目次

  1. 従業員エンゲージメントは共感度や意欲
  2. 中小企業にも必要な理由
  3. 自社の従業員エンゲージメントを測定する
  4. 従業員エンゲージメントを改善する方法
  5. 従業員エンゲージメント向上で業績アップ

従業員エンゲージメントの概要について解説します。

従業員エンゲージメントとは

 従業員エンゲージメントとは、「企業が目指す姿や方向性を、従業員が理解・共感し、その達成に向けて自発的に貢献しようという意識を持っていること」をあらわす指標です。従業員エンゲージメントが高いなら、割り当てられている業務にやりがいを感じて、積極的によい結果を求めて意欲的に取り組むようになります。

 また、会社を信頼したり、個人的な愛着を持ったりします。結果として、会社と一体となって業務に取り組み、会社組織が成功を得るために、自分に求められている以上の貢献を果たしたいと思うようになります。

満足度など他の指標とどう違う

 従業員エンゲージメントに似たような指標がいくつかあります。「従業員満足度」は、従業員の居心地のよさを測ります。報酬や設備や福利厚生などの待遇が豊富で、満足を感じながら働ける環境にあることをあらわしますが、必ずしも会社の業績と直結するわけではありません。

 たとえば、仕事が楽で給与が高いならこの指標は上がりますが、それでは企業としては人件費が上がって収益性も下がりますし、成長も期待できないでしょう。対して、従業員エンゲージメントは、満足度だけではなく会社の成長や収益性アップに貢献したい意欲を測るので、より業績に結びついているといえます。

 また、従業員の「ロイヤリティ」は、会社への忠誠心のことです。終身雇用がベースにある旧来の考え方で、会社との主従関係への納得の度合いをあらわしています。しかし、能動的、主体的、創造的に働く動機づけが考慮されていない指標です。自分から判断することを好まず保守的に立ち振る舞い、積極的な貢献をするという概念がありません。企業が間違った方向(例:コンプライアンス違反)に行こうとしている時も、それを止めようとはせず盲目的に従ってしまいます。

 一方の従業員エンゲージメントは、会社への共感性も含む指標なので、会社のために能動的に考えてアクションや建設的な提言ができるようになり、業績アップに直結します。

では、従業員エンゲージメントは中小企業に必要でしょうか。

モチベーションが上がり優秀な人材が定着

 従業員エンゲージメントが高いと、割り当てられた業務で最高の成果を出したいと思うモチベーションが大きくなり、積極的に取り組めるようになります。また会社での仕事により愛着を感じて、離職への関心が薄れます。厚生労働省の報告によると、中小企業の従業員の離職理由の上位に、「会社の経営理念・社風が合わない」(25.3%)や「仕事が面白くない」(21.6%)という、従業員エンゲージメントの低さにつながる意見が散見されます。

 優秀な従業員の人材が、モチベーションを理由に離職してしまうのをくい止めるためには、会社と従業員の間の信頼関係を示してくれる従業員エンゲージメントの向上が不可欠です。従業員エンゲージメントは、よい人材を持つことが大きなアドバンテージとなる中小企業が優先的に努力すべきポイントなのです。

サービスの品質が向上し業績がアップ

 アメリカの調査会社であるギャラップ社が、従業員エンゲージメントが高い上位25%の企業と下位25%の企業を比較した調査で、業績の違いが明らかに示されています(「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」参照)。

 たとえば、それぞれの従業員が、割り当てられている業務で期待されている以上の結果を出したいと思うなら、製品の品質向上や、クライアントへのサービス向上につながります。調査では、従業員エンゲージメントが高い企業の方が、顧客からの評価が10%、生産性が17%上回っています。

 中小企業では、各従業員が直接顧客と接することが多くあります。顧客側としては、従業員エンゲージメントが高い会社では、よいサービスを受けられたり質のよい商品が買えたりするので、満足度が向上するというわけです。

 顧客満足度や生産性が高い結果として、会社の業績がアップします。調査でも、従業員エンゲージメントが高い企業は、売り上げが20%、利益率が21%上回っています。飲食店や小売業などでも、従業員エンゲージメントが高く質の高いサービスができることには大きなメリットがあるのです。

 ギャラップ社の同調査では、日本の従業員エンゲージメントはまだ高くありません。世界平均が15%であるのに対して、わずか6%の企業だけが従業員エンゲージメントで高いスコアになっているのみです。中小企業でも、従業員エンゲージメントを上げられるなら、業績アップのさまざまな可能性が生まれます。

社内の一体感が高まり協力

 従業員エンゲージメントが高いなら、困難に立ち向かうために、会社のなかで一致団結できます。会社の理念や方向性をよく理解し、同じ目標を持っている仲間として、スタッフ同士でも経営陣とでも、よく協力して問題を解決していくことで、より会社に愛着を持てるようになります。

