目次

  1. 「ネット炎上」とは
  2. 小規模企業ほどダメージが深刻に
  3. 企業が絡む「ネット炎上」の事例
    1. デマによる炎上で売り上げ減
    2. コロナ陽性者の勤務先を名指し
    3. 「地方の名士」をめぐる炎上
    4. 「バイトテロ」のリスク
  4. 公式アカウントに潜むリスク
  5. 告発も「ネット炎上」の対象に

 経営者や後継ぎのみなさま、「ネット炎上」を経験されたことはあるでしょうか。

 「炎上」の定義に決まったものはありませんが、筆者が属する会社では、以下のように定義しています。

 “ある特定の事案や対象に対するネガティブなニュアンスを含んだ書き込みが、短時間に拡散し、多数の人の目に触れる状態。”

 特定の事案や対象とは、自社が行ったプロモーション、従業員や経営者の行動、自社の製品の瑕疵、内部告発や情報漏洩など、様々なケースが考えられます。

 そして、それに対して非難するような書き込みが、数時間のうちにリツイートなどで拡散され、より多くの人がその事実を知る状況になります。

 「自社は炎上とは無縁だ」「対岸の火事」と思われる経営者の方もいるのではないでしょうか。また、「うちの会社はそんなに有名じゃない」、「炎上したって、うちぐらいの規模じゃ商売に影響しないでしょ」と思われている方々も少なくありません。

 もちろん、有名企業はネット炎上の発生リスクが高く、ニュースメディアに取り上げられやすいのは事実です。しかし、そうでない企業が炎上しないというわけではありません。

 ネット炎上は、ニュースメディアに取り上げられるものだけではありません。むしろ、規模が小さかったり、知名度が低かったりする方が、ダメージが大きく、事業の継続に影響することにもなりかねません。

 最近のネット炎上は、進行がとても速いのが特徴です。しかも深夜や休日など、企業が活動していない時間帯に燃え広がることも多いのです。知らぬ間に自社が炎上し、翌朝や休み明けに、メディアからの取材依頼でその事実を知ったというケースは最悪です。

 この時点では恐らく、手がつけられないぐらいの大火事になっていることでしょう。報道され、さらに多くの人に知られ、鎮火するまでひたすら耐え忍ぶことしかできなくなります。

 そして、このような炎上は、自社に全く責任がない状況でも起こりうるのです。

日本国内でも多く使われているツイッターは、企業活動に寄与する一方、ネット炎上のきっかけとなるケースも少なくありません

 最近、報道された「ネット炎上」の中から、企業経営に関わる事例をいくつか紹介します。

 2020年春、東北地方の食品会社が、SNSなどで「関係者が新型コロナウイルスに感染した」などというデマを流布されました。実際に、店の売り上げ減少、配達の解約増加、従業員の子どもが学校で嫌がらせを受けるという被害につながったと報じられました。この会社は自社のホームページで、デマを全面否定する事態になりました。

 もちろん、新型コロナウイルス患者への差別や嫌がらせ自体が、あってはいけないことです。収束が長引き、感染者がなかなか減らない今となっては、「この会社でコロナ感染者が出た」という情報が流れても、さほど大きな影響は無くなりました。ただ、20年春、特に地方では感染に敏感になっていて、このような事態となりました。

 売り上げへの影響のみならず、何の罪もない従業員の子どもにまで被害が及び、しかもそれがデマによるものとあっては、経営者としていたたまれない気持ちになったことでしょう。

 同じく20年春、コロナ陽性を知りながら、県をまたいで帰省したという女性が、ネット上で強い中傷を浴びる騒動があり、企業活動にも影響が出ました。

 朝日新聞の記事によると、女性とされる名前や写真、「実家を特定した」といった根拠不明の情報が飛び交いました。勤務先と名指しされたある企業は「事実無根の情報が流されている」とホームページに掲載する事態になりました。

 帰省先の自治体は、重大な人権侵害ととらえ、保護対策に着手しました。

 2021年に入ると、新型コロナのワクチン接種を巡り、ある地方自治体が、地元有力企業の代表者夫妻に、優先的に便宜を図ったという騒動がありました。ネットなどで批判が高まったことから、この企業は謝罪のコメントを出しました。

