「上層部テロ」を起こさないために SNS炎上を防ぐ経営者の行動とは
企業のSNS炎上の発端は「バイトテロ」と呼ばれる従業員の不始末だけではありません。最近でも大手飲食チェーン幹部によるリアルの場での問題発言がSNSで拡散されたように、経営陣の行動が問われる「上層部テロ」も目立ちます。連載最終回では中小企業経営者に向けて、SNS炎上を防ぐために必要な行動や姿勢について解説します。
企業のSNS炎上の発端は「バイトテロ」と呼ばれる従業員の不始末だけではありません。最近でも大手飲食チェーン幹部によるリアルの場での問題発言がSNSで拡散されたように、経営陣の行動が問われる「上層部テロ」も目立ちます。連載最終回では中小企業経営者に向けて、SNS炎上を防ぐために必要な行動や姿勢について解説します。
目次
2022年4月、大手飲食チェーンの幹部が大学の社会人向け講座で女性蔑視とも取られかねない問題発言を行ったことが、SNS上で広まる騒動が起きました。各メディアでも大きく取り上げられ、この幹部は役職の解任に追い込まれたのです。
数年前から、従業員による不適切動画の投稿を起点とした「バイトテロ」がメディアで取り上げられる機会が増えました。利用客による不適切投稿「客テロ」なども話題になりました。
それに加えて、昨今は企業上層部を起点とした炎上も取り上げられるようになり、これを「上層部テロ」と呼ぶそうです。連載最終回は、経営幹部による炎上のリスクと未然に防ぐためのポイントについて考えてみたいと思います。
ネット上では、企業の経営者や地元の名士などを揶揄する「上級国民」という言葉があります。この「上級国民」の不適切な行為や言動に、ネットは敏感に反応します。以下のような炎上ケースが多いようです。
当人のSNS投稿など発信内容からの炎上 |
内部告発など、企業内からの暴露による炎上 |
当人の行為や発言を見たり聞いたりした人のSNS投稿から炎上 |
週刊誌などのスクープ記事からの炎上 |
最近は実名でSNSを使ってコンスタントに発信している経営者も少なくありません。自社のことやプライベートの話題など内容は多岐にわたりますが、問題発言をしてしまうと、瞬く間に拡散されて炎上してしまいます。
もちろん「揚げ足取り」のような指摘や批判もあるでしょう、しかし、炎上した発言の多くが時代錯誤で、少々世の中とずれた感覚を表に出すからこそ炎上しています。では、特に経営者や経営幹部が注意すべきケースとはどのようなものでしょうか。次章から具体的に説明します。
↓ここから続き
特に注意が必要なのは、他者から叱責や指摘を受けることが無いような「カリスマ経営者」です(カリスマ経営者のすべてが当てはまるわけではありませんので、ご承知おき下さい)。
周囲に制止できる人がいないため、「昭和」ならば見過ごされていたかもしれないことを「令和」の社会情勢に照らすと、感覚が「ずれている」ことに気づけず自ら炎上の種をばらまいてしまうのです。
コンプライアンスの強化、女性の社会進出、SDGs(持続可能な開発目標)の広がりなど社会情勢が変化している令和の時代についていけず、他者への配慮に欠けていたり、差別的であったり、自分本位であったり、感情の赴くままに投稿してしまうことで炎上してしまいます。
ネットの住民たちは忖度をしません。むしろ、そのような時代錯誤の「上級国民」には厳しい目を向けています。
内部告発が発端になることもあります。企業内での出来事や発信者や発信者の家族が幹部から受けた「仕打ち」を発信し、拡散されて炎上状態になるケースです。
SNS炎上のきっかけはネット上の行動だけではありません。リアルの場で問題となる行為や発言を見たり聞いたりした人がSNS投稿することで、炎上してしまうケースも起こりえます。
冒頭に挙げた飲食チェーン幹部による炎上事案は、大学での社会人講義の聴講生によるフェイスブック投稿が起点でした。聴講中に気分を害した幹部の問題発言を投稿し、それが拡散されたのです。
「上級国民」と見られかねない経営層は、自分の行動がネットにさらされていると常に認識し、品行方正な行動・言動を心がけるべき時代になっています。
このような炎上は、大企業の幹部に限ったことではありません。読者の皆様の中にも、地元の大学など公的な場で講演などをされる方もいらっしゃるかもしれません。
そこで仮に失言や問題行動をしてしまったとすれば、その場限りでは済みません。ネットにその失言をアップされれば、地元のみならず全世界にその内容が知れ渡ることにもなりかねません。
ここからは経営層向けに、どうしたらSNSでの炎上を防げるのかについてアドバイスしたいと思います。
もちろん、後ろ指を差されるような行動や言動を慎むべきというのが前提です。しかしながら、筆者も含めた昭和世代は「今更変われないところもある」という前提でお話をします。
