「見た目が変わっていく羊羹」 和菓子界の非常識が商品の魅力へ
山形県上山市に本店と工場のある創業210年を迎える老舗和菓子店「杵屋本店」。和菓子の魅力を若い人たちにも伝えたいと、新たな客層の獲得を目指した新商品開発を担当しているのは後継者である兄の菅野裕太(かんのゆうた)さんと弟の洸人(ひろとさんです。今回、菓子製造において業界の常識では弱点だと考えられていた要素が、他にはないオリジナリティと魅力に変わった事例をY-biz(ワイビズ)から紹介します。
山形県上山市に本店と工場のある創業210年を迎える老舗和菓子店「杵屋本店」。和菓子の魅力を若い人たちにも伝えたいと、新たな客層の獲得を目指した新商品開発を担当しているのは後継者である兄の菅野裕太(かんのゆうた)さんと弟の洸人(ひろとさんです。今回、菓子製造において業界の常識では弱点だと考えられていた要素が、他にはないオリジナリティと魅力に変わった事例をY-biz(ワイビズ)から紹介します。
目次
杵屋本店の創業は1811年(文化8年)。初代庄六が山形県南陽市宮内にある熊野大社への参拝客のために饅頭を販売したのが始まりだそうです。
南陽市で150年、その後上山市に本店と工場を移転し60年、厳選した素材と地産地消を大切に菓子を作り続け、現在では和菓子と洋菓子の両方を製造・販売しています。
この杵屋本店の後継者である菅野裕太さんと弟の洸人さんが、山形市売上増進支援センターY-bizに訪れたのは2021年7月。新たな客層の取り込みと秋に向けて発売予定の210周年記念商品についての相談でした。
具体的には、創業210周年の記念に販売しようと企画している新商品についてはその打ち出し方を相談したいということでした。
その商品は、錦玉羹(きんぎょくかん:寒天と水を煮溶かした後に砂糖を加えて冷やし固めた和菓子のこと)に砕いた琥珀糖を美しく配置した羊羹でした。
中に配置されているのは、山形で取れる果物を使い山形の自然の美しさを表現したという、丸い形が可愛らしい色鮮やかな琥珀糖でした。この琥珀糖“kaju”は20代から30代の女性をターゲットに開発したそうですが、10代からの人気もあるそうです。
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「羊羹は伝統的な和菓子であるがその反面古いイメージもあり、昔に比べると選ばれなくなってきている」「若い人にも手にとってもらいたい」「羊羹を今の日常にも馴染みのあるお菓子にしたい」という思いから、若い人たちから好評だった琥珀糖kajuを使い、見た目にも美しく、味にもこだわり抜いた羊羹を210周年の記念商品としようと決め、商品化にむけて最終段階に入っているとのことでした。
そんな思いが込められたこの羊羹ですが、言葉にすると「美味しくて見た目にも美しい羊羹」になってしまう。もっと他に打ち出し方はないだろうか、と悩んでいたそうです。
確かに「美味しくて見た目にも美しい羊羹」なのですが、その表現ではもったいない。もっと、受け手の心に刺さる伝え方、魅力が伝わる表現はないだろうかと、この羊羹の開発過程やこだわりを聞いていきました。
半年かけて試作を繰り返したこと、琥珀糖をカットするサイズ感、琥珀糖に流し込む錦玉羹の糖度や透明度へのこだわりなどこの羊羹の魅力につながる開発過程での工夫を聞き、賞味期限が話題になったところで、ふと洸人さんがつぶやいたのです。
「作りたては琥珀糖と錦玉羹の境目が安定しないので作ってから店頭に出すまでの期間を検討中なんですよね」
安定しないとはどういうことか。安定しない状態がイメージできなかったので具体的に聞いていくと、品質にも味にも問題ないが「見た目」と「歯応え」が変わっていくとのことでした。
(賞味期限内に)見た目が時間とともに変わっていく和菓子は聞いたことがない。それは魅力でありオリジナリティになるのではないかと問いかけました。
改めて裕太さんと洸人さんにも考えてもらいましたが、そのような既存のお菓子は思いつかないとのこと。和菓子・洋菓子業界の概念としては「安定して完成」という意識が強いそうです。リサーチしても「見た目が変わること」を商品特徴として打ち出している和菓子はありませんでした。
そこで、Y-bizでは「見た目が変わること」をこの羊羹Kajuのオリジナリティのひとつとして打ち出すことを提案しました。さらに「見た目が変わる」という羊羹の物理的な特徴を杵屋本店の技術や伝統、歴史と重ね合わせてストーリーとして伝えることを提案しました。
ディスカッションを経て生まれたのは「地産地消と厳選した素材という創業以来杵屋本店が大切にしてきたことを、果物の美味しさと四季の移ろいをテーマに杵屋本店の伝統である羊羹で表現したもの」というコンセプトと、「錦玉のなかに浮かぶ山形の果実を使った色鮮やかな琥珀糖が日を追うごとに周囲の錦玉に馴染んでいき、くっきりと際立ってみえる状態から、ぼかし絵のように淡くにじんだ印象に変わる」という商品説明でした。
商品名は「移ろいを楽しむ羊羹kaju-カジュ-」。
コピーは「山形の果実の美味しさと色鮮やかさが生み出す、日を追うごとに見た目が変化する羊羹。」です。
若い方々と杵屋本店のことをまだ知らない方々にも情報を届けるべく、プレスリリースに加えてSNSでの情報発信を積極的に行った結果、地元地域新聞ほかネットニュースに掲載され、ツィッターでも話題になり、予約開始から2日で限定数210本が完売。
羊羹kajuの話題をきっかけにツィッターのフォロワー数も増加。1カ月後には目標だったフォロワー1000人も達成しました。
杵屋本店の通販サイトからの予約のほぼ半数は県外から、また県内からの注文は県外の方への郵送を指定する方が多かったそうで、新たな顧客開拓、知名度アップにつながりました。
琥珀糖の仕込みから始まる羊羹kajuは制作工程が多く、また手作りでひとつひとつ仕上げているため一度に大量に作ることができないそうです。予約開始から2日で完売したその後、好評に応え、個数限定で再販、今は各週本数限定の人気商品になっています。さらに、この見た目が変わる羊羹Kajuを発展させる新商品の企画も進んでいます。
菓子業界の「賞味期限内には変化しない」という概念を見直し、「変化してしまう」という開発過程での課題を他にはない魅力に変えた事例です。
業界の常識にとらわれることなく、商品の特徴や製法を丁寧に掘り起こし捉え直した結果、伝統的な和菓子である羊羹の新たな魅力を打ち出すことができ、新たな顧客開拓につながりました。
業界の常識は中にいると気付き難いものですが、Y-bizでは事業者と一緒に商品特徴や製法、企業がもつ歴史やノウハウ、施設、そういった個々の要素がもつ意味をひとつひとつ掘り下げ、客観的に捉え直して顧客にとっての魅力につながる意味を探し、新たな価値を生み出すための伴走支援をしています。
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