目次

  1. 従業員満足度調査とは
  2. 経営に対する調査のメリット
  3. 調査の実施方法とポイント
  4. 調査の主な質問項目
  5. 中小企業にこそ必要な従業員満足度調査

 まず、従業員満足度の概要について説明します。

従業員満足度(ES)の意味

 従業員満足度(ES)とは、言葉の通り、従業員が会社で働くことに満足しているかどうかを示す指数です。Employee Satisfactionの頭文字を取って「ES」とも呼ばれます。従業員の満足度は、報酬面での条件、福利厚生やオフィス環境などの待遇、社内での上司や仲間との人間関係、働きがいのある仕事などの要素に左右されます。

調査の目的と分かること

 従業員満足度調査を実施することによって、従業員のモチベーションの程度を可視化できます。それぞれの従業員がどのくらいモチベーションを持ってくれているかは、日常的な接触からだけでは、本当の意見を把握しきれません。従業員満足度調査によって、従業員の本音を定量的・定性的なデータとして得られます。

 また、得られたデータによって、従業員満足度を向上させるどんな施策が有効かを見極め、戦略的に従業員満足度アップのための対策が打てます。

満足度と業績の関係

 やる気の高い従業員が多く勤める企業は、円滑なコミュニケーションができ、チームとして一丸となって課題を前向きに解決していく姿勢があり、生産性の向上に大いに貢献します。また、満足度は居心地がよいと感じていることのあらわれですから、離職率が低くなり、優秀な従業員が長く定着します。新たな人材の教育には大きなコストが伴いますが、従業員満足度が高い企業は、人事コストを大幅に削減できます。

 さらに、意欲の高い従業員は、顧客に対しても誠実に質の高い商品やサービスを提供したいと考えます。それで、従業員満足度が高い企業は、顧客満足度を上げる力も高く、業績も向上していくのです。

 特に最前線の従業員が顧客と接するサービス業においては、鏡面効果という好循環が生じやすいことも知られています。これは、従業員が満足していると、サービスのレベル(接客態度など)が上がり、顧客満足度も上がるという効果です。顧客が喜ぶ姿を見ることや、リピート率や客単価の向上による業績向上は、さらに従業員満足度を高めます。

 こうして従業員満足度が上がる→顧客満足度が上がる→さらに従業員満足度が上がる→さらに顧客満足度が上がる…という非常に良い循環が生まれるのです。

 経営に対して、従業員満足度調査はどんなメリットがあるのでしょうか。

人材確保や定着度の向上

 従業員が抱えている上司や経営陣に直接伝えることが難しい不満を、いち早く見つけることによって、優秀な従業員の離職を防げます。満足度が低下していることを事前に察知できているなら、前もってモチベーションを高め、離職の是非を再考慮してもらうための施策が打てます。

 また、新しい人材を確保する上で、ネックとなっていることを把握し、福利厚生やオフィス環境の充実などの施策によって、働き手にとって魅力のある企業へと進化できます。

現場の意見や考えを知る

 従業員満足度調査によって、上司や経営陣についてどう感じているのかについて率直な意見を共有できるのも大きなメリットです。報酬に満足しているか、割り当てられている仕事にやりがいを感じているか、適切な評価を得ているか、成長できる環境にあるかについての思いがわかります。よりやりがいを感じられる部署への配置転換や、評価方法の再考などの判断をする基盤となります。

経営戦略や課題発見のヒント

 調査によって得られるデータによって、従業員全体としての傾向をつかみ取ることができます。多くの従業員が不満を抱いている項目があるなら、問題解決の優先度は上がります。一部の従業員にのみ見られる傾向であれば、そこをピンポイントで改善すると効果的です。

 調査をしただけで従業員満足度が改善するわけではありませんから、データによって抽出された問題に対して、正しく原因を見極め、適切にアクションを起こし、次回の調査までにどのような変化が見られるかを観測しましょう。PDCAサイクルを回して確実に改善することが重要です。

 従業員満足度調査を実施する流れとポイントを説明します。

調査目的を設定

 従業員満足度調査をする際は、どんなデータを取得したいのかについての明確な方針が必要です。満足度の課題点を浮かび上がらせるための調査と、満足度向上の施策後の効果測定の調査では、どのような質問をするかが異なります。目的を定めて、それに紐づいた設問設定や調査手段を選定することが大切です。また、年に1回など、満足度を定点観測することも有効です。

調査対象を選定

 得たいデータに関係する従業員を選定します。正規雇用の社員だけなのか、契約社員・派遣社員・パート・アルバイトのスタッフの意見も取り入れたいのかを決めましょう。対象者全員を調査することもできますし、グループを抽出してサンプルとして調査する方法もあります。

