目次

  1. ブランドとは
  2. ブランド戦略とは
  3. ブランド戦略の重要性
  4. ブランド戦略の立て方 コンセプトワークとは
  5. コンセプトワークにもとづく4ステップ
    1. リソースの把握
    2. ブランド設計
    3. コミュニケーションの設計
    4. ディレクション
  6. ブランド戦略運用のポイント
    1. ブランド戦略を適宜評価する
    2. ブランド戦略を改善する
  7. ブランド戦略の成功例
    1. アフタースクール事業
    2. お庭整備事業
    3. 写真プリント事業
  8. ブランド戦略は経営者主導で構築を

 ブランドというと、国内外の高級ブランドを思い浮かべる方がも少なくないかもしれません。

 しかし、「ブランド」を問われたとき、私は「その人・その企業のコアとなる特徴や思想で、どんな経営者・企業でも持っているもの」と伝えています。

 要するに、ブランドとは、すでに持っている資産となるリソースです。

 またブランドを確立させることは、コアとなる思想や特徴を明確にすることであり、これは企業の幹を作り出すに等しい行為です。

 ブランド・マネージャー認定協会では「ブランド戦略は「資産を生み出していくための戦略」。すなわち、企業の経営そのものなのです。」と言っています。

 ブランド戦略とは、ブランドを周知徹底していくための戦略です。

 ブランドを明確化して企業の幹が何なのかを掘り起こし、幹となるものと枝葉となるものを整理し、それをどこの誰に伝えていくか(その企業がどこのどんな場所で生きるのか)を決めていく工程になります。

 ところで、ブランド戦略と聞くと、ロゴマークを作ることだと思い浮かべる方も少なからずいます。そもそも、「ブランド」は、ヨーロッパで牛を放牧する際、自分の家の牛に「自分の牛だ」と証明するためのマークをつけたところから始まる、と言われています。

 このことが始まりとなって、マークを作ることがブランド戦略と同義と解釈されるのも、無理からぬことかもしれません。しかし、マークをつけることで「あの家の牛」ということが明確になり、さらには「あの家の牛はこうだ」というような特徴が明確になり、ひいてはそれが誇りとなっていくものです。

 一方、ブランド戦略と似たような言葉にブランディングがあります。

 これは、ブランド戦略を実施するための具体的な施策を言い、たとえばブランド名やロゴマークを決める、プロモーションの実行などが挙げられます。

 ブランド・ブランド戦略・ブランディングの違いを簡単にまとめると、次のようになります。

ブランド…経営者や企業のコアとなる思想や特徴であり、すでに持っている資産となるリソース

ブランド戦略…ブランドを周知徹底していくための戦略

ブランディング…ブランド戦略を実施する具体的施策

 ブランド戦略を立てることで、社内外の人間に企業のメッセージが伝わりやすくなるという大きなメリットを得ることができます。社内スタッフには、安心させ、行動の優先順位を決める指針となります。

 ブランドの再構築に着手して間もなかった企業では、サービス名とロゴマークやキャラクターの雰囲気が合っていないということがありました。

 M&Aでスタッフを含め、居ぬきで買収したのですが、経営者にとって買収した業界が初めてで、スタッフも相当のやりづらかったようです。

 そこで、なんとなくつけていたサービス名からイメージにあうように、ロゴマークとキャラクターをデフォルメして意識の統一をしましょうということになりました。

 結果として、メッセージが明確になり、社員教育がやりやすくなってきて一体感が出てきたという感想をいただきました。

 一方、顧客に対しては、自社の商品やサービスには他社とは異なる魅力があるとアピールできます。値段で比較されにくくなり、価格競争に巻き込まれずに済みます。また、価格を高めに設定しても顧客が離れにくくなるので、高い利益率を維持しながら事業運営ができます。

 結果として業績向上につながる結果を生みやすくしてくれるのが、ブランド戦略なのです。

 ブランド戦略を行う第一歩の工程を、私たちはコンセプトワークと呼んでいます。

ブランド戦略を行う第一歩であるコンセプトワーク

 自分たち(商品、サービス、事業、組織)がどんなものなのか、どの特徴を把握し、それが求められる場所を見つけることが目的です。

 ブランド戦略を行う第一歩の工程「コンセプトワーク」の手順と、それを効果的に伝えていくプロモーションに結び付ける方法を紹介します。

  1. リソースの把握
  2. ブランド設計
  3. コミュニケーションの設計
  4. ディレクション

 まずはリソースの把握です。どんなサービスをどのようにやっているかや人材の状況など直接的なものから、経営者の価値観や思想など直接関係あると思われないものも、過去の歴史も含めて洗い出していきます。

