「やらされてる感」は見透かされる 企業のSNS発信を成功させるには
SNSによる発信をイメージアップにつなげる企業がある一方、不用意な投稿による炎上事案も後を絶ちません。ファンを作って企業価値を高める発信と炎上を巻き起こす発信との違いはどこにあるのか。実際の企業アカウントの成功例を交えながら解説します。
SNSによる発信をイメージアップにつなげる企業がある一方、不用意な投稿による炎上事案も後を絶ちません。ファンを作って企業価値を高める発信と炎上を巻き起こす発信との違いはどこにあるのか。実際の企業アカウントの成功例を交えながら解説します。
まず、ファンを作る投稿と炎上させかねない投稿は紙一重のようにも思えますが、果たしてそうでしょうか。人気アカウントだから絶対に炎上しないということはありません。結論から申し上げると、ファンを作る投稿と炎上させる投稿の境目に、明確な線引きはできないと考えます。
企業のSNS担当者が人気の企業アカウントと同じ投稿をしても、効果は見込めないどころか、炎上する可能性のほうが高いでしょう。フォロワーとの関係が希薄な状態で、人気アカウントをまねてエッジを効かせても、「二番煎じ」や「パクリ」と言われる危険があります。
人気アカウントを参考にすることは大切ですが、やり方をそのままコピーしてもファンは増えません。ファンを増やすアカウントにはどのような特徴があるのか。少し変わった切り口ですが、「ラジオのパーソナリティーとリスナーの関係」に例えて考えたいと思います。
ラジオはAMやFM、そして局によって様々な雰囲気や特色があります。同じ局でも昼夜の時間帯で雰囲気は変わり、その「トーン&マナー」はメインパーソナリティーによっても異なります。
毒舌で人気のパーソナリティー、話題豊富で情報満載の番組、リスナーから寄せられるメールやファクスを中心に進行される番組など、内容は様々ですが、必ずと言っていいほど番組の色があります。
それは番組のテーマやパーソナリティーのキャラクターによって作り上げられていると言っても過言ではありません。どこかの人気番組のまねをしても、同じような人気を得られるわけではないのです。これを各企業の公式SNSになぞらえて考えると、どうなるでしょうか。
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SNS発信ではラジオ番組と同様に、公式アカウントが背負うテーマ(採用活動、イメージアップ、キャンペーン告知、商品の認知向上など)と「中の人」のキャラクターが重要です。
SNSは必ずしもエッジが効いた投稿でなければ人気が出ない、というものではありません。
ラジオ番組にも控えめなトーンでリスナーのメッセージや質問に紳士的に答える人気パーソナリティーがいるように、真面目に発信するSNSアカウントでも、固定のファンを獲得することはできます。
一方、人気パーソナリティーであれば、何を言ってもバッシングを受けないわけではありません。世論から逸脱した発言や事件やスキャンダルでバッシングにさらされれば、リスナーが離れ、パーソナリティーの降板や番組終了などにつながりかねません。
これは、SNSの公式アカウントが問題を起こしてしまうと、アカウントの更新停止を余儀なくされるというケースにも似ています。
ラジオ番組ではコアなリスナーがパーソナリティーを応援する声をあげて、世論を動かすこともあり得ます。SNSでもファンによる応援メッセージが、担当者や企業の窮地を救うケースも見られます。有名企業を例に見ていきましょう。
シャープの公式ツイッターは、投稿者の本音や感情が伝わる投稿で人気を博し、約82万フォロワー(2022年4月現在)を誇ります。
いま食べたいものはジャークチキン
— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) April 21, 2022
朝日新聞の記事によると、同社で12年8月、業績不振で大幅なリストラ計画を発表され、公式アカウントの担当者が「きょうは眠れるかな・・・」とつぶやきました。すると、ネット上では「切ない」「応援してます」などの温かい反応であふれたのです。
公式アカウントでも普段からファンとのつながりを持てていれば、会社が窮地でも応援してもらえる素地ができるのです。
ファンを増やすには、一般の人が投稿した自社に好意的な投稿を公式アカウントでリツイートして紹介する方法があります。