SNSのご自身の投稿に問題があるか否かは、当事者にはなかなかわからないものです。
できれば第三者の意見に耳を傾けるのが一番ですが、前述のような「カリスマ経営者」の中には、周囲に誰も指摘してくれる人がいない可能性もあります(これもなかなかご本人には自覚がないかもしれませんが)。
そのような場合にひとつ提案です。ぜひ過去の炎上事例を調べて下さい。グーグルなどの検索エンジンで「経営者 炎上」などと検索すれば様々な事例が出てきます。
その事例の中に「これはなぜ炎上したのかわからない」と思うものが一つでもあったら、あなたには炎上リスクが潜んでいるかもしれません。
今後の発信を控えるか、外部のソーシャルリスク対策企業などに投稿の事前チェックを依頼するのが良いでしょう。
ネットで指摘されていることに、必ずしも同調する必要はありません。そのような意見に対して「そういう見方もある」と理解できるかどうかが重要です。
ご自身の発信が、立場の違う人からどういう見方をされる可能性があるかを客観視できれば良いのです。
もしかすると「今は炎上していないし、今まで炎上したこともないので自分は大丈夫」と思っていらっしゃるかもしれません。しかし、数年前の過去の投稿や発言に目を向けられ、拡散されることもあり得ます。
SNSで積極的に投稿している場合は、ご自身の過去の投稿を客観的に見返してみてください。
立場の違う誰かを傷つけたり、気分を害したりしている可能性がある投稿は、たとえ思っていたとしても発信しない。そのように心がけていただければ幸いです。
内部告発についても「告発させないようにしよう」などと考えてはいけませんし、行動に移せば違法行為となる可能性があります。
ご自身の言動は、常にネットにさらされているものと考えて行動しましょう。リアルの場での行為や発言を見聞きした人からの投稿も同様です。公の場では特に気をつけましょう。
経営幹部の炎上は、企業の業績やイメージに大きなダメージを与えます。しかし、炎上の初期段階で適切な対応を取れれば、企業へのダメージを最小限に食い止めることができるかもしれません(逆に炎上させた当事者は、相応の責任の取り方を覚悟しなければならないかもしれません)。
総じて大事なことは、起こってしまった事案に対して真摯にスピーディーに対応することに尽きます。
対応の方法としては、企業から早い段階で公式に見解を発表することです。最低限必要な内容として、以下の三つを考える必要があります。
どこに問題があったのか(事実の確認と原因の明確化) |
謝罪すべき対象は誰なのか(世の中を「お騒がせしたこと」だけに謝罪するのは意味がない) |
今後いつまでにどうしていくのか(改善策) |
逆に、鎮火するどころかさらに火に油を注いでしまうような行動について触れてみます。以下のようなことはするべきではありません。
事実を認めない |
言い訳をする |
沈黙を貫く |
反省の色が見えない(謝ってはいるが謝り方が悪い、謝る先が違うなどから判断されるケース) |
対応や判断が遅い |
「事実を認めない」または「言い訳」というのは、例えば「そのような意図や事実はない」、「仕方なかった」など、根拠に乏しい否定や言い訳でその場をしのごうとするようなことです。そのようなニュアンスを感じ取らせる発信も同様です。
「沈黙を貫く」というのも、炎上を長期化させる可能性があります。「対応や判断が遅い」というのも、企業体質やリスクマネジメントに対する感度を疑問視されるため、SNSリスクについても事前に検討し、危機管理マニュアルなどで定義するのが良いでしょう。
冒頭の飲食チェーン幹部の発言による炎上は、企業側による解任の判断が早かったこともあり、筆者の所属企業の調べでは、解任発表の3日後には本件に関するツイッター投稿数がピーク時の20分の1まで減少しました
大事なのはここから投稿される内容です。沈静化に近づいたころの投稿は、企業に対する様々な論調が飛び交います。
今回のケースでは、解任という判断を正しいとするものや、当事者を心配する声、企業体質に関する意見など、単に騒動そのものを拡散する目的の投稿ではなく、企業として課題とすべき貴重な意見が含まれています。
その内容や論調を企業としてきちんと把握・分析し、今後の対応の参考にして真摯に対応することで、より信頼される企業となるでしょう。
ソーシャルメディアに関するリスクマネジメントについて7回にわたって紹介しました。いかにリスクを軽減してソーシャルメディアを活用するかについても触れてきたつもりです。今後もソーシャルメディアと上手に付き合いながら、事業拡大につなげる一助となれれば幸いです。
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