日用品超えた「美しい歯ブラシ」 自社ブランドがこだわる機能・デザイン
歯ブラシの製造会社として90年近い歴史がある奈良県田原本町の「タナベ」は今春、自社ブランド「VIGAKU LAB.」を立ち上げた。専業メーカーの植毛技術を生かした高い清掃性に加え、デザインや色味にも力を入れた。歯磨き時間を美しく演出したいとの思いが、日用品を超えた「美しい歯ブラシ」を生み出した。(渡辺元史)
歯ブラシの製造会社として90年近い歴史がある奈良県田原本町の「タナベ」は今春、自社ブランド「VIGAKU LAB.」を立ち上げた。専業メーカーの植毛技術を生かした高い清掃性に加え、デザインや色味にも力を入れた。歯磨き時間を美しく演出したいとの思いが、日用品を超えた「美しい歯ブラシ」を生み出した。(渡辺元史)
歯ブラシの清掃性を高めようと、同社がたどり着いたのが毛を高密度に植える独自技術だ。歯ブラシのヘッドに21カ所開けられた直径1.6ミリの穴に、ぎりぎり入る約24本の毛を植える。密度は従来品より15%増加した。毛が高密度であれば、歯の汚れを多くかき出せるとの考え方だ。
ただ、植える毛の状態は気温や湿度にも左右される。独自技術といっても、高密度植毛は職人の経験と感覚が頼りの難しい工程だ。ぱんぱんに毛を詰めることで、プラスチックのヘッドのひび割れや毛が穴に収まりきれない不具合も起こりやすい。同社では約2%の割合で不良品が出るが、安全に使えれば民間団体などを通じて寄付し、廃棄を防ぐ取り組みをしている。
ブラシの毛にも清掃力を高める工夫がある。先端が細い四角柱の毛をらせん状にねじることで、側面に凹凸ができ、どの角度から歯ブラシを当てても歯の汚れを落としやすくしている。なでるように歯磨きをするだけで、口の中の汚れを優しく落とすような使い心地から「クレンジングブラシ」と名付けた。
県内の歯科医院に依頼した清掃テストでは、水だけで歯の模型についた赤色の着色料をきれいに落とした。キャッチコピーは「水だけでもすっきり落ちる奈良の逸品」だ。
持ち手にもこだわった。中央がくびれたデザインは、志村亮社長(49)が細い歯ブラシに粘土を張り付け、握りやすさを追求した。豊富なカラーバリエーションは、地元の金融機関から塗装会社を紹介されたことで実現。色つきのプラスチックを成形する通常の歯ブラシと違い、塗装だからできる複雑な色味を表現した。花をイメージした「グラデーション」は、鮮やかな色合いが魅力で、贈答用として人気を集める。
売り上げは伸びつつあるが、累計販売本数は数千本とまだまだ少ない。それでも商業施設などの販売会では、リピーターから「歯がつるつるになった」「おしゃれで気分よく磨ける」と好評という。
志村社長は「歯磨きは、外出前や寝る前など気分を切り替える時にする。歯ブラシが自分をもてなすひとときの助けになれば」と話した。(2021年12月25日朝日新聞地域面掲載)
本社は奈良県田原本町千代。年間売上高2億6000万円。従業員は27人。2020年に経済産業省の「地域未来牽引(けんいん)企業」に選ばれた。クレンジングブラシは、1本440~1100円(税込み)。ネット通販のほか、美容に関心が高い人向けに、美容サロンなどでも扱っている。
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