ラジオに例えれば、リスナーからのメールを番組内で紹介することに似ています。自分の提供した情報がパーソナリティーに選んでもらえた時の喜びのように、リツイートされた側は一気にその企業のファンになる可能性が高まります。
(※ただしリスクヘッジの観点から、そのアカウントが公序良俗に反する投稿や思想的に偏った投稿、他者を誹謗中傷するような投稿を行っていないかどうかは確認しましょう)
前回でも触れましたが、企業がSNSを活用する以上、そこには必ず商品やサービスの認知向上や求職者の増加といった目的が存在します。
ラジオにも広告主が存在するので、聴取率を上げることが第一の目的になっている部分があると思います。
しかし筆者は、ラジオ作りに関わる皆さんには「仕方なく番組をやっている」という人はいないように感じます。みんなそれぞれにラジオを愛し、リスナーとのコミュニケーションを楽しんでいるように思います。
企業の公式アカウントの運用にも同じことが言えるのではないでしょうか。 「やらされてる感」や「仕方なくやってる感」は、見ている人にすぐに見透かされるものです。
まずはSNSを愛し、フォロワーとのコミュニケーションを楽しむことが大事ではないでしょうか。そう考えれば、商品情報の一方的な発信や、ひとりよがりな発信はなくなり、企業をより身近な存在に感じてもらえる投稿が自然に増えると思います。
今人気の公式アカウントを見てみると、ほとんどがSNSへの愛にあふれているように感じます。さらにそれを続けることによって、フォロワーの共感を得られ、いざというとき、味方になってもらえる素地となるのではないかと考えます。
そのようなアカウントは仮に炎上し、いったん更新を中止したとしても、再開して立ち直ることができています。
お菓子のヒット商品「パインアメ」を製造しているパイン株式会社の公式ツイッターも約15万フォロワー(22年4月現在)を抱え、人気の企業アカウントの一つとして知られています。
みなさーん、おパよーございまーす( ´▽`)ノシ
— パインアメの【パイン株式会社】 (@pain_ame) April 21, 2022
21年9月の朝日新聞の記事によると、パインアメの公式アカウントは10年に始まりましたが、「中の人」を務める社員は「自分がSNSにはまっていたから」という理由で担当を任されたそうです。
他社の運用例が少なく手探りで運用する中、重視したのは「消費者と双方向のコミュニケーション」でした。
看板商品のパインアメなどをネタに、緩いツイートを毎日欠かさず投稿して、徐々にフォロワーを増やしていきました。
その中でも「パインアメは吹いても鳴らない」という投稿が約3万回リツイートされ、同業他社とのコラボにつながり、「吹いたら鳴る」パインアメ味のフエラムネが発売され、大きな話題となりました。その後もツイッター発の連携が深まり、21年秋の段階で約60種類のコラボ商品につながりました。
筆者はこのケースを、深夜ラジオでリスナーを巻き込んだ「大喜利」に近いノリだと思いました。パインアメの「中の人」は、その後、ラジオ番組のDJとしてデビューしたそうです。
「人気公式SNSアカウントのような、『中の人』なんてうちにはいない」と思う経営者の皆様もいらっしゃるでしょう。しかし前述のように、決してまねをする必要はないのです。
「中の人」の個性を生かしたり、企業としてのキャラクター性を持たせたりしてユーザーとコミュニケーションを取ればよいのです。
ただし「中の人」が自由に発信すればよいかというと、それも違います。企業の看板を背負う以上、一定のルールは必要です。そこで前回ご紹介した、企業内の「運用ガイドライン」が生きてくるのです。
異動や退職によって担当者変更を余儀なくされる場合もあるでしょう。その場合も「運用ガイドライン」があれば、公式SNSアカウントの目的もぶれることなく、運用を継続できると考えます。
今回は少し違った視点から、公式SNSアカウント運用をラジオ番組に例えて、効果的な発信について考えてみました。
SNSは、企業がダイレクトに生活者とコミュニケーションが取れる貴重なメディアです。前回まで触れてきた「ガイドライン」の範囲で、運用担当者の方は、ぜひSNS愛を持って運用を楽しんでいただきたいと思います。きっとファンはついてきます。
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