 中小企業では、派閥などもなく、一丸となって協力する体制は不可欠です。従業員エンゲージメントが高ければ、自分だけがよければ問題ないと考えず、会社のスタッフで助け合って最善のソリューションに導く協力関係を保てるのです。

従業員エンゲージメントを測定する方法について解説します。

アンケートで従業員エンゲージメントを調査

 従業員に対してアンケートをすることで、自社の従業員エンゲージメントを測定できます。有名なサーベイ(測定・調査)手段として、「eNPS(Employee Net Promoter Score)」というアンケートがあります。設問数はたったの2問で、自分の職場を親しい友人や家族に勧めたいと思うかどうかを0から10までの段階で評価する設問と、その理由をフリーで答える設問だけです。

 eNPSは、答えが10点と9点ならプラス1、8点と7点ならゼロ、6点以下ならマイナス1と計算します。最高点は1.0で、これは従業員が9点か10点としか答えなかった状態です。eNPSがプラスの職場は従業員エンゲージメントについては優秀といえます。

 ギャラップ社の「Q12(キュートゥエルブ)」というメソッドもあります。設問数は名前の通り12問で、社内で何が自分に期待されているか、会社で褒められることがあるか、仕事で成長できる機会があるか、などを尋ねます。

 経済産業省が紹介している資料では、次のような質問項目が有効だとされています。

  • 私は、自分の会社全体としての目的・目標・戦略をよく理解できている
  • 経営陣は、事業の方向性について健全な意思決定をしている
  • 自分の会社はよい職場だと他の人にも勧めたい
  • 自分の会社で働くことに誇りをもっている
  • 自分の仕事について、給与や福利厚生など公正に報酬を得ていると思う

負荷がかからないように設問数や頻度を調整

 アンケートによって、従業員に余計な負担がかかってしまうなら、正確な調査結果を得ることはできません。多くの設問に回答してもらってたくさんの情報を得る大規模な調査と、少ない設問数で週次や月次などの他頻度でおこなう調査を使い分けましょう。サーベイの意図を従業員によく伝えておき、定型的な作業として同じ回答を繰り返すだけのアンケートにならないような動機づけが必要です。

従業員エンゲージメントを改善する主な施策について説明します。

やりがいのある仕事を任せる

 まず考えるべきは、会社の成長や収益性向上につながると同時に、個人にとってもやりがいを感じられる仕事ができる状態をつくることです。すべての仕事をそのようにできるわけではありませんが、その比率が高まれば、従業員もイキイキと働くようになり、生産性は向上します。会社のためにも個人のためにもならない仕事などは、思い切って止めてしまうことも効果的です。

ワークライフバランスを推進する

 いつでも意欲的に働くためには、従業員個人が、心も身体も健康であることが大切です。そのためには、会社以外の生活も充実してもらう必要があります。プライベートでも満足のいく生活を楽しんで、モチベーションの高い状態で業務に取り組めれば、従業員エンゲージメントが高まります。それぞれの従業員が適切な休息を確保できるようにし、ワークライフバランスのとれた生活ができるようにしましょう。

スタッフ間や経営陣とのコミュニケーションを活発にする

 社内の人間関係もモチベーションに大きく関わります。いつもともに働くスタッフたちとの円滑なコミュニケーションによって、より気持ちよく働けるようになります。

 部署外のスタッフとの交流も、仕事の幅をより広げたり、大きな視点で会社組織について考えたりするきっかけになります。上司や経営陣とのコミュニケーションも不可欠です。信頼できる関係性が培われて、気軽に話せるようになるなら、会社のビジョンがより正確に伝わるとともに組織風土も改善されます。

 また、個々人のやりがいをより正確に把握することができるようになり、それに合った仕事の割り振りを工夫することで従業員エンゲージメントを一層高められます。

定期的に測定と施策の調整をする

 従業員エンゲージメント向上のための施策は、状況の変化に応じて常にアップデートしていく必要があります。定期的なサーベイを通して会社の最新の状態を知るようにしましょう。PDCAをまわして、いろいろな施策の効果を測りながら改善を目指すことが大切です。

 中小企業が従業員エンゲージメントを高めることによって、会社をより強い組織に変革させることが可能です。人材を大切にしたい中小企業だからこそ、従業員エンゲージメントを測定し、向上するための施策を試してみて、業績をアップさせましょう。

【監修】嶋田毅

グロービス出版局編集長、グロービス知見録編集顧問、グロービス経営大学院教授

グロービス経営大学院や企業研修においてさまざまな科目の講師を務めるほか、各所で講演なども行っている。また、書籍執筆等による情報発信に加え、グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを掲載するとともに、グロービスが提供する定額制動画学習サービス「グロービス学び放題」へのコンテンツ提供・監修も行っている。