100キロの行軍訓練にも耐える靴下「ガッツマン」、ゴルフや職人向けにも
自衛隊員ならだれもが知っているという靴下がある。その名は「ガッツマン」。100キロの行軍訓練にも耐えられる頑丈さとはきやすさで支持を集める。手がけているのは、国産靴下メーカーの巽繊維工業所だ。巽亮滋社長(60)によると、開発のきっかけは1995年の阪神・淡路大震災だった。(田中祐也)
自衛隊員ならだれもが知っているという靴下がある。その名は「ガッツマン」。100キロの行軍訓練にも耐えられる頑丈さとはきやすさで支持を集める。手がけているのは、国産靴下メーカーの巽繊維工業所だ。巽亮滋社長(60)によると、開発のきっかけは1995年の阪神・淡路大震災だった。(田中祐也)
震災の2週間後、巽社長は車に支援物資を積んで神戸市の取引先に向かった。「被災地で印象に残ったのは、黙々と働く自衛隊員の姿でした」。がれきを片付け、避難所でお風呂を設営し、被災者をサポートしていた。
靴下で自衛隊員の力になれないか。近くの駐屯地に連絡したが、まったく相手にされなかった。数年後、会社に一本の電話が入る。「100キロ歩き続けても穴が開かない靴下はないか」。訓練を控えた陸上自衛隊員からだった。何とか期待に応えたい。従来にない補強糸を使った5本指ソックスを開発し、提供した。
その靴下を手に、駐屯地で展示即売会を開くと好評だった。自衛隊員から「再注文したいので商品名を教えて」と言われ、「ガッツマン」と名付けた。その後も指先やかかとは最大限補強しつつ、土踏まずとふくらはぎはゴムの入れ方を工夫して疲労を軽減させるなど改良を重ねた。
2015年に入社した長女の美奈子さん(33)は、愛用者の熱意に驚いた。ネットの口コミには商品の魅力や改良点が長文で寄せられた。「こんなに愛されている商品とは知らなかった」。これなら自衛隊員以外にも受け入れられると考え、ゴルフや職人向けなどガッツマンシリーズを拡充させた。
20年春、コロナ禍で危機が訪れる。売り上げの8割を占める、大手メーカーから注文を受けて生産するOEM事業がストップした。材料はすでに仕入れている。「このままでは会社が倒産すると思った」と巽社長。窮余の策として、ガッツマンシリーズを増産することにした。
賭けに近かったが、ネット通販が好調で、SNSでインフルエンサーが紹介したことも追い風になり、一部の商品は欠品が出るほど売れた。売り上げは前年を上回った。
コロナ禍をきっかけに自社商品の強化にかじを切る。2021年、美奈子さんが中心となり、新ブランド「ならまき」を企画。第1弾として「めっちゃ薄い腹巻き」を発売した。服の上からすけにくく、冬はもちろん、夏も冷房が苦手な人に人気という。巽社長は「今後も市場にない商品を開発したい」と意気込む。(2022年3月19日朝日新聞地域面掲載)
1928年に大阪府東大阪市で創業。漁網用の綿糸の撚糸(ねんし)加工を担った。戦後に奈良県橿原市に移転し、靴下製造に転換。従業員は13人。自衛隊員が訓練で愛用するガッツマン「スーパーストロング五本指ソックス」は1144円(税込み)。ホームページを通じて購入できる。
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