質問項目を決定

 どのような質問をどれぐらいするかを決めます。あまりにも設問数が多いと、回答する側にとって負担になってしまいます。選択肢から該当するものを選んでもらう選択問題や、5点満点評価を多用すれば、スムーズに回答できるので、従業員の負担になりにくいでしょう。

 堅苦しい表現を避けて、言いにくいことを伝えてもらえるような設問づくりをして、実際の本音を探れるようにすることが大切です。経営陣や会社の方針に沿った模範回答を求めているわけではないことを伝えて、素直な気持ちで直感的に回答してもらうように励ましましょう。

調査方法を選定

 アンケート用紙を配って回答してもらうこともできますが、ウェブサービスを使ってアンケートするなら、回答側もいつでも答えられますし、集計側もデータの集計・分析が容易になります。本音を引き出すためには、回答者が特定されないように配慮することも大切です。

調査結果を活用した施策の実行

 調査によって得たデータから、優先して取り組むべき項目をピックアップし、経営陣を含めて改善項目としてアクションできるようにします。アクションは対症療法的なものにならないよう、問題の根源的原因をしっかり考えましょう。

 たとえば、「忙しい」と不満を漏らす人が多いから人を採用しようというのではやや安直です。その問題は、業務プロセスが非効率なせいで皆が忙しくなっているために生じたのかもしれません。もしそうなら、業務プロセスを改善するほうが、費用対効果は高くなります。

 施策を実施したら、その有効性を確認するために効果を測定して、確実に従業員満足度の向上につながるようにしましょう。また、単に調査をしただけではなく、しっかり施策を打ったことを従業員に伝えることも、満足度を上げることにつながります。

 従業員満足度調査の質問項目について、具体的に解説します。

基本情報の項目

 回答者が誰なのか特定されないように配慮しつつ、どんな属性の従業員からの回答なのかを分類できるような項目を尋ねます。ただし、従業員数が少ない会社では、年齢や入社年数などがあると、回答者が特定されてしまうことが気になり、率直な意見のアンケートになりにくいかもしれません。問題解決の効率と、本音を引き出す工夫のバランスをうまく取ることが大切です。

仕事内容についての項目

 割り当てられている業務が自分にとって適切と感じているか、充足感があるかを尋ねます。業務の裁量権について納得できているかについての意見も重要なポイントです。仕事を通して成長できていると感じるかどうかも、満足感を測れる質問になります。仕事を楽しんでいるかどうかで、定着してもらえそうかどうかが分かります。

上司についての項目

 直属の上司や会社の上層部との接し方についてどのように感じているかを尋ねます。業務に関するコミュニケーションが取りやすいか、よいアドバイスをもらえるか、さらには、尊敬できる関係性があるかなどについても調査できます。

組織風土についての項目

 職場の環境についてどのように感じているかを尋ねます。会社の風土や方向性や戦略に共感できるかなどについての意見を得られます。社内で起こりやすい各種のハラスメントなどがないかを確かめる設問も効果的です。また、部署内の雰囲気が気に入っているかどうか、チームワークが発揮できる環境にあるか、人間関係に問題がないかなども調査します。

福利厚生についての項目

 福利厚生は、従業員が待遇に満足しているかどうかを知るポイントのひとつです。利用しやすいと感じているかを尋ねます。また、どんなサービスを実施してほしいと思っているのかを、具体的に回答してもらえるようにして、意見を取り入れられるようにしましょう。

人事制度についての項目

 報酬や部署異動、昇進などの人事評価についての待遇をどのように感じているかを尋ねます。評価制度に満足しているか、他の従業員と比べて待遇が公平であると感じるかなどの満足度を測定できます。

業務負荷についての項目

 勤務時間や仕事の量について尋ねます。ワーク・ライフ・バランスを調査するために、プライベートにもっと時間が必要だと思っているかどうかを知る設問も効果的です。仕事が大きなストレスになってしまっていないかも調査しましょう。

 従業員満足度が高い企業は、一致団結した強い組織になれます。新しい時代の強い中小企業に必要となる指標です。従業員満足度調査を的確に実施することによって、自社の満足度を詳細にチェックし、改善すべき点を見つけるようにしましょう。

【監修】嶋田毅

グロービス出版局編集長、グロービス知見録編集顧問、グロービス経営大学院教授

グロービス経営大学院や企業研修においてさまざまな科目の講師を務めるほか、各所で講演なども行っている。また、書籍執筆等による情報発信に加え、グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを掲載するとともに、グロービスが提供する定額制動画学習サービス「グロービス学び放題」へのコンテンツ提供・監修も行っている。