 最初にやるべきは、経営者の方の思想や考えの洗い出し、価値観を探ることです。中小企業の場合、経営者の方の価値観や特徴が、企業の在り方に大きく影響しているからです。

 リソースの把握は、ブランド設計でもっとも時間がかかります。

 一度では洗い出し切れませんし、既企業のブランディングの構築の場合は、何年かかけてこのフェーズを繰り返しやり、ようやく明確になることもあります。

 しかし、少しでもリソースを明確に言語化することで、急に物事が動き始めることも多く見てきました。

アフタースクール事業

 私たちが手掛けたブランディングの例で、子どものアフタースクール事業があります。当初、このサービスを実施した事業者が考えたサービスは、複数の習い事の事業者を集め、モールのような感覚で「3世代が集える場所」を作るというものでした。

 裏に、子どもの年代や世代の違いによって施設を使う時間帯が違うはずだから、集まった事業者で空間と家賃をシェアして安く入居してお互いに集客しあえばプロモーション費用も抑えられるし、あわよくば迎えにきた親や祖父母も習い事をしてくれるかもしれない、という思惑がありました。むしろ、こちらの思惑が事業開始の決断理由だったことは否めません。

 会社を経営する上で、経費の節約というところは中小企業にとっては大命題です。中小企業ならずとも、ここは常についてまわる問題だと思います。当然のことです。

 しかし、現状把握のプロセスでスクリーニングをかけたところ、親世代や祖父母世代のコンテンツが、事業者が考えていたよりも弱い上に、依頼者である事業者の構想に矛盾があることがわかりました。

 そこで、コンセプトを見直し「子どもを持つ共働き家庭の支援」としました。

 すると、今まで事業者都合であった目線が、ユーザがしてほしいこと目線に変化し、関連事業を次々と生み出すことにもつながったのです。現在、この事業者は、フェーズが変わったことから、当初のネーミングやロゴマークを変更していますが、複数の事業拠点を持ち、事業展開しています。

 リソースの把握は、コンセプトワークの基盤です。ここを丁寧にやればやるほど、ブランド戦略の効果が出るといって過言ではありません。このあとやるべきことがどんどんと明確になっていき、おのずとターゲットやブランドポジションが浮かび上がってくるからです。

 しかし、経営者が一人でやるのは難しい場合が多いです。できれば的確なアドバイスをしてくれる方を見つけてください。

 どの程度かはさておき、経営コンサルタントやブランディングのコンサルタントが該当するかと思います。経営者が自分自身に対しての現状把握と考えるのであれば、心理学を学習しているキャリアコンサルタントも該当するかもしれません。

 自分やサービス、事業としっかりと向き合わなければいけないゆえに、大抵の方はうやむやにしてしまいます。

 ブランド戦略のターゲットを「ここを狙うぞ!おー!」というノリで攻略できると考える人も少なくありません。

 そのノリで目指したこととターゲットが偶然一致している場合もゼロではないので、ノリが失敗する例ばかりでもないのですが、ここを丁寧に取り組んだ経営者が失敗した例を、私は今まで見たことがありません。

 リソースの把握の過程は、今まで当たるかどうかわからなかったものを、より確実に当たるようにするための工程と考えることができます。

 この段階で、スタッフへのヒアリング(現場の把握)も重要な要素になってきます。

 「こうやっているはず」と思い込んでいる経営者の方は多く、蓋を開けてみると「指示した通りやってなかった」ということや、「こんなことがクレームとしてあったんだ」など、経営者の方が把握していなかったことが意外と出てきます。

