身も自らの社長就任後を視野に入れ、評価制度導入以外にもさまざまな行動を起こしています。特にうれしかったのが、今注目されている新商品が、社内に新しい風を吹き込んでくれたことです。
2020年4月に発売された「ウレヒーロー」は、元々ゴム用の塗料として開発されましたが、営業先で顧客から聞いた様々な課題をもとに研究開発を繰り返し、「引っ張ったりねじったりしても割れない、はがれない塗料」として、今多くの業界から注目を集めています。
10月に大阪で開催された「高機能 塗料展」に出展したところ、名刺交換だけで約600社という大反響で、業界紙の1面にも取り上げられました。新型コロナウィルス感染症拡大の影響で売り上げが落ちている中、明るい展望が見えてきました。
しかし、それ以上に大きな手ごたえを感じられたのは、現場の社員から「こんなに反響があるなんて」と喜びの声が聞こえてきたこと。菅さん自身が前職で感じていた、「仕事で成果を出す面白さ」を実感してもらえたことが一番だといいます。
評価制度づくりはだんだん形になってきましたが、菅さんは制度の導入がゴールだとは思っていません。「評価制度を導入したことで会社がどう変わるのかは未知数。そこでまた新しい壁に当たるのかもしれません」。評価されるべき人が評価される会社づくりを目指して、菅さんのチャレンジはまだ続きます。
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