 このケースでは、いわゆる「地元の名士」をめぐる行動が火種になりました。ツギノジダイの読者の皆様には、地元で名高い企業の経営者だったり、その家督を継いだりしている方も多いと思います。

 今までは、あまり明るみに出なかった「特別待遇」でも、ネットで「(内部からを含めた)告発」があり得ることを、考える必要があるでしょう。

 経営者は、従業員による不道徳行為、いわゆる「バイトテロ」にも注意が必要です。バイトテロとは、その企業で働く従業員(アルバイトに限りません)が、職場などにおいて、悪ふざけで撮影した動画をSNSに投稿し、ネット炎上を招くことです。

 衛生管理が特に重要な飲食業界などに多く、大手飲食チェーンやカラオケチェーンでのバイトテロ事案は、報道などでも取り上げられ、目にされた方も多いでしょう。

 そのような行為はもちろん許されません。一方、当事者には学生も多く、実名や学校名がネット上で拡散され、残り続けるデジタルタトゥーとなって将来に影響します。

 当事者たちは口をそろえて「こんなことになるとは思わなかった」と言います。企業に迷惑がかかるだけでなく、自分たちにも深刻な被害があることを理解していなかった結果です。

 バイトテロを起こしてしまった従業員に対しては、経営者として煮え湯を飲まされる思いをすることでしょう。前途ある若者の将来を考え、このような行動を起こさせないような教育が必要となってきます。

 研修などでSNSの怖さを教えるのも一案ですが、「なかなか自分ごととして捉えてもらえない」という悩みも耳にします。筆者の会社では「炎上を疑似体験させる」ツールを開発しています。このようなツールの活用などで、自分ごと化を促す方法もあります(従業員教育については、次回以降に詳しくお伝えする予定です)。

 このほか、来店客の不道徳行為による「客テロ」も、企業側に責任がなくとも大きな被害を生む一つのきっかけとなります。

 SNSによるマーケティングの重要性が叫ばれる中、ツイッターやフェイスブックなどの公式アカウントを開く企業が増えてきました。コストをかけずに消費者とコミュニケーションが取れるツールとして、企業の規模を問わず、今後ますます活用が進むと思われます。

 しかし、このようなSNS公式アカウント運営にもリスクが潜んでいます。多くは、その発信内容に対する炎上です。

 偏った主張の発信、そのような意図がなくとも言葉尻をとらえられてしまうもの、大災害の時における配慮の無い発信、担当者個人の意見を誤って公式アカウントで発信する「誤爆」など、公式アカウントにまつわる炎上騒動は枚挙に暇がありません。

 最近では、公式アカウントになりすまし、消費者から個人情報や金銭をだまし取る詐欺行為も増えています。なりすましは、公式アカウントの有無に関わらないので厄介な問題です。

 公式アカウントがないからこそ、詐欺師は本物を偽りやすいとも言えます。SNSを活用していない企業でも、SNSの最低限の知識は身につけたほうが良いでしょう。

 企業の不祥事や、各種ハラスメントの告発も「ネット炎上」の対象です。こちらは、BtoB企業でも起こりえます。

 ある大手メーカーで、育休が明けたばかりの男性社員に転勤命令が出たと、社員の妻がツイッターに投稿。パタハラ(パタニティーハラスメント)として、企業への批判がわきおこったケースもありました。

 想像してみて下さい。もし自社や、自社の従業員がネット炎上を受けて、会社名や実名がネット上に拡散されたとしたらどうなるでしょう。

 嫌がらせや苦情の電話やメールが殺到し、業務が滞ってしまうかもしれません。従業員の実名がさらされ、ネットから強いバッシングを受けて精神を病み、将来を閉ざしてしまう恐れもあります。それがデマということもあるでしょう。

 炎上の原因をつくった当事者と、たまたま同じ企業名だったり、同姓同名だったりして、被害を受ける場合も考えられます。

 ネット炎上は決して対岸の火事ではなく、どの企業にも起こりうることがおわかりいただけたのではないでしょうか。規模が小さく、ネットトラブルに対処する体制が整っていない企業の方が、より致命傷となりうることも理解いただけたと思います。

 次回の記事からは、企業としてどのようにネット炎上に対処していくべきかを、具体的なノウハウとともにご紹介します。