 リソースの把握の過程を経ることで、「わかっていたつもり」が明確になってきます。

 そうなったら、次に考えるべきは、ブランドの設計です。自社のブランドであるリソースが、どんなターゲットに届きやすいのかを見極めていく必要があります。

 性別、年代、居住エリアなどの属性や、趣味趣向などを踏まえたライフスタイルなども加味していきます。

 このとき、手順1であぶりだされてきたリソースをなおざりにしないことが重要です。

 「あんな人もこんな人もターゲットにできるのではないか」と欲張ると、せっかく手順1で苦労して浮き彫りにしたものにぶれが出て、ぼやけてしまいます。

 ブランド戦略においていちばんの禁忌が「ぶれ」と「ぼやける」です。

 ブランドを設計したら、次はコミュニケーションの設計です。他社との違いを顧客にイメージづけるのに重要な活動を方向づけていく作業となります。

 実際には、4軸などでどの位置に自社やサービスが存在するのか、マッピングが必要です。マッピングでは、軸として何を考えるのかが重要になってきます。

 手順2と手順3は、ネーミングやロゴマーク、その他制作物の雰囲気をどういったものにしていくかに大きな影響を及ぼします。

 最後は、ディレクションです。ブランドを広めていくために実際に何を作り、どのように宣伝していくかを決めていきます。

 中小企業の宣伝は、費用がコントロールしやすく、比較的安価に抑えられ、ポジショニングも意識する必要のないWeb広告関連に傾きがちです。

 しかし、興味があるユーザを相手にするWeb広告だけで良いのか、というとそうではありません。

 私たちが紙ものと呼ぶ看板や雑誌広告、チラシなどの組み合わせで相乗効果を生んでいくのが広告の現実です。

 ターゲットとしている人たちが目にするもの、ポジションを的確に伝える格を持ったメディアをどう使っていくのかを、選択していく必要があります。

 一方で、紙の広告は、基本的にWeb広告よりも予算が必要になるので、宣伝にどの程度の予算を使うことができるのか、を検討する必要があります。

 以上の手順で重要なのは、いずれも「明文化していく」ということです。それぞれのブランド戦略の段階で、図や文章で書き示すことが重要です。

 その理由は、少し運用を始めるとどうしてもぶれていくからです。このぶれが台無しにしてしまいます。

 ブランド戦略は、一度立てたらそれで終わりではありません。ブランドとは、企業のリソースであり、資産です。新規で始める事業やサービスも組織内の発想から出たもののはずであり、その発想が出てきた人や土壌は、その組織のリソースです。

 そして、ブランドは、ブランド戦略によって育ち、新たなリソースを生みます。

 それらをメンテナンスし、いつも見守って大事に育ててやることがブランド戦略であり、それがブランドを育てていくことなのです。

 ブランド戦略を評価するタイミングはさまざまですが、私はブランド戦略の四半期に一度程度、振り返り評価を行っています。改めて、立てた戦略と実施した施策を書き出し、過去の実績と比較し、効果測定をするのです。

 評価したブランド戦略は、おおむね1年に一度のタイミングで調整しています。

 当初予想したことと、世の中や業界などの外的要素やスタッフの増減などの内的要素に変化が起きたりした場合は、その限りではありませんが、ブランドがどう育ってきたかを検証します。

 実施してきた戦略が芽を出して次のフェーズを考えるときが来るのは3~5年程度だったりしますが、放置すると途端にあらぬ方向に独り歩きをしかねませんので、継続的なメンテナンスが必要です。

 最後に、文中にも一部紹介しましたが、成功例を紹介します。 

事業者:習い事で生計を立てている個人事業主を1ヵ所に集めて、子どもに提供するサービスを展開
内容:塾や習い事提供企業などの企業を集めて、放課後の預かり事業を本格的に展開した
効果:一連のブランド戦略を立ててブランディングしたことで、集めたい企業を営業せずに集めることができ、グランドオープンの日から集客に困らなかった

事業者:清掃事業者がお庭の整備事業者を居ぬきで買収
内容: Web展開だけでなくエリア戦略に重点を置いていくにあたり、既存スタッフと新しい社長の関係性がよくないことを早急に解決するために、ブランドの本格再構築の前にネーミングとロゴ、キャラクターに統一感が出るようにデフォルメを実施
効果:「うちの会社が提供するものはこれだ」という意識統一を図ることができた。顧客からロゴとキャラクターを褒められ、既存スタッフが新社長の話を聞くようになり、社内にスピード感が出た

事業者:FCで写真プリントの事業を3店舗で展開
内容:写真プリントと関連商品の物販だけでは、将来が不安な中で新サービスを考えたい
効果:リソースの洗い出しの結果、写真プリント機を利用した新サービスを考案。ショップ内での売上構成が3~5位と大きな柱となっているのと同時に、スタッフとの交流もうまくいくようになってきた

 ブランド戦略でもっとも重要なのは、経営者の方が当事者意識を持つということです。実際に先の手順1から着手しようとすると、常にスタッフの方を連れてきて、そのスタッフの方にこちらの質問を回答させるなどをする経営者の方がいらっしゃいます。

 現状を把握するためにスタッフの方の話を聞くのは大事ですが、ブランド戦略の構築は経営者の方が主導でするべきです。

 また、何かを決定する際にスタッフを巻き込めば巻き込むほど、出た意見を無視するわけにはいかなくなり、決定が遅れるばかりか身動きが取れなくなる傾向にあります。

 ブランド戦略は、会社経営の柱となるものです。経営者自らがかかわり続けることをお勧めします。